愛国心
愛国心(あいこくしん)、愛国主義(あいこくしゅぎ、パトリオティズム、テンプレート:Lang-en-short)は、国民が自らが育った、あるいは所属する社会共同体や政治共同体などに対して愛着ないし忠誠を抱く思想、心情である。このような思想心情を他人に比べ強く持つとされる、或いはそのように自負する人達を愛国者と称する。
対義語は「売国」。またそのような行為を行う者を売国奴と呼ぶ(但し売国の定義は非常に主観的で定かでない)。
概説
一口に「愛国心」といっても、話者によってその意味するところには大きな幅がある。愛国心の対象である「国」を社会共同体と政治共同体とに切り分けて考えると分かりやすい。
- 社会共同体としての「国」に対する愛着は「愛郷心」(あいきょうしん)と言い換えることが出来る。
- 政治共同体としての「国」に対する愛着は「忠誠心」(loyalty)と言い換えることが出来る。
愛国心によって表出する態度・言動の程度は様々で、ノスタルジーから民族主義や国粋主義まで幅広い。よってこれらを十把一絡げに「愛国心」と表現することもできるため、その内容は往々にして不明確である。また、愛国心を訴える事は政権側からのみでなく、反政府側からも行われることである。反体制的な愛国運動は、政権側から弾圧されることがしばしばである。
- 政府側の期待する「愛国心」は現政府に対する「忠誠心」と解釈できる。
- 反政府側の訴える「愛国心」は革命後の新政府に対する「忠誠心」、もしくは時の政府に靡かない「愛郷心」と解釈できる。
また、愛国心は大衆を煽動する道具とされてきた一面もある。幸徳秋水は「帝国主義はいわゆる愛国主義を経となし,いわゆる軍国主義を緯となして,もって織り成せるの政策にあらずや」と著書に記している(幸徳『帝国主義』)。
平和主義者には“愛国心こそが戦争を起す最大の要因である”と説いた者もいるが、反戦運動においては、戦争を若者を殺し国を危うくするものとし、愛国を掲げて戦争反対を訴える団体も多い。
愛国心教育
「愛国心」は概ね国家にとって望ましい感情と見なされているが、国民が政府を「売国的」とみなした場合などには反政府運動につながることもあり、為政者が国民の愛国心を自らに都合のよい方向に導くため愛国心教育を行う場合がある。為政者が「愛国心」を危険視し排除しようという教育は、他国による被占領地域において顕著に見られる。
近代では占領下にない独立国では、現代では「傀儡国家」と見なされることの多いヴィシー・フランスや満州国を含め、愛国心を育てる教育を行った国がほとんどである。この点で、「愛国心」高揚を意識的に避けてきた第二次世界大戦後の日本、西ドイツ及び東ドイツの教育は、少数派であったといってよい。その理由として、三国とも「愛国心」高揚・民族主義的高揚の果てに連合国(当初ドイツはイギリス、また日本は中華民国)に戦争を仕掛け、そして完膚なきまでに叩きのめされ敗けたことからこれらの思想がタブー視されたことなどが挙げられる。東ドイツの場合は敗戦に加えて、ソビエト連邦の影響下にあった衛星国であることが理由として挙げられている(ただし、同様にソ連の影響下にあったチェコスロバキア・ポーランドなどのワルシャワ条約機構加盟諸国では、ナショナリズムが反ソ連感情につながることが警戒されていたものの、愛国心が必ずしもタブー視されていたわけではない。プラハの春やハンガリー動乱を参照)。一方、ドイツ人国家として愛国心の高揚する中ドイツに併合された(アンシュルス)経緯があるオーストリアでは、自国とドイツを区別し、オーストリアをドイツに戦争協力を強いられた「被害者」と位置づけたため、このようなタブーはなかった(ただし、ドイツとの再統一を訴えるドイツ民族主義はタブー視されていた)。
戦前・戦中の日本における愛国心教育
テンプレート:Main 教育勅語、皇民化教育をはじめとして、徹底的な国家に対する愛国(忠誠)心教育が実施された。政府が世論を掌握するに効果的であった一方、精神論偏重の弊害を生んだとも言われる。昭和天皇も戦後、皇太子(現天皇明仁)に宛てた手紙で、敗因を「軍部が精神に重きを置き過ぎ、国力の差を軽視した」と述べて批判している。
戦後の日本における愛国心教育
第二次世界大戦敗戦後の日本では、日本が戦争を起こすに至ったのは盲目的な愛国教育によるところが大きいとの認識より、左派の日本教職員組合などは“教え子を再び戦場に送るな、青年よ再び銃を取るな”をスローガンに掲げ、「お国のために」を禁忌視した。例えば、教育現場で公的なものとして日の丸掲揚・君が代斉唱を行ない、また児童生徒に強制することには強く反対した。このように、愛国心(忠誠心)教育は一部の学校を除いて実施されてこなかった(君が代に対する意見の対立については、国旗及び国歌に関する法律を参照)。
中国における愛国心教育
1994年に中国共産党の中央宣伝部が「愛国主義教育実施要綱」を起草し、愛国心教育が制度化されている[1]。祖国を愛することが国民の義務とされ、学校では国旗の掲揚は毎日行い、小中高校生は全員国歌が歌えなければならないとされている。
文献情報
- 『増補 想像の共同体 ナショナリズムの起源と流行』ベネディクト・アンダーソン NTT出版 ISBN 487188516X
- 『ナショナリズムと自由民権』田村安興 清文堂出版 ISBN 4792405491
- 『資料で読む 戦後日本と愛国心 全3巻』日本図書センター、2008年-2009年。ISBN 978-4-284-50105-7
- 『在台日本人の郷土主義(レジョナリズム)』橋本恭子(日本台湾学会報2007.5)[1]
脚注
関連項目
- 民族
- 愛国無罪
- 嫌韓/反中
- 反米
- 反日
- 右翼/右翼団体/民族主義/排外主義/全体主義/ファシズム/国粋主義/ジンゴイズム
- クオーレ - イタリアの愛国小説
- 国歌
- 国旗
- 蛍の光 - 歌われることがなくなった3番と4番
- 愛国公党 - 日本で初めて「愛国」を名称に冠した組織・団体・結社として知られる。
外部リンク
- ナショナリズムと自由民権
- 『愛国運動現勢』第1輯 労働経済調査所編 (労働経済調査所, 1935)