チョッパ制御

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チョッパ制御概念図

チョッパ制御(チョッパせいぎょ)とは、電流のON-OFFを繰り返すことによって直流または交流電源から、実効値として任意の電圧電流(一般的には直流、交流の場合も含まれる)を擬似的に作り出す電源回路の制御方式である。「チョッパ」(chopper) とは英語で「切り刻むもの」の意であり、電流(電圧)を切り刻んでいるかのように制御している意味である。主に電車の主電動機の制御や直流安定化電源(ACアダプタ)等に用いられる。入力電圧より下げる制御を「降圧チョッパ」、スイッチング時に発生するスパイク電流を用いて入力電圧より上げる制御を「昇圧チョッパ」と呼ぶ。

スイッチング
直流入力直流出力の場合
整流器(コンバータ・順変換器)
交流入力直流出力の場合
交流チョッパ
交流入力交流出力の場合

とも言う。

概要

任意の電力を取り出す際に、抵抗制御シリーズレギュレータでは、余分な電力を「熱」として捨てているのに対し、チョッパ制御では制御素子で電流を高速でON-OFFし、必要な電力だけを取り出すため、熱によるエネルギーの損失が少ない。制御素子にはサイリスタやパワートランジスタなどを用いる。

ON-OFFを繰り返すことからノイズが発生するため、安定化電源等では2次側にノイズフィルタを用いることが多い。

一般的なチョッパ制御回路では、出力電圧・電流などに応じてON時間とOFF時間の割合(デューティー比)を変化させ、負荷が変動しても安定した出力を得られるようになっている。

電子回路においては回路が複雑になるが、直流出力の製品では必要な部品を殆どワンパッケージ化したDC-DCコンバータや、スイッチング素子やチョークコイルなど数点の部品を追加するだけでチョッパ制御回路が実現できるICが発売されている。商用電源-直流出力の製品においてはスイッチングACアダプタなどとして、従来のトランス式電源回路を置き換えている。

ただしオーディオ・ビジュアル家電においては、スイッチングによるノイズを嫌って、あえて従来のトランスやシリーズレギュレータ等を用いた電源回路が採用される事がある。

鉄道車両におけるチョッパ制御

鉄道車両においては、加速時には降圧チョッパとして動作させ、速度に応じてON時間とOFF時間の割合(デューティー比)を増加させて平均電圧を上げていく。減速時は昇圧チョッパとして動作させ、回路の電圧を架線電圧より高めることで電動機が発生させた電力を架線に流し、回生ブレーキを実現する。速度が落ちると電動機が発電できる電圧も落ちるため、やはりデューティ比を上げて常に架線電圧以上の電圧を確保する。このとき、架線電圧を大幅に上回ってしまわないよう、抵抗器や専用の降圧チョッパ(ブレーキチョッパ)を挿入してから架線に戻すこともある。装置によっては、雨などによって加速中に空転が発生した場合に、それを検知してデューティー比を一時的に下げて粘着性能を確保する機能も搭載されている。また電圧を断続的に変化させそれに応じた電流を直流電動機に流しているので、電動機の性能上できるだけ直流に近い電流を供給する為、リアクトルと呼ばれるコイルを電動機に直列に接続したり、電動機にフライホイールダイオードを逆並列に接続して無加圧時(チョッパのOFFの時間)に循環電流を電動機との間に流して直流に近い電流としている[1]

1968年営団千代田線6000系電車(一次試作車。電機子チョッパ制御)で初めて使われた。

電機子チョッパ制御は最も電流の大きい回路で使用されることから装置が大型、高価、誘導障害対策が必要なため量産採用されたのはかなり珍しい部類である。特に4象限チョッパ装置ではパワーブロックが2組必要でVVVFインバータ制御と大差無い機器構成のため、多くが増備の段階でVVVF方式に設計変更されているが、京都市交10系や都営10-000形のようにそのまま増備された例もある。ブラシのある直流モーターを使用するため、VVVF方式で使う各種交流モーターに比べて省メンテナンス性で劣る。そのため近年新車としてチョッパ制御を採用された車両は皆無に等しい。

鉄道車両用装置はどの回路をスイッチングするかによってそれぞれ名称が異なる。詳しくは関連項目を参照されたい。

搭載車輌

試作されたが量産されなかった車両は多数ある。

    • 近鉄3000系(廃車) 京都市営地下鉄10系に準じた機器であったが誘導障害が生じた
    • 阪急2300系の改造車 (2311/2331)

これら電機子チョッパを採用した車両は、通電時にチョッパ装置よりブザーのような一定周波数発振音を発する。

脚注

  1. 伊藤一夫 鉄道メカニズム図鑑 P187
  2. パワートランジスタは耐圧・耐電流容量が低いため

関連項目