可変電圧可変周波数制御

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山積されている使用済みのVVVF装置(東京総合車両センター

可変電圧可変周波数制御(かへんでんあつかへんしゅうはすうせいぎょ)とは、インバータ装置などの交流電力を出力する電力変換装置において、その出力交流電力の実効電圧周波数を任意に制御する手法である。

日本では、鉄道車両交流モータ駆動方式として、可変電圧可変周波数を英語直訳した"Variable Voltage Variable Frequency"の頭文字をとって、VVVF制御(ブイブイブイエフせいぎょ、もしくは、スリーブイエフせいぎょ[1])と呼ぶが、鉄道分野以外で一般に「電動機の可変速駆動制御」などと呼ばれるものに含まれる。家電分野ではインバータ・エアコンなどに使われる。

なお、概要の項で示される通りVVVFは和製英語であり、英語圏では主にAVAF (Adjustable Voltage Adjustable Frequency) と言われる。

をそれぞれ参照

概要

電力変換装置の出力電力手法には可変電圧可変周波数制御のほかに、定電圧定周波数制御(CVCF制御)、可変電圧定周波数制御(VVCF制御)、定電圧可変周波数制御(CVVF制御)がある。

電気鉄道では交流電圧波形のピーク-ピークが架線電圧までは周波数と電圧を比例させ(VVVF制御領域)、架線電圧に到達後は誘導電動機ではスベリを増やして定出力とし、スベリ限界以降はトルクが速度の2乗に反比例する特性が基準になる(CVVF制御領域)。このVVVF制御された出力特性は弱界磁制御を行う直流直巻モータの特性に酷似している[2]静止形インバータ(SIV)はCVCFとされるが、定電圧制御を行うものはVVCFに帰還制御を施したとも言える。

この制御で得られる可変電圧可変周波数の電力は、交流電動機可変速駆動する目的で使われる。そのため、電力変換装置に接続された交流電動機を可変速駆動する制御方式を指すことがある。

このような出力や電動機制御を実現する鉄道用インバータ装置をVVVFインバータと呼ぶ。VVVFは和製英語である。中国韓国などでは、日本メーカの呼称の影響を受けてこう呼ぶ場合もある。

この技術は鉄道車両電車電気機関車)、自動車電気自動車ハイブリッドカー)、エレベーターといった輸送用機器やファンポンプ、空調設備、圧延機などさまざまな産業用機器、さらには家庭用電気機械器具家庭用エアコン冷蔵庫洗濯機他)などで広く利用される。

PAM」、「PWM」というのは直流から任意の交流疑似正弦波波形を生成する方式に使用され、前者がパルス振幅を変えて交流波形を生成する(パルス振幅変調)もの、後者がパルス幅を変えて交流波形を生成する(パルス幅変調)方式でありPAMは電圧を昇圧(降圧)させる部分と交流に変換するインバータ部で構成される。 PAMは装置がやや複雑になるため今は鉄道車両では使われていない。PWMは多くのインバータ制御で使われており従来の多段合成変圧器を用いた正弦波インバータより小型高効率にすることが可能である。

大電力のVVVF制御に多用される方式である、「3レベルインバータ」は耐電圧の低い素子を使用するために電源の中間電圧レベルを供給する回路方式であるが、動作としてはPWMである。これに対して直流電源電圧をオン-オフする元々の単純な方式を「2レベルインバータ」と言い、高電圧用の半導体素子の開発に伴い2レベルインバータに回帰し始めた。

回生制動時には電力の通過方向が逆になり、実質コンバータとして働いている。

交流での回生制動を可能にする交直変換回路として整流部にPWMコンバータが用いられるようになったが、それは力行・回生双方向性を持ち、力行時にはコンバータとして使用しつつ、回生時にはインバータとして使用する必要があるためである。

IGBT以前では2レベルがほとんどであった。例外として、黎明期のGTO素子は高耐圧なものがなかったために3レベルとしたインバータもある。東急6000系電車(初代)などが該当する。また、JR系東日本209系920番台電車では従来の大電流の平型GTOサイリスタに代わり、冷却装置に取付ける際の絶縁を考慮しなくて済む低耐圧モジュール型GTOを使用して、装置のコストダウンやメンテナンス性の向上を図っている。

沿革

VVVF制御は、交流電動機誘導電動機同期電動機)を可変速駆動するためのインバータの制御技術である。特にかご形誘導電動機は構造が簡単なため、保守のコストが非常に少なく、電動機自体の価格も安い、という利点があることが古くから知られていたが、回転速度(回転数)を電源の周波数に依存するため、長らく可変速度を必要とするものでの使用は困難であった。

かご形誘導電動機の速度制御には、インバータ開発以前にも極数変換によるものがあったが、これは連続的な速度制御はできなかった。インバータの出力電圧と周波数を連続的に変化させる可変電圧可変周波数制御が、交流電動機の連続的な速度制御を実現した。これは、近年の半導体技術、特にパワーエレクトロニクスの進歩に伴い、高速・高耐圧・大容量の制御素子が開発されて実現可能となったものである。

1960年代後半頃から、ファンポンプや抄紙機など産業用途での利用が始まり、1970年代後半から1980年代前半には鉄道エレベータ1990年代には冷蔵庫エアコンなど家電機器でも利用されるようになった。

後に、汎用インバータも価格が下がり、送風機などでは風量や静圧調整のためプーリー交換やモータ交換をするよりインバータ制御で調整した方が安価になっている。

なお、ブラシレスDCモータの可変速制御回路も回路的にはインバータと全く同じであるが、モータが同期モータで「すべり」がないため、正確に回転子の位置をフィードバックしないと同期がずれ(いわゆる「脱調」現象)を起こし、停止する。

使用される電動機

主としてかご形三相誘導電動機巻線形三相誘導電動機の制御に使用される。2000年代後半に入り、駆動周波数と回転周波数がほぼ正確に一致しオープンループ制御が可能となる高効率な永久磁石同期電動機(PMSM)や大容量な電磁石同期電動機が徐々に使用されつつある。ただしこれらは電動機1つにつき主制御器(インバータ)1台が必要な個別制御でなければまともに駆動できず、重量、設置面積(この2点は、同期電動機に積極的な東芝が1つの機器箱に2つの主制御器を収める2 in 1と呼ばれる手法で軽減している)、価格、主制御器の保守などの面で課題が残る。対する誘導電動機は2つ以上の電動機を一括制御することも1つの電動機を個別に制御することもできる。

同期電動機の採用例を以下に挙げる。

単相誘導電動機は以下の点で可変速運転、特に低周波数での運転に適さないこと、また同出力であれば三相誘導電動機の方が安価でありコスト面でもメリットがないことから、基本的には使用されない。

  • 一定回転数以下になると、始動用スタータコイルを制御する遠心力スイッチが動作しなくなり始動動作を繰り返す。
  • コンデンサ始動式では低電圧時十分な進相電流を流すことができず、ある点で突然始動するか過電流で異常停止する。

もっとも、単相誘導電動機を用いた既設機器を可変速運転したい需要があることも事実であり、あまり低い回転数で使えないことを条件に、ファン、ポンプ用途に限定して単相電源-単相出力のインバータが販売されている。

スイッチング素子

ファイル:PWM VFD Diagram.png
整流後の直流から三相交流を作り出す回路

可変電圧可変周波数制御では、サイリスタトランジスタといったスイッチング素子6個からなるブリッジ回路を用いて電流のON/OFFを繰り返し、パルス幅を変動させることで疑似的に三相交流を作り出す。電気鉄道の主電動機駆動用のスイッチング素子としては初期には逆導通サイリスタ(RCT)が用いられていたが1990年代初頭からはスイッチング素子の駆動回路が簡素化できるゲートターンオフサイリスタ(GTOサイリスタ)が用いられるようになった。さらに1990年代終盤以降はスイッチング速度が速い絶縁ゲート型両極性トランジスタ(IGBT)が主として用いられている。IGBTの採用により、より正弦波に近い出力が得られ、またキャリア周波数を人間にとって耳障りな周波数よりも高い領域にすることでインバータ装置や電動機の低騒音化が実現できるようになった。産業用や家電用のインバータに用いられることが多いMOS-FETやバイポーラトランジスタは、電気鉄道用としては耐圧が不足する[3]ことからほとんど使用されていない。実績を上げると、バイポーラトランジスタの一種であるパワートランジスタを利用した電車として、JR東日本901系A編成(後のJR東日本209系900番台)や同701系JR西日本207系0番台が挙げられる。

制御方式

モーター特性に合わせた制御

VVVFインバータ制御は交流モーターである誘導電動機や同期電動機の基本特性に合わせ、その回転数・周波数にほぼ比例した電圧を加える制御方式である。

従前は供給電源の周波数を自由に変えられる装置が簡単には構成できなかったため、電圧を何段階かに切り換えたり、巻線の結線を変え、あるいは回転子のコイルにスベリ周波数に見合った直列起動抵抗を挿入して最大トルクを得る様に調整するなど、電気特性的にはイレギュラーな簡易的起動方法を採用して、起動後の定常運転状態では軽負荷で使っていた。商用周波数での起動の困難のために無用に大出力の電動機を採用していた。

ファイル:Emf 3vf.gif
電動機の1相誘起電圧と回転数

しかし、大電力用半導体素子の発達でインバーターとして自由な周波数と電圧を生成できる様になったことで、モーター特性に合わせた電力供給が実現されて定常運転出力にあった小型のモータを採用できるようになった。

今、鉄心の磁気飽和による最大磁束以下の Φm に励磁された回転子が回転数 n で回転していた場合、固定子に巻かれたコイルには最大Φm のほぼ正弦波の磁束が鎖交する。コイル誘起電圧 <math>e</math> は磁束の変化率( = 微分値)×巻数 N である。すなわち、 鎖交磁束を

<math>\phi e=\phi m\cdot \sin \theta \ </math>・・・・<math>\ (\theta = 2\pi nt)</math>

とする時、(Φに付くe,mは添数)

<math>\sin (2\pi nt) \, </math> の時間微分(変化率)は、 <math>2\pi n\cdot \cos (2\pi nt)</math> であるから、 誘起電圧eは

<math>e=2\pi Nn\cdot \cos (2\pi nt)</math>

となって、一定磁束なら誘起起電力eは回転数 n ,周波数 f に比例することが分かる。「e/f が一定」とも言える。

モーターの端子電圧 = 供給電圧はこれに巻線抵抗などのインピーダンス電圧降下分を加えたもので平衡するから、それをインバータで生成する方式がVVVFインバータ制御と言われるものである。常に最大トルク付近や最大効率を追えるので、使用する交流モーターを従前よりかなり小型化でき細かな制御ができるようになった。そのためエアコンなど家電製品でもインバータ方式( = VVVF方式)が主流になりつつある。

電圧/周波数 ( V/f ) 一定制御

設定されているシーケンスで電圧/周波数を連動させて制御する。

特徴

  • 制御回路が単純で安価である。
  • 外乱による変化に対応しにくい。

用途

  • ファン・ブロワ・圧縮機・ポンプなど、2乗低減トルク負荷の部分負荷時の省エネルギー用。

(回転部センサ付き)トルクベクトル制御

回転部に回転数センサ( パルス発信器など)・回転子位置センサ(ホール素子など)を取り付け、その計測結果に基づいて電圧・周波数・位相などを適切に制御し、目的とする回転数・トルクを得る。

特徴

  • 精密なトルク・回転数・位置制御が出来る。
  • センサの保守が煩雑である。

用途

(回転部)センサレス・トルクベクトル制御

回転部のセンサを省略し、代わりに各巻線電流の大きさと位相で、トルクと回転数を推定し、それに基づいて電圧・周波数を変化させ、目的のトルク・回転数を得る。

特徴

  • センサの保守が必要ない。
  • 鉄道車両等の、電動機の外形寸法に制約のある用途では、センサがなくなった分だけ大型の電動機を用いることができ、大出力化が可能になる。
  • トルク・回転数推定のための、高速な演算回路が必要である。
  • 制御回路に電動機・負荷の特性が正しく設定されていないと、制御が乱れる。

用途

  • クレーン・ハイブリッドカーなど、大きな始動トルクが必要な負荷用。
  • タンクレス給水用ポンプなど急速起動が必要な用途。
    • その後、鉄道車両の主電動機にもセンサレス制御が用いられるようになってきている。

日本国内の鉄道におけるVVVFインバータの利用

歴史

世界で初めて営業運転に投入されたVVVFインバータ制御車両は、1979年に就役した西ドイツ国鉄(現・ドイツ鉄道120型電気機関車と言われている。

国鉄・JRにおける取り組み

日本国有鉄道における無整流子電動機駆動方式の開発としては、1972年(昭和47年)12月にクモヤ791形交流試験電車を用いて、同期電動機と(サイリスタモーター)とサイクロコンバータを用いての試験が実施されている。試験にあたっては勾配条件などを考慮して日豊本線柳ヶ浦 - 杵築間約30kmの区間で行われた[4]日立製作所富士電機製の機器が使用され、試験の結果は良好だったが機器の大きさや重量面において大きな問題が残された。

その後、1979年(昭和54年)から翌1980年(昭和55年)にかけて青函トンネル電気機関車を想定した悪条件下での走行時における信頼性確保や保守性の向上のため、サイリスタコンバータとPWMインバータ、大出力の650kW出力誘導電動機2台が試作製造され、試験台試験(台上試験)を実施している。装置は日立・三菱東芝3社のもので、素子には逆導通サイリスタ(RCT)が採用された。試験結果は良好であったが、青函トンネル開業時期の遅れと国鉄の財政悪化などから採用は見送られた[4]。なお、ここまでの試験は無整流子電動機への取り組みであり、厳密にはVVVFインバータ制御とは直接関係しない。

そして、1984年(昭和59年)には将来の北陸新幹線など次世代新幹線への採用も視野に入れたVVVFインバータ制御の試験として、在来線用システムとしてのGTOサイリスタ素子を使用したVVVFインバータ装置と誘導電動機など機器一式を用意し、試験台試験(台上試験)を実施した。この試験結果を受け、実際に装置一式を車両に艤装して走行試験を実施することになった。

試験車となったのは廃車となる101系2両で、装置一式(GTOサイリスタ素子を使用したVVVFインバータ装置など)を床上艤装し、1985年(昭和60年)12月から1986年(昭和61年)1月までの期間を2回に分けて試験が実施された。試験車は国鉄浜松工場で構内走行試験後、東海道本線静岡 - 豊橋間で本線走行試験を実施した。なお、試験を2回に分けたのは、国鉄では在来線用の通勤形電車から高速走行をする新幹線車両まで多様な車両が必要なことから、主電動機には特性の異なる4種類8台の誘導電動機(いずれも150kW出力)が用意され、これらの試験を実施するためであった[4]

その後、国鉄の分割民営(JR)化を控えた1986年(昭和61年)秋に落成した207系900番台でVVVFインバータ制御が正式採用した試作車が完成した。その207系900番台はJR東日本に引き継がれたが、東日本を含むJR各社でのVVVFインバータ制御の本格的な採用は私鉄にやや遅れ、1990年以降となる。

JR各社のVVVFインバータ制御量産形式の第一号(在来線)

新幹線では、1990年に東海道新幹線300系電車の試作車が作られ、1992年から量産が開始された。その後、各新幹線の車両はVVVFインバータ制御へ移行している。

私鉄・公営交通における取り組み

一方で、旧国鉄での開発と並行し、各電機メーカーで1975年(昭和50年)頃から大手私鉄公営交通と手を組んだ開発が盛んとなり、特に日立製作所東洋電機製造三菱電機東芝が下記のとおり相次いで現車試験を実施している。

1978年(昭和53年)11月に、帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄 = 東京メトロ)千代田線において6000系1次試作車に日立製作所製のVVVFインバータ装置(逆導通サイリスタ(RCT)素子を使用)と130kW出力のかご形三相誘導電動機を搭載した現車試験が実施された。これが日本国内における最初のVVVFインバータ装置を搭載しての走行試験である。

その後、1980年(昭和55年)春には日立製作所水戸工場で東京急行電鉄から譲渡されたデハ3550形にVVVFインバータ装置(逆導通サイリスタ(RCT)素子を使用)を搭載して構内走行試験が実施されている。また、同年6月には東洋電機製造が相模鉄道6000系にVVVFインバータ装置(逆導通サイリスタ(RCT)素子を使用)を搭載して同線で現車試験を実施した。

また、1981年(昭和56年)7月から翌1982年(昭和57年)4月にかけては、大阪市交通局100形に世界で初めてGTOサイリスタを使用したVVVFインバータ装置の試験が実施された。メーカーは三菱・日立・東芝3社の装置が使用された。

実用化

営業用車両としては、1982年熊本市交通局8200形電車が日本初となる(1983年のローレル賞受賞)。このインバータは逆導通サイリスタ(RCT)を用いたものであったが、一般的なゲートターンオフサイリスタ(GTO)素子による初のVVVFインバータ搭載車両は、1984年に登場した大阪市営地下鉄20系電車(2代目)となる(高速鉄道としては日本初。しかし、試験が長引いたため、営業開始日順となる下表では4番目にある。また両車は後に絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)素子に交換されている)。

架線電圧1500Vでの初のVVVFインバータ制御車両は東急6000系電車のVVVF改造車である。1983年にデハ6202に日立製作所製2500V耐圧型GTO素子VVVFインバータ2台(電気回路はそれぞれ直列つなぎ)を搭載して各種試験を経て、1984年7月25日から大井町線で営業運転が開始された。その後、1985年にはデハ6302に東芝製VVVFインバータを、デハ6002に東洋電機製造製VVVFインバータを、1983年に改造された6202に4500V耐圧型GTO素子VVVFインバータを同時に改造した。

新車としては1984年の近鉄1250系電車1251編成(現・近鉄1420系電車1421編成)が最初だが、試作として2両編成1本が製造されたのみである。本格的な量産は、1986年の新京成電鉄8800形電車東急9000系電車辺りからで、これをきっかけに多くの大手私鉄や地下鉄にインバータ車両の試験導入を経て本格的な導入が開始された。

IGBT素子を利用したインバータ搭載車両は1992年営団(現:東京メトロ)06系電車07系電車が初となる。またJR西日本207系電車0番台とJR東日本701系電車、及びJR東日本901系電車A編成(後に209系電車900番台に改造されたが装置は三菱電機製のGTOに取り替えられた)ではパワートランジスタ素子を使用したインバータが採用されている。

1990年代以降、日本での新造電車は路面電車から新幹線に至るまでVVVFインバータ制御が主体となった。近年は東京メトロ6000系電車小田急8000形電車など、既存のチョッパ・抵抗制御車の電気機器をVVVFインバータに交換改造したり、果ては伊予鉄道3000系電車えちぜん鉄道MC7000形のようにJR・大手私鉄から地方の中小私鉄・第三セクター鉄道への中古車両の譲渡に際して、電気機器をVVVFインバータに交換改造した例も出現している。

一方、実用初期に製作された車両は、新造から20年以上経過したことから、半導体素子の経年劣化による制御装置の交換や、一部には廃車・解体された車両も出ている。

初期のVVVF制御車両一覧

日本初の熊本市交通局8200形電車(1982年)から1986年までに登場のVVVF制御車両一覧。

鉄道事業者 形式 電気方式 営業開始 両数 備考
熊本市交通局 8200形電車 直流600V 1982年8月2日 2 路面電車、1電動機、三菱RCT素子 現在はIGBT素子に交換
東京急行電鉄 6000系電車(初代)(廃系列) 直流1500V 1984年7月25日 3 実用化試験車として、形式内の一部を改造。1電動機
近畿日本鉄道 1250系電車(現・1420系電車 直流1500V 1984年10月 2 直流1500Vとしては日本初の本格的VVVF車 三菱GTOサイリスタ素子
大阪市交通局 20系電車(2代) 直流750V 1984年12月24日 *96 第三軌条式地下鉄としては日本初のVVVF車(大阪市営地下鉄中央線谷町線(現在は撤退)・近鉄けいはんな線専用) 現在は日立IGBT素子に交換
西武鉄道 8500系電車 直流750V 1985年4月25日 *12 新交通システム初のVVVF車(山口線用) 現在はIGBT素子に交換
札幌市交通局 8500形電車 直流600V 1985年5月13日 2 路面電車、RCT素子
阪急電鉄 2200系電車(形式消滅) 直流1500V 1985年 2 形式内の一部(2720・2721)、VVVF試験車、東芝GTOサイリスタ素子
新京成電鉄 8800形電車 直流1500V 1986年2月26日 *96 直流1500Vとしては世界で初めて長編成を組み、関東地方初の本格的VVVF車 三菱GTOサイリスタ素子
近畿日本鉄道 3200系電車 直流1500V 1986年3月1日 *42 三菱GTOサイリスタ素子
東京急行電鉄 9000系電車 直流1500V 1986年3月9日 *117 日立GTOサイリスタ素子
小田急電鉄 2600形電車(廃系列) 直流1500V 1986年3月17日 1 形式内の一部、改造
近畿日本鉄道 6400系電車 直流1500V 1986年3月 *66 南大阪線専用 日立GTOサイリスタ素子
東京急行電鉄 7600系電車 直流1500V 1986年5月1日 *9 改造 東洋GTOサイリスタ素子
北大阪急行電鉄 8000形電車 直流750V 1986年7月1日 *70 第三軌条地下鉄(自社線・大阪市営地下鉄御堂筋線) 東芝GTOサイリスタ素子
近畿日本鉄道 7000系電車 直流750V 1986年10月1日 *54 第三軌条地下鉄(けいはんな線大阪市営地下鉄中央線専用) 三菱・日立GTOサイリスタ素子。量産先行車は1984年7月製造。順次日立IGBTに交換
日本国有鉄道(国鉄) 207系電車900番台(廃系列) 直流1500V 1986年11月 *10 国鉄としては唯一
なお、JR化後にJR西日本が同名の系列を造っている(互換性は全くない)ため、「廃形式」ではなく「廃区分番台」とされることもある。
阪急電鉄 7300系電車 直流1500V 1986年 1 形式内の一部(♯7310)。京都線用 東洋GTOサイリスタ素子 後に登場する8300系の初期3編成と酷似した制御装置である 

全車両がVVVF制御(車輌数に「*」が付いているもの)の形式には、両数に付随車を含む。一部車両がVVVF制御の形式には、両数に付随車を含まない。

利点

  • 従来の抵抗制御やチョッパ制御に比べて、エネルギー使用効率の向上(省エネルギー)が可能。一例として、JR東日本の209系電車では、「103系電車に比べ47%の消費電力」と喧伝されている。
  • 回転数の制御が事実上無段階で可能であるため、加速・減速時の衝動を軽減できる。
  • 従来の制御方式と比較してきめ細やかなトルク制御が可能であり、粘着力の向上とそれによる動力軸数の減少、あるいは実効出力の高い交流電動機の使用と相まって加減速性能、更には高速性能の向上が可能である。
    • したがって、電動車付随車の比率(MT比)を小さくできるため、電動車1両あたりの製造コストが若干上昇したとしても、編成全体では低コスト化が可能である。
    • 電動車比率の低下は、省メンテナンス化にもつながる。
    • なお実用化初期の段階では変調の度に軽微なトルク変動が発生する例が多かったため、粘着性能が電機子チョッパ制御より劣るという評価も見られた。実際にこの段階で製造された装置を使用している車両は、降雨時などに空転滑走が起きやすい。
  • 実際の回転数が目標回転数から外れた場合にはトルクが低下するという誘導電動機の特徴から、空転時の再粘着性にも優れる。
  • 全体的な省メンテナンス化
    • 誘導電動機は直流電動機のような消耗品のブラシがないため、定期的なブラシの交換が不要。
    • 前述のようにMT比の低下による全体の省メンテナンス化。
    • 非常ブレーキ使用時以外は、高速域から低速域までの減速を電気ブレーキ回生ブレーキ優先で行えるようになり、ブレーキパッド・ライニングの交換周期を大幅に延長でき、メンテナンスコストが低減できる。
      • 三菱電機の技術では、回転磁界を逆転させることで停止寸前のブレーキ力を得ており、純電気ブレーキという商品名で呼んでいる。
      • 日立製作所の技術では、電動機に直流電流を流すことで停止寸前のブレーキ力を得ており、全電気ブレーキという商品名で呼んでいる。
  • またVVVFやVVCFでは、短時間であれば連続定格出力の150%といった過負荷での使用も可能であり、鉄道用主電動機のような間欠運転が前提の用途であれば、同サイズの電動機でさらなる大出力化が可能である。

欠点

  • VVVFインバータに限らず、多くのパワーエレクトロニクス機器の問題として、高調波による電磁ノイズを発することが挙げられ、鉄道ではATC等、微小な信号電流を扱う装置に影響を与える懸念がある。(名古屋鉄道都営地下鉄新宿線においてVVVFインバータ搭載車の投入が遅れたのは誘導障害対策が大きな要因)。このため、実際の路線への導入に当たり、パワーエレクトロニクス機器の発するノイズが信号機器に悪影響を与えないよう、車両と信号機器を組み合わせて確認試験を実施し、問題のないことを確認している。特にJRや大手私鉄ではVVVFインバータの導入にあたって試作車を製造、または在来車を改造して試験車とするなどして、入念な試験が繰り返された。また発車時・停車時に発生する音が耳障り[5]であることが挙げられる。詳細は誘導障害を参照のこと。
  • VVVFインバーター装置搭載の車両に乗車しながらAMラジオを聴取すると、ラジオにインバータ音そのままのノイズが盛大に入ることもある。
    • これを補償するため、運行地域のラジオ放送の電波を増幅して室内に送り込む装置が搭載される場合がある。
    • 1990年代以降に出た新型のIGBT素子では、GTO素子と比べて動作周波数が向上したため、この2つの問題を解決できた。近年では、インバータの出力波形を調整することで、さらなる高周波ノイズの低減に努めている。
  • VVVF制御では、インバーターの設定とモーターを含めた従動側の応答性がマッチしていない場合、トルクの不安定化や発振による異音の発生などが起きることがあり、使いこなすために高い技術力を求められる。
  • 数多くの半導体を使用しているため、装置の製造から年月が経つと製造終了などで保守部品が手に入りにくくなる。このため経年劣化による故障が目立つようになると、インバーター装置を丸ごと交換しなければいけなくなる。2004年頃から初期のRCT素子やGTO素子を使用した装置がIGBT素子を使用した装置などへ更新される例が多くなっている。もっとも、この場合は技術の進歩によるメリットも得られる。また、近年は鉄道会社とメーカー間において最初から将来のインバーター装置交換も条項に入れたインバーター装置納入契約が結ばれる場合も多い。

インバータの駆動音

VVVFインバータ制御車両最大の特徴ともいえる、発車時・停車時に発生する何度も高低が変化するような音(磁励音)は、パルスモードが変化しているために発生するものである。車両発進時には、「ピーー」というような音や「ビーー」や「キーーン」という音で起動するが、その後は自動車がトランスミッションで変速するときのエンジン音のような音がする。これらの音は主にモーターから発せられ、インバータ装置自体からも「ジーー」とモーター音に合わせてスイッチング音が聞こえる場合がある。

これらの音は多種多様であり、同じメーカー・機種のインバータを搭載していても中のプログラムや設定が異なるとまったく違う音を立てる。GTOでは近鉄のGTO-VVVFインバータ車のほとんどが[6]、また小田急1000形の一部や新京成8800形JR東日本209系910番台IGBTではJR西日本223系2000番台1次車の東芝製制御装置車、また近鉄50000系22600系阪神直通対応車のようにプログラムの更新により音が以前と全く変わった車両も存在する。

GTO素子を使用したインバータでは発車時・停車時の音を耳障りと感じる人も多いが、IGBT素子では、スイッチング周波数を高くできるため、耳障りな音色を改善できるようになった。GTOが主流だった頃も、1990年代からは音を間延びさせたりパルスパターンを減少させるなどの工夫を凝らしていた[7]

なおシーメンス製のGTO素子を用いたインバータ制御装置を搭載した車両の一部では、音階のような音が主電動機とインバータ制御装置より発せられる[8]。このことからシーメンス製のインバータ制御装置は「ドレミファインバータ」や「歌う電車」とも呼ばれる。(京急2100形電車や、JR東日本E501系電車等)

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備考

現在、電車用の直接形交流電力変換器は大電力の製品が実用化されていないため、交流電化区間に用いられる電車であっても、一旦直流に変換(整流)を行ってから、VVVFインバータを用いる制御(コンバータ・インバータ方式)を行う必要がある。小電力であれば「マトリクスコンバータ」などとして製品化されている。

おもなメーカー

脚注

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  1. 草思社「全国鉄道事情大研究」大阪都心部・奈良編 用語解説では「スリーブイエフと言う」と書かれている。
  2. モータ単独特性は電圧-回転数=周波数比例
  3. 厳密には、低損失かつ高耐圧のものが製造できない
  4. 4.0 4.1 4.2 交友社「鉄道ファン」1986年5月号記事「国鉄のVVVF車両開発」記事から。
  5. 著しい大音量による騒音ではなく、環境音より高い周波数の音であることによる
  6. 1420系(1421Fを除く)、1220系1020系5200系6400系7000系などが該当。
  7. 上の「東急2000系」または「JR西日本223系」参照。東急2000系は東急9000系と同じメーカーのものだが、1990年代のものである前者の音よりも間延びしていてパルスパターンも減っている。
  8. シーメンス・ジャパン・レールシステムズの担当者によれば、一種の「遊び心」で、ソフトウエアにより周波数を段階的に引き上げる独自技術で音階をつけたという。(京急電鉄:「歌う電車」近く姿消す毎日jp、2011年11月20日、2011年11月20日閲覧。)

関連項目