パプテマス・シロッコ

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テンプレート:Pathnav パプテマス・シロッコPaptimus Scirocco, U.C.0061年〜0088年2月22日)はアニメ『機動戦士Ζガンダム』に登場する架空の人物。(島田敏

キャラクター概要

地球連邦政府の木星資源採掘船ジュピトリスの責任者。階級はテレビアニメでは大尉、劇場版では大佐。木星船団を統率する指揮官であり、いわゆる「木星帰りの男」。自らを「歴史の立会人」と称して傍観者的立場を決め込むものの、長年に渡る木星圏での生活は彼にある種の悟りを開かせるものだった。ニュータイプの資質を有し、人を惹きつけるカリスマ性を備える一方、他者に対し傲岸な態度をとり、反感を買う[1]面もあった。事態を予見する洞察力、優秀なモビルスーツを独自に開発する知識を備えた天才肌の軍人である。

パイロットとしての能力も非常に高く、自ら開発したニュータイプ専用機ジ・Oファンネルの挙動すら予測し、これを完全に封じている。最終的にバイオセンサーの力を解放したカミーユ・ビダンに操縦を奪われるまで、作中一度も直撃弾を被弾することがなかった[2]。戦闘で発揮されるニュータイプ能力についても、ハマーン・カーンと互角に渡り合い、カミーユの精神を崩壊に追い込むほどの力があり、シャア・アズナブルをニュータイプのなり損ないと断じるシーンも見られた。そうした自らの能力に対する絶対の自信か、劇中ではノーマルスーツを一切着用しなかった。

シロッコの思想

シロッコは劇中で「この戦いが終わった後は恒星間旅行にでも行く」と語るなど、権力そのものには興味がなかったように描かれている。

彼は戦後世界を支配するのは「女だと思っている」と発言し、現にサラ・ザビアロフレコア・ロンドといった女性を配下に置き、自らの感性をも研ぎ澄ませていたという。彼女らがシロッコの野望を達成するための尖兵以上の役割を担っていたテンプレート:要出典ことは確かであるが、それが彼女らの中に次なる時代を担う異性としての才能を見出したがゆえの抜擢であったのか、個人的な執着によるものであったのかは明確ではない。</br>彼が女性に期待した理由は、男性的権力、あるいは個人的才能のみで世を治めることはできないとするためであるテンプレート:要出典が、自分の理念を詳しく語ることはなかったため、詳細は不明である。しかしその一方で、世界を指導する「そのための天才が要る」とし、自分こそがその指導者たる天才であるとほのめかす発言も多い。この事を考慮すると、「女性を指導者」にするというシロッコの思想の本質は、「カリスマを秘めた女性の権力を利用して、その裏から自らの手で支配する事」ではないかという見解もある。

彼の言葉はミネバを王女に据えたネオ・ジオンベラ・ロナを偶像としたコスモ貴族主義マリア・ピァ・アーモニアを女王に据えたマリア主義といったイデオロギーと一部共通しているようにも思われる。しかし、これらの女性達も結局は真の権力者の傀儡に過ぎなかった。

シロッコはティターンズに与しながらも、「重力に魂を引かれた人々の解放」とし、それに対し「エゥーゴの理念と同じではないか」と指摘されている。それに対し、シロッコは「エゥーゴも結局は地球にこだわっているのだから連邦と同じ」だと切り返しているのだが、これは単にシロッコが自分の思想を意にそぐわない存在であるエゥーゴと同一扱いされたくないが為の、詭弁ではないかとも取れる。事実シロッコは、自分の理想通りの優秀な女性の指導者だったハマーンの事も、所属する組織が違うのを理由に「排除すべき存在」としてしか見ていなかった。

シロッコが戦乱に身を投じた真の理由は、木星という僻地で持て余していた己の才能を、戦場という舞台を借りて存分に発揮することであったという、いわば「ただの自己満足」に過ぎなかったという見方もあり[3]、シロッコ自身が戦乱終結後の統治にどの程度の関心を寄せていたかは定かではない。</br>ただし、結果としてシロッコは優れた技術的・政治的才能を有する一方、それらがさらなる災いの種を呼び込むことに繋がり、更にシロッコ自身が自分以外の人間をひたすら見下し続ける狭量さの持ち主であった為に、「究極的な最高のニュータイプ」と称されるカミーユにとってそれは他者を自分の野心のために道具にする傲慢と映り、彼の怒りと、そして死んでいった者達の「魂の念」によって、その野望に終止符を打たれるに至る。

劇中での活躍

宇宙世紀0087年4月末に地球圏へ帰還。自ら試作した可変モビルアーマー (MA) ・メッサーラの性能テストを兼ね、ブライト・ノアが艦長を務める難民を乗せたテンプテーションを襲う。地球軌道上ではアーガマと交戦し、その能力の高さを見せつけた。ティターンズ首領ジャミトフ・ハイマンへは血の誓約書といった古風な誓いで表向きの恭順を示してグリプス戦役に参戦する[4]が、組織内においては瞬く間に頭角を現すと同時にジャミトフの手に余る存在となっていく。ティターンズ旗艦ドゴス・ギアを任され、アポロ作戦時における月面都市フォン・ブラウン市制圧[5]など優れた戦績を上げる一方、同時期に地球圏へ帰還した旧ジオン公国軍残党アクシズミネバ・ザビに対しても忠誠を装うなど、その巨大な力をも手中に納めんとして策略を巡らせていく。

戦争終盤、アクシズ旗艦グワダン内において指導者ハマーン・カーンとジャミトフが同席する会談が行われるが、会談中にエゥーゴのクワトロ大尉ことシャア・アズナブルが乱入し、ティターンズのサラ・ザビアロフ曹長の暴走でグワダンが破損する。その混乱に乗じてジャミトフを暗殺し、それをハマーンの陰謀によるものと全軍へ発表して弔い合戦を呼びかける。自ら開発したジ・Oに搭乗してハマーンのキュベレイと対峙し、ニュータイプ同士の熾烈な戦闘を展開する一方、ナンバー2のバスク・オムをも葬り去り、スペースノイドでありながら反スペースノイド組織であるティターンズの実権を完全に掌握する。

その後、グリプス2を改装したコロニーレーザーを巡って三つ巴の戦闘に突入する。戦闘中にコロニーレーザーが発射され、ティターンズの主力艦隊を喪失して撤退を余儀なくされる。ジュピトリスを目前に、遭遇したカミーユ・ビダンのΖガンダムを圧倒するが、死者の意思を吸収したΖガンダムの超常的威力の前にジ・Oの制御を失い、ウェイブライダー (WR) 形態に変形したΖガンダムの突撃を受け、ジ・Oの装甲ごと肉体を貫かれる。こうして肉体は野望と共に消滅したが、絶命の寸前に放った断末魔の思念はカミーユの精神を崩壊させた。

なお、小説版は物語の結末が若干異なっており、Ζガンダムの放つオーラによって機体制御を失った後、コロニーレーザーの閃光に焼き尽くされた。

開発、および搭乗機体

指揮を執った艦船

その他

  • 漫画『新MS戦記 機動戦士ガンダム短編集』では、宇宙世紀0083年頃に木星圏の衛星ガニメデにあるジオン資源基地への掃討作戦に参加している姿が描かれている。自分に合わないガンダムタイプのMSに搭乗しながらも、シャアや若きハマーンと交戦。一時的ではあるがこれを撃退している。ただしこのコミック自体はパラレル要素が強く公式設定という訳ではない。
  • 小説版では天涯孤独の設定であり、自分と似た境遇のサラを作品終盤に男女の関係を意識するまでは妹がわりに可愛がっていた。
  • 『Ζガンダム』の主要人物では珍しく、名字で呼ばれることが多い。サラはアニメ本編および小説版で「パプテマス様」と独特の発音で呼んでいる。
  • 永野護はヤザン同様にシロッコの新制服もデザインしたがこちらは採用されず、安彦がシロッコの新制服をデザインする際の参考とするのに留まった。軍服というよりは学究の徒に相応しいそのデザインは、のち永野の漫画『ファイブスター物語』の登場人物、バランシェ博士の私服に流用されている。
  • シロッコはヘアバンドをしているが、小説版によると適度に頭を締め付ける感じが心地よいとのことである。
  • 木星圏に長期滞在していたが、宇宙から木星を見ていると「押し上げてくるような感じ」がして嫌いなのだという。
  • 監督の富野の初期構想(いわゆる「トミノメモ」)には「現代医学が生み出した超人」との設定もあったが採用されなかった。

脚注

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関連項目

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  1. 作中での彼の態度について、小説版で傲岸と記載されている。地球圏に帰還した際に戦艦ハリオで会見したテッド・アヤチの他、マウアー・ファラオや上官のバスク・オムも彼に対し不快感を抱いている。また、カミーユ・ビダンは、シロッコを人間を手駒(劇場版では家畜)と考えて利用する悪の根源と捉えていた。
  2. ただし、小説版ではシャアとハマーンとの三つ巴の戦いでジ・Oの全身のメガ粒子砲を失う中破状態に追い込まれている。
  3. 書籍「機動戦士Ζガンダムヒストリカ11」の記述より。
  4. シロッコは「原隊復帰の原則」を理由に、ジュピトリスのティターンズへの編入を拒否し続けていた。理由としてシロッコがジュピトリスを失いたくなかったのと、シロッコがティターンズ=地球連邦政府とは考えていなかったからである(ラポートデラックス『機動戦士Zガンダム大辞典』P.77)。
  5. しかし、これは上官のジャマイカン・ダニンガンの命令を無視した独断行動であるため、後に彼から制裁を受けている。