トロンボーン
テンプレート:出典の明記 テンプレート:Infobox 楽器 トロンボーンもしくはトロムボーンは、中型の金管楽器。2つの長いU字型の管を繋ぎ合わせた形状を持ち、通常、その一部(スライド)を伸縮させて音程の高低を生み出す。一般的に使われるテナートロンボーンとバストロンボーンの調性は変ロ調(B♭)であるが、記譜は実音で書かれる。クラシック音楽やジャズをはじめ、多くの分野で使用される。
イタリア語・英語・フランス語ではTrombone、ドイツ語でPosaune(ポザウネと読む)、中国語では长号(長號)、ロシア語ではТромбон。そもそもラッパはイタリア語でTrombaであるが、より大きなものを表す際に語尾変化によって派生語を生み出す拡大辞“-one”を付けたのが語源であり、Tromb(a) + one = Tromboneは「大ラッパ」という意味に該当する。
略称は「Tb」,「Trb」,「Tbn」,「Pos」などが見られるが、「Tb」だと“Tuba”の略記と、「Trb」だと“Tromba”の略記と混同されうるため、特にクラシック音楽の分野では「Tbn」または「Pos」の略記が推奨される。口語ではボントロ、ボーン、トボンと略されることもある。英語が敵性語とされた戦時中の訳語は「曲り抜き差し長ラッパ」。
目次
構造
各部の名称
- チューニング管
- バランサー(おもり)
- ベル(朝顔)
- 支柱
- マウスピース(歌口、唄口)
- スライド
解説
スライドの伸縮で音程の高低を生み出すスライド式の楽器が一般的だが、バルブ式のものも存在する。最も標準的な調性は変ロ調(B♭)であり、スライドの他に1個ないしは2個のバルブと迂回管を持つもの(テナーバストロンボーン、バストロンボーン)もある。追加のバルブは低音域の拡張や、スライドを動かす距離を短くして操作を向上する役割を果たしている。バルブを持たないものは通常、前後の重量の均衡を取るための「バランサー」と呼ばれるおもりを、後方のU字管の近くに取り付けている。このバランサーは音色や吹奏感にも影響を与える。
スライドは内管と外管を重ね合わせた構造をしている。内外のスライドが重なっている長さは、近いポジションで長く、遠いポジションで短くなる。このため古くは、近いポジションの時には摩擦抵抗が大きく、遠いポジションの時には抵抗が小さいという現象を生み、均一な力では操作できないという欠点や、遠いポジションの時ほど息もれが激しくなるという欠点があった。これは後に、内管の先端を微妙に太くした「ストッキング」という部分で外管と接するようにしたことで解決され、これにより操作性が向上した。
収納の際はベル側のU字管とスライド側のU字管とに分割できる。まれに、ホルンに見られるようにベルにネジ山を切って、そこでも分割できるデタッチャブル・ベルの楽器もあり、アルト・テナー・バスの一部の楽器にそれぞれ採用されている。
奏法
左手で楽器の重量を支える。中指・薬指・小指で楽器を握る。1個のバルブがある場合、そのレバーは左手親指で操作することが多い。2個のバルブがある場合は、2個のレバーをともに親指で操作するもの、一方を親指で操作し、他方を中指で操作するものなどがある。自由な右手でスライドを軽く持って操作する。スライドには、最も手前の第1ポジションから、最も遠くまで右手を伸ばしたところにある第7ポジションまでがある。ポジションが1つ遠ざかると半音下がる。この仕組みと各ポジションで得られる倍音の組み合わせで音階を作ることができる。低音域について、管長が長くなるにつれてポジションの間隔が広くなっていくため、迂回管が2本あるバストロンボーン以外の楽器ではヘ音記号下第3線のH(一オクターブ下も同様)を演奏することができない。しかし、強制倍音と呼ばれる奏法を用いることにより、「無理をして唇を開けに開けて瞬間的にHの音を奏する可能性がないわけでもない。」(村田厚生)
ギターのフレットに当たるような特別な目印はないため、奏者はベルの位置などを目安にして、自分の感覚でポジションを定めて音程を得る。そのため初心者にとっては正しい音程での演奏は難しいが、熟練すればスライドの微調整によって正確なハーモニーを得ることが出来る。またスライドはグリッサンドの演奏を容易にしている。
スラーを演奏する際も、音の区分がはっきりしないスライドの性質を考慮して、ソフトタンギングで行う。
広く使われる特殊奏法としては、隣り合った倍音同士を高速に移動するリップトリル、巻き舌で演奏するフラッタータンギング、演奏しながら声帯を振動させる重音などが挙げられる。
他の金管楽器と同様に、音色を変える目的で種々の弱音器(ミュートとも言う)が使われる。
歴史
非常に古い歴史を持つ楽器であり、起源はトランペットと共通である。古くはサックバットと呼ばれた。15世紀頃にスライド・トランペットの一種から発生したと考えられており、基本的な構造は昔の姿をそのまま留めている。
宗教的な楽器として
トロンボーンの音域は成人男性の声域に近い。またスライドによって音程をスムーズに調整できる事から得られるハーモニーの美しさなどから「神の楽器」といわれ、教会音楽に重用された。古くからミサにおける聖歌の合唱等の伴奏楽器に使われている。
また、オラトリオやレクイエム等にも多用されている(ハイドン作曲のオラトリオ天地創造などが有名)。
前述の通りトロンボーンは宗教音楽に重宝された事から神聖な性格を帯びた楽器だった。このような背景から、専ら貴族や庶民など世俗的な者への演奏を主とした対象にした演奏、特にオーケストラなどには使用を自重する風潮があった(ただし、オペラや宗教音楽の分野ではそれ以前からオーケストラに加えられていた)。
古典派時代以降
最初に交響曲でトロンボーンを使ったのはベートーヴェンで、交響曲第5番の第4楽章で用いた。これは当時「世俗」的と考えられていたオーケストラに、教会で使われていた「神聖」な楽器を使ったという点で画期的なことであった。大編成のオーケストラに定席を得たのはロマン派の時代である。
楽器の発展
19世紀、おそらく1830年代にはバルブ(ロータリー)の追加が行われた。これ以降各地のオーケストラではバルブトロンボーンが盛んに使われたが、19世紀中葉から第一次世界大戦前後にかけて徐々にスライド式の楽器が復権し、バルブ式に取って代わっていった。例えばウィーン・フィルハーモニー管弦楽団では1880年頃までバルブ式の時代だったと言われている。
他にかつて盛んに使われていた楽器としてはF管バストロンボーンも挙げられる。地域によって細かな年代に違いがあるが、この楽器は操作性に劣ることやオーケストラピットで長いスライドが邪魔になったこと等から後に衰退していった。
また、一時期フランスのオーケストラではバストロンボーンを使わず、3本のテナートロンボーンを使うのが標準的であった。フランスのトロンボーン四重奏団がバストロンボーン奏者を含まないことがあるのはその名残りだという説もあるが、これには編成の柔軟性を増し個々の奏者の負担を減らすために便宜上テナートロンボーンを使用しているだけだ、という反論もある。
バルブ(ロータリー)の改良はさらに進み、円錐形のセイヤー・バルブ、円柱を横倒しにした形のハグマン・ロータリー、演奏家リンドベルイが開発に関わったCL2000バルブや、ヤマハの細長いVバルブなど、様々な機構が開発されている。
分野の多様化
20世紀初頭から楽器の普及や西洋音楽の広まりとともにジャズ、スカ、サルサ、ポップなど様々な音楽で使用されるようになった。
音楽的な役割
クラシック音楽
オーケストラ
編成は主に、トロンボーン3本(アルト・テナー・バス各1、またはテナー2・バス1)で構成され、パート表記はそれぞれ1st、2nd、3rdである。また、ロマン派以降の作品では、チューバを加えた4声で1編成と捉えられる事が多い。1st、2ndパートと3rdパートで役割が異なる場合もある。
多様な役割を担っている。ハーモニーを奏でたり、他パートとユニゾンすることによって旋律を引き立たせる役割を持つ。強奏時には、オーケストラ全体を圧倒する威力を発揮する。また、美しいコラールも奏でる。反面、ホルンやトランペットなど他の金管楽器に比べると、独奏をする場面が非常に少ない。
アンサンブル
金管五重奏などでは、主に中低音を担当している。また、同種の楽器によるアンサンブルが非常にさかんな楽器の1つであり、最も一般的な形態がトロンボーン四重奏である。
ソロ楽器として
独奏者、独奏曲のどちらにも恵まれておらず、一部の演奏家が精力的にレパートリーを拡大しているものの、ソロ楽器としての一般的な認知は低い。バルブで音を変える他の楽器に比べると早いパッセージが苦手なことがその大きな理由である。ただし現代では重音奏法や超高音域・低音域、素早いパッセージなど特殊奏法の開拓が幅広く行なわれている。
その他
西洋の教会においてトロンボーンは活躍しており、教会専属のトロンボーン奏者もいる。
ジャズ
テンプレート:節stub ジャズではディキシーランド・ジャズの頃からすでに代表的な地位を確立し、ビッグバンドのホーン・セクションの一員としてだけでなく、独奏楽器としても活躍の場も多かった。そしてその後のスウィング・ジャズなどの時代ではバンド内の主役楽器として活躍していたが、ジャズのスタイルが変化していくにつれて、次第に主役としての地位を他の楽器に渡すことになる。駒野逸美など若い世代の奏者も活躍している。
記譜
楽器の調性は音域による分類に後述されるとおりB♭やE♭、Fなど様々だが、楽譜はピアノなどと同じく実音で書かれる。低音部譜表が一般的だが、高音のパートではテナー譜表・アルト譜表も使われる。オーケストラでは曲中で譜表が変わることは少なく、1番がアルトまたはテナー譜表、2番がテナー譜表、3番(バス)が低音部譜表というのが一般的である。吹奏楽においては基本的に低音部譜表に記され、高音部分に稀にテナーあるいはアルト譜表が用いられる。英国式ブラスバンドではバストロンボーンのパート以外は移調楽器として扱われ、実音に対し長9度高いト音譜表で記譜される。ヨーロッパの吹奏楽譜においても移調楽器として扱われ、実音に対し長9度高いト音譜表、あるいは長2度高いヘ音譜表で記譜されていることも少なくない。
種類
トロンボーンは、その音域・機能などによって以下の様に分けることができる。また、テナートロンボーンやF管アタッチメント付テナートロンボーン等を、管の内径(ボアサイズ)によって太管、中細管、細管と細かく呼び分けることもある。その際、スライドのマウスパイプ側とジョイント側で異なるボアサイズを組み合わせたものはデュアルボアと通称される。
音域による分類
ピッコロトロンボーン
ピッコロトロンボーン(piccolo trombone)は、テナートロンボーンより2オクターブ高いB♭管の楽器で、管長はピッコロトランペットと同じである。非常に珍しい楽器で、使われる機会はほとんどない。また、この楽器は無理矢理作ったものなので、音程が悪い。主にトランペット奏者が使う。 ジャーマンブラスが使用したモデルはタイン社から購入できる。
ソプラノトロンボーン
ソプラノトロンボーン(soprano trombone)は、テナートロンボーンよりも1オクターブ高いB♭管の楽器で、B♭管のトランペットと管長が同じである。そのためトロンボーンというよりはスライド式のトランペットといった趣きだが、スライドトランペットに比べるとボアやベル、用いるマウスピースが大きく、音色もより太く暖かい。現代ではあまり使われない。
アルトトロンボーン
アルトトロンボーン(alto trombone)は、テナートロンボーンよりも小ぶりで、標準的には4度高いE♭管である。5度高いF管、さらにはD管の楽器も存在する。B♭管の迂回管や、トリルキィを持つものもある。人の声とよく溶け合い、合唱付のオーケストラ曲や、トロンボーンアンサンブル曲などで用いられることが多い。また、製造するメーカーによって仕様が大幅に異なるので、一口にアルトトロンボーンといっても、楽器によって大きく音色が変わってくる。
テナートロンボーン
テナートロンボーン(tenor trombone) は、最も基本的な構造をした、トロンボーンの代表格とされる楽器である。B♭管で、テノール・トロンボーンともいう。音域的には、男性の声と最も近いといわれる。しかし、トロンボーンの代表格であるテナーだが、軽音楽以外の分野ではその座をテナーバスに譲ってしまっている。その理由としては、第1倍音と第2倍音の間の音域であるヘ音記号下第一線のE♭から下第三間のH(1オクターブ下も同様)までが演奏することが出来ないことが挙げられる。また、スライドを最大限に伸ばす第7ポジションを用いる場合、小柄な人は手が届かず、紐を使わないといけない場合が有る。また、余裕を持って手が届く場合でも、離れたポジションから第7ポジションへ素早くスライドさせるには相当の訓練が必要である。
F管アタッチメント付テナートロンボーン(テナーバストロンボーン)
F管アタッチメント付テナートロンボーンは、テナートロンボーンに1つの追加のバルブを持たせた楽器である。バルブを使用する事により、テナートロンボーンが出せる最低音(E)の長3度下のCまで音域が広がるため、日本国内では、テナーバストロンボーンという呼称が普及している。このため、F管アタッチメントが付いていないテナートロンボーンよりも、ボアやベルが大きい。
F管アタッチメント付テナートロンボーンの仕組みとその利点
上述のテナートロンボーンの問題を解決するのがF管アタッチメント付テナートロンボーンである。F管アタッチメント付テナーはテナーのベル側ジョイントのすぐ上や、チューニングスライド(B♭管)にF管アタッチメントを装着した楽器で、F管のバルブを操作してF管を迂回させることによって管長を増やし、完全4度音を下げることによって、演奏できなかった音域が演奏できるようになるというシステムである。また、この仕組みの副産物として、腕を伸ばさないといけない第6・第7ポジションの音も、第1ポジションや第2ポジションといった近いポジションで演奏できるようになった。
F管アタッチメント付テナートロンボーンの短所
F管アタッチメント付テナーには短所もある。
- テナーに比べ重量が増す。
- テナーに比べ楽器の構造が複雑になるので、F管アタッチメント未使用時でも抵抗感が増す。
- F管アタッチメント使用時と未使用時の音色に差が出る。
- 一部の機種ではベルから後ろが長くなる(オープンラップ)。
- テナーに比べ値段が割高になる。
これらは、いずれも1つの管というシンプルな構造だったテナーにF管を組み込んだことで発生するものだが、特に3つ目の短所は直管楽器であるトロンボーンにとっては軽視できない。このため、せめてF管使用時だけでも抵抗を減らそうと、F管をなるべくストレートにして抵抗を減らしたオープンラップタイプも登場したが、今度は4番目の問題が発生した。しかし、近年ではS.E.Shires社やEdwards社、Bach社等がバルブを取り外してテナートロンボーンにすることの出来る楽器を製造していたり、S.E.Shires社がバルブの未使用時はテナーと同じ構造になるバルブ(スルーボアバルブ)を開発したりした為、この問題は完全に解決したと言えるだろう。また、ドイツ式トロンボーンではバルブをチューニング管に組み込むのが一般的な為、バルブ無しのチューニング管と差し替える事により容易にバルブの使用を選択できるようになっている。
ある程度熟練した奏者だと、F管の使用の有無でほとんど音色に差が感じられないが、やはり多かれ少なかれその差は現れる上、吹奏感がF管使用時とB♭管時で大幅に異なるため、F管アタッチメント付テナーを嫌う奏者もいる。そのため、一般的なトラディショナルロータリーだけでなく、セイヤーバルブ(アキシャルフローバルブ)、ハグマンバルブなど、吹奏感や音質が均一化されるように様々なバルブが研究・開発されている。
従来、ヘ音記号下第3間のHをF管アタッチメント付テナーで演奏するときは、通常よりも長く抜くことによりE管の管長にして対応していた。だが、近年ではドイツのタイン社やフランスのクルトワ社がテナーバスにさらに追加のアタッチメントを加えて、煩雑な操作を必要とせずにヘ音記号下第3間のHを吹奏を可能にしたモデルも出現している。
あまり低音域を用いないジャズやポップミュージック奏者は、テナーで済ませてしまう場合が多い(そもそもこうした分野で用いられる管径の細いタイプのトロンボーンでは、F管アタッチメント付テナーはほとんど製造されていない)。逆に管弦楽や吹奏楽、ブラスバンドでは圧倒的にF管アタッチメント付テナーを使う奏者が多い。
バストロンボーン
バストロンボーン(bass trombone)は、テナーやテナーバスのそれらよりもやや大ぶりな楽器であり、より太いボアとより大きなベルを持ち、1つまたは2つの追加のバルブを備える。調性は同じである。詳細はバストロンボーンの項を参照。
コントラバストロンボーン
コントラバストロンボーン(contrabass trombone)は、テナーやテナーバス、バスのそれらよりも3度から5度低い楽器で、長いスライドを操作するためのハンドルを備える。また、2重のスライドを持つ1オクターブ低いB♭管の楽器を指すこともある。混乱を避けるために、前者は時に「F管バストロンボーン」と呼ばれる。現代ではあまり使われない。詳細はバストロンボーンの項を参照。
これに非常に近い楽器としてチンバッソ(後述)も存在する。
バルブトロンボーンについて
バルブトロンボーンは、音程を変えるための機構としてスライドではなく、現代の他の金管楽器と同様に3個以上のバルブを備えたものである。このバルブは現代ではピストン式が多いが、ロータリー式のものも存在する。その他の外見は一般的なトロンボーンに近い。スライド式の楽器と同様に色々な音域のものがある。19世紀前半の金管楽器のバルブ機構の発明に合わせて誕生したため、19世紀から20世紀初頭にかけてはイタリアやフランス、中欧地域を中心に広く(一時はスライド式以上に)用いられた。ロッシーニ、ヴェルディなどイタリアの作曲家の他、ブラームス、ブルックナーの作品など、この時代の楽曲の大半はこの楽器を想定して書かれたといえる。
その後、スライド式が楽器や演奏技術の向上によって復権を果たすと廃れていったが、一方ではジャズなどポピュラー音楽の世界で使われるようになり(ファン・ティゾール、ボブ・ブルックマイヤーなどが著名な奏者としてあげられる)、クラシックの分野でも20世紀終盤以降は再び使用が試みられるようになった。
ドイツ式トロンボーンについて
ドイツ式トロンボーン、ドイツ管などと呼ばれる楽器は、やや大きめのベルを持つドイツ・スタイルの楽器のことで、均一化が進んだ他の地域のトロンボーンとは一線を画している。やや細目のボアと響きを抑える為のクランツと呼ばれる金属片が縁についた比較的大きなベルを持ち、弱音時の円錐管に近い柔らかい響きと、強音時の鋭く割れた響きが特徴的である。その音色傾向から、日本などではクラシック音楽でドイツ系の楽曲を演奏する際に使われることが多い。チューニング管やスライドに「蛇飾り」と呼ばれる細い金属の装飾がついているものもある。
基本的にどのメーカーでも全て受注生産で、決まった型番のようなものはなく、奏者の要望に応じてパーツ1つ1つを組み合わせて作り上げる、いわば「工芸品」「芸術品」である。それゆえに値段は高い。F管アタッチメント付テナートロンボーンはチューニングスライドにバルブがついており、バルブ無しのチューニングスライドと差し替えできるものが一般的である。一般的なトロンボーンとは、蛇飾り、ベルクランツ、ロングウォーターキー(スライド先端の水抜きのための機構を、スライドをつかんだまま操作できる)、操作レバーとF管バルブ部分とが紐で結ばれている、スライドの全長が若干長くポジション間隔が違う、低くなりがちな第7倍音の音程が高い、というのが主な相違点である。
日本のプロ・オーケストラでは、大阪センチュリー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団がレッチェ、タインなどのドイツ式トロンボーンを使用している。
特殊なトロンボーン
- チンバッソ(cimbasso)
- イタリアで用いられた、バルブ・トロンボーンの一種または近縁の楽器。ロータリー・ヴァルヴ式で、音域はコントラバス・トロンボーンやチューバと同じである。主としてヴェルディやプッチーニなどのイタリア・オペラでチューバの代わりに用いられる。イタリア音楽では“Trombone Basso”あるいは“Trombone Contrabasso”と書かれていてもチンバッソを用いる。ドイツ式のチューバ(コントラバス・チューバ)は強奏でもなかなか綺麗に音が割れないため、イタリア・オペラのカトリック的な悪魔的表現に適さないので代わりに使われたのだろうと言う説がある。現在でもオペラ、オーケストラにおいて使われることもあり、通常はチューバ奏者が担当する。ウィーン国立歌劇場ではワーグナーの『ニーベルングの指環』でもコントラバストロンボーンの代わりにチンバッソを用いている例がある。
- スーパーボーン
- ピストンとスライドの両方を備えた特殊なトロンボーン。通常左手でピストン、右手でスライドを操作する。トランペット奏者のメイナード・ファーガソンが考案した。
- マーチング・トロンボーン
- 外見はトロンボーンというよりは大型のコルネット、あるいは前方に構えるユーフォニアムのようである。スライドではなくバルブを備え、屋外のパレードなどで使用される。
歴史上のトロンボーン
- サックバット(英語:sackbut, Sackbutt, sagbut, sagbutt, フランス語:saqueboute, saquebute)
- トロンボーンと酷似しているが、全体にベルが小さく、ベルの開き方も比較的ゆるやかである。現代のトロンボーンよりずっと軽量で、大きな音は望めないが柔らかな音色を持ち、小編成の合奏・オーケストラや声楽とのアンサンブルに向く。現代のトロンボーン同様、ソプラノ・アルト・テナー・バスの各サイズの楽器がある。
- ビュサン(フランス語:buccin)
- ベル自体が龍の頭をかたどった形をしている。19世紀に考案され、フランスやベルギーで使われた。
- アドルフ・サックスが考案した6個のバルブを持つトロンボーン
- テナートロンボーンと呼ばれているが、実態はサクソルン属の楽器。詳細な名称の由来などは不明。これは各バルブが異なる音程のベルに対応しているもので、トロンボーンの名は持つが外観は大きく異なっている。博物館に所蔵されているのみで現在は使われていないとみられる。
著名なトロンボーン奏者
クラシック
クラシック音楽の演奏家一覧#トロンボーン奏者, バストロンボーン#著名なバス・トロンボーン奏者も参照のこと。
- カール・トラウゴット・クヴァイサー(Carl Traugott Queisser, 1800 - 1846年)
- クララ・シューマン、パガニーニ、リストらと、ソリストとしても共演した19世紀前半の名手で、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団から金装飾つき銀製トロンボーンを贈られた同楽団の主席奏者であった(1822 - 1846在籍)。クヴァイサー在籍時のゲヴァントハウス・カペルマイスター(楽長)であったメンデルスゾーンが、トロンボーン協奏曲の作曲を約束したが、多忙のために代ってコンサートマスターのフェルディナンド・ダヴィッドが作曲した。クヴァイサー自身により初演(1837年)。
- アーサー・プライヤー(Arthur Pryor, 1870 - 1942年)
- ブラニミール・スローカー(Branimir Slokar, 1946年 - )
- ミシェル・ベッケ(Michel Bequet, 1954年 - )
- ジョセフ・アレッシ(Joseph Alessi, 1959年 -, ニューヨーク・フィルハーモニック首席)
- アメリカの著名な金管楽器メーカー、ゲッツェン社子会社であるエドワーズ社が販売しているアレッシ・モデルが話題沸騰。
- ジェイ・フリードマン (Jay Friedman, シカゴ交響楽団首席)
- 上記同様アメリカを代表する金管楽器メーカーのヴィンセント・バック社と共同開発されたフリードマン・モデルも注目された。
- ニッツアン・ハロズ(Nitzan Haroz, フィラデルフィア管弦楽団首席)
- 93年から95年にかけてはニューヨーク・フィルハーモニックのアシスタント・プリンシパルを務めた。
- クリスティアン・リンドベルイ(Christian Lindberg, 1958年 - )
- ジャック・モージェ(Jacques Mauger, パリ国立地方音楽院 (CNR)、スイス・ヌシャテル音楽院教授)
- ヨハン・ドムス (Johan Doms)
- トーマス・ホルヒ(Thomas Horch, バイエルン放送交響楽団首席)
- アルミン・ロジン (Armin Rosin)
- ジル・ミリエール (Gilles Milliere, パリ国立高等音楽院教授、くらしき作陽大学客員教授、ミリエールトロンボーン四重奏団主宰)
- マーク・ローレンス(Mark Lawrence, サンフランシスコ交響楽団前首席)
- ラルフ・サウアー(Ralph Sauer, ロサンゼルス・フィルハーモニック前首席)
- イアン・バウスフィールド(Ian Bousfield, ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団首席)
- オラフ・オット(Olaf Ott, ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団首席)
- デニス・ウィック(Dennis Wick, ロンドン交響楽団前首席)
- ヤン・ヴァン・デル・ロースト(Jan Franz Jozef Van der Roost, 作曲家)
- 伊藤清(元NHK交響楽団、元東京音楽大学教授)
- 呉信一 (サイトウ・キネン・オーケストラ、水戸室内管弦楽団等に参加)
- 古賀慎治 (紀尾井シンフォニエッタ東京等に参加)
日本のオケマン
- 山本浩一郎 (シアトル交響楽団首席)
- 神田めぐみ (ミルウォーキー交響楽団首席)
- 清水真弓 (南西ドイツ放送交響楽団首席)
- 玉木優 (南ユトランド交響楽団)
- 山下友輔 (札幌交響楽団首席)
- 中野耕太郎 (札幌交響楽団副主席)
- 田中徹 (札幌交響楽団)
- 野口隆信 (札幌交響楽団バストロンボーン)
- 太田涼平 (山形交響楽団首席、試用期間)
- 五十嵐達也 (山形交響楽団)
- 髙橋智広 (山形交響楽団バストロンボーン)
- 菊池公佑 (仙台フィルハーモニー管弦楽団)
- 松崎泰賢 (仙台フィルハーモニー管弦楽団)
- 矢崎雅巳 (仙台フィルハーモニー管弦楽団)
- 山田守 (仙台フィルハーモニー管弦楽団バストロンボーン)
- 棚田和彦 (群馬交響楽団首席)
- 越智大輔 (群馬交響楽団)
- 石原左近 (群馬交響楽団バストロンボーン)
- 新田幹男 (NHK交響楽団首席)
- 栗田雅勝 (NHK交響楽団首席)
- 池上亘 (NHK交響楽団)
- 吉川武典 (NHK交響楽団ヴェクセル)
- 黒金寛行 (NHK交響楽団バストロンボーン)
- 桒田晃 (読売日本交響楽団首席)
- 古賀光 (読売日本交響楽団首席代行)
- 篠崎卓美 (読売日本交響楽団バストロンボーン)
- 小田桐寛之 (東京都交響楽団首席)
- 青木昴(東京都交響楽団1・2番)
- 井口有里 (東京都交響楽団ヴェクセル)
- 野々下興一 (東京都交響楽団バストロンボーン)
- 荻野昇 (東京交響楽団首席)
- 鳥塚心輔 (東京交響楽団首席)
- 大馬直人 (東京交響楽団首席)
- 藤井良太 (東京交響楽団バストロンボーン、試用期間)
- 箱山芳樹 (新日本フィルハーモニー交響楽団首席)
- 山口尚人 (新日本フィルハーモニー交響楽団副首席)
- 奥村晃 (新日本フィルハーモニー交響楽団)
- 宮下宣子 (新日本フィルハーモニー交響楽団ヴェクセル)
- 門脇賀智志 (新日本フィルハーモニー交響楽団バストロンボーン)
- 藤原功次郎 (日本フィルハーモニー交響楽団首席)
- 岸良開城 (日本フィルハーモニー交響楽団副首席)
- 伊波睦 (日本フィルハーモニー交響楽団)
- 中根幹太 (日本フィルハーモニー交響楽団バストロンボーン)
- 五箇正明 (東京フィルハーモニー交響楽団首席)
- 中西和泉 (東京フィルハーモニー交響楽団首席)
- 中沢誠二 (東京フィルハーモニー交響楽団)
- 米倉浩喜 (東京フィルハーモニー交響楽団)
- 石川浩 (東京フィルハーモニー交響楽団バストロンボーン)
- 平田慎 (東京フィルハーモニー交響楽団バストロンボーン)
- 佐藤洋樹 (東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団1番)
- 崎原圭太 (東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団バストロンボーン)
- 渡辺善行 (東京ニューシティ管弦楽団)
- 恵藤康充 (東京ニューシティ管弦楽団バストロンボーン)
- 倉田寛 (神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席)
- 府川雪野 (神奈川フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席)
- 長谷川博亮 (神奈川フィルハーモニー管弦楽団)
- 池城勉 (神奈川フィルハーモニー管弦楽団バストロンボーン)
- 香川慎二 (名古屋フィルハーモニー交響楽団首席)
- 田中宏史 (名古屋フィルハーモニー交響楽団首席)
- 森岡佐和 (名古屋フィルハーモニー交響楽団)
- 小幡芳久 (名古屋フィルハーモニー交響楽団バストロンボーン)
- 松谷聡美 (セントラル愛知交響楽団)
- 森田和央 (セントラル愛知交響楽団バストロンボーン)
- 岡本哲 (京都市交響楽団首席)
- 井谷昭彦 (京都市交響楽団副首席)
- 戸澤淳 (京都市交響楽団ヴェクセル)
- 小西元司 (京都市交響楽団バストロンボーン)
- ロイド・タカモト (大阪フィルハーモニー交響楽団)
- 安藤正行 (大阪フィルハーモニー交響楽団)
- 吉田勝博 (大阪フィルハーモニー交響楽団バストロンボーン)
- 近藤孝司 (日本センチュリー交響楽団首席)
- 三窪毅 (日本センチュリー交響楽団)
- 笠野・フラット・望 (日本センチュリー交響楽団バストロンボーン)
- 矢巻正輝 (大阪交響楽団副首席)
- 中井信輔 (大阪交響楽団副主席バストロンボーン)
- 風早宏隆 (関西フィルハーモニー管弦楽団首席)
- 松田洋介 (関西フィルハーモニー管弦楽団)
- 熊谷和久 (関西フィルハーモニー管弦楽団バストロンボーン)
- 滝田姫子 (兵庫芸術文化センター管弦楽団)
- エドワード・ヒルトン (兵庫芸術文化センター管弦楽団バストロンボーン)
- 清澄貴之 (広島交響楽団)
- 松田浩 (広島交響楽団)
- 武崎創一郎 (広島交響楽団バストロンボーン)
- 山下秀樹 (九州交響楽団)
- 木村哲雄 (九州交響楽団バストロンボーン)
- 大川真紀夫 (東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団)
- 中村弥生 (東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団バストロンボーン)
- 加藤杏菜 (静岡交響楽団)
- 大室直樹 (中部フィルハーモニー交響楽団)
- 福田良正 (中部フィルハーモニー交響楽団)
- 村井博之 (京都フィルハーモニー室内合奏団)
ジャズ・ファンク・ロックなど
- フレッド・ウェズリー
- カーティス・フラー (Curtis Fuller)
- J・J・ジョンソン(J.J.Johnson/James Louis Johnson, 1924年 - 2001年)
- ドン・ドラモンド
- ジェームズ・パンコウ (James Pankow, Chicago)
- グレン・ミラー(Glenn Miller, 1904年 - 1944年)
- トミー・ドーシー(Tommy Dorsey, 1905年 - 1956年)
- カール・フォンタナ(Carl Fontana, 1928年 - 2003年)
- アルベルト・マンゲルスドルフ(Albert Mangelsdorff, 1928年 - 2005年)
- ドン・ラッシャー
- ビル・ワトラス (Bill Watrous)
- レイ・アンダーソン (Ray Anderson)
- ウェイン・ヘンダーソン(Wayne Henderson, ザ・クルセイダーズの元メンバー)
- 向井滋春
- 村田陽一
- 中路英明(熱帯JAZZ楽団)
- 中川英二郎
- 片岡雄三
- 薗田憲一(1929年 - 2006年)
- 谷啓(1932年 - 2010年、クレイジーキャッツ)
- 中沢寿士
- 松永英也
- 北原雅彦(東京スカパラダイスオーケストラ)
- ラム・アスカ(ピストルバルブ)
- 春風亭昇太(にゅうおいらんず)
- ボン・サイト(トロンボーンを使った漫談で知られる)
- 河合わかば
著名なトロンボーン・アンサンブル団体
- パリ・トロンボーン四重奏団
- ミリエール・トロンボーン四重奏団
- スローカー・トロンボーン四重奏団
- トリトン・トロンボーン四重奏団
- ウィーン・トロンボーン四重奏団
- ミュンヘン・トロンボーン四重奏団
- 東京トロンボーン四重奏団
- 東京メトロポリタン・トロンボーン四重奏団
- トロンボーンクァルテット・ジパング
- アンサンブル・ターブ
- 4 Bone Lines
- XOトロンボーン四重奏団
- ハイパートロンボーンズ
- ニュー・トロンボーン・コレクティブ
- スーパートロンボーン
- ハイブリッド・トロンボーン
- 向井滋春 Super 4 Trombones
トロンボーン独奏のために書かれた著名な音楽作品
- ヴァーゲンザイル:アルト・トロンボーン協奏曲(現存する最古のトロンボーン協奏曲だと考えられている。)
- ダヴィッド:トロンボーン協奏曲 変ホ長調
- リムスキー=コルサコフ:トロンボーンと吹奏楽のための協奏曲
- ミヒャエル・ハイドン:アルト・トロンボーン協奏曲ニ長調
- レオポルト・モーツァルト:アルト・トロンボーン協奏曲ニ長調
- ブルジョワ:トロンボーン協奏曲
- グレンダール:トロンボーン協奏曲
- ライヒェ:トロンボーン協奏曲第2番イ長調
- グラーフェ:トロンボーン協奏曲
- トマジ:トロンボーン協奏曲
- ラーション:トロンボーン協奏曲
- エワイゼン:バス・トロンボーン協奏曲、トロンボーンとピアノのためのソナタ
- レベデフ:一楽章の協奏曲(バス・トロンボーンもしくはチューバで演奏される。)
- ザクセ:トロンボーン協奏曲
- シークマン:バス・トロンボーン協奏曲
- ギルマン:小協奏曲「交響的断章」作品88(元はオルガン曲からの編曲作品だが、主要なレパートリーとして普及している。)
- ヒンデミット トロンボーンとピアノのためのソナタ
- シュレック:トロンボーン・ソナタ「天使ガブリエルの嘆き」(Vox Gabrieli)
- セロツキ:トロンボーンとピアノのためのソナチネ
- ボザ:テナー・トロンボーンとピアノのためのバラード、ニュー・オリンズ(バス・トロンボーン)
- マルタン:バラード
- クレストン:ファンタジー op.41
- デュティユー:コラール、カデンツとフガート
- J-M.デュファイ:二つの踊り
- ゴールドステイン:トロンボーンと吹奏楽のための「対話」
- プライヤー編曲:スコットランドの釣鐘草
- サン=サーンス:カヴァティーナ
- ルチアーノ・ベリオ:セクエンツァV
- デ・メイ:Tボーン協奏曲、バストロンボーンと吹奏楽のための「頌歌」
- アッペルモント:トロンボーンのための「カラーズ」
- ヒュルゴー:ラプソディア・ボレアリス
- 武満徹:「ファンタズマ/カントス II」「ジェモー」(トロンボーン、オーボエと2群のオーケストラのための)
- 吉松隆:トロンボーン協奏曲「オリオン・マシーン」
- レナード・バーンスタイン:トロンボーンのための独奏曲「ミッピイIIのためのエレジー」
- ギィ・ロパルツ:トロンボーンとピアノのための演奏会用小品
トロンボーンのブランド
アメリカ
- ヴィンセント・バック(Vincent Bach)
- セルマー(Selmer)
- ベンジ(Benge)
- コーン(C. G. Conn)
- キング(King)((特にジャズ系では有名)
- ホルトン(Holton)
- マーチン(Martin)
- ゲッツェン(Getzen)
- エドワーズ(Edwards)(ゲッツェン社の子会社で、多数のベルやスライドなどを組み合わせ、自分でカスタマイズが出来る)
- シャイアーズ(S.E.Shires)
- シルキー(Schilke)(レイノルド・シルキー参照)
- カンスタル(Kanstul)
- オールズ(F. E. Olds & Son)
アジア
ヨーロッパ
ドイツ
- ビー・アンド・エス(B&S)
- レッチェ(Lätzsch)
- タイン(Thein)
- グラッスル(Glassl)
- フィレッツナー(Pfretzschner)
- キューンル・アンド・ホイヤー(Kühnl & Hoyer)
- ハンス・クロマト(Hans KROMAT)
- アレキサンダー(Alexander)
- シュミット(W.C.Schmidt)