力
力(ちから)とは、
- 人や動物に備わっている、自ら動き、または他の物を動かす働き[1]。
- ものごとをなすときに助けとなるもの[1]。
- ききめ[1]。
- 自然科学において、物体の状態を変化させる原因となる作用[2]。力学においては特に、物体の運動を変化させる状態量[3]。
この項では 4 の自然科学における力について説明する。
目次
自然哲学
力という概念は、何かに内在すると想定されている場合と、外から影響を及ぼすと想定されている場合がある。古代より思索が重ねられてきた。
古代
プラトンは物質はプシュケーを持ち運動を引き起こすと考え、デュナミスという言葉に他者へ働きかける力と他者から何かを受け取る力という意味を持たせた。
アリストテレスは『自然学』という書を著したが、物質の本性を因とする自然な運動と、物質に外から強制的な力が働く運動を区別した。
アラビアの自然哲学者ら(アラビア科学)の中にはピロポノスの考えを継承する者もいた。
ルネサンス以降
14世紀のビュリダンは、物自体に impetus(インペトゥス、いきおい)が込められているとして、それによって物の運動を説明した。これをインペトゥス理論と言う。
ベルギー出身のオランダ人工学者シモン・ステヴィン (Simon Stevin、1548 — 1620) は力の合成と分解を正しく扱った人物として有名である。1586年に出版した著書 "De Beghinselen Der Weeghconst " の中でステヴィンは斜面の問題について考察し、「ステヴィンの機械」と呼ばれる架空の永久機関が実際には動作しないことを示した[注 1]。つまり、どのような斜面に対しても斜面の頂点において力の釣り合いが保たれるにはテンプレート:仮リンクが成り立っていなければならないことを見出したのである。
力の合成と分解の規則は、ステヴィンが最初に発見したものではなく、それ以前にもそれ以後にも様々な状況や立場で論じられている。同時代の発見として有名なものとしてガリレオ・ガリレイの理論がある。ガリレオは斜面の問題がてこなどの他の機械の問題に置き換えられることを見出した。
その後、フランスの数学者、天文学者であるフィリップ・ド・ラ・イール (1640 — 1718) は数学的な形式を整え、力をベクトルとして表すようになったテンプレート:Refnest。
ルネ・デカルトは渦動説 (テンプレート:En) を唱え、「空間には隙間なく目に見えない何かが満ちており、物が移動すると渦が生じている 」とし、物体はエーテルの渦によって動かされていると説明した[4][5]。
ニュートン力学
現代の力学に通じる考え方を体系化した人物として、しばしばアイザック・ニュートンが挙げられる。ニュートンはガリレオ・ガリレイの動力学も学んでいた。またデカルトの著書を読み、その渦動説についても知っていた(ただしこの渦動説の内容ついては批判的に見ていた)。
ニュートンは1665年から1666年にかけて数学や自然科学について多くの結果を得た。特に物体の運動について、テンプレート:仮リンクを発見している。この結果は後に『自然哲学の数学的諸原理』(プリンキピア、1687年刊)の中で運動の第2法則を用いて説明されている[6]。
ニュートンはその著書『自然哲学の数学的諸原理』において、運動量 (テンプレート:En) を物体の速度と質量 (テンプレート:En) の積として定義し、運動の法則について述べている。ニュートンの運動の第2法則は「運動の変化は物体に与えられた力に比例し、その方向は与えられた力の向きに生じる 」というもので、これは現代的には以下のように定式化される。
- <math>\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{p}}{\mathrm{d}t} = \boldsymbol{F}\,.</math>[注 2]
ここで テンプレート:Math は物体が持つ運動量 テンプレート:Mvar の時間微分、テンプレート:Mvar は物体にかかる力を表す。このニュートンの第2法則は、第1法則が成り立つ慣性系において成り立つ。
ニュートン自身は第2法則を微分を用いた形式では述べていない。運動の変化 (テンプレート:En) を運動量の変化と解釈するなら、それは力積に相当する。
エネルギーと力
テンプレート:Main 熱力学が形成される19世紀前半までは、現在のエネルギーに相当する概念が力(テンプレート:Lang-la-short, テンプレート:Lang-en-short, テンプレート:Lang-de-short)と呼ばれていた。 たとえば、ルドルフ・クラウジウスは1850年の論文 ,,テンプレート:De "[7]で熱力学第一法則について述べているが、テンプレート:De という語を用いているし、その英訳でも テンプレート:En が用いられている。
現在の運動エネルギーに対応する概念について、1676年から1689年の頃にゴットフリート・ライプニッツは テンプレート:La と名付けた。これは当時の運動に関する保存則の議論の中で、保存量として提案されたものである。
1807年に、トマス・ヤングは テンプレート:La にあたる概念をエネルギーと名付けたが、直ぐ様それが一般に用いられることはなかった。 力学の言葉として運動エネルギーやポテンシャル・エネルギーが定義されるのは1850年以降のことで、運動エネルギーは1850年頃にウィリアム・トムソンによって、位置エネルギーは1853年にウィリアム・ランキンによってそれぞれ定義されている[8]。
古典力学
定義
古典力学における力(テンプレート:Lang-en)は運動量の時間変化によって定義される。
- <math>\boldsymbol{F} = \frac{\mathrm{d}\boldsymbol{p}}{\mathrm{d}t}\,.</math>[注 2]
ここで テンプレート:Mvar は物体に働く力、テンプレート:Mvar は物体の運動量、テンプレート:Mvar は慣性系の時刻を表す。ニュートン力学において運動量は速度 テンプレート:Mvar と慣性質量 テンプレート:Mvar の積で表され、
- <math>\boldsymbol{p} = m\boldsymbol{v}</math>
また速度 テンプレート:Mvar の時間微分は加速度 テンプレート:Mvar であることから、物体の慣性質量は一定である場合について、次の関係が成り立つ。
- <math>\boldsymbol{F} = m\boldsymbol{a}\,.</math>
この方程式は慣性系においてのみ成り立ち、慣性系は運動の第1法則によって定義される。
古典力学では、力は物体(あるいは場)の間で行われる相互の運動量の交換を示すものとされており、ベクトル量として表現されている。力の時間による積分(力積)は物体の運動量の変化量に等しい、とされる。つまり、運動が変化することと、力が作用することとは等価であるとされているのである。
力は文脈によって、相互作用 (テンプレート:En)、作用 (テンプレート:En) などとも呼ばれる。ただし、相互作用はポテンシャルを指すこともあり、また作用は解析力学においては力と異なる概念として定義されている。
静力学
静力学では力は基本的な状態量になる。力を構成する要素は、力の大きさ (テンプレート:En)、力の向き (テンプレート:En)、作用線の方向、作用線の位置である[9]。作用線 (テンプレート:En) とは力が及ぼされる点(作用点)を通り、力の向きに対して平行な直線のことである。 また、力が2体力である場合には、力を及ぼすものと力が及ぼされるものとの組を考えることができる。すべての力が2体力であるなら、それぞれの力は互いに独立であり、物体にかかる正味の力 (テンプレート:En) はそれぞれの独立な力の単純な和として表される[9]。
たとえば、物体 テンプレート:Math に物体 テンプレート:Math が力を及ぼしている場合、物体 テンプレート:Math に働く正味の力は、
- <math>\boldsymbol{F}_\mathrm{A} = \boldsymbol{F}_\mathrm{B \to A} + \boldsymbol{F}_\mathrm{C \to A}</math>
と分解することができる。ここで テンプレート:Math は物体 テンプレート:Math に働く正味の力、テンプレート:Math はそれぞれ物体 テンプレート:Math が物体 テンプレート:Math に及ぼしている力を表す。このことは テンプレート:Math に力を及ぼす物体が増えても同様に成り立つ。
力の釣り合い
その物体の速度が変化しないとき、力が釣り合っていると言う。例えば、自動車が時速 40 km/h のまま直進しているとき、車体にかかる力は釣り合っている。この時、エンジン等によって動かされた車輪が加速しようとする力と車軸や空気の摩擦によって減速しようとする力が釣り合っている、と考えるのである。
力の合成と分解
力の合成とは、ある点に働く複数の力を 1 つの等価な力として表すことを言う。またその逆の操作を力の分解と呼ぶ。合成された力のことを合力 (テンプレート:En) という。 力はベクトルとして定義されているので、ベクトル空間における加法の規則に従い合成と分解を行うことができる。
力の合成や分解をするための手続きはテンプレート:仮リンクを用いる。
分類
連続体力学などの分野では、力は次の 2 つに分類される。
- 面積力
- 面を通して作用し、その大きさが面積に比例する力[10]。表面を横切る微視的な運動量の流束とも言え[11]、表面力とも呼ばれる。物体の面を介して作用するので近接作用力である[12]。例としては圧力、応力、表面張力などが挙げられる。
- 体積力
- 物体の体積に比例する力[13]。物体力とも呼ばれる。物体には直接触れずに作用する力なので遠隔作用力である[12]。例として重力、遠心力、コリオリ力、電磁力などがある。
力の定義に対する批判
力は物理学の根幹にかかわるものであるが、力の定義づけは自明ではないともいわれる[2]。アイザック・ニュートンは『自然哲学の数学的諸原理』において力と質量について明確な定義を与えていない。現代的な視点では、ニュートン力学における力は運動の第2法則 テンプレート:Math によって定義されるものと解釈されるが、この解釈のもとでは、比例定数の慣性質量 テンプレート:Mvar が未定義な量であるために、力と慣性質量の定義が独立しておらず、不満である。そのため、力と質量の定義を分離すべきという批判がなされている[2]。
NASAのサイトでは「自由物体の動きに変化を起こしたり、あるいは固定物体に応力を与える基となる agent(エージェント)[14]」といった説明になっている。
素粒子物理学
テンプレート:Main 物理学の素粒子論において相互作用は、電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用、重力相互作用の 4 つに分類される。
脚注
注釈
出典
参考文献
テンプレート:Wikisourcelang テンプレート:Wikisourcelang テンプレート:Div col
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- テンプレート:Cite book — ジュリアン・バーバー、『動力学の発見』。
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- テンプレート:Cite book — オランダ語原著。
- テンプレート:Cite book — 著者による英訳。
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- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite journal Part I, Part II.
- テンプレート:Cite journal — Clausius (1850) の英訳版。Google Books。
- テンプレート:Cite journal
関連項目
gd:Neart- ↑ 1.0 1.1 1.2 デジタル大辞泉
- ↑ 2.0 2.1 2.2 培風館三訂版物理学辞典、【力】。
- ↑ 小出 (1997)、p. 18。
- ↑ Barbour (2001).
- ↑ 内井 (2006)。
- ↑ Newton's Mathematical Principles of Natural Philosophy, Axioms or Laws of Motion, Corollary I. ウィキソース。
- ↑ Clausius (1850).
- ↑ Rankine (1853).
- ↑ 9.0 9.1 江沢 (2005)、p. 7。
- ↑ 巽 (1982)、pp. 30-31。
- ↑ Ferziger (2003), p. 5.
- ↑ 12.0 12.1 京谷 (2008)、p. 31。
- ↑ 今井 (1997)、p. 13。
- ↑ Any external agent that causes a change in the motion of a free body, or that causes stress in a fixed body. Glossary - Earth Observatory, NASA
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