外交
外交(がいこう、テンプレート:Lang-en)は、国家間の国際関係における交渉のことで、関連するさまざまな政治活動を指す。
一般に、外交官や首相などの国家の代表と、外国の代表とが国際社会における問題に対応している。
外交戦略に基づき立案される政策を外交政策、または実際に二国間ないし多国間で行われる具体的な国家間交渉を外交交渉という。
目次
定義
外交という言葉は外国との交際に関わるさまざまな政治的活動の総称であるが、その内容には二つの意味に大きく分類することができると考えられている。ハロルド・ニコルソンの『外交』によれば、それは「外交交渉」という技術的側面と、「外交政策」という政治的側面である。外交という言葉は両者の全く性質が異なる概念を包括しており、使い分けられるべきものである[1]。
今日、外交とは国家間の政府外交のみならず民間外交、議員外交、あるいはNGOなどによるトラックII外交など、多様な主体が行う国際交流ないし交渉をさすが、そもそも外交とは、国家が国益の最大化を図るために行う諸活動のことを指すものであり、国際社会一般、あるいは国際法において正当な外交の主体とは主権国家であり、すなわちその国を代表する政府が担うことを基本としている。
また外交は古来から秘密裏に行われてきており、また現代においてもその交渉の過程については秘密裏に行うことが認められている。これは交渉過程が明らかになることによって外交交渉の運用そのものが制限されることを避けるためであり、国際的に認められている外交上の慣習である。
外交は本来、政府間の交渉のことを指すが、昨今では一議員やNGO関係者が外国要人などと会談する、いわゆる民間外交や議員外交も盛んになっている。このような外交の場はセカンドトラックと呼ばれるが、これを外交と呼ぶかどうかについては疑問を持つ専門家もいる。
外交における諸活動
外交における諸活動とは、一般的には国家による国際社会の軍事・経済・政治など諸問題に関する交渉活動である。
外交そのものに独自の政治的役割があるわけではなく、本質的には他の分野との関係性の上に成立する手段的な存在である。
現代の外交においては現実主義的な国益と国際法の観点からの国際利益の両者の追求が求められるため、その理念は基本的に二重構造となる。ゆえに、どうしても交渉においては理想と現実の妥協が大きな課題となる。
歴史
外交の歴史は比較的新しいと考えられている。古代から、例えば手紙を持たせた使者を交換することや、戦場において停戦の交渉を行うために軍隊の指揮官が対面することなどの限定的、補助的な手段としての外交は行われていたが、外交を専門的に取り扱う部署を設けて、現代のように運用するようになったのは近世になってからであると考えられている。
ヨーロッパにおいて、絶対王政時代から第一次世界大戦終結までは、外交は貴族や国王などの一部の特権階級による宮廷外交が主流であった。各国の大使は母国から独立した大きな権限を保有しており、嘘や謀略を張り巡らし、軍事協定なども秘密にしたため秘密外交とも呼ばれ、旧外交として考えられている。当時は外交は軍事に従属するものであると考えられており、軍事作戦を優位に推し進めるために外交を行い、また優位に戦争を終結するために外交が行われた。これはマキャベリの現実主義的な政治観が基盤となっていた。しかし第二次世界大戦によって世界中が大きな損害を被り、国際連合の設立や国際協調主義、軍事力行使禁止の原則などを打ちたて、外交権は内閣へ移り、選挙を通じた民主的統制に基づく外交が行われるようになり、外交はその重要性を高めた。この外交形態の転換によって新外交が成立したと考えられている。
外交の基本要素
外交と軍事
テンプレート:See also カール・フォン・クラウゼヴィッツは有名な『戦争論』において「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」とし、戦争を外交の一種とみなしたが、軍事と外交は密接な関係にあり、歴史上多くの戦争は外交と連動して行われている[2]。その内容は利害調整のための討論から、降伏勧告までさまざまである。
現代においては兵器の高額化や軍隊の大規模化、大量破壊兵器などの開発によって戦争のコストやリスクが飛躍的に高まっており、戦争に繋がる事件が発生しても、その戦争の発展を抑制しできるだけ交渉により解決しようとする傾向が強まっている。
しかし現代においても軍事力は非常に外交上重要な要素を占めており、軍事演習や部隊配備による軍事プレゼンスは外交交渉に大きく影響しており、また実際に戦端が開かれれば軍事力の有無が国際関係を大きく変化させ、軍事的優位が外交的優位に繋がることもある。降伏勧告に関する外交交渉はこの典型例であり、軍事力によって相手国の生存を脅かすことは直接的な交渉材料となりうる。
またこのような軍事力を組み込んだ外交戦略として軍事戦略がある。20世紀には核兵器が開発され、核戦略が重要な外交の基礎のひとつにもなった。
外交と経済
経済上の利害は国益に直結するため、貿易の歴史において重要な外交課題となってきた。近年においても、グローバル化の急速な進展によって外交上非常に重要な議題となっている。またその内容もエネルギー保障・海洋資源・食料保障など多岐にわたる。例えば貿易収支悪化の是正のための関税引き上げ、貿易相手国に対する輸出の自主規制、内需拡大の要求などがある。経済支援や経済封鎖も外交上非常に大きな要素であり、相手国の経済を発展させることにより間接的に敵対勢力に対する包囲網を構築することや、見返りとして軍事的な支援を受けることもしばしば行われる。特定の資源を保有する国が資源輸出と外交的要求をセットにすることもある(資源ナショナリズム)。とくにエネルギー資源については世界経済の動向を左右するだけに、これを巡る外交的な駆け引きも国際関係上非常に重大なものになりつつある。
外交と情報活動
日々変化する国際情勢に対応するために、情報の収集、分析は外交には不可欠である。相手国のあらゆる分野の現状を把握することにより、外交交渉において相手国の外交官の言葉の背景や真意を推測することができ、有利に交渉を進める上で優位に立つことができる。ほとんどの外務省は在外公館の大使や駐在武官からの報告、マスメディアの報道、各国から提供される情報、情報機関から提供される情報などから、統一的に情報を収集し、分析を行っている。またシンポジウムなどにおける自国の国家戦略の広報や文化交流も外交における重要な役割の一つである。一方で機密情報の流出を防ぐ防諜も外交においては重要な情報活動の一部である。外交交渉時の秘密保持は常に好ましい対応であると考えられている。
外交と国益
外交はその国の利益すなわち国益と不可分である。国益は、国家が政策を決定する基準ともされ[3]、ハンス・モーゲンソーは、国家の外交政策は純粋な国益 に基づいて決定されるべきであるとしている。
外交儀礼
テンプレート:Main 外交において敬称・席次・マナーなどに見られる国際儀礼(プロトコル、外交儀礼)は些細のように見えても、文化的、政治的な緊張を緩和させ、外交交渉をスムーズに進めるために、外交官に心得る事が要求されている。例えば国旗に関しては、国民国家の象徴であり、破損したものや汚れたものを使用してはいけない。この他にも各種国際儀礼が存在する。
議員外交など
職掌としての外務省・外交官以外にも、議員による議員外交や、地方公共団体の長あるいは議員による外交活動もさかんにおこなわれている。欧州(とくに欧州連合とりわけストラスブール)は議員外交が盛んな場所として知られており、欧州各国の密接な政治結合は行政府による公的外交以外にも各国議会の議員団が展開する公的・準公的外交による調整や人的ネットワークに依存するところがある。
ほか、ロビー活動も活発に行われる。
人材交流・民間外交
各国の行政機関における行政官の人材交流も盛んであり、各職掌・省庁ごとに研究員や調査官などの名目で行政官同士の人事交流がおこなわれることがある。軍事面では駐在武官の伝統があり、主要国の大使館には大使館付きの駐在武官が派遣され、軍事面での外交調整における実務面での調整や人的ネットワークづくりに従事している。財務省、あるいは各国中央銀行など公的機関の人材交流もさかんにおこなわれている。人事交流は相手先国の研究所や大学に研究者として派遣する名目でおこなわれることも多い。
各国の外交
アメリカの外交
イギリスの外交
中国の外交
日本の外交
日本においては、日本国憲法第73条により内閣が外交関係を処理すると規定しており、実際の対外的事務は外務省設置法により、外務大臣を長とする外務省が所掌する。
日本では、「日本は外交が下手」という言説がよくある[4]。
日本における議員外交
日本でも国会議員の海外視察などを通じ議員外交が展開されているが、鈴木宗男元議員の対露外交や山崎拓元議員の北朝鮮外交などのいわゆる「二元外交」が問題視されたことがある。国会議員は改選のたびに議員としての地位が不安定となるため、2009年の衆議院選挙のように大規模な現職議員の落選が発生すると、従来の議員外交のネットワーク・コネクションが大量に失われるという弊害がある。
日本における人材交流・民間外交
国交のさかんでない第三国においては現地で活動している日系人や日系企業、NGOなどが外交活動の足がかりになることがあり民間外交と呼ばれることがある。貿易振興機構や観光協会のような行政法人、外国語学校、あるいはブラジル日本文化福祉協会、サンパウロ日伯援護協会、ブラジル都道府県人会連合会などといった日系日本人会、あるいは日中友好協会、日中文化交流協会などといった民族団体などが重要な役割を果たすことがある。
脚注
参考文献
- 入江昭『日本の外交』中公新書113,1966年
- 五百旗頭真編『戦後日本外交史』有斐閣、新版版2006年
- 内山正熊『外交と国際政治―理論と歴史』慶應義塾大学法学研究会、1960年
- 高坂正尭『古典外交の成熟と崩壊』中央公論新社、1978年
- Bull, H. 1977. The anarchical society. London: Macmillan.
- ブル著、臼杵英一訳『国際社会論 アナーキカル・ソサイエティ』岩波書店、2000年
- Butterfield, H., Wight, M. eds. 1966. Diplomatic investigations. London: Allen & Unwin.
- Der Derian, J. 1987. On diplomacy. Oxford and New York: Basil Blackwell.
- Donelan, M. ed. 1978. The reasons of states: A study in international political theory. London: Allen & Unwin.
- Hinsley, F. 1963. Power and the pursuit of peace. Cambridge: Cambridge Univ. Press.
- Kennan, G. 1951. American diplomacy 1900-1950. Chicago: Univ. of Chicago Press.
- ケナン著、近藤晋一、有賀貞、飯田藤次訳『アメリカ外交50年』岩波書店、2000年
- Kennan, G. 1985. Morality and foreign policy. in Foregin Affairs 64: 1-14.
- Kissinger, H. 1964. A world restored. New York: Universal Library.
- キッシンジャー著、伊藤幸雄訳『キッシンジャー 回復された世界平和』原書房、2009年
- Lauren, P. 1979. Diplomacy: New approaches in history, theory, and policy. New York: Free Press.
- Mattingly, G. 1955. Renaissance diplomacy. London: Jonathan Cape.
- Morgenthau, H., Thompson, K. 1985. Politics among nations: The struggle for power and peace. New York: Knopf.
- モーゲンソー著、現代平和研究会訳『国際政治 権力と平和』福村出版、1998年
- Nicholson, H. 1954. The evolution of diplomatic method. London: Constable & Co.
- Rosecrance, R. 1973. International Relations: Peace or War? New York: McGraw-Hill.
- Watson, A. 1983. Diplomacy. Philadelphia: Institute for the Study of Human Issues.
関連項目
- 外交交渉 / 外交政策 / 強制外交 / デタント / 勢力均衡 / ソフトパワー
- 大使館 / 総領事館 / 外交記録公開文書
- 国際法
- 条約
- 国際経済 / 政府開発援助
- 情報機関 / 諜報活動 / ヒューミント / シギント
- 軍備管理 / 軍縮
- 国際機関
- 地政学 / リムランド / ランドパワー / シーパワー / エアパワー
- 西山事件 / 杉原千畝
- ↑ Nicholson, H. 1950. Diplomacy. 2nd edn. Oxford: Oxford Univ. Press.ニコルソン著、斎藤眞、深谷満雄訳『外交』東京大学出版会、1968年
- ↑ Craig, G. and George, A. 1983. Force and statecraft. Oxford: Oxford Univ. Press.邦訳ゴードン・A・クレイグ、アレキサンダー・L・ジョージ著、五味俊樹ほか訳『軍事力と現代外交―歴史と理論で学ぶ平和の条件』有斐閣、1997年
- ↑ 大澤淳「国益」(猪口孝編『国際政治事典』弘文堂、2005年12月)[1]
- ↑ 例:[2]