近鉄1000系電車

テンプレート:鉄道車両 近鉄1000系電車（きんてつ1000けいでんしゃ）は、近畿日本鉄道の通勤形電車の1系列。電算記号はT（0番台）。

本項では派生系列であり、後に本系列へ編入された初代1200系についても記述する。また、解説の便宜上、宇治山田寄り先頭車の車両番号+F（Formation=編成の略）を編成名として記述（例：モ1001以下4両編成=1001F）する。

概要

伊勢湾台風による冠水・路盤流出といった大災害からの復旧工事と合わせて、急遽繰り上げ実施された改軌工事の完成した1959年末以降、名古屋線では大阪線から20m級の大型車が直通運転可能となった。

この改良工事で最大の恩恵を受けたのは名阪間を直通する甲特急（名阪ノンストップ特急）であったが、一般車にもその恩恵はもたらされた。16m級から19m級の種々雑多な中型車が運用されていた名古屋線に、20m級4扉車体を備えるWNドライブ車である1600系の新製配置が開始されたのである。

これらは朝夕のラッシュ時輸送に絶大な威力を発揮したが、その新製ペースは遅く1959年から1966年までの8年間に41両が製作されたに留まり、改良後継系列である1800系・1810系を合わせても、このグループは1970年末の時点でようやく92両に達したばかりであった。

一方、改軌後の名古屋線急行では、改軌以前からの急行車であった6301系や6311系を主体とする18m級車に加え、これまで大阪線で長らく急行運用に充当されてきた、20m級の2200系・2227系が大阪線からの直通運転を中心に充当されるようになっていた。さらに、1961年から1963年にかけて実施された大阪線・名古屋線系統の乙特急への10400系・11400系「エースカー」の新製投入により、余剰となった2250系や6421系・6431系といった吊り掛け駆動方式を採用する旧世代の19m・20m級特急車も格下げにより急行運用へ転用されるようになった。

このうち2200系・2227系は後継系列である2250系と同じく、端子電圧675V時1時間定格出力150kW級の大出力電動機を搭載し、平坦な名古屋線運用において充分すぎるほどの走行性能を備えていた。しかし、これら2系列のうち2227系は一部が姉妹系列である1400系（初代）と共に鮮魚列車や荷物電車への転用が図られたものの、2200系（1930年製）は1970年の時点で車齢40年に達していて車体の老朽化や陳腐化が特に目立ち、全車とも早急に車両代替を行わねばならない状況であった。

だが、当時の近畿日本鉄道は日本万国博覧会の開催に伴う特別輸送のために多数の新車を投入したばかりで、さらに1973年には橿原線系統の建築限界拡張工事完成と神宮式年遷宮が重なったため、これに備えた新車投入の必要にも迫られていた。加えて1971年の総谷トンネル事故を契機とした大阪線の完全複線化（新青山トンネル建設を含めた名張駅 - 伊勢中川駅間の完全複線化等）にも莫大な予算をつぎ込んでいた。そのため、当時の近畿日本鉄道の財政事情では、総数57両を数えたこれらを短期間に全て新車で代替するのは非常に困難であった。

幸いなことに、2200系の主電動機（三菱電機MB-211BF）は製造から40年を経てもなお健全なコンディションを保っており、継続使用が可能であった。そこで近畿日本鉄道はこの電動機を整備して再利用し、当時最新の1810系と同等の車体と組み合わせた、いわゆる機器流用車を製作することとした。本系列はこの計画に従い、以下の20両が近畿車輛で製作された。

なお、1000形 - 1300形の形式番号は奈良線・大阪線の前身である大阪電気軌道で使用されたことがあり、本系列は2代目ということになる。

• 1972年7月竣工
  • 1000系
    • モ1000形モ1001・モ1002：制御電動車(Mc)
    • モ1050形モ1051：中間電動車(M)
    • ク1100形ク1101・ク1102：制御車(Tc)
    • サ1150形サ1151：付随車(T)
  • 1200系
    • モ1200形モ1201：制御電動車(Mc)
    • モ1250形モ1251：中間電動車(M)
    • ク1300形ク1301：制御車(Tc)
    • サ1350形サ1351：付随車(T)
• 1973年9月竣工
  • 1000系
    • モ1000形モ1003 - モ1007：制御電動車(Mc)
    • ク1100形ク1103 - ク1107：制御車(Tc)

1972年度は1000系と1200系（初代）の2系列に分けて竣工したが、1200系は名古屋線一般車では初採用となる冷房装置を搭載したため系列名が区分されたものである。同系列は電算記号も1000系とは異なる「RT」が付与されたが、後述の編入改造によって他の1000系各編成と同じ「T」に改められた。なお、1972年度竣工グループの4両編成2本はいずれも宇治山田寄りからMc-T-M-Tcで電動車と付随車・制御車を交互に連結する編成として就役開始している。

	テンプレート:TrainDirection
1000系 T01	ク1101 Tc	モ1051 M	サ1151 T	モ1001 Mc

	テンプレート:TrainDirection
1200系 RT01	ク1301 Tc	モ1251 M	サ1351 T	モ1201 Mc

	テンプレート:TrainDirection
1000系 T02 - T07	ク1102 - ク1107 Tc	モ1002 - モ1007 Mc

車体

1970年度製作の1810系および2410系の設計を踏襲する、普通鋼溶接組み立てによる20m級両開き4扉車体を備える。

側窓は下降式で座席はロングシート、1000系は換気装置としてラインデリアを備えるが、1200系は前述の通り冷凍能力8,500kcal/hの三菱電機CU-14集約分散式冷房装置を1両につき5基ずつ屋根上に搭載し、冷風を天井に設置された風洞経由で送風する構造となっている。なお、この冷房装置を搭載する関係で、1200系は屋根断面がラインデリア搭載スペース確保のために扁平でやや角張った印象を与える1000系とは異なり、風洞を通す関係で屋根が高く丸味を帯びたものとなっていて、冷房装置を含めた形態としては大阪線2800系2801F - 2804Fと同一である。

乗務員室側妻面は中央に貫通扉を配置した3枚窓構成で、新造時には行先表示幕や列車種別表示幕は設置されておらず、車掌台側妻窓下の金具に行先表示板を取り付けて使用した。前照灯はシールドビーム2灯で貫通路上部左右に振り分けて設置し、尾灯・標識灯は丸い尾灯の下に横に長い長方形の標識灯を組み合わせた、この時代の近鉄通勤車標準仕様の物を妻面左右の腰板部に振り分け設置している。

主要機器

前述の通り、一部機器を廃車となった車両などから流用して製造されたため、旧式な吊り掛け駆動方式を採用して新造された。ただし、WNドライブ車との共用、および将来の主電動機換装によるWNドライブ車への改造を前提に新造機器が設計されており、WNドライブ車と共通運用が可能な性能が与えられている。

主電動機

主電動機は2200系用三菱電機MB-211BF（端子電圧675V時1時間定格出力150kW）を整備・改修したMB-211BFR2を電動車の各台車に2基ずつ吊り掛け式で装架する。歯数比は種車と同じ56:27(2.07)である。この電動機の大出力から、本系列は吊り掛け時代でも全界磁定格速度55.2km/h、定格引張力4000kgによって起動加速度は2.0km/h/s、最高速度は110km/hに達する。

主制御器

制御器は様々な形式からの発生品が流用された。このため、1972年度製作車については、モ1001・モ1002・モ1051の3両が単位スイッチ式の三菱電機ABF-204-15MHを搭載し、モ1201・モ1251は2回転電動カム軸式の日立製作所MMC-HT10A・MMC-H10J2をそれぞれ搭載する。また、1973年度製作車については、モ1003が電動カム軸式の日立製作所MMC-HT10B1、モ1004 - モ1007が同じくMMC-HT10D1をそれぞれ搭載する。これらはいずれも主電動機を2基単位で直並列制御する。

ブレーキ

名古屋線向けであるため、1810系同様発電ブレーキは省略されたが、WNドライブ車との混結を想定して、製造当初からHSC電磁直通ブレーキを新製装備している。

台車

電動車については、将来のWNドライブ車への改造を考慮し、吊り掛け駆動とWNドライブの双方に対応可能なトランサム部を持つ、近畿車輛KD-75（1200系）・KD-75Aダイレクトマウント空気ばね付円筒案内式（シュリーレン式）台車を装着する。

これに対し、制御車と付随車については、名古屋線から養老線や伊賀線などへの在来車転出の際に余剰となった近畿車輛KD-32系金属ばね台車を改造した、KD-32Gを装着する。なお、このKD-32系は名古屋線改軌の際に新造されたもので、東洋電機製造TDK-528系や三菱電機MB-148系といった112kW級の吊り掛け駆動対応電動機を装架する電動車のために設計製作された、短リンク式揺れ枕とコイルばねによる枕ばねを備える円筒案内式台車である。

集電装置

廃車発生品がかき集められ、モ1001・モ1002・モ1051の3両が2200系用の三菱電機S-514、モ1003 - モ1007が東洋電機製造PT-42、1200系は東洋電機製造PT-4203を搭載する。いずれも一般的な構造の菱枠パンタグラフである。

1000系は各電動車の連結面よりにパンタグラフを1基搭載するが、冷房装備の1200系については集電容量確保のため各電動車にパンタグラフを2基搭載としている。

改造・車体更新

冷房化

1980年から1982年にかけて1000系の冷房化が行われ、その際に正面に方向幕が設置された。搭載冷房装置は冷凍能力10,500kcal/hの三菱電機CU-19で、各車これを4基ずつ屋根上に搭載する。この改造で旧1200系との接客面での差異が無くなったことから、1201Fは1982年に1000系へ編入され、1002F（モ1002-サ1152-モ1052-ク1102）となり、従前のモ1002-ク1102はモ1008-ク1108に改番された。

WNドライブ化

1984年から、駆動方式を吊り掛け式からWNドライブに、制御方式を抵抗制御から界磁位相制御に変更する改造工事が行われた。その際、主電動機は820系の伊賀線転属に伴う改造によって発生したMB-3020-Bや、廃車となった20100系および1600系の発生品であるMB-3020-Dに取り替えられた。歯数比は15:82である。

主制御器は奈良線8000系の界磁位相制御化改造と、これに伴う1C8M制御化によって捻出された日立製作所MMC-HTR-20多段電動カム軸制御器（力行28段）を整備・改造の上でモ1000形に搭載し、界磁制御器はモ1050形に搭載する。また、この制御器変更に伴い回生制動機能が付加されたことから、空気ブレーキは回生制動と連係動作するHSC-R電磁直通ブレーキを搭載する。

このWNドライブ化工事は、4両編成の1001F・1002Fから着手された。この際、電動車を各車ごとに制御器を搭載する1C4M制御から1基の制御器で2両分の電動機を制御する1C8M制御（ユニット方式）へ改造するため、モ1050形とサ1150形の連結位置が入れ替えられ、モ1000形とモ1050形が隣接する編成となった。また、電動発電機を効率的に配置するため、ク1100形が大容量電動発電機を搭載する1810系のク1910形と入れ替えられ、以下のように改番された。

• ク1810形 ⇔ ク1100形
  • ク1924・ク1925 ⇔ ク1101・ク1102

なお、パンタグラフを2基搭載した電動車が隣接することから、1001Fはモ1001形のパンタグラフが撤去され、1002Fはモ1052形のパンタグラフが撤去されている。1986年にはサ1150形に急行での運用を考慮してトイレ（貯蔵タンク式）が設置され、後に台車が廃車発生品のKD-51Fへ交換されている。

1986年からは2両編成の1003F - 1008Fが対象となった。これらの編成では、1810系から抽出されたサ1960形を、車体更新と電動車化改造を行った上でモ1050形へ改番して編成に組み込み、さらに先行改造された4両編成の場合と同様、ク1100形と1810系のク1910形が入れ替えられ、改番された。このため、これらの各編成は3両固定編成となり、4両編成の場合と同様、モ1000形とモ1050形が電気的にユニットを組むようになった。この改造に伴う車両の入れ替え・改番は以下の通り。

• ク1910形 ⇔ ク1100形
  • ク1913 - ク1917・ク1912 ⇔ ク1103 - ク1108
• サ1960形 → モ1050形
  • サ1963 - サ1967・サ1962 → モ1053 - モ1058

この際、モ1000形は電動車2両分の集電容量を確保するため、屋根上運転台側にもパンタグラフを増設している。

この改造により、1000系は4両編成2本と3両編成6本の陣容となった。起動加速度は改造前の2.0km/h/sから4両編成が2.5km/h/s、3両編成は3.2km/h/sに向上し、3両編成においてはMB-3020系主電動機を搭載した2470系、2680系、2000系、1010系とほぼ同一の走行性能となった。一方で4両編成においては流用元での装架時よりも主電動機の出力が引き上げられてはいるものの、4両編成のMT比が1:1で重量当たりの主電動機出力が低く、155kW級モーターを搭載した2600系などの4両編成車よりも高速域での性能がやや劣ることになった。また、制御器が界磁位相制御となったため回生ブレーキが使用できるようになったが、依然として抑速ブレーキは装備しておらず山岳区間の運用に制限があることなどから、やはり吊り掛け駆動の旧型車からの機器流用車で、同じくWNドライブ化によりほぼ同一性能となった1010系と同様に、後述の例や定期検査等を除いて大阪線東青山駅以西での営業運転は行われていない。

更新

1991年から1994年にかけて車体更新工事が行われ、内外装材の張替えなどが行われた。1996年から1997年にかけて1810系と交換したTc車・M車のうち、ク1103 - ク1103・モ1053 - モ1058にB更新が施工されている。また、2007年に1006Fは座席モケットが7020系に準じたものに交換され、さらに2012年から2013年にかけて1004F - 1008Fが転落防止幌・新型ATS（ATS-SP）設置・デッドマン装置更新・戸閉灯増設工事を受けている。

組成変更

L/Cカーの名古屋線への投入で余剰となった1001Fは1998年2月に、2430系2446Fと共に編成を分割し、相互に組み替えて高安検車区に転属して大阪線で使用された（名古屋 ← ク2546-モ1051-モ1001 / 上本町 ← ク1101-サ1151-モ2466-モ2446）。この間、2430系の電動車と編成を組んだク1101-サ1151は、1000系としては初めて大阪線東青山駅以西で運行された。2002年に明星検車区に転属している。なお、2007年3月に1001Fが廃車となり、2446Fは元の編成（ク2546-モ2466-モ2446）に戻っている。

アートライナー

• 1007F：名泗コンサルタント（2012年9月 - ）

編成・配置と運用線区

	テンプレート:TrainDirection
1000系 T04 - T08	ク1104 - ク1108 Tc	モ1054 - モ1058 M	モ1004 - モ1008 Mc

2014年4月現在、3両編成5本(1004F - 1008F)が明星検車区に所属し、名古屋線・山田線・鳥羽線の準急・普通で運用されている。なお、平日ダイヤの近鉄四日市駅始発名古屋行き急行および、近鉄四日市駅 - 鈴鹿線平田町駅間の急行でも運用されている。ワンマン運転には対応しておらず、通常は湯の山線・鈴鹿線のワンマン運行に使用されることはない。大阪線東青山駅までは入線可能であるが、川合高岡駅・伊勢石橋駅・大三駅のプラットホーム有効長が最大2両編成であるため、大阪線東青山駅 - 伊勢中川駅間の普通列車では運用されない。後述のWNドライブ化以前は大阪線東青山駅以東で、ワンマン運転移行以前は湯の山線や鈴鹿線普通列車でも運用されていた。所期の設計どおり高性能車との併結運転も少ないながら行われていた。

廃車

1972年の第1編成竣工から既に製造後約40年以上が経過しており、名古屋線では1810系と並んで最古参系列となっている。

4両編成は2007年3月までに全廃されている。まず1002Fが2800系2817Fに置き換えられて2004年2月頃に運用を離脱し、3月に塩浜工場で解体、続いて1001Fが2007年2月に運用を離脱し、3月に同じく塩浜工場で解体された。これによって、1000系からKD-32を装備する車両は消滅した。

2008年からは3両編成にも廃車が発生し、同年6月には1003Fが塩浜工場に回送され、しばらく車庫内に留置されていたが、9月に廃車･解体となった。

既に廃車された4両編成は、1002Fについては、名古屋線・山田線・鳥羽線で、2446Fと連結した1001Fの4両は、大阪線・山田線・鳥羽線で運用されていた。運用としては、2446Fと連結した1001Fは1400系1407F・2610系ロングシート車と共通運用で、1002Fは5800系・2610･2800系改造L/Cカー及び、1200系1211F・1212Fと共通運用であった。

既に廃車された3両編成の1003Fと3両編成時代の1001Fについては、1004F - 1008Fや2800系等ワンマン改造のされていない3両編成車と共通で運用されていた。

関連項目

• 近畿日本鉄道の車両形式

外部リンク

• 鉄路の名優 1000系 - 近鉄公式サイト

テンプレート:近畿日本鉄道の車両