尿
尿(にょう、いばり)は、腎臓により生産される液体状の排泄物。血液中の水分や不要物、老廃物からなる。小便(しょうべん)、ションベン(しょんべん)、小水(しょうすい)、お尿(おにょう)、ハルン(はるん)、おしっこ(しっこ)とも呼ばれる。古くは「ゆばり」「ゆまり」(湯放)と言った。さらに特殊な呼び方は下に記す。
尿の生産・排泄に関わる器官を泌尿器と呼ぶ。ヒトの場合、腎臓で血液から濾し取られることで生産された尿は、尿管を経由して膀胱に蓄積され尿道口から排出される。生産量は水分摂取量にもよるが、1時間あたり60ml、1日約1.5リットルである。膀胱の容量は、成人で平均して500ml程度で、膀胱総容積の4/5程度蓄積されると大脳に信号が送られ、尿意を催す。日本人が人生80年の間に出す尿の平均量は約35トンといわれている。
役割
尿を排出することは、大きくは2つの意味があるテンプレート:要出典。
- 老廃物の排出。動物の体内で生産される老廃物は腎臓でこし出され、尿に含まれて排出される。特に窒素化合物の排出は重要で、アミノ酸などが分解された場合、有害なアンモニアができてこれは利用できないので排出しなければならない。
- 浸透圧の調節。体内の水分量の調節の役割がある。水を多く飲むと薄い尿が多量に出る。これは腎臓における再収集によって調節される。
分類群と窒素代謝物の排泄
硬骨魚類や両生類のカエルの幼生のオタマジャクシではアンモニアの状態で排出する。軟骨魚類のサメや両生類のカエルの成体は尿素で排出する。爬虫類や鳥類などでは尿酸に化学変化させて、固形物として排出する。硬い殻(閉鎖卵)を有する卵生の動物では、尿を殻の外に排泄できないため、アンモニアでは有害であり、尿素では浸透圧が高くなりすぎ、水にわずかしか溶けない尿酸の形で排泄することにより有害性と浸透圧の両方の問題を解決している。哺乳類では、肝臓で尿素に化学変化させて排出する[1][2][3]。これらのことから卵生の哺乳類である単孔類のカモノハシでは、卵生では尿酸で、成体では尿素で排泄することが推定される。昆虫は、幼虫や成虫は尿酸または尿酸の分解物であるアラントインで排泄し、閉鎖系となる蛹期には尿酸で排泄する[4]テンプレート:信頼性要検証。
成分
哺乳類の尿(特にヒトの尿)の場合、約98%が水であり、タンパク質の代謝で生じた尿素を約2%含む。その他、微量の塩素、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、リン酸などのイオン、クレアチニン、尿酸、アンモニア、ホルモンを含む。閉経した女性の場合は、女性ホルモンも含む。短時間に大量に水を摂取した場合は、100%水である場合もある。色はおおむね黄色で、水分が不足している時はオレンジ色になり、短時間に大量に水を摂取して成分が100%水となった場合は無色となる。肝臓での代謝物ビリルビンが代謝されウロビリノーゲンを経て最終的な代謝物である黄色のウロビリンが排出されたときやビタミンB2(リボフラビン)が排出されたときも黄色となる(リボフラビン以外のビタミンそのものは無色)。
一般的に汚いものと思われがちだが、血液をろ過して造られるため、腎臓が健康な場合は排泄までは無菌である。排泄してから時間が経つと、尿の中の尿素が外部から侵入した細菌によって分解され、アンモニアが発生し悪臭を放つ。また、排泄直後の尿は空気を含んで泡立つことも多いが、大抵はすぐに消える。しかし、あまりにも泡立ちが激しい場合は、蛋白尿や糖尿病である可能性が高い。健康な状態の尿は弱酸性である。代謝物は水分より比重が重いので黄色または褐色成分は時間が経つにつれて沈殿する。
尿検査
尿は血液中の不要物や有害物、新陳代謝の老廃物などを体外へ捨てるために腎臓で濾過されて生産される。このため、身体状態を反映して水素イオン指数 (pH) や成分が変化することが知られており、内科の診断では主要な検査対象となる。
血液やリンパ液、組織液、細胞液などのpHは、ホメオスタシス(恒常性維持機能)によって通常pH7.4±0.05に維持されている。一方、尿は体液ではないため、pHはある程度の範囲で変動する[5]。体内からミネラルを補充したり、尿に余分なミネラルを排出することで血液や体内のpHが保たれているので、骨や尿は摂取する食品の影響を受ける。尿はpH4.4~8.0の範囲で変化する[6]。尿酸は酸性尿で析出しやすく、血清尿酸値の上昇は腎機能の低下を伴う。高尿酸血症の治療において尿pH は6から7 に保つことが適切とされており、尿pH6-7が尿酸が最も析出しにくい範囲で腎機能が良好であった[7]。一般に尿は弱酸性であるが、アルカリ性食品を多く摂取したりすることで、アルカリ性になったまま低下しなくなることがある。
尿にタンパク質が含まれる場合は腎疾患や尿路系の異常、糖では糖尿病、血液では尿路系の炎症や結石が疑われる。ただし、これらは疾患がなくても疲労が原因である場合もある。ウロビリノーゲンの量や尿の比重も臓器の疾患を示唆する。ウイルス、細菌が混じる場合には泌尿器系の感染症が疑われる。薬物・毒物等を摂取した場合には固有の代謝産物が検出される。妊娠した女性からはヒト絨毛性ゴナドトロピン (HCG) という特有のホルモンが検出される。
簡単な尿検査は試薬を用いて色の変化や沈殿の有無を調べるもので、妊娠の検査であれば数分程度で確認できる。近年では質量分析の発展によってきわめて微量の成分でも検出が可能となっており、スポーツ競技でのドーピング検査などで使用されている。
利用
農学・工学
尿に含まれる尿素は窒素を多く含むため、肥料として古来から利用されてきた。鳥類の尿は尿酸を含み、グアノとして天然の窒素肥料として利用されている。
尿素が微生物によって酸化されて火薬の原料となる硝酸カリウムが生じることも古くから知られており、硝石が手に入りにくい地域では貴重とされた。近代科学が発達する以前では、硝石の入手方法は便所の床下の地面に堆積した硝酸カリウムを採掘したり、枯れ草に尿をかけて発酵させたりして入手していた。
古代においては、尿を発酵させて得られるアンモニアなどはしばしば唯一の洗濯の手段であり、皮革・布などの洗浄に広く用いられた。その化学的性質は錬金術・魔術の領域でも広く用いられた。
医薬品等
生物の尿には各種の生理活性物質が含まれており、精製することで様々な医療用の尿由来製剤が生産されている。代表的なものとしては排卵誘発剤のHMG製剤、白血球減少症治療剤のミリモスチム(mirimostim、商品名ロイコプロール、糖蛋白質)、酵素阻害剤のウリナスタチン(商品名ミラクリッド)、線維素溶解酵素剤ウロキナーゼなどがある。ただし近年ではクロイツフェルト・ヤコブ病とのかかわりから利用には慎重な態度がとられている[8]。
漢方薬では「童子尿」として尿が薬用に用いられており、民間では健康法として尿療法が行われている。爬虫類や鳥類の尿は尿酸を含み、化粧品などに用いられた例もある。
なお、かつては「ハチに刺されると尿をつけると良い」と言われたが、これは「ハチの毒が蟻酸であり、尿にアンモニアが含まれているので中和できる」と考えられていたからである。現在ではこのどちらも間違いとされている。
出典
関連項目
- ↑ にょうそ【尿素】の意味 - 国語辞書 goo辞書
- ↑ 有馬四郎「兩棲類の發生初期の代謝終産物について : I.蛙尿の化學成分について」 動物学雑誌 61(9), 1952-09-15, pp275-277 テンプレート:NAID
- ↑ http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textbiodiv/Chapt1-5.doc テンプレート:リンク切れ
- ↑ げのむトーク(31-40)
- ↑ 痛風患者の尿pHに関する研究 -尿pHの日内変動の分類 プリン・ピリミジン代謝 Vol.20 (1996) No.1 p.9-16
- ↑ トーマス・M・デヴリン、デヴリン生化学 : 臨床との関連、1987年、第2版、985、啓学出版、isbn=4766508777
- ↑ 健康診断受診者の血清尿酸値と尿中pHが腎機能に及ぼす検討、桑原 政成ほか、痛風と核酸代謝、痛風と核酸代謝 Vol.36 (2012) No.1 p.73-
- ↑ CPMP、CJDおよび血漿並びに尿由来医薬品に関する見解を公表 公益財団法人 血液製剤調査機構