生活保護
テンプレート:Ambox 生活保護(せいかつほご、Public Assistance[1])とは、日本の生活保護法によって規定されている、国や自治体が経済的に困窮する国民に対して、健康で文化的な最低限度の生活を保障するため保護費を支給する公的扶助制度。
目次
概要
生活保護法第一条にあるように、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする制度である[2]。
生活保護の原則
生活保護は次の原則に則って適用される。
- 無差別平等の原則(生活保護法第2条)
- 生活保護は、生活保護法4条1項に定める補足性の要件を満たす限り、全ての国民に無差別平等に適用される。生活困窮に陥った理由や過去の生活歴等は問わない。この原則は、法の下の平等(日本国憲法第14条)によるものである。
- 補足性の原則(生活保護法第4条)
- 生活保護は、資産(預貯金・生命保険・不動産等)、能力(稼働能力等)や、他の法律による援助や扶助などその他あらゆるものを生活に活用してもなお、最低生活の維持が不可能なものに対して適用される。
- 能力の活用において、売れるかどうか分からない絵を描くことや選挙活動や宗教活動や発明研究等に没頭することなどは現時点の自分の経済生活に役立っているとはいえないため、補足性の要件には該当しない[3]。
- 民法に定められた扶養義務者の扶養及びその他の扶養は、生活保護に優先して実施される。
- 保護の実施機関は、保護の実施に際し被保護者や要保護者に対して法に基づき必要な指示(例えば生活の経済性や他者に及ぼす危険性に関して、最低限度の生活を超える部分での自動車の保有・運転に関する制限など)をすることがあり、その指示に従わない場合は保護の変更、停止若しくは廃止がなされる。
- 申請保護の原則(生活保護法第7条)
- 生活保護は原則として要保護者の申請によって開始される。保護請求権は、要保護者本人はもちろん、扶養義務者や同居の親族にも認められている。ただし、急病人等、要保護状態にありながらも申請が困難な者もあるため、第7条但書で、職権保護が可能な旨を規定している。第7条但書では、できる、とのみ規定されている職権保護は、第25条では、実施機関に対して、要保護者を職権で保護しなければならないと定めている。
- 世帯単位の原則(生活保護法第10条)
- 生活保護は、あくまで世帯を単位として能力の活用等を求めて補足性の要否を判定し程度を決定する。(例外として、大学生などを世帯分離する場合もある。)
被保護者の権利と義務
審査の結果、生活保護費を受給できると認められた者を被保護者という。被保護者は生活保護法に基づき、次のような権利を得るとともに義務を負わなければならない。
権利
- 不利益変更の禁止 - 正当な理由がない限り、すでに決定された保護を不利益に変更されることはない(第56条)。
- 公課禁止 - 受給された保護金品を標準として租税やその他の公課を課せられることはない(第57条)。
- 差押禁止 - 被保護者は、既に給与を受けた保護金品又はこれを受ける権利を差し押えられることがない(第58条)。
義務
- 譲渡禁止 - 保護を受ける権利は、他者に譲り渡すことができない(第59条)。
- 生活上の義務 - 能力に応じて勤労に励んだり支出の節約を図るなどして、生活の維持・向上に努めなければならない(第60条)。
- 届出の義務 - 収入や支出など、生計の状況に変動があったとき、あるいは居住地または世帯構成に変更があったときは、速やかに実施機関等へ届け出なければならない(第61条)。
- 指示等に従う義務 - 保護の実施機関が、被保護者に対して生活の維持・向上その他保護の目的達成に必要な指導や指示を行った場合(法第27条)や、資産状況や健康状態等の調査目的で、保護の実施機関が居住場所の立入調査された場合(法第28条)、医師検診受診義務や歯科医師検診受診義務を命令された場合(法第28条)、適切な理由により救護施設等への入所を促した場合(法第30条第1項但書)は、これらに従わなければならない(法第62条)。
- 費用返還義務 - 緊急性を要するなど、本来生活費に使える資力があったにも関わらず保護を受けた場合、その金品に相当する金額の範囲内において定められた金額を返還しなければならない(法第63条。主に、支給されるまでに時間がかかる年金などが該当する)。
生活保護の種類
テンプレート:Rh rowspan=3 | 医療扶助費 (50.4%) |
テンプレート:Rh rowspan=2| 入院 (59.3%) |
精神科入院 | 12.3% |
その他入院 | 17.4% | ||
テンプレート:Rh colspan="2"| 入院以外 | 20.3% | ||
テンプレート:Rh | 生活扶助費 | 32.3% | ||
テンプレート:Rh | 住宅補助費 | 13.9% | ||
テンプレート:Rh | その他 | 12.2% | ||
テンプレート:Rh | 総額 | 2兆6,033億円 |
生活保護は次の8種類からなる。
- 医療扶助 (公費負担医療)
- 生活困窮者が、けがや病気で医療を必要とするときに行われる扶助である。国民健康保険からは脱退となり[5]、原則として現物支給(投薬、処置、手術、入院等の直接給付)により行われ、その治療内容は国民健康保険と同等とされている。なお、医療扶助は生活保護指定医療機関に委託して行われるが、場合により指定外の医療機関でも給付が受けられる。予防接種などは対象とならない。
- 経年、医療扶助費の年次推移では、生活保護費のうち医療扶助費の占める割合は平成7年では、60%を占めていたが、平成21年には、45%にまで圧縮削減された。
- なお、この医療扶助は生活保護費国庫負担金の半分を占めているため、受給者が受け取る額とほぼ同額が医療費用としてかかっている[4]病院通院のタクシー代も一時医療扶助として支給され年間で45億の給付があったが、主要都市間で受給者の上限額(長崎市242円、奈良市12,149円)に差異がある[6]。
- 生活扶助
- 生活困窮者が、衣食、その他日常生活の需要を満たすための扶助であり、飲食物費、光熱水費、移送費などが支給される。基準生活費(第1類・第2類)と各種加算とに分けられている。第1類は個人ごとの飲食や衣服・娯楽費等の費用、第2類は世帯として消費する光熱費等とされており、各種加算は障害者加算や母子加算、妊産婦加算など、特別需要に対応するものである。
- 教育扶助
- 生活に困窮する家庭の児童が、義務教育を受けるのに必要な扶助であり、教育費の需要の実態に応じ、原則として金銭をもって支給される。
- 住宅扶助
- 生活困窮者が、家賃、間代、地代等を支払う必要があるとき、及びその補修、その他住宅を維持する必要があるときに行われる扶助である。原則として金銭をもって実費が支給される(上限あり)。
- 介護扶助
- 要介護又は要支援と認定された生活困窮者に対して行われる給付である。原則として、生活保護法指定介護機関における現物支給により行われる。介護保険とほぼ同等の給付が保障されているが、現在普及しつつあるユニット型特養、あるいは認知症対応型共同生活介護、特定施設入所者生活介護は利用料(住宅扶助として支給)の面から制限がある。
- 出産扶助
- 生活困窮者が出産をするときに行われる給付である。原則として、金銭により給付される。他法優先のため、児童福祉法の入院助産制度[7]を優先適用するため、生活保護の出産扶助は自宅出産など指定助産施設以外での分娩の場合などしか適用されない。
- 生業扶助
- 生業に必要な資金、器具や資材を購入する費用、又は技能を修得するための費用、就労のためのしたく費用等が必要なときに行われる扶助で、原則として金銭で給付される。平成17年度より高校就学費がこの扶助により支給されている。
- 葬祭扶助
- 生活困窮者が葬祭を行う必要があるとき行われる給付で、原則として、金銭により給付される。
これらの扶助は、要保護者の年齢、性別、健康状態等その個人または世帯の生活状況の相違を考慮して、1つあるいは2つ以上の扶助を行われる。
生活保護の地区分けと基準額
生活保護の基準は、厚生労働大臣が地域の生活様式や物価等を考慮して定める級地区分表によって、市町村単位で6段階に分けられている。この級地区分表による生活保護基準の地域格差の平準化を(生活保護制度における)級地制度という。また、冬期加算の基準にのみ使用される5段階の区分がもうけられている。
最低生活費の計算例
8種類ある扶助を合計した金額が最低生活費であり、ここから収入を差し引いた額が実際の支給額となる。2013年8月から順次減額。(以下の計算例は平成24年度の基準[8])
- 東京都区部(1級地-1)・単身・31歳
- 生活扶助 83,700円
- 第1類 40,270円(20-40歳)
- 第2類 43,430円(単身世帯)
- 各種加算 0円
- 住宅扶助 実費(53,700円以内)
- 合計 137,400円(月額最大)
- 生活扶助 83,700円
- 東京都区部(1級地-1)・4人世帯・41歳(障害者1級)、38歳(妊娠7ヶ月)、12歳、8歳
- 生活扶助 262,690円
- 第1類 146,870円({38,180円+40,270円+42,080円+34,070円}×0.95)
- 第2類 55,160円(4人世帯)
- 各種加算 60,660円
- 妊婦加算 13,810円(妊娠6ヶ月以上)
- 障害者加算 26,850円(障1・2級 / 国1級)
- 児童養育加算 20,000円(第1・2子)
- 住宅扶助 実費(69,800円以内)
- 教育扶助 13,220円 ※小中学校の教材費、給食費、交通費等は実費支給。
- 基準額 2,150円(小学校)・4,180円(中学校)
- 学習支援費 2,560円(小学校)・4,330円(中学校)
- 合計 345,710円(月額最大)
- 生活扶助 262,690円
子ども手当、児童扶養手当等を別途受給した場合、収入として差し引かれて支給される。
級地による比較例
- 大阪府大阪市(1級地-1)・単身・20-40歳
- 生活扶助 83,700円(第1類40,270円+第2類43,430円)
- 住宅扶助 実費(42,000円以内)
- 合計 125,700円(月額最大)
- 三重県津市(2級地-1)・単身・20-40歳
- 生活扶助 76,170円(第1類36,650円+第2類39,520円)
- 住宅扶助 実費(35,200円以内)
- 合計 111,370円(月額最大)
- 佐賀県鳥栖市(3級地-1)・単身・20-40歳
- 生活扶助 68,630円(第1類33,020円+第2類35,610円)
- 住宅扶助 実費(28,200円以内)
- 合計 96,830円(月額最大)
東京都区部など(1級地-1) | 地方郡部など(3級地-2) | |
---|---|---|
標準3人世帯(33歳、29歳、4歳) | 170,180円 | 134,140円 |
高齢者単身世帯(68歳) | 79,530円 | 61,640円 |
高齢者夫婦世帯(68歳、65歳) | 120,270円 | 93,210円 |
母子世帯(30歳、4歳、2歳) | 190,910円 | 155,760円 |
若年者単身世帯(19歳) | 85,510円 | 66,270円 |
実施機関
生活保護の実施機関は、原則として、都道府県知事、市長及び福祉事務所を管理する町村長であり、これらの事務は法定受託事務である。なお、福祉事務所を管理していない町村(ほとんどの町村)においては、その町村を包括する都道府県知事がこの事務を行う。また、都道府県知事、市町村長の下に福祉事務所長及び社会福祉主事が置かれ、知事・市町村長の事務の執行を補助し、民生委員は市町村長、福祉事務所長又は社会福祉主事の事務の執行に協力するものとされる。
社会福祉法では、生活保護を担当する現業員、いわゆるケースワーカーを市部では被保護世帯80世帯に1人、町村部では65世帯に1人を配置することを標準数として定めている(第16条)。
これら実施機関では原則として厚生労働省が示す実施要領に則り保護を実施しているが、厚生労働省は技術的助言として実施要領を示すだけであって個別の事例の判断は一切行わない(監査や再審査請求での裁決を除く)。そのため、法及び各種通達等において定めることができない事例については、法の趣旨と実施機関が管轄する地域の実情などを勘案して判断される。
保護施設
都道府県・市町村は、生活保護を行うため、保護施設を設置することができる。なお、市町村が保護施設を設置する場合、都道府県知事への届出が必要である。また、保護施設が設置できるのは、都道府県・市町村のほか、社会福祉法人と日本赤十字社だけである。
保護施設には次の5種類がある。
- 救護施設
- 更生施設
- 医療保護施設
- 授産施設
- 宿所提供施設
生活保護に関する各種の統計データや試算データ
統計データについて
各種の統計データや試算が出ているが、百科事典の性格上、その内容を客観的に検証することが可能で、かつ、公的な機関が作成した統計データが必要である。代表例としては、国立社会保障人口問題研究所の「生活保護」に関する公的統計データ一覧[9]が基本統計データとしてあげられる。また、厚生労働省が事務局となる社会保障審議会生活保護基準部会等の審議会も資料提出者・機関の記名がある場合を除き、全ての資料は会長の指示により事務局が作成・提出している[10]。従って、客観的に検証可能な公的な機関が作成した統計データ以外の統計、例えば、政治家の試算や審議会の試算による統計データについては、客観的な検証の必要性を残す場合もあるという観点から、当欄の記載にあたって「〜によると・・される」等との記載に統一している。
受給者数
厚労省によれば、生活保護の受給者数は、第二次世界大戦後の混乱の中、月平均で204万6646人が受給していた1951年が、同年の調査開始から2011年まで60年間、統計史上最高であった。その後は高度経済成長に伴い減少傾向で推移していたが、1995年の88万2229人を底に増加に転じ、1999年に再び100万人を突破したとされている[11][12]。 100年に一度の衝撃といわれる2008年のリーマン・ショック、1000年に1度ともいわれる2011年の東日本大震災による生活基盤の不安定化、リストラ、雇用非正規化などの失業問題)や高齢化社会などを背景として、受給者数は増え[13]、2011年3月には200万人を突破し、2012年7月には212万4669人と過去最多の受給者数を記録しているとされている[14]。
世帯類型別統計
厚労省統計によれば、被保護世帯を世帯類型別に見ると以下のように分別され、上から順に優先適応される[15]。
- 高齢者世帯
- 母子世帯(父子世帯は含まない)
- 障害者世帯
- 傷病者世帯
- その他の世帯
政府統計によれば、中でも高齢者世帯(65歳以上)は趨勢的に増加しており、1980年度(昭和55年度)には全体の30.2%であったが2011年(平成23年)には43.4%と半数近くを占めるようになっている。年齢・性別人数の内訳を見ると、2000年と2011年全国調査を比較しても、最多層は50,60代単身男性で、次いで70代以上単身女性、2人以上世帯の40代女性となっている。受給者の7割が単身者となっているとされている[16]。
なお、ここ数年不況による雇用環境の悪化で、失業による生活保護受給も増加中である[13]。稼働世帯を多く含むと思われる「その他の世帯」は、平成22年度は約22.7 万世帯と10年前の平成12年度の約5.5 万世帯から4倍強の増加となっている。特に最近の伸び率は大きく、対前年度伸び率は、平成21年度は41.5%、平成22年度は32.2%となっている[17]。ただし、実態として、長子が18歳以上となった場合や祖母などと同居している母子世帯では傷害・傷病がなければ生活保護の統計上において「その他世帯」となるが、2006年には母子加算総数約10万世帯[18]
に対して統計の母子世帯は8万6千世帯[19]と少なく、差分は主に「その他」世帯となるため、事実上の母子家庭の存在も、勤労世帯である「その他世帯」増加の要因となっている。
生活保護受給者 年齢構成比・男女比(グラフ参照)
生活保護の支給総額
受給者数の増加に伴い、生活保護の支給総額は2001年(平成13年)度に2兆円、2009年(平成21年)度には3兆円を突破し[13]、2012年(平成24年)度の支給額は3兆7000億円を超える見通しとされている。 なお、扶助費の負担率は国が4分の3、地方自治体が4分の1であり[21]である。
政府の社会保障改革に関する集中検討会議によれば、「他法による施策も複雑化[22]しているため、ケースワーカーの育成も進まず要保護者の調査及び被保護者の生活改善に向けた指導などに手が回らない状態である。男性が25歳から80歳まで生活保護を受け続けた場合、扶助費総額にあわせ、働いた場合の税金や社会保険料の国と地方の逸失額を合算すると最大で1億5千万円を超えることも明らかになっている」とされている[23]。
厚労省資料によれば、この生活扶助費の総支給額に占める割合は平成21年度実績ベースで全体の33.8%となっている[24]。 また、生活保護の標準世帯生活扶助費基準額は平成10年をピークとしており、平成23年現在では対平成10年で月1,146円の減、0.7%の減額にとどまっていた[25]うえ、平成17年には高校就学費を、21年には小学 - 高校までの学習支援費を新設する[26]など有子世帯の総支給額は上昇している一方、国税庁平成23年民間給与実態統計調査結果によると、給与所得者の平均給与は平成9年をピークにして下がり続け、平成23年には平均年409万円で、対平成9年にして年58万3千円の減、12.5%の減となっているとされている[27]。
NHKの報道によれば、「平成22年度の生活保護費を国内世帯(生活保護世帯を含む)で割った場合、1取世帯が1年に負担する額はおよそ6万3千円と」されている[28]。
生活保護の捕捉率(利用率)
所得が生活保護支給基準以下となっているひとのうち、実際に生活保護制度を利用している人の割合のことを一般的に「捕捉率」というが、実質的には制度の利用率だと言えるため、捕捉率(利用率)と以下表すこととする。 この捕捉率(利用率)は、統計によると、ドイツでは64.6%、イギリスでは47〜90%、フランスでは91.6%なのに対し、日本は15.3〜18%となっている[29]。ただし行政機関では「捕捉率」という言葉は使用せず、統計資料で生活保護受給率[30]と表記し、厚生労働省においても、上記調査結果は被保護世帯数の割合(保護世帯比)であるとして「生活保護は申請に基づいた制度であることから、今回の調査から得られた「保護世帯比」が、申請の意思がありながら生活保護の受給から漏れている要保護世帯(いわゆる漏給)の割合を表すものではない」としている[31]。
厚生労働省の国民基礎調査を用いた推計では、2007年の時点で世帯所得が生活保護基準に満たない世帯は597万世帯(全世帯の12.4%)であるのに対し、実際に生活保護を受けている世帯は108万世帯(全世帯の2.2%)である。世帯類型別では、世帯所得が生活保護基準に満たない世帯は高齢者世帯が141万世帯、母子世帯が46万世帯、その他の世帯が410万世帯であるのに対し、実際に生活保護を受けている世帯は高齢者世帯が49万世帯、母子世帯が9万世帯、その他の世帯が50万世帯である。一方、同時に公表された全国消費実態調査を用いた集計では、世帯所得が生活保護基準に満たない世帯は231または311万世帯であるとし、低所得世帯数に対する被保護世帯数の割合(保護世帯比)は、フロー所得のみの場合で23.8%または29.6%、資産を考慮した場合で75.8%または87.4%と推定されるとしている[32]。
各国の制度と日本の生活保護との保障水準の比較
世界的な機関による分析の例としては(1)がある。
なお、厚労省の審議会の分析として(2)もある。
(1)世界銀行 Survey of Social Assistance in OECD Countriによる分析
それによると、各国の社会扶助費のGDPに占める割合比較(1995年)は、ニュージーランドの10.4%を最上位とし、フランス3.9%、ドイツ3.4%、イギリス2.8%、アメリカ0.8%であるのに対し、日本は0.5%でありOECD加盟国平均の3.5%を大きく下回り、かつ、アメリカよりも低い水準であるとされている。
[33][34]
(2)日本の厚労省社会保障審議会がまとめた分析
それによると、諸外国公的扶助制度と比較した場合の30代単身世帯所得保障水準では、比較対象のスウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、日本の5カ国中、最高水準の額とされている。スウェーデン、フランスに対しては、日本では約2倍の所得保障水準であると主張している[35][36]。
捕捉率(利用率)の将来推計についての各種分析例
上例で見たように、世界的にみて極端に捕捉率(利用率)が低い日本の生活保護制度であるが、日本では、「捕捉率(利用率)がこれ以上高まったら財政的に問題が出るという」立場の論者から、いくつかの分析が示されている。
片山さつきの試算によれば、「2011年の国と地方を合わせた税収は79兆円[37]で、そのうち約5%が生活保護費に回っているとしている[38][39]。
また、学習院大学経済学部経済学科鈴木亘教授によれば、「確かに生活保護を受けてもいい低所得者はたくさんいるので、もっと生活保護を増やすべきという主張は理解できないわけではありません。しかし、実施体制が崩壊しかかっている。低所得者をすべて受け入れると、単純計算でも年間10兆円が必要で、消費税にすれば三%を超える。制度を維持していくには、支える側、つまり納税者の理解が得られなければ無理です。今の状況ではとても理解が得られるとは言えない」とされ、受給期限の設定や自立支援プログラムの強制などの導入を提唱しつつ、現状の生活保護制度の在り方について危機感を示している[40]。
これと同じく、「捕捉率(利用率)がこれ以上高まったら財政的に問題が出る」という立場の団体・研究機関の分析や意見の例として以下のものがある。
*総合開発研究機構の2008年段階の試算レポートによると、就職氷河期の人々について、働き方の変化(非正規の増加と、家事・通学をしていない無業者の増加)によって生じる潜在的な生活保護受給者は77.4 万人、それが具体化した場合に必要な追加的な予算額累計約17.7兆円 - 19.3兆円となる結果が導き出され、これが現実となれば社会的にも深刻な影響を与える規模であることが予想されている[41]。実際には、この他にも医療扶助などさまざまな扶助が加算されるのが通常なので、毎年1兆円超の追加財政負担が必要となるものと想定される。しかも、このレポートの基となる試算は2006年のデータを用いて行われているが、この時期はリーマンショック以前であり、かつ経済成長率も2%近くあったことを勘案するとより結果は深刻であり、現在の生活保護費3.7兆円が今後も持続するものとすると、就職氷河期世代の生活保護制度への本格的な参入により、少なく見積もっても約5兆円にまで膨らむこととなるが日本の国防予算に迫ることになる。これは消費税率2%に相当するとされている[42]との指摘もある。
一方、最悪の可能性として「日本の全員が生活保護を受給することになる」ことを仮定した場合、必要な生活保護費は約225兆円となるが、2011年度、日本の実質GDPは、約511.5兆円であった(内閣府「国民経済計算」による)ことにより、「約225兆円」は巨額ではあるけれども、分配を根本的に見なおせば、支出できない費用というわけではないとの意見もある[43]。
相対的貧困率が小さいスウェーデンでも90年代の経済危機により失業者が増加し社会保障受給者が増え、社会省が1999年から2004年までに社会扶助受給者数を半減する目標を設定するまでになった[44]。同国では社会保障に占める生活保護など社会扶助の割合は4%と極めて小さく、また2008年のうち少なくとも1か月受給したことのある世帯は、全世帯の6.1%であり、平均受給期間は6.1か月で、1世帯当たりの月平均受給額は8万6千円となっている[45]。
生活保護の受給対象者
1946年(昭和21年)の旧生活保護法においては全ての在住者を対象としたが、1950年(昭和25年)の改訂で国籍条項が加わった。しかし、1954年(昭和29年)当時の厚生省が「人道的見地」から、生活に困窮者する永住外国人や日本人配偶者などの外国人においても、生活保護法を準用すると通知して以降、慣例的に日本国民と同じ条件で給付している[46]。また、1990年(平成2年)10月25日に厚生省社会局保護課企画法令係長による口頭指示という形で対象となる外国人を永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者、特別永住者、認定難民に限定するようになった[47]。
国内での永住権を持つ外国人が、日本人と同じように生活保護法の対象となるかどうかが争われた訴訟で、最高裁第二小法廷は2014年7月18日、「外国人は生活保護法の対象ではなく、受給権もない」とする判断を示している[48]。
地方分権と生活保護
2005年、国(厚生労働省)と地方との間で「三位一体の改革」の一環として、生活保護費の国と地方自治体との負担率を変更しようとの議論が行われた。現制度では支給される保護費について国3/4、地方1/4の割合で負担しているが、これを国1/2、地方1/2に変更しようとするものであった。さらに住宅扶助の一般財源化(地方交付税交付金に含めて国が交付)、保護基準(最低生活費)を地方が独自に設定することができるようにしようとした。
厚生労働省の主張は、生活保護行政事務の実施水準が低いところは保護率が高い水準にあり、保護費の負担を地方に大きく負わせることで生活保護行政事務の実施水準を向上させざるを得ない状況にして、国と地方を合わせた保護費の総額を減らそうというものである。しかしながら地方六団体は、憲法第25条で国が最低生活の保障を責任を持っていること、最低生活を保障するという事務は地方自治体に裁量の幅がほとんど無いこと(幅を持たせるとすれば、最低生活費を下げるあるいは上げるということになる)、仮に現段階での地方の負担増に合わせて税源を移譲されたとしても今後保護世帯数が増加すればその分が総て地方の負担となること、等から猛反発した。福祉行政報告例第1表-第4表並びに第6表の生活保護関連統計の国への報告を停止する行動に出た自治体もあった。
保護率が高い地域を都道府県ごとにみると、北海道、青森県、東京都、大阪府、福岡県、沖縄県である。反対に保護率が最も低い県は富山県であり、次いで愛知県である(平成19年度のデータによる)。
生活保護に類似する制度として「外国人高齢者・障害者福祉給付金支給事業」などがあるが、北海道登別市の見解によれば、「国民年金制度上の理由により、国民年金に加入できなかった在日外国人高齢者・障害者の方々に給付金を支給するもので、給付金を支給することにより、地域で自立し、安定した生活を続けていくことを支援し、福祉の増進を図ることを目的としている」と示している[49]。
生活保護における諸問題
各国の類似制度
脚注
参考文献
- 東京ソーシャルワーク編 『How to 生活保護(介護保険対応版)―暮らしに困ったときの生活保護のすすめ』 現代書館、2000年5月。ISBN 4768434223
- 尾藤廣喜・松崎喜良・吉永純編 『これが生活保護だ―福祉最前線からの検証』 高菅出版、2004年3月。ISBN 4901793101
- 水島宏明 『母さんが死んだ―しあわせ幻想の時代に ルポルタージュ「繁栄」ニッポンの福祉を問う』 社会思想社、1990年2月。ISBN 4938536412
- 「生活保護制度の現状等について」『生活保護費及び児童扶養手当に関する関係者協議会』 厚生労働省、2005年4月20日。
- 『生活保護VSワーキングプア 若者に広がる貧困』大山典宏著 PHP新書 2008年01月15日 ISBN 978-4-569-69713-0
- 『生活保護が危ない〜「最後のセーフティーネット」はいま〜』産経新聞大阪社会部著 扶桑社新書 2008年8月30日 ISBN 978-4-594-05745-9
- 『生活保護手帳 2008年度版』生活保護手帳編集委員会 中央法規出版 2008年7月30日 ISBN 978-4-8058-4823-4
関連項目
外部リンク
- 厚生労働省ウェブサイト > 生活保護と福祉一般
- 厚生労働省 白書等データベース > 厚生労働白書 > 平成24年版厚生労働白書 第1部第3章第4節