有害図書
テンプレート:Ambox テンプレート:暴力的 テンプレート:性的 有害図書(ゆうがいとしょ)とは、性や暴力に関して露骨もしくは興味本位の取り上げ方をし、青少年の人格形成に有害である可能性があるとして政府や地方自治体等によって指定される出版物。ただし国内でも一般的な出版物だけでなくゲームソフト等も対象となる場合がある。
日本
概要
日本では、青少年保護育成条例などに基づいて都道府県知事(県として青少年保護育成条例がない長野県では一部の市町村長)が指定する。指定を受けたら、書店では包装(多くはビニールシュリンクパック)した上で成人専用コーナーに陳列し、青少年(18歳未満の者)に対しては売ってはならないことになっている(都道府県により陳列方法などの詳細は異なる)。なお東京都の条例では「不健全図書」という名称を用いている。
東京都青少年の健全な育成に関する条例での指定対象を例示すると、「販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」(第8条)となっている。2011年7月1日以降は新たに「強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張するように描写し、又は表現する」ものも不健全図書指定の対象となる。
なお日本は刑法175条(わいせつ物頒布罪)によって、性交描写やポルノ図書を頒布、もしくは頒布を目的として所持することを処罰の対象としている。日本で合法として販売されている性行為描写で表本と言われる物は、倫理審査団体の自主規制によって性器にモザイク処理等様々な手法でぼかしがかけられる。
指定に当たっては、出版物本体にあたる印刷物だけでなく付録として添付されるCD-ROM等の中身も審査の対象となるため、一時は本誌にはわいせつな内容が全く含まれないパソコン雑誌が「付録CD-ROMの中にわいせつな画像が記録されている」という理由で有害図書指定される例も相次いだ。このため出版社によっては、成人向け雑誌部門を別会社として切り離したり、有害図書指定取り消しを求める訴訟に発展するケースも見られた(後述)。
一部の都道府県ではゲームソフトも有害図書制度の対象とされており、神奈川県では『グランド・セフト・オートIII』が有害図書に指定されている(その後、大阪府などいくつかの都府県でも指定された)。
最高裁における合憲判断
青少年の健全な育成を目的に、わいせつ性や残忍性をもった雑誌などを、「有害図書」などに指定することで、青少年への販売や自動販売機への収納、コンビニエンスストアでの販売などを禁止するといった青少年保護育成条例が地方自治体によって制定される場合がある。これも表現物の内容に着目してその発表を抑制しようというものであるから、「検閲」ないし事前抑制にあたるのではないかという議論がある。これが実際に問題となったのが「岐阜県青少年保護条例事件」(最高裁判所平成1年9月19日第三小法判決 刑集43巻8号785頁)である。最高裁は悪書が「青少年の健全な育成に有害であることは、既に社会共通の認識になっていると言ってよい」とし、またその目的達成のためにはやむを得ない規制であるとの理由からこの条例は合憲であるとした。[1]
有害図書規制の進展
- 1950年、『チャタレイ夫人の恋人』(小山書店)わいせつ文書として押収[2]。
- 1950年、岡山県議会、「図書による青少年の保護育成に関する条例(青少年保護育成条例)」可決(初の有害図書排除条例)。
- 1951年、和歌山県、青少年保護育成条例を制定[3]。
- 1951年、わいせつ出版物の取締り強化、行きすぎ事件続出で出版界代表が陳情[2]。
- 1952年、香川県、青少年保護育成条例を制定[3]。
- 1955年、神奈川県、青少年保護育成条例公布、有害図書の販売を規制。各県で条例制定の傾向強まる。
- 1955年、この頃をピークとして「悪書追放運動」が起こった。「日本子どもを守る会」「母の会連合会」「PTA」による「悪書追放運動」。同運動は、手塚治虫の『鉄腕アトム』を含む漫画を校庭に集めて「焚書」にするといった「魔女狩り」が行われる[4]。
- さらに図書選定制度や青少年保護育成法案を提唱、実質的な検閲を要求するまでにいたる。出版社側は連名でこれに反発する。この悪書追放運動は、その後も止むことなく、1950年代の後半まで続いた。
- 1955年(昭和30年)の悪書追放運動の直接的な所産としては、北海道(1955年)、福岡県(1956年)、大阪府(1956年)に青少年保護育成条例が制定され[3]、有害図書が規制された。
- 1960年(昭和35年)、宮城県が青少年保護育成条例を制定。その際に、青少年条例制定に反対して来た、宮城県児童福祉審議会委員長の中川善之助(東北大法学部教授)が、「現に(青少年条例を)制定した県の統計でも、その後少年犯罪[5]はちっとも減っていないではないか。」と言い、審議会に辞表を提出した[3]。
- 1976年(昭和51年) - 1980年(昭和55年)、自動販売機による有害図書類の販売を制限する条項の導入のために、これまで青少年保護条例のなかった都道府県でも条例の制定が相次ぎ、1980年には43都道府県で青少年条例が制定された。[3]
- 1984年(昭和59年)、自民党の三塚博政調副会長が2月14日の衆議院予算委員会で、少女向けの雑誌に対し「このような雑誌を小中学生の少女達が読んでいるのは極めて憂慮すべき問題」と発言し、具体的に「主婦の友社/ギャルズライフ」「飛鳥新社/ポップティーン」「近代映画社/エルティーン」「学習研究社/キッス」「平和出版/キャロットギャルズ」の雑誌名を取り上げた。 これにより翌日の2月15日には早くも「キッス」と「キャロットギャルズ」が廃刊を発表。また「ギャルズライフ」と「ポップティーン」は「内容を過激な性表現を抑えた平穏なものへ軌道修正する」と発表した。[6]
- 1989年(平成元年)、連続幼女誘拐殺人事件が発生、宮崎勤が逮捕され、大量のアダルトビデオを所持していたとされる報道がなされたが、宮崎が大量のアダルトビデオを所持していたとされる件に関して、漫画家のとり・みきは『月刊ニュータイプ1989年11月号』において、取材記者の手により雑誌の位置を動かす等の演出があった事を指摘している。犯人の宮崎は実際は、ホラービデオとロリコンビデオを多量に所持していた[7]。この事件の発生により、このようなものが人間に悪影響を及ぼす(「メディア効果論」参照)という風潮が高まる。
- 1990年(平成2年)、前述の風潮の煽りを受け、朝日新聞が漫画本が子供に悪影響を与えるという旨の社説を載せる[8]。まだ事件の余波も残っていた時期でもあり、和歌山県田辺市の主婦らが中心となり「コミック本から子どもを守る会」が結成され、署名運動を展開。これに各地のPTAや「親の会」が賛同、対象年齢が小学生と低めだった週刊少年ジャンプを特に非難した。黒人差別をなくす会による手塚治虫批判も同時期である。1980年代半ばから展開された性的描写の含む漫画への批判がこの運動に合流、出版社側は出版問題懇話会を設置し性的描写の自主規制に乗り出す。
- 1991年(平成3年)、東京都議会が「有害図書類の規制に関する決議」を採択、東京都青少年の健全な育成に関する条例の強化に乗り出す。
- 1997年(平成9年)、1993年(平成5年)に出版されていた『完全自殺マニュアル』が、自殺を誘発するとして有害図書指定された。
- 2006年(平成18年)、神奈川県でふたりエッチとユリア100式が過激な性描写があるとして有害図書指定。また、茨城県では多重人格探偵サイコが残虐な描写があるとして有害図書指定。
- 2007年(平成19年)、秋田県と福島県で黒鷺死体宅配便が猟奇的な描写があるとして有害図書指定。
- 2010年(平成22年)、福島県と長崎県でひぐらしのなく頃に解 祭囃し編(漫画版)が残虐な描写があるとして有害図書指定。さらに、福岡県では実話誌5誌が暴力団を過度に美化しているとして有害図書指定。また、東京都では青少年の健全な育成に関する条例が改正される。
- 2014年(平成26年)、福島県でTo LOVEる -とらぶる- ダークネス第9巻をお色気描写が強すぎるとして有害図書指定。また、東京都では妹ぱらだいす!2(漫画版)を過激な性描写があるとして不健全図書指定。また、7月に東京都は八月薫のたまらない話、褐色のマーメイドの2作品を不健全図書指定。
流通業界の対応
出版業界の主要4団体が1963年(昭和38年)に設立した出版倫理協議会では、1965年(昭和40年)に自主規制ルールとして「東京都の不健全図書(有害図書)として連続3回、もしくは1年間に5回以上指定された出版物(雑誌)は、特別な注文等がない限り取次業者では扱わない」というルールを定めており[9]、そのためこのルールに該当した出版物は事実上一般書店での販売が困難となる。その場合出版社は成人向けに限定した形でアダルトグッズショップや直接販売などの通販・チャンネルで販売を継続するか、もしくは廃刊・絶版するかの選択を余儀なくされることがある。
また大手コンビニチェーンや書店の中には「前記の取次停止ルールに該当する出版物を発行している出版社の出版物は、有害図書指定されていない他の出版物も含めて一切取り扱わない」という方針を示しているところもあり、そのためコンビニ販売が主力となる雑誌類を抱えている出版社の中には、万が一の事態に備えて成人向け雑誌・書籍部門を別会社として本体から切り離す動きも見られる(例:毎日コミュニケーションズ→MCプレス)
有害図書に指定された書籍(「完全自殺マニュアル」(鶴見済)など)は、大手や一部の書店で販売されていない。また小さな書店の場合では区別陳列のスペース確保と、年齢認証などの煩雑さなどから取り扱わない場合もあり事実上の発売禁止措置、禁書指定に近い。
宝島社訴訟
2000年(平成12年)には、宝島社のパソコン雑誌『DOS/V USER』『遊ぶインターネット』の2誌が、付録CD-ROMの中にアダルト映像を含んでいるという理由で、東京都から3回連続で不健全図書指定を受けた。これに対し宝島社は同年11月、「不健全図書制度は日本国憲法の定める表現の自由を侵害している」という理由で不健全図書指定の取り消しを求める行政訴訟を東京地方裁判所に起こした。
2003年(平成15年)9月、東京地裁は「青少年保護のためには知る権利に一定の制約も必要」として同社の請求を棄却する判決を言い渡した。これを不服とした宝島社は東京高等裁判所に控訴したが、翌2004年(平成16年)6月、東京高裁は控訴を棄却。宝島社はこれに対して上告を行わず、不健全図書指定の取り消しはならなかった。
また宝島社は不健全図書指定に対抗する目的で、一時休刊に追い込まれていた前記の2誌を2001年(平成13年)4月より直販の形で復刊させたものの、採算ラインを大きく割り込み続ける結果となり翌年には再び休刊を余儀なくされた。
日本以外での有害図書
- アメリカ合衆国
- アメリカ合衆国においては1996年に児童に悪影響を与えるとして、インターネット上でのポルノ画像の配布を禁止する「通信方位法」成立申請書を合衆国最高裁判所に提出したが、憲法違反により無効になっている。[10]
- カナダ
- カナダでは、ラディカル・フェミニズムのポルノ敵視の思想の影響で、性行為が一切描かれていない本でも、人を性的に侮辱する表現があるように思われる書籍(児童への性的虐待の問題提起をする本を含む)が禁止されている。同じラディカル・フェミニズムのポルノ敵視の思想は、ドイツ、フィリピン、イギリス、ニュージーランド、スウェーデンに影響を与えている[11]。
- ドイツ
- ドイツでは青少年保護法により「戦争を賛美するもの」なども有害図書とされ青少年に対する提供、販売、広告が禁止されている。また、ナチスに関係する物事・人物などを描くものは内容に関わらず検閲対象となる。
- オーストラリア
- オーストラリアでは「ハリーポッター」(J・K・ローリング著)を「魔法を助長する有害図書である」として、一部の学校図書館では禁書処分にされている[12]。
- ニュージーランド
- ニュージーランドでは政府映像審査機関によりアメリカのPCゲーム「ポスタル」がマイノリティに対する差別的な表現やジェノサイドの表現が含まれている為、発売禁止処分となった。また、日本のアニメ作品「ぷにぷにぽえみぃ」が過激な性的描写を含むポルノ作品だと判断され、発売禁止処分となった。[13]
文献
脚注・出典
関連項目
- 検閲
- 禁書
- 焚書
- 発禁
- モザイク処理
- 表現の自主規制
- 有害情報
- 国家保安法
- わいせつ物頒布罪
- 青少年保護育成条例
- 東京都青少年の健全な育成に関する条例
- 日本における検閲
- 俗流若者論
- 沙織事件
- 松文館裁判
- 有害コミック騒動
- 悪書追放運動
- 白ポスト
- 不謹慎ゲーム
- 残酷ゲーム
- アダルトビデオ
- アダルトゲーム
- 成人向け漫画
- 日本ビデオ倫理協会
- ヤン・ウェンリー - 小説『銀河英雄伝説』の主人公で軍人。士官学校時代の部活動は「有害図書愛好会」だった。
- 尼崎児童暴行事件 - 親が所有していたアダルトビデオを見て影響を受けた加害者が、同級生の女子児童に性的暴行を加えた事件。
- ↑ テンプレート:Cite 判例検索システム
- ↑ 2.0 2.1 テンプレート:Cite web
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 奥平康弘『青少年保護条例・公安条例』学陽書房1981年ISBN 9784313220072
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 朝日新聞1984年3月14日(朝刊)
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 1990年9月4日、朝日新聞・社説『貧しい漫画が多すぎる』
- ↑ 「帯紙措置」および「要注意取扱誌」の実施 - 日本雑誌協会 日本書籍出版協会50年史・p.142
- ↑ わいせつ画像等の流布などを禁ずる「通信品位法」に米最高裁が違憲判決
- ↑ 『ポルノグラフィ防衛論』(ナディーン・ストロッセン)(2007/10)ISBN 9784780801057
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ Puni Puni Poemy: Banned in New Zealand