高尾山
高尾山(たかおさん[1])は、東京都八王子市にある標高599mの山である。東京都心から近く、年間を通して多くの観光客や登山者が訪れる。古くから修験道の霊山とされた。
目次
概要
関東山地の東縁に位置する山のひとつ。明治の森高尾国定公園に指定されており、キャンプやバーベキューなど、また、植物の採取、鳥類の捕獲も禁止されている。
中腹には、数多くの建物や文化財を有する高尾山薬王院の他、サル園・野草園や標高500mからの夜景を楽しめる高尾山ビアマウント(夏季限定)等がある。山頂には、展望台や高尾ビジターセンターがある。長さ1,697kmの東海自然歩道の起点でもある。また明治以降、高尾山薬王院の参拝客に元気をつけてもらおうと振る舞ったのが始まりのとろろそばは高尾山の名物であり、ふもとから山頂に点在する各店がそれぞれメニューを提供している。
暖温帯系の照葉樹林帯(カシなどの常緑広葉樹)と冷温帯系の落葉広葉樹林(ブナ・イヌブナ・ナラ・ホオノキなど)・中間温帯林(モミ・ツガなどの針葉樹林)の境界に位置するため植生が豊かであり、しかも都市部に近い割には比較的よく保たれている。
高尾山は、東京近郊の行楽地として有名であるが、元来は修験道の霊場であり、真言宗智山派大本山高尾山薬王院有喜寺の寺域となっている。高尾山という名前から真言密教の聖地の一つ・京都高雄山神護寺に見立てられたこともあり[2]、天然の森林が守られてきた。中世には、八王子城(慈護寺城)主北条氏康・北条氏照親子がこの山を保護し、氏照による「本山の竹木の伐採を禁じる」という制札が薬王院に残されている。江戸時代にも幕府直轄領となり八王子代官・大久保長安が山林保護政策をとり、その書状が同じく薬王院に残されている。その後も帝室御料林、国有林と常に保護されてきた。明治以降、牧野富太郎をはじめ、多くの研究者により高尾山が最初の発見地として新しい植物が発表された。
山頂から東側は八王子市や相模原市などを中心とした関東平野の街並や、筑波山、房総半島、江の島まで眺めることができる。また西側は丹沢山地や富士山を見渡せる。冬至の前後数日間には、富士山の真上に太陽が沈むダイヤモンド富士を見ることができる。また八王子八十八景にも選ばれている。また、高尾山には古くから天狗が存在しているとの伝説もある。
オリエンテーリングのパーマネントコースも整備されており、トレイルランブームも相まって競技に興じる人がよく見られる。『出没!アド街ック天国 』においても取り上げられた。
1971年から毎年春と秋に高尾山から陣馬山にかけてのスタンプハイクというイベントを開催している。
歴史
- 744年 (天平16年) 行基により開山(初登頂)が行われ、高尾山薬王院が創建される。これ以降の歴史は薬王院の項参照。
- 1925年(大正14年)標高の改測にて、2年前の関東大震災による地殻変動の影響で、標高が601.6 m から600.3 m となる[3]。
- 1927年(昭和2年)1月21日 高尾山ケーブルカーが清滝と高尾山の区間で開業した。この年に、日本百景に選定される。
- 1930年(昭和5年)3月29日 武蔵中央電気鉄道線浅川駅前 - 高尾橋間開通。
- 1939年(昭和14年)6月30日 京王電気軌道が武蔵中央電気鉄道線を全線休止。
- 1967年(昭和42年)10月1日 京王帝都電鉄京王高尾線北野駅 - 高尾山口駅間開業。
- 1967年(昭和42年)12月11日 明治の森高尾国定公園に指定される。
- 1972年(昭和47年)標高の改測にて、標高が599.0 m となる[3]。八王子市役所では、標高を600 m に回復させるために登山客に土を入れた袋を渡して山頂に積み上げる発案をしたが、実現されることはなかった[3]。
- 1991年(平成3年)標高が 599.15 m に修正される[3]。
- 2005年(平成17年) 関東の富士見百景に選定される。
- 2007年(平成19年)から連続して、ミシュランガイドで、最高ランクの“三つ星”の観光地に選出されている[4]。
- 2012年(平成24年)3月25日 首都圏中央連絡自動車道高尾山ICから八王子JCTまでの延長区間2kmが開通。
登山
登山者数
高尾山は、東京都心から電車で約1時間で行くことができる交通アクセスの良さや、後に記すように登山道がよく整備されていること、ケーブルカーなどを使って気軽に登山できることなどから、老若男女問わず登山者数が多い。年間の登山者数は約260万人を超え、世界一の登山者数を誇る[5]。
登山道
山頂へは登山道(自然研究路など)が整備されており、各種ルートを組み合わせて低山登山が楽しめる。なお、高尾山の標高は低いが登山口の標高も低いため、標高差は小さくはない。総じて、山頂までの所要時間は全行程徒歩で1時間半から2時間程度である。
- 各ルートの所要時間[6]
- 1号路 - 登り1時間40分 下り1時間30分 (3.8km)
- 2号路 - 1周30分 (0.9km)
- 3号路 - 登り1時間 下り50分 (2.4km)
- 4号路 - 登り50分 下り40分 (1.5km)
- 5号路 - 1周30分 (0.9km)
- 6号路 - 登り1時間30分 下り1時間10分 (3.3km)
- 稲荷山コース - 登り1時間30分 下り1時間10分 (3.1km)
- 1号路(表参道)
- 東海自然歩道にもなっている標準的な登山ルートである。リフト乗り場の北側を進み、山頂駅、薬王院、高尾山山頂に至るルート。途中に展望台の金比羅台がある。夕方、リフト、ケーブルカーの営業時間が終了した場合には、このルートを使って下山することとなる。ルートはほぼ石畳舗装されており、土に触れあいながらハイキングするようなルートではなく、車での資材運搬などにも使われるルートである。ケーブルカー山頂駅までの傾斜はきついが、その後は薬王院などを観て歩くことができる。
- 2号路
- ケーブルカーの山頂駅からサル山の南麓、神変堂、浄心門を経て山頂駅へ戻るルートである。
- 3号路
- 神変堂の南側から薬王院の南側斜面をたどり山頂へ至るルートである。薬王院そのものは経由しない。終盤、尾根を直登する厳しい箇所がある。南斜面であるため、周囲は暖温帯の照葉樹林が中心だが、山頂近くではモミが密生する中間温帯林となる。
- 5号路
- 高尾山山頂直下を周回するルート。
- 6号路
- 途中に琵琶滝を経由するので琵琶滝ルートと呼ぶ。沢沿いを歩くので夏、暑いときに最適なルート。ケーブルカー山麓駅南側の道路をそのまま進んで行き、保養院の手前を左に入る。序盤は楽だが、沢を詰めた後の山頂直下は階段の急登となる。途中に沢の中を飛び石づたいに登る箇所があるが、この飛び石の部分がわかりにくく、道なりに歩いてしまうと稲荷山コースに合流してしまう。ただし、このまま稲荷山コースを登って山頂直下の階段を避けるコース(稲荷山コースの項参照)もある。また、途中の琵琶滝から右手に尾根を上がり、ケーブルカー山頂駅のあたりの霞台で1号路と合流するルート(特にこの部分のみを琵琶滝ルートと呼ぶ場合もある)があるが、途中は急斜面となっている。なお、琵琶滝では有料で滝修行が体験できる。
- 稲荷山コース
- ケーブルカー山麓駅南側を流れる小川を渡る橋から取り付くルートである。高尾山の南側に伸びる稲荷山の尾根筋を歩くため、尾根の取り付き部だけ少しきつめの登りがあるが、途中標高400m付近の「あずまや」を過ぎると緩やかな登りになる。あずまやのある場所は、冬の天気が良い時期なら筑波山まで遠望できる良い展望台となっている。あずまやから先はあまりきつい箇所もないが、山頂直下には230余段の階段が待ち構えている。階段下右手に続く道(5号路の一部)が6号路と3号路を併せた道につながり、山頂へと続くので、階段を登りたくない場合は、こちらの方が少し楽。階段下左に入る道は、高尾山周回コースの5号路で、こちらは、小仏城山方向への迂回路になっている(裏側から高尾山頂に上る道もあるが、やはり階段できつい)。ケーブルカーで登って、下りにこのルートを使う人が多く、ガイドブックにも「下りに適した道」と書かれたりしているが、土がむき出しになって滑りやすい部分が何箇所かあり、また、最後には、きつい下り坂が続く。
- その他
- バスを使うルートとして、
- JR高尾駅から「小仏」行
- JR高尾駅から「陣馬高原下」行
など、難度や時間設定を組み替えることができるほど良好な歩道が整備されている。
- 高尾山から奥
- 高尾山から陣馬山、奥多摩の三頭山になどへ向けて、奥高尾縦走路 - 笹尾根や、東海自然歩道、関東ふれあいの道など、尾根筋の登山道が通っている。
- アクセスとしては、陣馬山側はバスの本数が少ないため、藤野駅からバスで陣馬登山口に行き、そこから陣馬山に登り、高尾山口駅に向かった方が、交通の便は良い。陣馬山へは陣馬高原下バス停から行くこともでき、バス停から登り1時間20分・下り1時間[7]。陣馬高原下バス停までは高尾駅からバスがある。陣馬山の先の生藤山はさらにバスの本数が少ないので、こちらも、生藤山 → 陣馬山のルートで行った方が交通の便は良い。
- 所要時間は以下の通り[7]。高尾山口駅からは6号路もしくは稲荷山コース利用した場合の所要時間[6]。
東方向 (高尾山口駅方面) 西方向 (陣馬山方面) 陣馬登山口バス停 - 陣馬山 : 登り1時間40分 下り1時間20分 陣馬高原下バス停 - 陣馬山 : 登り1時間20分 下り1時間 陣馬山 - 堂所山 : 1時間10分 1時間20分 堂所山 - 景信山 : 1時間 50分 景信山 - 城山 : 55分 1時間 城山 - 高尾山 : 50分 1時間 高尾山 - 高尾山口駅 : 下り1時間10分 登り1時間30分
- 堂所山以外の山頂には売店やトイレがある。陣馬山から高尾山まで歩かなくても、それぞれの山頂から1〜1時間半程度歩けば何らかのバス停に出られる登山道がある。
登山上の注意点
- 東京都内では珍しいムササビの生息域である[8]。遊歩道の近くに巣穴を持つ個体もいる。
- 国定公園であり焚き火やキャンプは禁止されている。また、許可車両以外、オートバイをはじめ、マウンテンバイクなどの自転車も入山が禁止されている。
- 不適切な靴で登山し夜になってしまい灯火を持たない事により、登山続行が困難となるケースがある。
交通
車で来る場合、国道20号沿いの八王子市営高尾山麓駐車場や高尾山薬王院祈祷殿駐車場に、数百台駐車することができる。特に混む期間は隣駅の高尾駅駐車場にも誘導される。
山の中腹(標高470m付近)までは、高尾登山電鉄の高尾山ケーブルカー、あるいはリフトで登ることができる。
高尾山の植物
周辺には、非常に多くの種類の植物が自生していて、田中澄江により花の百名山に選定されている。代表する花として福寿草を紹介している[9]。
ブナ | スギ | フクジュソウ | スミレ | ミツバツツジ |
---|---|---|---|---|
120px | 120px | 120px | 120px | 120px |
ブナ
高尾山にはブナ(イヌブナが黒っぽい幹なのでクロブナとも呼ぶのに対して、こちらをシロブナと呼ぶことがある)も見られるが、イヌブナの方が数が多い[10]。ブナに比べ材質が劣るのでイヌブナと呼ばれるが、実はブナと同じように食用になり、鳥やリスの好物である。ブナと異なり、太い幹の周辺から「ヒコバエ」(幹の根元から生える枝)が多数出るのが特徴である。一般に、ブナはより寒冷地に、イヌブナはより温暖地に分布し、高尾山以外の周辺の山にはブナは皆無である。また、現存テンプレート:いつする高尾山のブナはいずれも樹齢200年を越える大木ばかりで、実生や稚樹、若木などはまったく見られない。
スギ
薬王院境内を中心にスギの巨木が成育している。東京都指定天然記念物に指定されているスギ並木[11]や飯盛スギ[12]などといった樹齢700年とも1,000年とも語られる巨木が何本も存在し、高尾山のシンボルとして、古くから維持管理がなされてきた。こうした先人の努力は、薬王院への祈願が成就した参拝者が、杉苗料として金銭を奉納する慣習と残されていることからも伺い知れる。
薬王院の境内外は国有林となっており、ここにもスギ林は広がっている。一丁平に向かう歩道の脇には、江戸時代に韮山代官であった江川英龍が植えた人工林(江川スギ、2009年(平成21年)の段階で樹齢147年)が現存テンプレート:いつしている。
高尾山で最初に発見された植物
地理
三角点
- 点名「高尾山」
周辺の山
山容 | 名称 | 標高 (m) |
三角点 等級[13] |
高尾山との 距離(km) |
方角 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
100px | 雲取山 | 2,017.09 | 一等 | 37.3 | テンプレート:Direction北西 | 日本百名山 東京都最高峰 |
100px | 陣馬山 | 855 | (亡失) | 7.6 | テンプレート:Direction西北西 | |
100px | 高尾山 | 599.15 | 二等 | 0 | ミシュランガイド(三つ星) | |
100px | 丹沢山 | 1,567.06 | 一等 | 18.3 | テンプレート:Direction南南西 | 日本百名山 |
100px | 富士山 | 3,776.24[14] | 二等 | 55.2 | テンプレート:Direction南西 | 日本百名山 日本最高峰 世界文化遺産 |
源流の河川
ナイキ タカオ
ナイキの靴で「タカオ」というものがある。アメリカからナイキの開発者が「ある程度整えられたフィールド」を歩くための靴を開発するために高尾山へやってきたとき、重い頑丈な靴を履いた人ばかりを見た。そのような靴は、急斜面や荒れた路面を重い荷物を背負って歩くために作られたもので、高尾山のような、ゆるい、ある程度整えられた道を歩くのには適していなかった。そこで、頂上までの距離が短い高尾山のようなハイキングコースを歩くために作られたのが、「ナイキ タカオ」である。[15] 発展モデルとして「テング」も発売されている。
脚注
関連図書
- 『東京都の山』山と溪谷社、2005年(平成17年)、ISBN 978-4-635-02312-2
- 『高尾山自然観察ガイド』山と溪谷社、2005年(平成17年)、ISBN 978-4-635-42033-4
- 『高尾・陣馬 2010年版(山と高原地図27)』昭文社、2010年(平成22年)、ISBN 978-4-398-75707-4
関連項目
外部リンク
- 国土地理院 地図閲覧システム 2万5千分1地形図名:与瀬
- 高尾山公式ウェブサイト - ケーブルカーを運行する高尾登山電鉄が制作管理
- とことこ高尾山 - 京王グループが制作
- 高尾ビジターセンター
- 関東森林管理局高尾森林センター
- 高尾山薬王院公式ホームページ
- 高尾山商店会公式ホームページ
- 高尾山ナビ - 山と渓谷社が制作
- 高尾山の自然を守る市民の会
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 京都の真言宗宗徒が関東進出の拠点として高尾山を選んだと推定される。このため、高尾山付近には与瀬、桂、小麻、嵐、醍醐等、京都の地名と同様のものが多くある。谷有二『山の名前で読み解く日本史』、青春出版社、2002
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 東京新聞 2013年(平成25年)8月28日 11版 30ページ
- ↑ 高尾山が“ミシュラン”三つ星観光地に - 八王子市
- ↑ 高尾山の豆知識 登山客は世界一 - 高尾山総合インフォメーション(2009年7月12日閲覧)
- ↑ 6.0 6.1 高尾山登山コース - 高尾登山電鉄株式会社 公式サイト
- ↑ 7.0 7.1 山と高原地図 27.高尾・陣馬 2013 (ISBN 4398758852)
- ↑ 多摩動物公園情報 - 東京都
- ↑ 田中澄江の著書『花の百名山』(文春文庫、1980年(昭和55年)、ISBN 4-16-352790-7)
- ↑ 高尾山の樹木 ブナ - 高尾山総合インフォメーション(2009年7月12日閲覧)
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 13.0 13.1 引用エラー: 無効な
<ref>
タグです。 「kijyun
」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web