管楽器
テンプレート:出典の明記 管楽器(かんがっき)は、旧来の楽器分類法に基づく分類のひとつで、一般的には呼吸など空気の流れによって発音する楽器(気鳴楽器)のうち、『少なくとも一方の端が閉じられていない管の中の空気の振動を利用して音を出す楽器の総称』と説明される。
しかし、『管楽器』に対応する印欧語は、例えば英語では『Wind instrument(風楽器、息楽器)』、ドイツ語では『Blasinstrument(吹く楽器)』、フランス語でも『Instrument à vent(風楽器)』であるから、必ずしも『管』である必要はないわけで、『管楽器』という誤訳は『オカリナは管楽器ではない』というような誤解を生むもとにもなっている。したがって、正しくは『少なくとも一箇所の開口部を有する空洞の中の空気の振動を利用して音を出す楽器の総称』と定義すべきものである。
文献によっては『管楽器』でなく『吹奏楽器』と表記しており[1]、こちらの方が適訳であるが、管楽器という呼称が使えないと、オーケストラを管弦楽団と訳すこともできないことになる。
管楽器はさらに木管楽器と金管楽器に分けられる。この両者は、古くは楽器の材質による区分であったが、現在では発音原理によって区別され、唇の振動によって音を出すものを金管楽器、それ以外の管楽器を木管楽器としている。このため今日のフルートは金属で作られているにもかかわらず木管楽器に分類されるなど、名と体の不一致が生じている。
発音体
管の端にある発音体の振動が管に伝わると、管の中の空気が振動する。発音体には、主に次のものが使われる。
- シングルリード(単簧)
- 一枚の薄い板(リード)に息を吹き付け、楽器の一部に当たっては戻りして振動する。クラリネット属、サクソフォーン属。
- ダブルリード(複簧)
- 二枚のリードを合わせて間に息を吹き込む。このときの息の圧力によりリードが互いに当たっては戻りして振動する。オーボエ属、ファゴット属。篳篥(ひちりき)。
- フリーリード(自由簧)
- 自由に振動する薄い板に息または機械的に作った気流を吹きかけて振動させる。ハーモニカ、リードオルガン。笙(しょう)。これらの楽器は気鳴楽器ではあるが、管を使わないため、「管楽器」という日本語にはなじまない。笙は竹管があるが、音程は簧で決まるため、同種である。
- リップリード(唇簧)
- 唇を軽く合わせて間から息を吹き出すと、唇が振動する。ここに楽器の歌口を当てる。金管楽器。ほら貝。
- エアーリード(無簧)
- エアーリードとはいうが、目に見えるリードはない。息を空気の束にして楽器の角に当てると、空気の渦が生じる。これが振動となる。フルート属、リコーダー。横笛属、尺八。
リップリードの振動によって音をつくるものを金管楽器、それ以外の管楽器を木管楽器と分類する。
管の振動
「管の振動」とはすなわち、管の中の空気中の振動である。
開管と閉管
閉管とは管の一方が閉じられている管のことで、開管とは両方が閉じられていない管のことである。閉管構造の筒(共鳴体)は共鳴構造が管長の倍になり、同じ長さ・太さを持つ開管の筒よりもおよそ1オクターブ低い音が出る。この時その共鳴体は奇数倍音のみが鳴っている。ためしに適当なパイプの一方の端を唇に当てて吹く音と、その一方の端を掌で叩いて塞ぐ音を聞き比べてみると良くわかるだろう。
ただし、管が円錐形になっていて、広い方の口が閉じられていない管は (円筒の開管と同様に偶数倍音も鳴ることから)、開管楽器に分類される。現代の西洋音楽の管楽器ではクラリネット属だけが閉管楽器である(クラリネットの管は先だけは広がっているが、他の部分はほとんど太さは一定で、ほぼ円筒形になっている)。オルガンにも閉管構造を持つ音栓があり、これは音色を得るためだけでなく、太さを変えずに管の長さを短くすることが出来、設置場所の節約にもなる。またフルートの特殊奏法であるタングラムは、本来開管構造である楽器の一方を唇で塞いで閉管で響かせることにより、短音やトレモロではあるが通常より長7度低い音を得ることが出来る(正確に1オクターブ下ではないのは楽器の共鳴体の誤差による)。
音波の波長
発音体の振動によって管の中の空気が振動して音波が発生する。 このとき発生する音波は、
- 開管の場合、管の長さの4倍の偶数分の1(=管の長さの2倍の整数分の1)
- 閉管の場合、管の長さの4倍の奇数分の1
- λ=波長
- l=管長(m)
- n=1以上の偶数(開管の場合)、奇数(閉管の場合)
- o=1以上の奇数
- m=1以上の整数
- 一般に
<math>\lambda\!={4l \over n}</math> - 閉管の場合
<math>\lambda\!={4l \over o}</math> - 開管の場合
<math>\lambda\!={2l \over m}</math>
音波の周波数
音波の周波数と波長は反比例の関係がある。また、音波の周波数と波長をかけ算したものは音波の伝播速度(音速)にほかならない。
- f=周波数(ヘルツ)
- v=音波の伝播速度(m/s 秒速--メートル)
- 一般に
<math>\mathbf{f}={nv \over 4l}</math> - 閉管の場合
<math>\mathbf{f}={ov \over 4l}</math> - 開管の場合
<math>\mathbf{f}={mv \over 2l}</math>
となる。
一般に、高音楽器は管が短く、低音楽器は管が長いと言える。また、管の長さが同じであれば、閉管は開管の1/2の周波数の音、すなわちオクターブ低い音を得ることができる。
管楽器内の空気柱の共振鋭度Q値はそれほど大きくないので、上記の共鳴条件に完全に一致する周波数(=共鳴周波数)の音しか発音されないわけではなく、共鳴周波数を中心にある程度の幅の周波数の音が発音され得る。管楽器奏者は、口唇周辺の筋肉や吹く息の強さを操作して、発音体の発生する振動数を微調整しながら演奏を行なっている。
管楽器の特徴
- 管楽器の音は「管」だけの音ではない。管の中の空気柱の振動が周囲の空気を振動させて発生する音が主要な部分を占め、管壁から周囲空間に放射される音は音の大きさに占める割合としては少ない。
- 金管楽器は一端が徐々に広がっている(朝顔、ベル)が、これは管内部の空気柱の振動が効率よく周囲の空間に放射されるように音響インピーダンスのインピーダンス整合の意味がある。木管楽器ではこのしくみが全く無いかあるいはあってもベルの広がり方が小さいので、一般に金管楽器の方が木管楽器よりも大きな音が出る。逆に言うと、木管楽器では管壁から周囲空間に放射される音の割合が、金管楽器よりも多いとも言える。
- 管楽器の音は「管」の音ではなく管の中の空気柱の振動による音が主要部分を占めるので、管の材質や厚さは音の高さにほとんど影響を与えないばかりでなく、音色にも基本的には非常に大きな影響は与えない。このため、金属製の木管楽器(フルート、サクソフォーン)や、木製のホルン(アルプホルンなど)、合成樹脂のリコーダーというものが成立するのである。
- 音響学的にはわずかな音色の違いといっても芸術的に見れば大きな違いであるから、音楽家の目から見ると上の論は非常に雑な議論であり首肯できないだろう。管楽器奏者は、自分の楽器が奏でる音楽を改善するために、管の材質、表面処理(メッキ、塗装、光沢など)、厚さ、加工精度などの違いがもたらす音色の違い、吹奏感の違いを敏感に識別し、最良のものを手に入れるために日夜情熱を傾けている。
- 管の形状の中で管楽器の音色に大きな影響を与えるものは、その太さおよび太さの変化(広がりの度合い)である。長さはあまり影響を与えない。これにより、様々な方法によって管の長さを変えていろいろな高さの音を得ることができるのである。しかし、音の高い楽器や低い楽器を作るために相似形の楽器を製作すると、長さだけでなくて太さが変わるので、音色が変わってしまう。その点で失敗したと言われるのがサクソルンであり(同じ音色を得るという以外の点では成功している)、それでも成功したのがサクソフォーンである。
- また、奏者の人体も楽音の音色に大きく影響している。一例を挙げれば、口腔内や咽頭部の内部空間の広げ方、響かせ方の違いが音色に大きく影響する。この点で人体も楽器の一部を構成しているといえる。トランペットなど演奏するロボットが2005年日本国際博覧会(愛・地球博)で披露されたが、管楽器本来の音色とは言いがたいものだった。人体内部の音響的構造(主に呼吸器)までも忠実に再現したロボットが管楽器を演奏すればどうなっただろうか。
- 管は曲げて作成することができる。曲げても音色に大きな影響はない。管長が80cm程度を超える楽器のほとんどは、奏者が持って演奏するために曲げられている。管を曲げる際には金属管の損傷を防ぐため、まずまっすぐな状態の管に水を充填し、それを凍らせた状態で曲げる。元々は熔かした鉛を用いていたが、冷凍技術が確立されたことで水に代わった。
脚注
- ↑ H.F.オルソン(著), 平岡正徳(訳)『音楽工学』誠文堂新光社, 1969年