介護

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介護(かいご、テンプレート:Lang-en-short)とは、障害者の生活支援をすること。あるいは高齢者・病人などを介抱し世話をすること。

日本の介護

日本で「介護」という言葉が法令上で確認されるのは、1892年の陸軍軍人傷痍疾病恩給等差例からであり、介護は施策としてではなく、恩給の給付基準としての概念であった。「介護」という言葉が主体的に使われるようになったのは、1970年代後半からの障害者による公的介護保障の要求運動からである。それ以前の「『障害者の面倒を見るのは親がやって当り前』という社会の考え方からでは障害者は施設に追いやられる」という危機感からそのような運動が発生した。

公的介護保障の要求を受けて、介護人派遣事業が制度化され始めたのは1980年代半ばからであるが、障害者にとって保障と呼ぶにはほど遠いものであった。地方自治体による高齢者の訪問介護・看護事業は1960年代より始まったが、理念的には家族介護への支えであって、その考え方は現在でも受け継がれている。医療QOLの考えが普及すると、介護にも導入され、介護によって病人、高齢者の生活の質 (QOL) を高め、QOLのさらなる向上に貢献することもまた介護の目的とされている。

介護保険法支援費支給制度により障害者が在宅介護や施設介護のサービスを また、介護を行う介護福祉士訪問介護員等の介護職や、介護サービスの利用の調整を図る介護支援専門員は、名称独占資格専門職であるが仕事の肉体的・精神的負荷が大きく、仕事の難易度の高さや負荷の大きさや低賃金のため、恒常的な労働力不足の状況である。

「介護」論争

  • なお「介護」という行為の専門性や独自性を問う中で、以下のような論争が度々巻き起こる事がある。
  • そのために一部では「独自の介護学(もしくは介護福祉学)という学問が確立されるべきであり、これによって介護という存在の学問上での権威を上げ、より介護という技術の専門性を主張するべきである」という意見(介護は、既存の事象や学問に因らない、それだけで学問体系として成立する、という考え方)が出る。これを現実のものとするために2004年、日本介護学会日本介護福祉士会内に設立された。

「看護」と「介護」

看護界の一部には、介護は看護の中に含まれるとして、「看護」という言葉で充分代用できるという声もある。ただし、「介護」という言葉は、看護師や看護界が作り出した言葉ではない。「介護」という言葉の出自には、看護と区別するような専門性、特定の業務内容とその位置づけについての専門的な定義は、ない。ただ、「介護」という言葉が流布するようになって、介護福祉士訪問介護員(ホームヘルパー)のワークの内容をいうのに、従来の「介助」よりも、適切であるとして、介助という身体的な行動援助よりいささか広い範囲で使えるということで、重宝なものとして用法が広まってきている。

なお、「介護」という単語は、介護用品メーカーであるフットマーク株式会社(東京都墨田区)の代表取締役・磯部成文(いそべしげふみ)により「世話をする側とされる側のお互いの気持ちの交流を考えて『介助』と『看護』を組み合わせて作った造語」という説もあるが、上記のとおり1892年には法令に出ている熟語である。

介護技術

社会福祉学上では、福祉サービス利用者に対して援助のために提供される技術という意味で 社会福祉援助技術における直接援助技術 に組み込まれるとする意見もあり、その観点から介護の分類や専門性を語る際には、同技術における「ケースワーク(個別援助技術)」や「グループワーク(集団援助技術)」に対応する呼称として、ケアワーク(介護技術)の呼称が使われる。しかし、これらを比較した場合、介護は前2者と比べてその成り立ちや技術の有り方が大きく異なる(前2者は基本的に「人間関係」を対象とした技術。ケアワークは基本的に「生活上の挙動の不全」を対象とした技術)上に、現実として「社会福祉士介護福祉士」という別個の資格が確立されているため、「介護技術は何者にも因らない独自の体系を持つ(社会福祉援助技術外の)技術である」とする見方もある。

ただし、社会福祉士も介護福祉士も、担当事例においては「ケースワーク」「グループワーク」「ケアワーク」という3つの技術が必要とされる(チームケア事例におけるケアワーク担当者の不在による代替行為ないしはその逆となる事例、もしくは介護担当者とカウンセリング担当者の相互理解が必要となる事例など)ため、それらを習得する必要がある。また、社会福祉学部を擁する大学のほとんどは実際にこれら3つの技術を社会福祉学の分野としてそれぞれ対等となる独自の単位を設定して学ばせており、さらには介護福祉士・社会福祉士の両資格試験では、この3技術に関する試験科目がやはりそれぞれ試験内における対等の分野として存在している。

介護観

日本の介護観は、従来「両親は息子(特に長男)や親族が面倒をみるもの」という価値観があった。だが、少子高齢化や核家族化の進行、医療の進歩に伴い寿命が延びたことにより、介護が「看取り三月」ではなくなったことなどに伴い、介護を行う家族(配偶者や子)もまた高齢者であるという「老老介護」の問題も浮かび上がっており、家族にとってはより重い負担となっている(著名な例では、1999年に当時の高槻市市長江村利雄が、妻の介護と公職の両立が出来ない事を理由に市長を辞任して議論となった)。老老介護の苦労や負担に耐え切れず、介護する子が親を殺害するなどの犯罪にも繋がっている。

現在では要介護者を抱えた家庭の苦労や、介護される側の気苦労などが広く知られるようになり、社会全体で面倒を見てもよいという価値観が生まれつつある。また関東圏と関西圏においても介護観の違いが報告されているテンプレート:要出典[1]。これは社会と文化の多様化および複雑化に伴うものだと考えられる。介護観の複雑多様化は、ある意味必然的なものなのかもしれないが、その多様性に対応できる社会体制が必ずしも整っているとは限らない(参考文献:高橋佳代佐藤法仁山下和典「介護意識に関する介護関連職者の地域差研究 ~関東・関西3076例を通じて~」第2回日本介護学会予稿集,(社)日本介護福祉士会日本介護学会,p.89~98,2004)。

外国人労働者

日本と諸外国との間で締結された二国間経済連携協定(EPA)により、2008年以降、看護師のほか介護福祉士(候補者)が来日し、日本国内で活動するようになった。2014年までの対象国は、インドネシアフィリピンベトナムである。2014年には、2,000人を超える規模となり、EPAの制度枠外の労働者も存在するようになりつつある[1]

商標

「介護」は、失禁用おしめ、防護手袋、布団まくらかや[2]、つえ、靴べら、靴ひも、履物[3]、つけまつ毛、耳かき、カフスボタン、かばん類、化粧用具、ベルト、腕止め、ワッペン、腕章、頭飾品、つけひげ[4]カラビナピッケル、スリーピングバッグ、水中ナイフ、ウエイトベルト、浮袋、メトロノーム楽器テレビゲーム乗馬用具、揺りかご、幼児用歩行器、体操用マット、おもちゃ、人形手品用具、遊戯用器具、運動用具、釣り具[5]などに対してフットマーク株式会社が権利を持つ商標登録である。 また、『月刊介護保険』を出版する株式会社法研が雑誌新聞に関する商標権を有し[6]、宿泊施設、飲食物の提供、乳幼児の保育、老人の養護、布団等の貸与などに関してはワタミ株式会社が商標権を有する[7]

脚注

  1. テンプレート:Cite news
  2. 以上は登録番号第1652072号、1984年1月26日登録。
  3. 以上は登録番号第1782616号、1985年6月25日登録。
  4. 以上は登録番号第1794269号、1985年7月29日登録。
  5. 以上は登録番号第1887948号、1986年9月29日登録。
  6. 登録番号第4106101号、1998年1月23日登録。
  7. 登録番号第5023028号、2007年2月2日登録。

関連項目

外部リンク