クマ
クマ(熊)は、動物界脊索動物門哺乳綱ネコ目(食肉目)クマ科の構成種の総称。(類縁関係が比較的薄いジャイアントパンダ亜科は除くこともある)
目次
分布
北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、ユーラシア大陸、インドネシア、スリランカ、日本
概説
最大種はヒグマもしくはホッキョクグマで体長400cm、最小種マレーグマでも体長100-150cmとネコ目内でも大型種で構成される。一般に、密に生えた毛皮と短い尾・太くて短い四肢と大きな体、すぐれた嗅覚と聴覚をもつ。
頭部が大きいわりには目は小さく、耳も丸くて短い。視力は弱い種が多いが[1]、聴覚・嗅覚は鋭い。顎が発達しており、犬歯も大きいが、ネコ目の多くが、臼歯(きゅうし)が肉を切り裂くための裂肉歯に変化しているのに対し、クマ科では裂肉歯が植物などをすりつぶすのに適した、短くて扁平なものに二次的な変化を起こしている。歯式は3/3・1/1・4/4・2/3=42(本) ・乳頭式は2+0+1=6(個) のものが一般的(アカグマの上顎門歯は2本)、寿命は25年から40年の種が多い。
四肢は短く、がっしりとしている。前後の肢は幅が広く、その先には長く湾曲した鉤爪を備えた5本の指を有しており、この鉤爪は引っ込めることができず、木登りや穴掘りに優れた形状をしている。また前肢後肢とも、足の裏の大部分がネコ目の特徴である毛の生えていない肉球形状であり、踵を地面につけて歩く蹠行性動物である。
生態
主に山岳地帯や森林に生息するが、ホッキョクグマは氷原に生息する。秋期に豊富に栄養を摂って、冬季に冬ごもりを行う種もいる。冬眠中のクマは体温が下がり、呼吸数や心拍数が減るとともに、餌や水を口にしなくなるだけでなく、排泄や排尿も見られなくなる。主に植物食傾向の強い雑食だが、ジャイアントパンダやメガネグマのように植物食傾向が強い種や、ホッキョクグマ(アザラシ等)やヒグマ(サケ等)、ナマケグマ(シロアリ等)のように動物食傾向が強い種も存在する。両者の間では顔の骨格も異なり、前者はよく発達した頬骨弓・側面にみられる眼窩および小さな犬歯を収めた短くて円筒形の頭蓋骨・関節が高い位置にある弓型の下顎骨・側頭筋と咬筋の大きな付着部・長い臼歯を特徴に持つのに対して、後者は小さな頬骨弓・正面にみられる眼窩およびよく発達した犬歯を収めた長大な頭蓋骨と長い顎・歯列レベルまで低い顎関節・少ない臼歯を特徴に持っている[2]。
成獣の雌は7-8か月の妊娠期間を経て、約1-4子(平均で約2子)を出産する。冬ごもりを行う種は冬ごもり中に幼獣を産む。
分類
クマ科は、イヌ科やアライグマ科と比較的類縁関係が近いとされる。パンダ類の分類については諸説あり、パンダ科として独立させたり、レッサーパンダをアライグマ科に含めるなどされてきたが、DNA分析による結果から、ジャイアントパンダはクマ科に含まれ、レッサーパンダは独立のレッサーパンダ科とする考え方が有力となっている。
3亜科の関係は、ジャイアントパンダ亜科が離れており、クマ亜科とメガネグマ亜科が近縁である。そのため、ジャイアントパンダ亜科を別科とする、あるいは、メガネグマ亜科をクマ亜科に含めることがある。
ジャイアントパンダ亜科 Ailuropodinae
- ジャイアントパンダ属 Ailuropoda
- Ailuropoda melanoleuca ジャイアントパンダ Giant panda
- Ailuropoda minor(絶滅)
メガネグマ亜科 Tremarctinae
- メガネグマ属 Tremarctos
- Tremarctos ornatus メガネグマ Spectacled bear
- Tremarctos floridanus (絶滅)
- Arctodus (絶滅)
- Arctodus simus ショートフェイスベア (絶滅)
- Arctodus pristinus (絶滅)
- Arctotherium brasilense (絶滅)
- Arctotherium latidens (絶滅)
クマ亜科 Ursinae
- マレーグマ属 Helarctos
- ナマケグマ属 Melursus
- Melursus ursinus ナマケグマ Sloth bear
- クマ属 Ursus
- Ursus americanus アメリカグマ American black bear
- Ursus arctos ヒグマ Brown bear
- Ursus maritimus ホッキョクグマ Polar Bear
- Ursus thibetanus ツキノワグマ Asiatic black bear(ツキノワグマ属Selenarctosに分類する説もあり)
- Ursus spelaeus ホラアナグマ Cave bear(絶滅)
- Ursus minimus (絶滅)
- Ursus etruscus エトルリアグマ (絶滅)
人間との関係
キャラクター・マスコット
ロシアでは、クマは国を象徴する動物とされている。外国からもロシア帝国・ソ連は、その強大さや脅威性から北国の猛獣クマに例えられることが多かった(国際情勢に関する風刺漫画など)。1980年のモスクワオリンピックでは、仔熊の「ミーシャ」がマスコットキャラクターとなった。因みに、ロシア女帝エカチェリーナ2世は元はドイツのアスカーニエン家出身であるが、そのアスカーニエン家出身の初代ブランデンブルク辺境伯アルブレヒト1世は「熊公」と言う綽名を付けられた。アスカーニエン家はクマを紋章としている。スイスのベルン市は語源が「熊」(der Bär)であり、市の紋章はクマである。他にも、ドイツのベルリンやスペインのマドリードの市旗と紋章もクマである。
クマのぬいぐるみとして、テディベアが広く知られている。「テディ」とはセオドア・ルーズベルト(第26代アメリカ合衆国大統領)の愛称である。熊を狩りに出かけたルーズベルト大統領が、あてがわれたアメリカグマの仔熊を見逃したという話をもとに、「テディベア」というぬいぐるみが誕生した。また、この「テディベア」などクマのぬいぐるみが元となり、こちらも世界的に知られているキャラクター・クマのプーさんが生まれた。
また、日本に於いてはコンドウアキ氏によってデザインされたキャラクター、リラックマの関連グッズが2003年より販売開始されており、ぬいぐるみを含め非常にポピュラーなマスコットとなっている。
食用
中国では、クマの手のひら(熊掌)が高級食材として珍重されている。ただし、日本本州のツキノワグマは、小型すぎて熊掌の材料には不向きである。日本には安産のお守りとして、クマの手のひらを出産時の産湯に浸けておくという風習があった。
日本でもその肉が、流通量は多くないものの、食用にされている(詳細は熊肉を参照)。個体により、匂いや味に差が大きく、生前に何を食べ物にしていたかによって、変わるという説が多い。鯨肉のような味から、硬くて脂濃い、動物くさいものまで幅広い。なお、重篤な症状を起す寄生虫である旋毛虫が筋肉中に潜んでいる場合があるため、生食は避けるべきである。
薬用
漢方やアイヌの民間療法では、熊のあらゆる部分が薬用とされる。
なかでも、クマの胆嚢を原料とした「熊胆」(ゆうたん、熊の胆(くまのい)ともいう)が強壮剤・腹痛薬・解熱薬などとして珍重される。熊胆の主成分である胆汁酸の一種ウルソデオキシコール酸には実際に、胆液の流れを良くし、胆石を溶かすなどの薬効が認められており、医療現場で使われている。
神話・信仰
ギリシャ神話では、ニンフ(精霊)のカリストーが大神ゼウスによって強引に妊娠させられたうえ、ゼウスの妻ヘーラーの嫉妬によってクマに変身させられるという悲劇に見舞われた(おおぐま座を参照)。
後肢で立つことが出来るうえ、両手を器用に使うさまからしばしば擬人化され、絵本などの物語でも(人間に近い振る舞いをする)キャラクターとして登場することの多い生き物である。北方の少数民族や北米先住民をはじめ、広く世界的に、クマは人間と異なる神・あるいは知恵のある存在・豊かさの象徴として、信仰の対象とされてきた。ベルリンやベルンなど、地名に用いられることも多い。その力強さからベルセルクなど、獣人や狂戦士の伝説にも関連が深い。
自分たちの祖先として、クマを信仰する場合もある。アイヌのイオマンテ(あるいはイヨマンテ、熊送り)の儀式は、代表的な例である。ネアンデルタール人もクマを崇拝していたとも言われる。
古来、日本では年老いたクマは鬼熊という妖怪に変化を遂げると信じられており、昔話や絵本などにしばしば登場した。
近年における問題
テンプレート:国際化 テンプレート:出典の明記 20世紀以降の日本では、冬ごもりのための食料を獲る時期の秋口を中心に、クマが人里へ下りて人間に危害を加えたり、農作物を食い荒らすなどの被害が多く報告されている。特に、山間部にクマの多く生息する地方では、こうした事例は一種の社会問題となっており、危険・有害動物として猟友会らによる駆除が行われている。これは、農村の過疎化などによって里山を人間が利用しなくなった結果、クマなどの野生動物と人間との緩衝地帯が失われたことが、大きな原因であると言えるが、その一方で以下に述べる植林が森の生態系に大きな問題を投げ掛けている。以前は、人間が熊と出会う場所は里山という緩衝地帯であったが、現在では里山も失われて人間のテリトリーではなくなったため、クマと人間はいきなり人里で対面することになってしまったのである。ニホンザルやニホンカモシカからの被害においても、同様の原因が指摘されている。
人の目に付かない山奥の山域は、太平洋戦争後に営林局が独立採算制であった時代、スギ・ヒノキといった単一の針葉樹が密生する人工林として整備された箇所が多い。こうした人工林はクマやシカなどにとってエサとなる木の実が実らないため、エサの確保に困った野生動物たちが、食料を求め人里近くまで降りて来ざるを得ない遠因ともなっている。またこういった人工林は日本国内産の材木需要が減少した1980年代以降に放置され荒れるに任された結果、1990〜2000年代に台風などにより土砂崩れを起こすケースも発生、これが周辺山林にも悪影響を及ぼしていると見る関係者もいる。平成3年(1991年)の台風19号で中国地方の山林に被害がでた際に近隣山村へのクマを含む野生動物の出没が翌年・翌々年と報告され、こういった台風による山林荒廃説を裏付けるものとして扱われ、台風被害の大きかった年やその翌年以降には、山林が回復するまでの期間に、警戒を要することも報じられている。
こういった様々な問題にも拠り、全体としては減少している日本のツキノワグマの“種の保全”と、人に対して危害を与えうる動物としてのクマへの対処としての駆除を、いかにして整合性を持たせるかについては、現在もさまざまな議論が交わされている。
人間が襲われるときは、クマも人間を恐れている。不意に遭遇した人間を外敵と看做し、防衛のために先制攻撃に出るのであって、決して人間狩りをするのではない。しかし、一度人間の肉の味を覚えたクマは、今度は人間そのものを「エサ」と看做し、手当たり次第人間を襲うようになる。このため早急に駆除をする必要がある。生息地で出遭わないようにするには、鈴を鳴らす、時々手を叩く、時々掛け声をあげる、ラジカセなどで大きな音を出すなどしながら存在を早期にクマに知らせることである[3]。ただし、クマ狩りをすると北海道のヒグマなどは気配を消し待ち伏せするなどすることがある。
言葉
ロシア語では熊を表す固有の単語がない。これは名前を呼ぶと熊を呼び寄せてしまうという迷信から、使われないまま忘れ去られてしまったからとされている。そのかわりに、「蜂蜜を食べるもの」(メドヴェーチ)と熊のことを呼んでいたため、この語が熊も指す言葉として定着した。
他の動植物の大型種に対して(クマゲラ・クマゼミ・クマバチ・クマイチゴ等)や、クマに似ているとしてつけられる(アナグマ・アライグマ・クマムシ)こともある。
脚注
参考文献
- 今泉吉典、松井孝爾監修 『原色ワイド図鑑3 動物』、学習研究社、1984年、68-69頁。
- 『小学館の図鑑NEO 動物』、小学館、2002年、52-53頁。
関連項目
- おおぐま座、こぐま座
- マタギ、熊肉
- イオマンテ - アイヌ民族の熊送りの儀式
- 交響曲第82番 (ハイドン) (『熊』の愛称を持つ)
- 三毛別羆事件 - 日本史上最大の熊害事件
- ビョルン - 北ゲルマン語群でクマを意味する男性名
- メドヴェージェフ - ロシア語等でクマを意味する語に由来する姓
- 熊性善説 - C・W・ニコルが提唱した説。自然保護活動団体を通じ徐々に広められ、拡大解釈で必要以上に熊への警戒心を解いてしまう危険も存在している。
- ベアハッグ(クマの抱きしめ)-プロレス技で、相手をさば折りにして痛めつける技
- ベルクマンの法則
- くまモン
外部リンク
テンプレート:Link GA- ↑ ホッキョクグマは生息環境から視力も高い。『ナショナルジオグラフィック 最強の捕食者たちホッキョクグマ編』より
- ↑ 坪田敏男・山崎晃司 編『日本のクマ ヒグマとツキノワグマの生物学』東京大学出版会、2011年、P9-10
- ↑ 知床博物館作成動画「ヒグマ生息地での注意」(2009年作成)知床博物館協力会ブログ,2011年3月1日