世界大戦争
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『世界大戦争』(せかいだいせんそう)は、1961年10月8日に公開された、東宝制作の特撮SF映画。
カラー、東宝スコープ、多元磁気立体音響[1]。上映時間110分。
芸術祭参加作品。併映は『アワモリ君乾杯!』(原作:秋好馨、監督:古澤憲吾)。
目次
概要
「連邦国」と「同盟国」の二大勢力間で勃発した世界最終戦争を、市井に生きる人々の姿を通して描く反戦映画。『私は貝になりたい』のドラマと映画、両方に主演したフランキー堺が、本作においても理不尽な運命に翻弄される平凡な小市民を熱演している。製作当時は、本作公開直前に起きたベルリンの壁構築や翌年のキューバ危機に代表される通り、東西冷戦の危機感が強く、それを反映した人間ドラマである。兵器および軍服のデザインや国章から連邦国は資本主義陣営、同盟国は社会主義陣営を意識して描かれている[2]。準備稿段階ではアメリカやソビエトといった実在の国名で書かれていた[3]。
僧侶でもある松林監督は、この映画の根底を流れるテーマとして、仏教の「無常」観を挙げている。
製作経緯
東宝プロデューサーの田中友幸は、当時の世界情勢から第三次世界大戦を題材とした映画の製作を構想し、橋本忍による脚本で製作準備を行なっていた。しかし東映でも同様の題材を扱った映画『第三次世界大戦 四十一時間の恐怖』を製作していることが判明したため、東宝側も監督に堀川弘通を立て『第三次世界大戦 東京最後の日』の製作を急ぎ決定し、両社は競い合う形で製作を進めていった。マスコミもこの競合を報道するが、東宝側の脚本が、先に完成していた東映側との類似を指摘され、東宝側は脚本の改稿を余儀なくされたが十分な解消には至らず、製作の中止を決定した。その後、内容を一新して製作が再開され、本作の完成に至った[3]。
特撮
- 東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、モスクワが核ミサイルによって破壊されるクライマックスシーンは、天地を逆にしたミニチュアの下から圧縮空気を吹き出させる方法で撮影された。このシーンの映像は完成度が高く、その後『ノストラダムスの大予言』などの劇場用作品のほか、円谷プロ制作のテレビ番組『ウルトラセブン』最終話「史上最大の侵略(後編)」(ゴース星人の地底ミサイルで各国の都市が破壊されるシーン)など、様々な作品に流用された。
- ラストの東京が核爆発で溶解するシーンは、『空の大怪獣ラドン』や『日本誕生』等と同様に、溶けた鉄を使用している。またこのシーンのミニチュアは、燃えやすい炭団で作られている。撮影は千葉県の製鉄会社の敷地内で行われた[3]。
ストーリー
戦後16年が経過し、急速な復興を遂げた日本。主人公・田村茂吉は家族の幸せを願いながら、外国人記者の集まるプレスセンターの運転手として日々働いていた。そんな中、田村の長女・冴子は下宿している青年・高野と恋仲になっており、長い航海を終えて帰還した彼との久々の再会を喜ぶ。そんな二人はついに茂吉に対して結婚の決意を語り、驚く茂吉だったが妻のお由も賛同し、とうとう二人は結ばれることになる。
一方、世界は連邦国と同盟国の二つの陣営に分かれ、両陣営はお互いに核兵器を持って対峙していた。そして北大西洋で行われた同盟国陣営の軍事演習エリアに連邦国陣営の潜水艦が侵入したことをきっかけに、両者の関係は緊迫する。田村が担当する記者・ワトキンスもその状況を危惧し始めた。日本政府も国民の間に動揺が広がりつつあることを考慮し、両国の関係改善の道を探ろうとする。だがワトキンスが緊迫した朝鮮半島・北緯38度線の情勢を取材に向かったその数日後、小型ながらも実戦で核兵器が使われるという事態が発生し、ついに連邦国・同盟国陣営双方で命令一つでボタンが押されれば弾道ミサイルが発射される状況となっていた。
日本では総理が病身を推して公務を行い、両国の緊張をこれ以上高めまいと懸命の努力を行う。そして現場にいる軍人達も最悪の事態だけは避けたいという思いを胸に、事故や機械故障により危うくボタン戦争となりかけた状況を必死で阻止していた。やがて南北朝鮮間で停戦協定が結ばれ、ようやく緊張が解け始めるが、北極海上で発生した軍用機同士の戦闘をきっかけに再び悪化、幾多の人々の努力も全て水泡と帰してしまう。そしてついに日本でもミサイルへの警戒が始まったことで人々の不安は頂点へ達した。
大都市から避難しようとする人々で大混乱が起こる中、田村一家は自宅に残り最後の晩餐を開く。冴子は数日前に再び長い航海に出た高野へ向けて、覚えたてのアマチュア無線で最後の通信を行った。「サエコ・サエコ・コウフクダッタネ」「タカノサン・アリガトウ」。夕陽を前にして茂吉は叫ぶ。「母ちゃんには別荘を建ててやるんだ! 冴子には凄い婚礼をさせてやるんだ! 春江はスチュワーデスになるんだ! 一郎には大学に行かせてやるんだ! 俺の行けなかった大学に……!!」
その夜、閃光に包まれた東京は、核の影響で溶解。そして翌朝、洋上の高野たちは、ある決意を固めていた。
登場兵器
連邦国側
- 連邦国ミサイル戦車
- 装軌式の車体に8連装の戦術核搭載ミサイル発射機を装備する。回転式のマストがあり、V-107ヘリコプターから遠隔操作される。38度線で同盟国側の砲台を攻撃したが、同盟国側の攻撃機の反撃によって指揮ヘリコプターもろとも全滅した。
- 攻撃シーンは後に『ノストラダムスの大予言』に流用されている。
- 核ミサイル
- 連邦国側のICBMで、核弾頭を装備。運搬車のトレーラーはそのまま垂直に直立し、ミサイルの発射台として使用できる。また、C-130による空輸も可能。極東ミサイル基地に6基が配備された後、地下陣地へと格納された。
- 運搬車の牽引車は、『モスラ』に登場した原子熱線砲の牽引車が流用されている。
- 連邦国攻撃型潜水艦
- 連邦国側の潜水艦。涙滴型の艦体上面が平滑になっており、SLBMを搭載していると思われる。北大西洋で行なわれた同盟国陣営の軍事演習に乱入したために追跡され、防潜網に引っかかって拿捕された。
同盟国側
- モク戦闘機
- 同盟国陣営の戦闘機。形状はMiG-21をモデルとしているが、原型機とは主翼が後退翼となっている、機首のピトー管の位置が異なるなどの相違点がある。北極海上空で連邦国陣営のF-101と空対空核ミサイルを交えた空中戦を展開した、
- 同盟国攻撃型潜水艦
- 同盟国側の潜水艦。第二次世界大戦時の潜水艦と同様の艦体をしている。軍事演習に乱入した連邦国攻撃型潜水艦を2隻で追跡した。
スタッフ
キャスト
※映画クレジット順
- 田村茂吉:フランキー堺
- 高野:宝田明
- 田村冴子(茂吉の娘):星由里子
- お由(茂吉の妻):乙羽信子
- 早苗(江原の娘):白川由美
- 江原:笠智衆
- ワトキンス:ジェリー伊藤
- 笠置丸船長:東野英治郎
- 桃井首相:山村聰
- 片瀬外務大臣:上原謙
- 防衛庁長官:河津清三郎
- 和田官房長官:中村伸郎
- おはる:中北千枝子
- 東京防衛司令部司令官:高田稔
- 有村:石田茂樹
- 鈴江(おはるの娘):坂部尚子
- 石橋:野村浩三
- 芋屋の爺さん:織田政雄
- 記者:佐田豊
- 東京防衛司令部将校:桐野洋雄、宇野晃司
- 笠置丸船員:吉田静司
- ヘリの乗組員:古田俊彦
- 保育園の保母:森今日子
- 伊沢(保育園の保母):三田照子
- 厚生大臣:熊谷二良
- 文部大臣:生方壮児
- 法務大臣:土屋詩朗
- 近所の人:勝本圭一郎
- ヘリの乗組員:草川直也
- 笠置丸通信士:大前亘
- 記者:勝部義夫
- 東京防衛司令部計算員:篠原正記、岡豊
- 郵便配達員:宇畄木耕嗣
- 田村一郎:阿部浩司
- 田村春江:富永裕子
- 三亀商事の女事務員:清水由記
- 近所の人:一万慈鶴恵、中野トシ子
- 穂高あさみ
- 連邦軍参謀:ハワード・ラルソン
- 同盟軍司令官:エド・キーン
- 同盟軍整備将校:ベルナール・バーレ
- クリフォード・ハーリントン
- 連邦軍マーク中尉:ハンク・ブラウン
- ダニエル・ジョーンズ
- ベン・グリーンハウ
- マイク・スネープ
- ロイ・レサード
- 同盟軍ミサイル基地司令:ハンス・ホルネフ
- 連邦国ミサイル基地司令官:ハロルド・コンウェイ
- 同盟軍通信員:オスマン・ユセフ
※以下ノンクレジット出演者
- 笠置丸船員:荒木保夫、伊原徳、岡部正、黒木順、渋谷英男、砂川繁視、鈴川二郎、新野悟、古谷敏
- 笠置丸操舵手:鹿島邦義
- 東京防衛司令部計算員:伊藤実、大塚秀男、門脇三郎、中西英介
- テレビの歌手:越後憲三、関田裕、二瓶正典
- 東京プレスクラブ運転手:大川時生、河辺昌義、川村郁夫、草間璋夫、小松英三郎
- 東京プレスクラブ運転手、記者:坪野鎌之
- 記者:安芸津広
- 駅員:渡辺白洋児
- 大商証券社員、東京防衛司令部将校:鈴木治夫
- 政府関係者:日方一夫
- 大蔵大臣:吉頂寺晃
- 子供を迎えに来る父親:夏木順平
- 子供を迎えに来る父親、東京防衛司令部計算員:由起卓也
- 子供を迎えに来る母親:記平佳枝、毛利幸子
- 観光案内員、記者:橘正晃
- 避難誘導する警官:中島春雄
- 三亀商事の社員、記者、国会の警備員:天見竜太郎
- 大商証券の客、駅員:松下正秀
- アナウンサー:池谷三郎
- 三亀商事の社員:光秋次郎
- ヘリの操縦士:鈴木茂夫
- 避難する男:千葉一郎
- 同盟軍偵察機乗組員:エンベル・アルテンバイ
- 同盟軍将校:ロルフ・ジェイサー
- 同盟軍技師:クンプ・クーベンス
- 連邦軍参謀:レオナルド・スタンフォード
海外版タイトル
逸話
- 日本の映画館で上映された、本作品の予告編は現存していない[4]。そのため、東宝ビデオから発売されたDVDには、現存している海外版の予告編のみが、映像特典として収録されている。
- 併映作品『アワモリ君乾杯!』の劇中には、アワモリ(坂本九)、カバ山(ジェリー藤尾)、ギャング団(田武謙三、ダニー飯田とパラダイス・キング)が紛れ込んだ東宝砧撮影所で、当作品の撮影現場が映し出されるシーンがある。
関連項目
脚注
- ↑ 本作のDVDには、公開当時、一部の劇場のみ対応した4ch音声も収録されている。
- ↑ ただし劇中の台詞は両陣営とも英語である。
- ↑ 3.0 3.1 3.2 テンプレート:Cite
- ↑ 以前から、本作品の予告編の所在は不明とされてきたが、デアゴスティーニ・ジャパンの『東宝特撮映画DVDコレクション』において、現存していないことが判明した。
- ↑ ESSAY VOL.36「東宝SF映画(3) 世界大戦争」について