ホンダ・CR-X

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CR-X(シーアール-エックス)は、本田技研工業がかつて生産、販売していた小型乗用車である。初代と2代目はハッチバック型、3代目はタルガトップ型である。

概要

初代は、同社の小型車シビック姉妹車であるバラードの派生車種として、3代目シビック(ワンダーシビック)へのフルモデルチェンジに先立って市場に投入された。発売にあたり同社は、「FFライトウェイトスポーツ」という新ジャンルであると説明し、以来この言葉は同クラスの車種を分類する場合に使用されることになる。

初代および2代目には後部座席が装備されていた。初代では、着座位置の座面をやや凹ませ着座位置を下げて、頭部スペースを確保した。2代目では、若干ルーフ高が高められたため、フラットなベンチ風だった。ただし、シビック3ドアよりも150mm以上短いホイールベースとファストバッククーペボディーが影響し、大人が2人座っての長距離移動は困難だった。なお北米向けには後席はなく、代わりに浅い小物入れが装備されている。

また、この2代に共通の特徴として「アウタースライドサンルーフ」がある。短い屋根ゆえに屋根後半にスライド型サンルーフを格納した場合は開放感を得るに十分な開口面積が確保できないため、ボディの外に電動スライドさせるものである。曲率が大きい屋根を収納する戸袋は厚くなり後部座席の頭部スペースを圧迫するが、車外へ屋根を突出させることで戸袋を無くしこの問題も回避した。さらに北米では、後述するように軽い車体重量を活かした低燃費仕様が設定され、企業平均燃費(CAFE;Corporate Average Fuel Efficiency)の達成に貢献した。

3代目は、走行性能を追求したそれまでの2代とは大幅にコンセプトを変え、開放感を楽しむタルガトップとして誕生し、1991年に発売されたビートに次ぐ、小型オープンカーとなった。これは、北米市場でCAFEの達成に貢献する低燃費仕様としての役割を、リーンバーンエンジン搭載車が担うことになり、軽量化の要求がなくなったためである。

販売チャネルは、プレリュードクイントなどを扱っていた「ベルノ店」。

初代 AE/AF/AS型(1983-1987年)

テンプレート:Infobox 自動車のスペック表 1983年7月1日に「バラードスポーツ CR-X」として発売された。キャッチフレーズは「デュエット・クルーザー」。なお、日本国外では「CIVIC CRX」(RとXの間のハイフンが付かない)の名前で売られていた。グレードは、1.3Lの「1.3」と1.5Lの「1.5i」。

リアにハッチを持ち、テールエンドを断ち切った形状のファストバッククーペボディーは「コーダトロンカ(coda tronca)」と呼ばれ、全長を伸ばすこと無く空気抵抗を低減できる特性を持っている。車体の軽さも特徴であり、ABS樹脂ポリカーボネートをベースとした複合材料「H.P.ALLOY(エイチ・ピー・アロイ)」をフロントフェンダーとドア外装板等に、ポリプロピレンをベースとした「H.P.BLEND(エイチ・ピー・ブレンド)」を前後バンパーに採用し、車両重量は760kg (「1.3」5速MT)/ 800Kg (「1.5i」5速MT)となっている。2,200mmという非常に短いホイールベースと相まって生み出されるハンドリングは大変にクイックだったため、ステアリングの舵角中立部の反応は意識的にやや鈍く設定されていた。

エンジンは、EW型 1.5L 直4 CVCC SOHC 12バルブ PGM-FI仕様と、EV型 1.3L 直4 CVCC SOHC 12バルブ キャブレター仕様とが用意された。日本国外向けにはシビック同様1.5Lのキャブレター仕様もあった。「1.5i」では、アウタースライドサンルーフ、ドライブコンピュータ+デジタルメータルーフベンチレーションなどが選択できた。「1.5i」MT仕様ではファイナルギアレシオが4.4とローギアード化されており、より加速性能が増している。

サスペンションにも独自の工夫が見られ、フロントにストラット+トーションバー(リアクションチューブで長さを短縮)、リアは右側にのみスウェイベアリングを組み込み、ラテラルロッドをホイールと同軸化した車軸式+コイルスプリングの形式が採用され、総合して「SPORTEC-SUS」と称していた。

北米仕様には、その軽量の車両重量を生かした超低燃費仕様「CIVIC CRX HF(1.3L 直4 CVCC SOHC 8バルブ 5速MT)」があり、City mode:50MPG(24.8km/L)/Highway mode:56MPG(27.8km/L)の燃費性能で当時の低燃費No.1を獲得している。

1984年11月1日に、外側固定支点のY型スイングアームを介してバルブ駆動するZC型 1.6L 直4 DOHC 16バルブを搭載する「Si」が追加された。スイングアーム式バルブ駆動は、バルブクリアランス調整を容易にする目的で当時いくつかの採用例があったが、ZC型の場合はハイリフト化が主な目的だった。この試みが後の「VTEC」に生かされた。シリンダーブロックは「1.5i」のフルサイアミーズ型ブロックをボアアップしたものを採用し、ボア・ストロークは75mm×90mmというロングストローク仕様となっている。

なお、ウレタン製のリアスポイラーが標準装備となり、スタビライザーを強化、オイルクーラーの追加、ボンネットには2個の大径カムプーリーをクリアするためにS800シティターボに続いて「パワーバルジ」が付けられ、よりスポーティな印象が高まったものの、車両重量は860kgまで増加した。 エンジンの高出力化に伴い、駆動系はFF特有のトルクステアを防ぐため、等長ドライブシャフトが新たに採用されたが、ブレーキ構成は軽量な車重とショートホイールベースのため「1.5i」と同様の前輪:ベンチレーテッド・ディスク、後輪:リーディングトレーリングを踏襲(フロントブレーキパッドはセミメタルに変更)。なお、「Si」は「1.5i」とは異なり、アルミホイールは標準だが、ステアリングのパワーアシストはなく、エアコンやオーディオもオプションだった。

1985年9月にマイナーチェンジを実施し、ヘッドライトがセミ・リトラクタブル・ヘッドライトから、輸出仕様の「CIVIC CRX」と同じ、固定式タイプに変更された。「Si」では、内装、メータパネルが変更されるとともに、外装ではサイドシルのデザイン変更や前後のバンパーの大型化、ツートーンカラーの廃止がなされた。よって、このモデルではヘッドライトやパンパーの形状で前期型と後期型を区別できる。なお、キャッチフレーズも「2人には、Xがいる。」に変更された。また、ステアリングのパワーアシスト付きモデルが選択できるようになった。アルミホイールはオプション。

ホンダ車のアフターパーツも生産している「無限」が、ブリスター形状の前後フェンダー、フロントマスク、リアスポイラーなどを「無限 CR-X PRO」の名称でリリースし、これらを装備した車両が鈴鹿サーキットのマーシャルカーとして用いられた。

E-AS型の形式名「AS」は、同社の1960年代のスポーツカー「Sシリーズ」の形式名のAS(Automobile Sports)と符合することから、一部のファンはホンダスポーツの再来と受け止めた向きもあった。


2代目 EF6/7/8型(1987-1992年)

テンプレート:Infobox 自動車のスペック表 1987年9月16日に発売された。1986年10月にバラードが廃止されたため、車名に「バラードスポーツ」を冠しなくなった。グレードは1.5Lの「1.5X」(EF6)と1.6Lの「Si」(EF7)。キャッチフレーズは、当時のサイバーパンク流行にあやかり「サイバー・スポーツ」

スタイルは初代を踏襲しつつ、各部がフラッシュサーフェス化され、また全体的にワイド&ローフォルムとなった。初代では難があった後方視界を確保するため、リアエンドに「エクストラウインドウ」が採用された。用いられたガラスには黒のピンドットが配されており、スモークガラス同様車外からは一見して透明には見えないため外板パネルとの一体感があり、こと車体色が黒の場合顕著だった。これは、外観デザインで2代目最大の特徴とも言える箇所である。後にインサイトが同様のデザインを採用している。

初代にオプション設定されていたルーフベンチレーションは廃されたが、アウタースライド式サンルーフの他に、「グラストップ」と呼ばれる、UVカットガラス製の屋根を装着する新オプションが設定された。グラストップには熱線反射材としてチタン皮膜[1]が施され、取り外し式のサンシェードも備わっていたが、黒主体の内装も相まって、夏季の炎天下では車室温がかなり高くなったとされる。

エンジンは、D15B型 1.5L 直4 SOHC 16バルブ CVデュアルキャブ仕様(105PS:ネット値)と、ZC型 1.6L 直4 DOHC 16バルブ(130PS:ネット値)とが用意された。D15Bは、SOHCながら1気筒あたり4バルブ(吸気側・排気側それぞれ2バルブ)で、「ハイパー16バルブ」と称していた。 「Si」のボンネットには、先代同様パワーバルジが設けられ、「1.5X」との外見判別が容易だった。

サスペンションは、全輪ともダブルウィッシュボーンとなり、旋回性能は格段に向上した。しかし、シャシー設計上サスペンションストロークを長く取ることができず、前2:後1というフロントヘビーな重量配分もあって不整地や濡れた路面などでは後輪が唐突に破綻するようなピーキーな傾向となっていた。この特性を逆手に取り、国内のジムカーナでは活躍した。

北米仕様には、初代と同様に超低燃費仕様「CIVIC CRX HF(D15B6型 1.5L 直4 SOHC 8バルブ 5速MT)」が存在しており、車体が大きく重くなったものの、City mode:41MPG(20.3km/L)/Highway mode:50MPG(24.8km/L)の燃費性能を実現している。

1988年8月4日のマイナーチェンジの際に、3チャンネル・4wA.L.B.(ABS)装着車が設定された。

1989年9月22日のマイナーチェンジの際に、新たなキャッチフレーズ「V計画、核心へ。」を採用し、「VTEC」(可変バルブタイミング&リフト機構)を備えたB16A型 1.6L 直4 DOHC VTEC 16バルブを搭載した「SiR」(EF8)が発表された。このモデルの最高出力は160PS(ネット値)で、排気量1Lあたり100PSという市販車のNAエンジンとしては驚異的な出力を実現していた。なお、この「SiR」は5MTのみの設定で、フロントブレーキが大径化される。

後期型ではボディ前部の形状変更と、ヘッドライト形状の変更といった若干のフェイスリフトが行われ、全長が前期型の3,775mmから3,800mmとなった。また、前期型では凹型断面をもつボンネット形状が、後期型では凸型に変更され、初代及び2代目前期型「Si」の特徴だったボンネットのパワーバルジは不要となり廃止された。

国内向けには、限定車も含め、4年半で10色前後のボディーカラーが設定された。 なお、欧州向けでは、前期型は日本国内仕様の外観とほぼ同じだが、後期型は、VTEC仕様のみ日本国内とほぼ同じ外観で、それ以外は前期型と同じ凹型断面のボンネットで、バンパー形状は後期の北米仕様に準ずる。また、北米向けは、前期、後期を問わず、日本国内仕様の前期型とほぼ同じデザイン(バンパー形状のみ小変更)。

3代目 EG1/2型(1992-1997年)

テンプレート:Infobox 自動車のスペック表 1992年3月6日に発売された。

スイッチ操作のみで屋根をトランクルームの専用ホルダーに収納できる、『トランストップ』と名付けられた電動オープンルーフが最大の特徴である。なお、手動で取り外す仕様もあり、こちらは取り扱いの負担軽減のため軽量なアルミ製となっている(トランストップはスチール製)[2]

搭載されるエンジンは、前モデルと同じB16A型 1.6L 直4 DOHC VTEC が「SiR」に設定されており、最高出力は170PSに向上している。その他に、前期型にはD15B型 1.5L 直4 SOHC VTEC の「VXi」、後期型にはD16A型 1.6L 直4 SOHC VTEC の「VGi」が用意された。

前期型はヘッドランプの内側に丸いアクセサリライトを埋め込んだ4灯式で、後期型はアクセサリライトを廃した2灯となっている。

ミッドシップ車のようなディテールを生かして、駆動方式をFFからMRに改造したカスタムカーが製作されたこともある。

1995年10月のマイナーチェンジの際に、上記フロントバンパー周りの意匠変更とSOHCエンジンの排気量アップが行なわれた。

1997年8月、日本国内でのスペシャリティクーペの市場低迷や、北米市場向けとしてシビッククーペと競合する事を背景に、CR-Xは生産終了となった。同時期に存在した軽自動車のビートも同年に生産が終了したため、ホンダのオープンカーは1999年S2000が発売されるまで一時ラインナップから消滅した。 テンプレート:-

後継車種への動き

2006年11月に開催されたロサンゼルスオートショーで「Honda REMIX Concept」[3]2007年2月に開催されたジュネーヴモーターショーで「Honda Small Hybrid Sports Concept」[4]、同年10月に開催された東京モーターショー2007では「CR-Z[5]という名のコンセプトカーが出展され、CR-Zは2010年2月に市販化された。


搭載エンジン

車名の由来

  • CR-X:「シビックルネサンス」また「シティ・ラナバウト(「クルージング」の意味であるとも言われている)」を表す「CR」と未知数を表す「X」とを合成させたものである。なお、輸出向けはCRXとハイフンが入らないが、日本で販売時すでに「CRX」が商標登録されていたため「CR-X」となった。
  • del Sol:スペイン語で「太陽の」を意味する。

脚注

  1. ホンダ公式サイト お客様相談センター カタログ用語辞典より
  2. CR-X delSol発売時のFACT BOOKより
  3. ロスアンゼルスオートショーで「Honda Step Bus Concept」と「Honda REMIX Concept」を発表
  4. Honda Small Hybrid Sports Conceptをジュネーブモーターショーで発表
  5. 「第40回東京モーターショー 2007」乗用車出展概要

関連項目

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外部リンク

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