SOHC
テンプレート:Redirect SOHC(エスオーエイチシー、Single OverHead Camshaft)とは、レシプロエンジンの一形態で、1本のカムシャフトがシリンダーヘッドに置かれたエンジンの意味である。かつてDOHCが広く普及する以前は単にOHCとも呼ばれていたが、より明確な区別をするためにレトロニムとして呼ばれるようになった。 また、直列式シリンダーのSOHCエンジンに限り「シングルOHC」や「1カム(One Cam)OHC」と呼ばれる場合もある。
構造
バルブの位置はOHVやDOHCなどと同じく、燃焼室の上である。カムシャフトはシリンダーヘッドに1本置かれている。カムシャフトは、タイミングチェーン・ギヤ・タイミングベルトなどでクランクシャフトとつながれており、回転する。楔形燃焼室(ウェッジシェイプ)やバスタブ形燃焼室を持つエンジンでは、カムが直接バルブを押し下げる[1]。半球形燃焼室や多球形燃焼室、ペントルーフ形燃焼室を持つエンジンでは、カムシャフトとバルブはシーソーのような動きをするロッカーアームという機能部品で結ばれており、動きを伝える。OHVでは、カムシャフト→プッシュロッド→ロッカーアームとバルブを開閉する動きが伝えられるが、そのうちプッシュロッドが不要になる。DOHCとの違いはカムシャフトの本数で、DOHCでは吸気バルブおよび排気バルブをそれぞれ専用のカムシャフトで駆動させるが、SOHCでは1本のカムシャフトで供用する。
歴史
1897年にルドルフ・ディーゼルが開発したディーゼルエンジンはOHCであった。20世紀初頭から高性能自動車エンジンや航空機用エンジンに使われた。一般の乗用車用として普及するのは1960年代から1970年代にかけてであり、それまではOHV、さらに以前にはサイドバルブ(以下SV)が用いられた。
特徴
OHVと比較した場合、バルブまわりの慣性質量を減らしやすくなるため、結果としてバルブの開閉タイミングの管理が容易になり、DOHCほどではないが、それなりに高回転・高出力を得やすい。かつてはシリンダーヘッド上のカムシャフトを駆動するためにはベベルギアやカムギアトレーンが用いられていたために、OHVよりもコストのかかるシステムであった。現在は安価なタイミングベルトやチェーンによる駆動が一般的となり、量産されている。部品点数がOHVやDOHCより少なくなるので、小型軽量で安価になり、整備性もよくなる。
DOHCと比較した場合、カムシャフトが1本少ない分、駆動抵抗が少なくなり、燃費のいいエンジンにしやすく、SVやOHV同様にエンジンの重心を低くすることができる。
逆に、DOHCに比べ、1本のカムシャフトでロッカーアームを介してバルブを駆動させるという構造から、給排気バルブの数を増やしにくいため、高回転型のエンジンを作りにくい。同様の理由により、大出力化の一環でビッグバルブなどを組んだ際のバルブ一本当たりの慣性重量がDOHCよりも大きくなりがちになる。また、1本のカムシャフトで給排気両方のバルブを開閉するため、バルブ挟み角などのバルブのレイアウトの許容範囲が狭い。調整式カムスプロケットでバルブタイミングを調整する場合において、DOHCのように吸気・排気を別々に微調整することが不可能であり、この条件を同時に満足するためにはそのつどカムシャフトの新造が必須となる。
また、ロッカーアームがバルブを開閉する力によって弾性変形するため、高回転になるほどバルブ開閉の精度が落ち、バルブジャンプやバルブサージングが発生する。
プライベートチューンにおいてはロッカーアームの長さ(ロッカーアームレシオ)を変更するだけで、カムシャフトを変更することなくバルブリフト量の増大が図れる場合もあるが、クロスフロー燃焼室でカムシャフトを挟んで左右にロッカーアームが振り分けられている場合には、レシオの変更により吸気側と排気側のバルブタイミングが逆方向にずれる(つまりバルブオーバーラップが直接変化する)為に、カムシャフトも同時変更しなければ性能が低下する場合もある。
一般的に、SOHCはDOHCより性能が劣っていると見られがちだが、必ずしもそうではない。歴史的にはOHV V8のフォード・FEエンジンをSOHC化して高出力化を図り、結局はNASCARからレギュレーション規制で締め出しを受けてしまったフォード・427 SOHC "Cammer"エンジンのような例も存在した。カムシャフトの数よりも燃焼室の形状やカムの形・大きさ(カムプロフィール)と言ったものの方が性能を決める際のウェイトは高く、SOHCではなくDOHCにする意義は、その自由度を高めるための手段であって、必ずしも高回転・高出力なエンジンを狙うものではない。
また、ターボ装着時の給排気特性を改善するためのDOHC化も多く見られたが、日本の軽自動車においてターボチャージャーによる出力競争が熾烈だった頃、スーパーチャージャーを採用していたスバル(富士重工業)のレックスだけは、モデル消滅までSOHCのままであった[2]。
変わったところではスズキが20年以上にわたって使用し続けたF型では、燃焼室構造をハート型に近づける事で燃焼効率を向上させていた。F型には4バルブDOHCや4バルブSOHC、3バルブSOHC[3]も存在するが、バルブ配置の関係のためこの設計は崩れている。
シリンダーあたりのバルブ数は吸気×1、排気×1の2バルブが基本であったが、給排気効率を高めるために、吸気×2、排気×1の3バルブや、吸気×2、排気×2の4バルブのマルチバルブエンジンも登場した。また、カムシャフトの干渉のためセンタープラグ配置が困難という弱点を補い燃料の完全燃焼を促すために、ツインプラグ方式をSOHCエンジンで実現するものもある[4]。
上記のようにカムシャフト干渉によりセンタープラグ配置を行いにくいが、マルチバルブ・ペントルーフ型燃焼室・センタープラグが要求される現代においてはプラグを傾けカムシャフトを回避する形でセンターに配置するのが一般的である。ただしこの場合、ポート形状や冷却面などで制限を受けやすい。 そのほかカムシャフトをオフセットすることでプラグの傾度を抑えつつセンターに配置することでコンパクトなレイアウトとする例[5]などがある。変わった所ではen:Alfa Romeo V6 engineのようにカムシャフトを吸気側に配置し吸気バルブを直動、排気バルブをプッシュロッドを介して駆動させDOHCと同様のセンタープラグ配置とする例がある。 さらに高効率が要求される現代では狭いバルブ挟み角も要求されるが、ロッカーアーム(シーソー式)の構造上バルブ挟み角はあまり小さくしにくい。この点もホンダのユニカム[6]のように吸気バルブを直動、排気バルブをロッカーアームで駆動することでセンタープラグおよびバルブ挟み角の狭角化を行っている例が存在する。 またフィアット・アルファロメオの可変バルブ機構であるマルチエア(ツインエア)では排気バルブをカムシャフトで直接、もしくはスイングアームにて駆動、吸気バルブは油圧を介した可変バルブ機構で駆動させており、センタープラグ配置とバルブ挟み角を狭角としている。
以上のようにSOHCは必ずしもDOHCに劣るわけではなく実用上は有利な面も多くあるが、一部メーカー(トラック・バス専業メーカーを除く国内メーカーでは2014年2月現在、ホンダと三菱自動車がこれに該当する)を除くとSOHCへの回帰はあまり行われていない。これはマーケット面での要求もさることながら、近年一般的となったカムの位相を変化させる可変バルブタイミング機構はSOHCでは効果が低いという点が理由にあげられる。SOHCは単一のカムシャフトで吸気バルブと排気バルブを作動させる構造上、カムの位相を変化させると吸気のタイミングが変化するのと同時に排気のタイミングも同時に変化してしまうためオーバーラップ領域の変化が得られない。ただし、SOHCにおいても負荷や回転数に対し最適なバルブタイミング制御を行うことで、オーバーラップの変化はなくとも一定の効果は得られるため、大排気量SOHCエンジン(例:en:Ford Modular engine)などでは採用されている。 国内においては、吸気バルブのリフト量変化と位相変化が連動する連続可変リフト機構を採用した、三菱自動車の新MIVECエンジン(4J10型、および4J11型、4J12型エンジン)が、連続可変リフト機構と協調作動させる形でSOHCでありながらカムシャフトの位相変化を行なっている[7]。 単一のカムシャフトで吸排気の位相を独立で変化させ、オーバーラップ量を変化させる手法としては、吸気と排気のカムローブが独立して動く二重構造のカムシャフトを用いる手法がある。これは既に一部のアメリカの大排気量V型OHVエンジンで採用されており、機構上はSOHCでも利用できる。