ポール・サミュエルソン
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ポール・アンソニー・サミュエルソン(Paul Anthony Samuelson, 1915年5月15日 - 2009年12月13日)は、アメリカを代表する経済学者。
ケインズ経済学と新古典派経済学を総合する新古典派総合の理論を確立する。著書『経済学』は長らく近代経済学の基本的教科書とされてきた。1970年、ノーベル経済学賞受賞。
同じく経済学者のロバート・サマーズは実弟。クリントン政権で財務長官を務め、オバマ政権の国家経済会議(NEC)委員長を務めているローレンス・サマーズは甥に当たる。2008年度ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンの師匠でもあった。
略歴
- 1915年 インディアナ州ゲーリーのユダヤ人家庭にて生まれる。
- 16歳でシカゴ大学に入学、大恐慌の最中でもあった。
- 1935年 シカゴ大学学士号を取得。
- 1936年 ハーバード大学修士。
- 1940年 マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学講師。
- 1941年 ハーバード大学博士号を取得。
- 1944年 マサチューセッツ工科大学の准教授となる。
- 1947年 教授となった。また、第1回ジョン・ベーツ・クラーク賞を受賞した(32歳)。
- 1947年 『経済分析の基礎』(学位論文)を出版。
- 1948年 『経済学』を出版。
- 1953年 計量経済学会会長。
- 1961年 アメリカ経済学会会長。
- 1966年 マサチューセッツ工科大学(MIT)制度教授(インスティチュート・プロフェッサー;豊富な研究機会と希望の講義スケジュールをもてる)。
- 1970年 ノーベル経済学賞を受賞した(55歳)。
- 1996年 アメリカ国家科学賞も授与された。
業績
- 経済学を数学的に精密化し、モデル科学として立脚させた立役者とされる。
- 静学・動学的理論など理論経済学や多岐にわたる応用経済学の分野で幅広く活躍し近代経済学の父とも呼ばれる。
- 新古典派経済学にジョン・メイナード・ケインズのマクロ経済学的分析を組み合わせた新古典派総合の創始者としても著名である。
- 厚生経済学の分野では、リンダール・ボーウェン・サミュエルソン条件(ある行動が福祉をより良くするかどうかを決める判断基準)で知られている。
- また、公共財政理論においては特に公共財(public goods)と私的財(private goods)における資源の最適配分決定についての研究で知られている。
- 一方、彼は有名な経済学の教科書『経済学(Economics: An Introductory Analysis)』の著者としても知られる。日本では、親交の深かった都留重人が翻訳を行った。この教科書は、最も多くの読者を獲得した経済学の教科書といわれ、41ヶ国語に翻訳、世界でじつに400万部以上が刊行されたという。初版は、1948年に発行され、以降50年に渡って定期的に改訂版が出版され続けている。難解過ぎたため理解者を欠いていた感があるケインズの思想を学生が理解できる水準までわかりやすく解説できたのはサミュエルソンの能力のなせる技であり、この出版が後の経済学界へ与えた影響は大きい。
逸話
- ハーバード大学の博士試験で、試験終了後試験官のレオンチェフにシュンペーターが「我々が彼から合格点をもらえただろうか」といったという[1][2]。
- シュンペーターは、サミュエルソンの講義を聴いて数学を勉強したという。
政策
- 彼は『経済学』の第3版で、不況時に公共投資を実施することによる有効性を指摘し、総需要政策で景気の過熱や過度の後退を避けることで、前進的成長を維持できるとし、新古典派経済学(市場万能論)とケインズの唱えたマクロ経済学を融合を図る新古典派総合を提唱した。この理論は、1960年代の民主党政権に多大な影響力を与え、サミュエルソンはジョン・F・ケネディやリンドン・ジョンソンの大統領顧問を務めた。
- 如何に彼の影響力が大きかったかは「ノーベル経済学賞はサミュエルソンにノーベル賞を受賞させるために創設された」と言われていることからも伺える(サミュエルソンは第2回ノーベル経済学賞を受賞している)。
批判
- 1970年代のスタグフレーション(不況下のインフレ)に、サミュエルソンは有効な対策を提唱できず、マネタリストのミルトン・フリードマン、合理的期待形成学派のロバート・ルーカス、成長論のロバート・ソロー、「赤字財政の政治経済学」の著者ジェームズ・ブキャナン、ポストケインジアンのジョーン・ロビンソン等、様々な立場から批判を浴び、急速にその影響力を喪失させることとなった。
著作(日本語訳)
- 『乘數理論と加速度原理』、高橋長太郎監訳、勁草書房、1953年(増補版1959年)
- 『サムエルソン 経済学概説』上・下、川田寿訳、慶應通信、(上)1957年、(下)1958年
- 『経済学――入門的分析(上・下)』、都留重人訳、岩波書店、1966年(日本語初版=原書第6版)
- 『経済分析の基礎』、佐藤隆三訳、勁草書房、1967年(増補版, 1986年)ISBN 978-4326500062
- 『経済学と現代』、福岡正夫訳、日本経済新聞社、1972年(新版1979年)
- 『国際経済』、竹内書店、1972年
- 『経済学(上・下)』、都留重人訳、岩波書店、1974年(原書第9版)(新版, 1981年)ISBN 978-4000008877、ISBN 978-4000008884
- 『世紀末・世界のジレンマ』、宮崎勇編、ポール・A・サムエルソンほか訳、日本YMCA同盟出版部、1983年
- 『サミュエルソン 日本の針路を考える』、佐藤隆三編・解説、勁草書房、1984年
- 『サムエルソン 心で語る経済学』、都留重人監訳、ダイヤモンド社、1984年
- 『サミュエルソン サンプラー/アメリカ――ある時代の軌跡』、佐藤隆三訳、勁草書房、1984年
- 『世紀末の日本と世界』(Symposium on Next)、ポール・A・サミュエルソンほか著、講談社、1985年
- (P・A・サムエルソン、W・D・ノードハウス共著)『サムエルソン 経済学』、都留重人訳、岩波書店、1985年(原書第13版)
- 『国民所得分析』(サミュエルソン経済学体系1)、篠原三代平・佐藤隆三編集、小原敬士ほか訳、勁草書房、1979年
- 『消費者行動の理論』(サミュエルソン経済学体系2)、篠原三代平・佐藤隆三編集、宇佐美泰生ほか訳、勁草書房、1980年
- 『資本と成長の理論』(サミュエルソン経済学体系3)、篠原三代平・佐藤隆三編集、勁草書房、1995年
- 『経済動学の理論』(サミュエルソン経済学体系4)、篠原三代平・佐藤隆三編集、勁草書房、1981年
- 『国際経済学』(サミュエルソン経済学体系5)、篠原三代平・佐藤隆三編集、小島清ほか訳、1983年
- 『経済分析とリニア・プログラミング』(サミュエルソン経済学体系6)、篠原三代平・佐藤隆三編集、1983年
- 『厚生および公共経済学』(サミュエルソン経済学体系7)、篠原三代平・佐藤隆三編集、未刊
- 『アメリカの経済政策』(サミュエルソン経済学体系8)、篠原三代平・佐藤隆三編集、福岡正夫ほか訳、1982年
- 『リカード マルクス、ケインズ…』(サミュエルソン経済学体系9)、篠原三代平・佐藤隆三編集、塩野谷祐一ほか訳、1979年
- 『社会科学としての経済学』(サミュエルソン経済学体系10)、篠原三代平・佐藤隆三編集、1997年
批判的なもの
- Anti-Samuelson, Volume One, Marc Linder/著, Julius Sensat Jr./協力 ISBN 0916354156
- Anti-Samuelson, Volume Two, Marc Linder/著, Julius Sensat Jr./協力 ISBN 0916354172
脚注
外部リンク
- Biography at the Nobel e-Museum
- 1970 Press Release, Nobel Prize in Economics
- A History of Economic Thought biography
- the scientific work through which he has developed static and dynamic economic theory and actively contributed to raising the level of analysis in economic science.
- Yale Honorand Biography
- Nobel-winning economist Paul A. Samuelson dies at age 94
- New York Times Obituary (14 December 2009)
- Paul Samuelson - Daily Telegraph obituary
- Paul Samuelson Memorial Session (January 4, 2010), American Economic Association meetings, Webcast links to remarks of: Solow & Diamond (after intro) in Part 1 (34 min.); Dixit, Merton, Poterba, & Hall (including read remarks of Arrow & Fischer) Part 2 (48 min.).