扇風機
扇風機(せんぷうき)は、回転する羽根によって風を発生させる機器[1]。一般に扇風機といった場合には、電気扇風機を指す。
目次
電気扇風機
電気扇風機(でんきせんぷうき)は、主に夏の暑い日に使用される電気製品である。モーターにプロペラファンを連結し、モーターによってファンを回転させ、風を発生させる。
世界初の電気扇風機は19世紀後半、モーターの発明とほぼ時を同じくして米国で発売開始された。直流に執着し、直流による発送電を行っていたトーマス・エジソンは直流モーターの扇風機を発売するが、交流発送電が主流になるにつれて、主流は交流式となった。2013年現在、電気消費効率の良いブラシレス直流モーターを採用した扇風機が多数登場している。
日本ではゼネラル・エレクトリック(GE)の技術で東芝の前身である芝浦製作所が1894年に発売したものが最初である。本体に電球を備え付け、スイッチを入れるとプロペラが回るとともに電球が点灯するものであった。また川崎重工業の前身である川崎造船所は、左右だけで無く上下の首振りも同時にする、2軸リンクの扇風機を発売した。
扇風機は家屋や店、鉄道車両の室内などで広く利用され、夏の風物詩の一つでもあった。しかし、低価格化したエアコンが普及した現代では、それに取って代わられつつある。一方で、扇風機には窓を開放した状態でも使用できる、エアコンに比べ設置場所を選ばず移動が簡便、本体価格・電気料金ともに安価である、等の利点があるほか、室内の空気を撹拌し冷暖房を補助する、エアサーキュレーターとしても使われることがある。
近年は電池駆動の携帯型も見られる。100円ショップなどでも入手可。マニキュア/ネイルの乾燥に最適と謳っている商品も存在する。
種類
座敷扇
座敷等で使用することを目的とした比較的背の低い自立型のもの[1]。
- 一般的には高さ70cm程度で、首を伸ばすことでさらに20cm程度高くすることができる。高いものは特にリビングルーム(居間)で用いられることからリビング扇(リビングせん)とも呼ばれる。
- 羽根は、3枚から5枚で、直径は約30cm又は35cm。
- 上下方向への角度調節、左右への自動首振りができる。中には首振り角度が調節できるものやクランクの固定位置を変えて高角度で首振りができるもの、360度回転するもの、8の字に首振りするものもある。
- 風量・羽根の回転速度は、3段階程度の切り替えができる。4段階や5段階切り替えのものや無段階で速度が可変出来るものもある。
- 1970年代ごろの扇風機の一部にはかなりの低速で回転が出来る「超微風」(一部メーカでは「超低速」)というモードがあった。
- 機種にもよるが、手回しは30分 - 3時間程度、マイコン式は30分 - 8時間程度と任意の時間に設定できるタイマーを内蔵し、時間経過後に自動的に電源を切る機能を備える。
- 高級品では、ワイヤレスリモコン付きの場合がある。赤外線が使用される前は、超音波や有線リモコンが使用された。
- 最近の扇風機は土台と切り離しが出来、とてもコンパクトに収納できる。
1970年代頃の機種の中には、自動停止機能「タッチストップ」付きのものもあった。本体にセンサーが内蔵されており、カバー部に素手で触れると安全装置が働き、回転が自動停止する、というものであった。このような機能が搭載されたものは長らく市場から姿を消していたが、その後2009年に三洋電機からタッチストップ機能付きの機種が発売されていた。なお三洋電機はパナソニックの子会社になり2012年から三洋製のデザインを受け継ぎパナソニックブランドで発売されている。ただしタッチストップ付は廃止された。2013年5月現在、タッチストップ機能を搭載したものは、山善、ユアサプライムスから発売されている一部機種のみである。
また、マイナスイオンを発生させるタイプや、リズム風、おやすみ風や1/fゆらぎ機能がついているタイプも存在している。とくにリズム風や1/fゆらぎは体の健康を重視していて、風量に強弱があるのが特徴である。
フロア扇
主に洋間等で使用するもので支柱が極めて長い又は支柱の中間から上部に操作部があるもの[1]。機能については座敷扇とほぼ同じ。
壁取付扇・壁掛扇
壁や柱に取り付けて使用するもの[1]で、壁取付扇[1]、壁掛扇と呼ばれる。高所にあるため、首を斜め下に向けて使用する。また、操作には引きひも(プルスイッチ)や、リモコンを用いる。床に設置スペースをとらないので、邪魔にならない。
1980年頃に発売された壁掛け扇風機には、赤外線でなく超音波を使用したリモコンのものもある。 テンプレート:-
天井取付扇・天井扇
天井に取り付けて使用するもの[1]で、天井取付扇[1]、天井扇とも呼ばれる。シーリングファンとも言い天井に取り付ける大型のもので直径は、1m前後である。エアコンが普及するまで官公庁や病院、デパートなどで一般に見られた。エアコンと同時に使うと、室内の温度がより均一になり、冷却および暖房効率が上がる。軸が天井固定でモーター本体に羽根がついて回転する形式が多い。ハワイなど南国では一般的に使われている。照明と一体になったデザインのものもある。現在ではレトロな雰囲気を出すためにインテリアとして設置する例が見られる。人は風が当たると同じ温度でも涼しく感じるので、夏場は下向き、冬場は上向きに風を送るようにすると効果的である。 テンプレート:-
卓上扇
卓上で用いる小型の扇風機。
クリップ扇
大きな洗濯ばさみ状のクリップによって固定するものはクリップ扇(クリップせん)と呼ばれる。
- 羽根は直径15cm程度と小さく、上下方向への角度調節ができる。
- 左右への自動首振りができるもの、風量・羽根の回転速度は2段階程度の切り替えができるものもある。
- 一部のメーカー製品では壁掛け扇になる場合もある。
- アクセサリーソケットを使用して自動車の車内で使用できるものもあり、エアコンを使用するより低燃費であることを謳って販売している店舗もある。
- USBでパソコンに接続して使用するものもあるが、電力供給能力の限界上、かなり小さなものになる(USB扇風機を参照)。
ボックス扇
首振り機構は無く、その代わりにルーバーが回転する。左右の角度調節は本体を動かすしかないが、上下は垂直から水平までできるものもある。夜間、窓際に設置して冷たい外気を室内に取り入れるウィンド・ファンとして利用可能である。青色の抗菌蛍光灯付きのものが発売されたこともある。脚とボックス本体の間に回転軸を設け首振りを可能にした製品も発売されている。 テンプレート:-
多翼扇
多数の羽根をドラム状に構成した遠心式の扇風機[1]。タワーファンとも呼ばれる。ブロワーファンやクロスフローファン、シロッコファンを採用した、柱状の扇風機。送風機ともいわれる。 テンプレート:-
オート扇
サイクル扇とも呼ばれる、天井に固定して使用する扇風機で、銭湯や鉄道車両、駅のホームなどに取り付けられていた。
クランクなどを使用し、モーターを歳差運動させる。大抵は、電源を入れると同時に旋転を始めるが、古いものでは、紐やスイッチで旋転を停止させる機構がついているものもある。
ナショナルや日立はオート扇を使い、三菱電機はサイクル扇を品名に使っている。 テンプレート:-
エアマルチプライアー
エアマルチプライアーはイギリスのダイソン社により発表された、「羽根の無い扇風機」の名称。リングの中に周囲の空気を巻き込みながらモーターで加速して風を発生させる構造。
工業扇
工場などで使われる大型の物で、羽根の直径は45cm程度。小型のものもあり(羽直径 10 - 20cm)、家庭での半田煙やラッカー塗料のガスを吹き飛ばすのに使用される。異臭やホコリ、チリを吹き飛ばすほど強力なタイプもあり、主に工場で用いられるが、ホームセンターでも容易に入手できるので、多くの人が集まる集会場や一般家庭で使われているケースも少なくない。電源は単相100Vや200V、三相200Vを使用することが多い。
扇風機を製造しているメーカー
日本のメーカー
日立製作所は扇風機生産より撤退。ただし日立は現在グループ会社の日立リビングサプライがOEM品を発売。
- 東芝(東芝ホームテクノ)
- 三菱電機 - 「ベビー風」といわれる超微風を採用。
- シャープ
- パナソニック(パナソニック エコシステムズ) - 一時撤退していたが、2012年に新製品が発売された。一部機種は三洋電機製のデザインを継承。
- ユーイング(旧・森田電工)
- 山善
- 千住(「TEKNOS」ブランド)
- トヨトミ
- ユアサプライムス(「YUASA」ブランド)
- バルミューダ(「GreenFan」シリーズ)
- ツインバード工業 (「コアンダエア」)
- スイデン - 「スイファン」のブランドで工業扇を発売されている。
- 電響社 (「ZEPEAL(ゼピール)」ブランド)
規格
日本工業規格(JIS)C 9601「扇風機」"Electric Fans"は、扇風機の形状・性能・安全基準・試験方法などについて規格化している。
扇風機の形状により、卓上用・座敷用・床上用・壁掛用・天井吊り下げ首振り形の5種類をまず定義している。座敷用と床上用はともに床置き形であるが、首の高さ調節機構による最大高さが1.3メートル未満のものを座敷用、それ以上のものを床上用としている。その他は前述のとおりである。このほか、「扇風機前方の風速分布が同心円状とは大きく異なる」[2]もの特殊形としている。
羽根の大きさは直径20・25・30・35・40センチメートルの5種類が定義されている。各大きさによる風速・風量の最大およびその状態での消費電力の最大は以下の通りである。測定方法や条件、測定値の許容範囲等は規格による。
羽根直径 | 風速 | 風量 | 消費電力 |
---|---|---|---|
20cm | 115m/min以上 | 12.5m³/min以上 | 35W以下 |
25cm | 145m/min以上 | 18m³/min以上 | 50W以下 |
30cm | 170m/min以上 | 28m³/min以上 | 65W以下 |
35cm | 190m/min以上 | 38m³/min以上 | 80W以下 |
40cm | 205m/min以上 | 54m³/min以上 | 100W以下 |
構造と機能
羽根
ごく一般的な電気扇風機のプロペラファンの枚数は、直線で構成できる2翅の他は、長らく3翅が主流であった。近年ではテンプレート:要出典範囲5翅が多い。これは、正三角形、正五角形のように、対角線が一筆書きになる図形を基にした放射線の方が、図面上配列を均一にしやすく、また成型時に中心を取りやすく、或いは工作精度の限界による図形上の中心と重量上の中心のズレが発生しても偏回転を起こしにくく、設計・製造の両面で有利であった為である。
これに対して、4翅、6翅といった偶数のものは、同様の理由から少数派である。4翅は普及黎明の商品に見かけることがあるが、金属プレス加工やプラスチック一体成型のプロペラが主流になるにしたがって姿を消していった。
唯一、東芝だけがプラスチック一体成型のプロペラ全盛期に至っても一貫して4枚羽根を採用し続けてきた。東芝は現在も家庭用扇風機の開発・生産を独自に行っており、ごく一般に購入することが可能である。また、主に東急車輛製造(一部、日本車輌製造)製の鉄道車両のオート扇に4翅扇風機が見られるのは、東芝が同社に電装品を納入している関係による。
また、2011年に東芝は、7翅(家庭用)の販売も始めた[3]。
なお、羽根のない扇風機も存在する[4]。
ガード部
ガード部分は、前後面ともに中心から放射状に骨が張られているのが主流だが、(乳幼児などの指が入らないよう)目を細かく菱形格子状に設計している商品もある。
なお、ガード部にかぶせる網目状のネットも市販されている。
機能
- 風量は段階式のものが多い。微風(うちわ風)、弱風、中風、強風などに段階を区分する。
- 強弱をつける「リズム風」の機能をもつものもある。
- タイマー機能を有するものもある。
- 自動の首振り機能を有するものもあり、首振り角度を調整できるものもある。
- 仰角から俯角まで角度調節できるものもある。
- 支持部を上下に伸縮させることができるものもある。
- リモコンを付属させたものもある。
トピック
扇風機の火災事故
古い扇風機は、経年劣化により火災を引き起こす可能性もあるため、製品評価技術基盤機構(NITE)などの団体が注意を呼びかけている[5]。
特に、安全対策が施されていない「くま取り型モーター」を採用した扇風機(安価な製品に多い)に対し、課題を感じている専門家もいる(構造的には強いが、コンデンサーや配線に損傷が発生すると短絡出火につながる)[6]。扇風機に採用されているモーターの種類には、他に「誘導モーター」「整流子モーター」がある。
また、火災原因の一つへの対応としては、「ホコリ防止加工」が施されている商品もある。
節電
2011年には、3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)及び東京電力・福島第一原子力発電所での事故による電力危機で、初夏以降、日本国内各地で(エアコンより省エネの)扇風機の需要が急増、品薄状態となった[7]。
他の動力による扇風機
- かつては手回式の扇風機が用いられたこともある。
- (日本語訳不明)石油ランプによるスターリングエンジンを使った扇風機がホットエアーファンで、日本では馴染みが無いが米国では普及していた。電気扇風機の出現と送電網の発達で役目を終えた。
派生的表現
- 転じてプロ野球で空振りを繰り返すバッターを揶揄する単語としても使用される。
脚注
関連項目
- うちわ
- 扇子
- 冷風扇
- 換気扇
- 送風機(ブロワー)
- ベンチレーター
- エアサーキュレーター
- 空気調和
- 冷房
- エア・コンディショナー
- 防霜ファン - 茶園に設置されるものはこちらを参照
- 扇風機の都市伝説 - 「扇風機をつけたまま寝ると死ぬ」という言い伝え