磁石
磁石(じしゃく、テンプレート:Lang-en、マグネット)とは、二つの極(磁極)を持ち、双極性の磁場を発生させる源となる物体のこと。鉄などの強磁性体を引き寄せる性質を持つ。磁石同士を近づけると、異なる極は引き合い、同じ極は反発しあう。
磁極
磁石には、N極とS極の二つの磁極(テンプレート:Lang-en-short)がある。これらの磁極は単独で存在することはなく、必ず両極が一緒になって磁石を構成する。永久磁石を半分に切っても、S極だけ、あるいはN極だけの磁石にはならず、S極とN極の双方を持つ二つの小さな磁石ができる。磁界の元となるのは電荷の運動であり、片方の磁極のみが生まれるように電荷を運動させることは不可能である。ただし、一つの磁石に、磁極は一組とは限らない。磁極が多数ある磁石を多極磁石と呼び、円形のものはモーターなどに利用されている。また、環形で、内側と外側で磁極が分かれているものがあり、これをラジアル異方性磁石と呼ぶ。
磁気単極子
テンプレート:Main しかしながら、電気と磁気の関係をひっくり返して、単独で存在する磁極が運動することによって、電場が生じるという現象を想像することはできる。このような空想上の単独の磁極のことを磁気単極子(モノポール)という。ただし、現実に存在する可能性も示唆されており、現在でも研究が進められている。
地球
テンプレート:Main 地球そのものも、(現在の)北極地方にS極、南極地方にN極を持っており、磁石と近似である。地球が発生させる磁場、すなわち地磁気に応答して、地球上にある磁石には一方の極を北へ、他方の極を南へ引き寄せる。この性質を利用したものが方位磁針である。磁極の呼称は方位磁針に由来して、北 (north) に引き寄せられる極がN極 (north pole)、南 (south) に引き寄せられる極がS極 (south pole) と呼ばれる(ゆえに、磁性体としての地球のN極・S極は、地理上の北・南とは逆である)。
原理
電気と磁気の力はお互いに不可分である。これらの関係は、電磁気学の基本方程式であるマクスウェルの方程式で与えられる。この方程式によると、電気を帯びた物体(電荷)を運動させると、磁気の場(磁場)が生じ、磁石としての性質を帯びることとなる。磁石の性質を持つ物質である永久磁石も、電流を流すと磁石になる電磁石も、これによって磁石としての特性が発現する。
- 永久磁石
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- 外部から磁場や電流の供給を受けることなく、磁石としての性質を比較的長期にわたって保持し続ける物体のことである。強磁性ないしはフェリ磁性を示す物体であって、ヒステリシスが大きく、常温での減磁が少ないものを、磁化して用いる。永久磁石材料に関するJIS規格としてJIS C2502、その試験法に関する規格としてJIS C2501が存在する。アルニコ磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石などが永久磁石である。
- 電磁石
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- 通常、磁性材料の芯のまわりに、コイルを巻き、通電することによって一時的に磁力を発生させる磁石である。機械要素として用いられる。電流を止めると磁力は失われる。
超伝導と磁石
超伝導体には、磁場を退けるマイスナー効果という性質がある。超伝導体に磁石を近づけると、超伝導体は磁場を退けるので、まるで同極同士の磁石を近づけたように反発しているように見える。これによって磁石の上に超伝導体を浮上させることができる。また、ピン止め効果によって磁石の上に安定して留まる。
医療に用いるMRI(磁気共鳴画像法)用磁石の大部分や磁気浮上式鉄道では、強力な磁界が必要となるが、これを実現できるような永久磁石は容易には存在しない。また、電磁石で実現するためには、コイルに大電流を流す必要がある。しかし、銅などの低抵抗の配線材料を用いても、この電流による発熱に耐えることはできない。この問題を解決するのが、コイルに超伝導体を用いた超伝導電磁石である。超伝導材料は電気抵抗がゼロであるため、大電流を流しても発熱しないのである。超伝導コイルには、磁場に強い第二種超伝導体を用いる必要がある。
磁石の歴史
古代ギリシアでは、鉄を引き寄せる石として磁石はすでに知られていた。プラトンは、その著書『イオン』にて「マグネシアの石」として磁石のことを言及している。ローマ帝国の博物学者大プリニウスは、著書『博物誌』にて、マグネスという羊飼いが磁石を偶然発見したと述べている。この「マグネシアの石」ないし「羊飼いマグネス」が、ヨーロッパの様々な言語で磁石を指す言葉である magnet の語源になったと考えられる。また『博物誌』には、ダイヤモンドが磁石の力を妨げるという奇妙な説も記述されている。
磁石に対し、近代的な科学の光をあてたのは、エリザベス1世の侍医であったウイリアム・ギルバートである。その著書『磁石及び磁性体ならびに大磁石としての地球の生理学』(De Magnete, Magneticisque Corporibvs,et De Magno Magnete Tellure) においてギルバートは、磁石に関する俗説や既知の現象について詳細に検証している。例えば、羅針盤の指北性を論じるにあたり、球形の磁石を作製し、これに対する磁針の振舞いを観察している。この結果、地球そのものが磁石であると結論付けている。また、琥珀などが軽い羽毛などを引きつける静電引力は、磁力とは異なる現象であるとも論じている。ギルバートの実験と論証による方法論は、その後の科学に多大な影響を与えた。
- 1825年 - ウィリアム・スタージャンによって電磁石が発明された。
- 1917年 - 本多光太郎らによってKS鋼が発明された。
- 1931年 - 三島徳七によってMK鋼が開発された。
- 1933年 - アルニコ磁石が発明された。
- 1934年 - 新KS鋼が開発された。
- 1937年 - 東京工業大学の加藤与五郎、武井武によってフェライト磁石が発明された。
- 1970年代前半 - サマリウムコバルト磁石が発明された。
- 1971年 - 東北大学の金子によって鉄-クロム-コバルト磁石が開発された。
- 1970年代 - 松下電器産業(現・パナソニック)によってマンガンアルミ磁石が開発された。
- 1982年 - 住友特殊金属(現・日立金属NEOMAX)の佐川眞人によってネオジム磁石が発明された。
- 2004年 - イギリスのダラム大学の研究者によってプラスチック磁石が発明された。
磁石の種類
天然に産出する磁石として磁鉄鉱(四酸化三鉄、Fe3O4、マグネタイト)が挙げられる。古代からよく知られている磁石、磁鉄鉱(ないし砂鉄)として産出されていたのはこの四酸化三鉄である。現在でも、砂浜で永久磁石を砂中にいれれば、十分に視認することができる。羅針盤の指針を磁化することなどに用いられてきたが、非常に微弱な磁石である。ちなみに磁気を帯びた岩石として知られる須佐高山の磁石石も、その磁気は斑れい岩中の磁鉄鉱によるものである。20世紀に入ると、天然の磁鉄鉱に替わり実用に十分な強度を有する磁石が人工的に作られるようになってきた。
磁石の用途
工業
日常の電化製品でよく見かける磁石の用途として、モーターやスピーカーが挙げられる。これらは永久磁石と電磁石を用いて、電気エネルギーを回転や空気の振動といった力学的エネルギーに変換している。
カセットテープ、ビデオテープ、ハードディスクといった記録メディアは、磁化された向きによって情報を記録している。情報の読み出しには、電磁誘導や巨大磁気抵抗効果 (GMR)、ごく最近になってトンネル磁気抵抗効果 (TMR) が利用されている。
電子顕微鏡の電子レンズや粒子加速器などでは、磁石は電子などの荷電粒子を狙った方向に曲げるために用いられている。また、トカマク型などの核融合では、高温のプラズマを封じ込めるためにも用いられている。
磁石は、リニアモーターカーの磁気浮上や、リードスイッチやMRセンサーなどの非接触センサーと共に用い、近接感知、位置決め等の用途にも利用されている。
医療
核磁気共鳴画像法といった医療用途に利用されている。
5cmくらいの棒状のアルニコ磁石は、牛に飲み込ませて第3胃内の針金など鉄片を束状に吸着させ、創傷性心膜炎を予防するために使われる。
爆発や破裂(主に戦争)などで鉄の小片が体内や顔面に食い込んだ場合、切開する手間より、強力な磁力を用いて取り除き、応急処置を行う。
磁石の磁気を用いて血流を促進させ、健康回復を促進すると謳う代替医療の商品(装身具)が多々存在するが、血中のヘモグロビンに含まれる鉄分は、磁気に反応しない性質を持つ。
磁石を用いた入れ歯なども開発されている。