イタリアン (新潟)
主な地域 | 新潟県新潟市、長岡市、他周辺地域 |
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発案時期 | 1959年 |
発案店 (発案者) |
みかづき(三日月晴三) |
イタリアンとは、新潟県中越地方・下越地方独自のファーストフード・ジャンクフードの一種である麺料理。カフェテリア型のチェーン店で販売されている。
目次
概要
実態は、名前から想像されるスパゲティの類や、具にもやしやキャベツを用いた焼きそば・焼きうどんの類ではなく「洋風ソースかけ焼きそば」と表現すべきものである。
原材料は焼きそば同様に蒸した中華麺である。太めの中華麺とキャベツ、もやし等を多めの食用油で炒め、ソースなどで味付けを施す。このソース焼きそばに様々な具材が入ったトマトソースを上掛けしたものがイタリアンである。塩気は比較的控えめで、トマトソースの甘味と酸味が前面に出た味わいとなっている。上掛けするソースはトマトソースの他、カレーソース、ホワイトソース、エビチリ、麻婆豆腐などがあり、更にハンバーグやオムレツ、チーズ、鶏の唐揚げ等をトッピングしたものなど、種類が多い。
新潟県民の中でも、とりわけ新潟市を中心とする下越地方と、長岡市を中心とする中越地方の在住者の間では長年にわたって浸透しており、中には県外に出て初めて「新潟だけの食べ物」と気付く者もいる程である[1]。
発祥
1959年、新潟市(現中央区)の甘味喫茶「みかづき」(当時の社名は「三日月」。1972年に平仮名書きに改称)のオーナー経営者であった三日月晴三は、箱根での経営者セミナー受講のために上京した際、東京都中央区京橋の甘味処「中ばし」で、大阪風の焼きそばをアレンジしたソース焼きそばに遭遇した。三日月はこれにヒントを得て、イタリアンスパゲティのイメージを取り入れ、フォークを用いて食べるスタイルの「イタリアン」を考案したとされる。この新しいファストフードは翌1960年からみかづきのメニューに加えられ、昭和30年代後半に地元で普及し始めた。
長岡市の甘味処「フレンド」(当時の社名は「長岡饅頭本舗」)経営者の木村政雄は同じ商業セミナーで学ぶなど、三日月と親交があった。当時の両社の商圏は新潟・長岡両市内に限られ、競合の恐れがなかったことから、こちらもみかづきに続いて「イタリアン」を販売するようになった。
みかづきではイタリアン発売開始の翌年、新潟市内の小学校で開かれた文化祭のバザーに模擬店を出店してイタリアンを売り出したところ、口コミで評判が広まり、みかづきの売り上げの中心を占めるメニューへと成長した。その後両社は麺や具材の一般向け販売や、イベントの模擬店への出店協力も行った。こうした影響から1960年代後半以降、中越・下越地方で学校の文化祭やバザーなどの模擬店がイタリアンを扱うようになり、両社がそれぞれのテリトリーで店舗をチェーン展開したことと相乗して、地元で広く親しまれるメニューとなった。
みかづき・フレンド
現在みかづきのチェーン店は新潟市を中心に、フレンドのチェーン店は長岡市を中心に、それぞれイタリアンを販売している。
両社のチェーン店は地元のスーパーマーケットや駅などに展開しており、地元の人々の間では店内でのイートインの他、テイクアウトで自宅や職場での軽食などにも重宝されている。
ただ同じイタリアンでも、みかづきとフレンドでは両社とも特徴に違いがあり、それぞれ独自性を発揮している。みかづきのイタリアンは角太麺のソース焼きそばに、トマトの酸味とタマネギの甘みが前面に出たソースを掛け、白生姜の塩漬けを細かく千切りにしたものが付け合わせとして添えられ、フォークで食する。一方、フレンドのイタリアンは丸い中細麺のソース焼きそばに挽き肉入りのミートソースを掛け、付け合わせには紅生姜が添えられ、割り箸で食する。
みかづきがフォークを使用するのは、前述のようにスパゲティをイメージしていることが背景にある。一方フレンドが箸を使用するのは、イタリアンを餃子とセットで販売してきた名残りがそのまま残ったものである。
テリトリー
みかづきの主な商圏は下越、フレンドの商圏は中越であり、これまでは互いの地元に出店しないという不文律が守られてきたこともあって、両社間の地域別棲み分けは現在も基本的に続いている。
だが、近年はこの地域別棲み分けが崩れつつある。みかづきは2003年以降、中越地方への進出を段階的に進めており、小千谷市のスーパー「ベイシアスーパーセンター小千谷店」、見附市の「スーパーセンターPLANT5見附店」に出店している他、上越市の「バロー上越モール」に出店するなど、これまで両社の未出店地域であった上越地方にも進出している。さらに2010年3月19日には長岡市のロードサイド型複合商業施設「アクロスプラザ長岡」に、同市内初の店舗を出店した。一方のフレンドも同年10月30日、新潟市中央区の新潟駅西側連絡通路沿いに所在する「新潟駅ビルCoCoLo西」に同市内初の店舗を出店するなど、下越地方へ進出する動きがあった[2]。
新潟市と長岡市のほぼ中間点に位置する新潟県県央地域は下越と中越の境界部に位置するという地理的条件もあって、これ以前から両社の店舗が並存している。三条市の「イオン三条店」にはフレンドが、燕市の「イオン県央店」にはみかづきがあり、両店舗は信濃川を挟んで車で約5分の距離にある[3]。
このように地域別棲み分けが崩れたことについて、両社は「時代の流れもあり、互いに成長すれば(相互進出は)避けられない」としている。また近年のB級グルメブームも背景に、両社のイタリアンを食べ比べてもらい、相乗効果を狙いたいという思惑もある。フレンド側は「(みかづきの中越進出後も)売り上げは変わっておらず、(シェアの)食い合いはない。むしろ競い合うことで注目を集め、イタリアン自体の知名度を高めたい」とし、一方のみかづき側も「県全体にイタリアンが広がっていくのは互いにプラスになる。地域で違ったイタリアンがあることを認知されてこそ新潟名物になれる」と、両社とも相互進出を前向きにとらえている。また両社間のコラボレーションもイベント・物産展などの機会に不定期で実施しており、過去にはフレンドの焼きそばにみかづきのソースをトッピングしたコラボメニューが販売されたこともある。
新潟県外への展開
みかづき・フレンドの両社は過去、新潟県外のフードテーマパークや、県外で開催されるイベントなどに出店しており、これらはイタリアン自体の特殊性もあいまって注目を集めている。また両社とも過去に県外で店舗・テナントを出店したケースがあるものの、比較的短期間で撤退を余儀なくされるなど、こちらは現在のところ定着には至っていない。
フレンドは1980年代、群馬県高崎市連雀町に店舗を出店していたが、その後閉店した。出店当時に来店した経験がある地元消費者の中にはイタリアンの味が忘れられず、長岡へ来訪した際にフレンドを訪れる人もいるという。
みかづきは、以前大阪府大阪市浪速区の「なんばパークス」内に所在したフードテーマパーク「大阪ヌードルシティ ~浪花麺だらけ~」に、オープン当初の2003年10月から2004年2月までの期間限定で出店していた。出店期間中のイベント「ご当地麺合戦」では、パーク内の店舗でどの店が美味しかったかを問うアンケートで複数回1位を獲得したこともある。また、この麺だらけのオープン当時にはテレビ東京でも珍しい麺料理として「新潟イタリアン」が取り上げられ、首都圏でも紹介された。
また、みかづきは2004年4月17日、長野県中野市のスーパー「ベイシアスーパーセンター中野店」のオープン時にテナントを出店したものの、2005年5月7日に閉店した。
みかづき・フレンド以外の動き
新潟県長岡市に本社を置き、東日本を中心にファーストフードチェーンを展開している「ピーコック」は、2007年11月23日から「イタリアン焼そば」の販売を開始した。元々ピーコックは焼そばを主力商品としており、これに自社オリジナルのトマトソースを掛けて供している。このイタリアン焼そばは、長岡市にある「リバーサイド千秋」内の系列店「塚本家」など、県内外の主な店舗で販売している[4]。
東京都品川区に本社を置き、居酒屋「庄や」などの飲食店チェーンを展開する「大庄」は、2008年春から一部店舗で「イタリアン新潟」の販売を開始した。なお大庄の代表取締役である平辰は新潟県佐渡市の出身で、同年から東京新潟県人会の会長職を務めている。
新潟県胎内市に本社を置き、麺類をはじめ弁当・惣菜の製造・販売を手掛ける「小国製麺」は、2010年12月14日から袋入り生麺「みかづき監修 イタリアン」を販売している。同社は県内のスーパーマーケット各社やコンビニエンスストア「セーブオン」が主に新潟県内の店舗で販売するイタリアンの製造を従来から行っているが、「一般家庭でも店の味を再現できるように」との狙いから、みかづきに監修を依頼して約半年間にわたって開発を進めた。麺は同社が自社製造し、トマトソースをパッケージに封入している。同社は「新潟のソウルフードとしての位置付けを高めたい」、みかづき側も「相乗効果で知名度を高め、県外進出につなげたい」と、それぞれ展望を明らかにし、年数十万食の売り上げを見込んでいた。まず同年12月下旬から県内のみかづき各店やスーパーで1万食程度を限定販売した上で、2011年1月10日から全国の大手スーパーで販売を開始し、のちに「カレーイタリアン」もラインアップに加わったが、2012年から商品名の「みかづき監修」が外され「新潟名物イタリアン焼そば」に改称し、カレーイタリアンは製造終了となった。
新潟市北区に本社を置く「栗山米菓(Befco)」は2011年3月、原信との共同企画による煎餅「ばかうけ イタリアン味」を発売した。
この他県内のスーパーマーケット各社や、セーブオン以外のコンビニエンスストア各社も新潟県内の店舗を中心に、それぞれ「イタリアン焼きそば」「イタリアン風焼きそば」「焼きそばイタリアン」などと称した類似商品を発売している。一部は県外の店舗でも発売されることがある。
滋賀県のイタリアン
滋賀県長浜市の軽食店「茶しん(茶真)[5]」でも、焼きそばにイタリア風ソースを掛けた「イタリアン焼きそば」を約半世紀前から提供しており(当初のメニュー名は「欧風焼きそば」)、ホワイト餃子とともに店の名物メニューとなっている(客の6割がイタリアン焼きそばを注文するという)[6]。トマトソースが主流の新潟県のイタリアンに対して、「茶しん」のイタリアン焼きそばはミートソース風味で、薬味に青海苔と生姜を使っている。
その他
FM-NIIGATAの番組「SOUND SPLASH」の企画でセーブオンの新潟県内店舗限定で、みかづき監修のオリジナル商品が発売された。ただし製造はみかづきではなく、前述の小国製麺が行った。
- 「スプラッシュ イタリアン 魅惑のペスカトーレ」2007年4月27日〜5月14日
- 「海の幸 辛口カレーイタリアン」2008年4月22日〜
国道8号・長岡バイパス沿いのフレンド喜多町店は1976年に開店した同社初のロードサイド型店舗で、ドライブスルーが設置されている。これはアメリカへの研修旅行の折、ファーストフード店のドライブスルーを目にした創業者が車社会への対応を見越して導入を決めたもので、日本国内のファーストフード業界においては翌1977年に導入した日本マクドナルドに先んじた試みだった[7]。喜多町店の敷地内には「日本初 ドライブスルー発祥の地」と記された看板が設置されているが[8]、ファーストフード以外のドライブスルーの発祥に関しては諸説あるため不明である。
みかづきは、県内で開催されるプロスポーツイベントでもイタリアンなどを販売している。東北電力ビッグスワンスタジアムでJリーグ・アルビレックス新潟のホームゲームが開催される際や、HARD OFF ECOスタジアム新潟でプロ野球公式戦(NPB・BCリーグ)が開催される際には、それぞれ売店ブースに出店している(但し出店は不定期)。一方のフレンドも長岡まつりなどのイベントで売店を開設している。
イタリアンを扱った作品
- 麺屋台ロード ナルトヤ! - 39話において、主人公の相手チームとしてイタリアンを作る屋台が登場し、主人公のチームは料理対決で負けてしまう。
- うらバン! - 舞台となる架空の都市「浦和泉市」にイタリアンを扱うファストフードチェーン「みっかつき」が登場し、登場人物が学校帰りなどにイタリアンを食べに立ち寄る。
- 青春ぱんだバンド - 長浜市が舞台の青春小説。主人公らが「茶々屋」でイタリアン焼きそばを食べるシーンがある。