ライトレール

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Edmonton Transit System (ETS)、エドモントン市、カナダ

ライトレール(Light rail)とは、北米の「輸送力が軽量級な」都市旅客鉄道を指す。公共交通機関の意である「トランジット」を付記し、ライトレールトランジット(Light rail transit, LRT)とも呼ばれる。和訳として「軽量軌道交通」がある。また、ライトレールの車両(vehicle)はライトレール車両(Light rail vehicle, LRV)とも呼ばれる[注 1][注 2]

ライトレールの概念は米国の機関によって作られた。この「輸送力が軽量級な」都市旅客鉄道とは、より大量輸送力を持つ本格的な鉄道[注 3]である都市高速鉄道(北米のラピッド・トランジットメトロのこと)に対比させており[注 4]、都市高速鉄道と路面電鉄(streetcar[注 5])双方の短所を克服し長所をうまく取り入れた第三の都市鉄道となっている[注 6]

なお、本項では北米以外でのライトレールの特徴を持つ都市鉄道についても説明を行う。

概念

ライトレール(Light rail)という言葉・概念は、1972年ごろ北米における新たな都市型軌道システム構築の模索時に、アメリカ連邦交通省都市大量輸送局(U.S. Urban Mass Transit Administration: UMTA)によって作られた。

その定義の大要は「大部分を専用軌道とし、1両ないし数両編成の列車が走行する、誰にも利便性が高く低コストで輸送能力の高い都市鉄道システム」である。大半が専用軌道になっており、輸送力等の点ではラピッド・トランジットなどに比べると多少劣りながらも、低コストな敷設で都心部と郊外を結び、高頻度な直通運行を行っている。都心部の走行区間が併用軌道になっていることがある点は、ヨーロッパのトラムトレインに似たシステムといえる。 日本では次世代型路面電車システムをライトレール(LRT)ということがあるが、本来のライトレールは、次世代型路面電車の特徴である併用軌道の走行・低床車両・新型車両の導入・都市計画との密接な連携、などを謳うものではない。

北米のライトレールは1両の全長はおよそ25~35m(連節構造)で、2~3両を連結している。都心の併用軌道などの区間を除けば80~100km/hに達する速度で運行される形態が多く[注 7]、車両は都心部の走行にも対応する特徴(連節構造、車体幅等)を持つ[1]

非英語圏にライトレールと同様の概念の鉄道があるとは言えないが、イギリスでライトレールなどの情報をまとめている第三者団体、ライトレール交通協会(Light Rail Transit Association : LRTA)はライトレールに形態が近い鉄道として各国の都市鉄道の例をあげている[注 8]

英語圏のライトレールに近い形態の各国の軌道交通は、ドイツではシュタットバーン(英語版)"都市の鉄道"と言い、オランダではテンプレート:仮リンク、ベルギーではテンプレート:仮リンクと言う。フランスではテンプレート:仮リンクとされているが、この名で呼ばれる軌道交通はそれほど多くなく、フランスでは「トラムトレイン」がライトレールに似た交通機関であると認識されている。なおフランス国内の路線で、LRTAがライトレールに相当するとして分類したのは、パリ郊外のトラムT4路線フランス国鉄の専用軌道路線、トラムトレイン)のみである。 

使用される車両は、車体幅が2,300~2,700mm程度、編成の長さはおおむね30~90mである。またドイツのシュタットバーンは、平均速度は29km/hなっている。[注 9]

LRTAは、日本の江ノ島電鉄広島電鉄宮島線筑豊電気鉄道京福電気鉄道(嵐電)、東急世田谷線阪堺電気軌道の6路線をライトレールに相当する鉄道として分類している。これに対して富山ライトレールは「トラムトレイン」に、また地方鉄道路線の多くは「Electric light railways(電気軽便鉄道)」に分類している。

ライトレールは、北米都市のトランジットモールの公共交通機関として走行する事例があることから、日本ではこの2つをセットで紹介することが多いが、ライトレールの都心走行区間がトランジットモールとなっている例が特に多いわけではなく、またトランジットモールもバスや路面電鉄による実例が多い。

歴史

西ドイツ

ライトレールの性格・特徴を持つ路線は、西ドイツの一部の都市で1960年代後半から現れ、ドイツではシュタットバーンと呼ばれる。西ドイツでも第二次世界大戦後は、車の普及に伴う路面電鉄(シュトラーセンバーン)の都市内路線廃止が進んだが、しかしその中でも、連節電車の大量投入・信用乗車方式の導入など、路面電鉄および郊外路線の増強を行っていた。

シュタットバーンは、更にその方向性に沿い旧来の路面電鉄のレベルから飛躍を遂げる高規格化改良に取り組んだもので、路線の専用軌道化・標準軌化及び信号装置改良などによる定時制の確保と高速化及び大輸送力化、車輛の高性能化(高出力化・高床化など)を行った。また都心部だけを地下化することが比較的多い。これらの方策は、西ドイツ各都市の人口は100万人以下であるため、通常規格の地下鉄を新設し全面的に地下化を行うのでは費用対効果が悪いためである。高床車両に対応させるためにプラットフォームを高くすることも進められた[注 10]

このようなシュタットバーン路線は、フランクフルト・アム・マインで1968年に開業したのが始まりである。これは郊外では路面電鉄を改良したセンターリザベーション軌道または普通鉄道だが、都心部では地下線となっている[注 11]。車両はSiemens–Duewag U2を用いた。このシュタットバーンは、以降ケルンのシュタットバーンボンのシュタットバーンエッセンデュッセルドルフシュトゥットガルト[2]など、各地で開業した。

北米

これに対してライトレールという言葉を作ったアメリカでは、1970年代初頭は車社会化が過度に進んでいた。既に、路面電鉄や都市間電鉄(インターアーバン)は全盛期(1920年代初頭)の4割が廃止され、残存していた6割もゆっくりだがマンネリ化が進んでいた。しかし経済格差のあるアメリカでは、低所得者層の交通手段確保が社会政策上必要であり、新たな軌道システムの構築を模索し西ドイツを学ぶ中で作られた言葉がライトレールである。この言葉には、旧来の路面電鉄(米国では"streetcar")のレベルから飛躍を遂げて鉄道("rail")に属する軌道交通であることを強調したい意図を込めている。

北米のライトレールは、1978年にカナダ・アルバータ州エドモントンで開業したのがはじまりで(エドモントンLRT)、続いて同じくカルガリー(1981年開業。C-Train)、そしてアメリカ・カリフォルニア州サンディエゴ市(1981年開業。San Diego Trolley)で開業した。これらは、上述のSiemens–Duewag U2の車両を用いた。サンディエゴ市では、低いプラットホームからこの高床車両へ乗降するために、乗降口にステップを設ける改良を施した。

北米のライトレールがドイツのシュタットバーンと多少異なる点は、多くが全線新規開業の路線であり(廃線跡地の再利用も含む)、また都心部路線は地下線のものが少なく、併用軌道のものが多いことである。またプラットホームはかなり低いタイプの都市が多い。また都市政策的な側面から都心部は無料となっているものが見られる。例えばワシントン州タコマのライトレールは、2.6kmの全線が無料で利用できる[3]。同路線の運営はすべて市民からの税収(売上税)で賄われている。ポートランドTriMet Metropolitan Area Express (MAX) のライトレールも中心部路線は2012年8月31日まで無料で利用できた[4]

マサチューセッツ湾交通局(MBTA、ボストン)のグリーンラインサンフランシスコ市営鉄道MUNI Metroでは、1980年前後よりBoeing-Vertol社製造のライトレール車両(US Standard Light Rail Vehicle)を導入し既存の路面電鉄路線(都心部は地下走行)に対する高規格化を図った。なおこのライトレール車両は車両設計製作陣の経験が乏しい等が原因で、実運用成績はそれほど優れていなかった。

近年は、北米のライトレールには70%低床車両の導入も進みつつある。ポートランドMAX では1997年よりシーメンス製のSD660を導入している。また大手車両メーカーによるブランド化された高速型低床車輛の導入も進みつつある。例えば、欧州等のトラムトレインとも共通するが、シーメンスS70(アヴァント)、ボンバルディアフレキシティ・スウィフトアルストムCitadis Dualis等がある。なお近畿車輛日本車輌などの日本の鉄道車両製造メーカーも北米向けの低床型等のライトレール車両の製造に携わっている。近畿車輛は70%低床車両で大きな北米市場シェアを占めている。


各国の事例

テンプレート:See also テンプレート:独自研究

北米

北米以外

日本

日本の各都市でライトレールに近い性格を持つ鉄道がみられる。

併用軌道のない路線
  • 長野市長野電鉄。沿線の母都市となっている長野市・長野県が長野電鉄をはじめとした鉄道各線を長野都市圏の基幹交通機関として明確に位置付け、都市開発や人口分布も沿線を中心に行われるという、政策面でのライトレールの側面を持つ。特に長野線の長野都心部は都市政策的視点から1981年(昭和56年)3月1日より(都心部の軌道敷を都心環状道路へ転用するため)地下化(連続立体交差化事業)されている[5][6][7][8][9]。欧米では都市計画との連携という視点から、大型車両タイプのライトレールに類似するものとして紹介されることがあるテンプレート:要出典。なお、輸送力の面でも編成長36~60m、時間当たり3~8本程度の運行本数は、ライトレールと評するに値するものであるテンプレート:要出典
  • 静岡市静岡鉄道静岡清水線。旧静岡市・清水市の都市圏輸送兼インターアーバン路線として建設され(かつては両市内の軌道線と直通運転していた)、短編成・高頻度運転(1両約18mの2両編成・朝夕3~5分、昼間約6分間隔)や短い駅間距離、簡易な駅施設といった輸送形態等から欧米ではライトレールとして紹介されることもあるテンプレート:要出典。そして、全線複線の鉄道でワンマン運転を行ったのは静岡鉄道が日本最初である。
  • 浜松市遠州鉄道遠州鉄道鉄道線。旧浜松市・旧浜北市方面への都市圏輸送兼インターアーバン路線として建設された経緯がある。約5キロに及ぶ高架区間、短編成・高頻度運転(1両約19mの2両編成・12分間隔)や短い駅間距離、簡易な駅施設を持つ都市鉄道という形態からLRTとして紹介されることもある。
  • 東京都東京急行電鉄世田谷線。全線が専用軌道を走り、プラットホームの若干のかさ上げとともに車両も全て低床タイプのものに置き換えられている。短編成、高頻度運転、短い駅間距離、簡易な駅施設といった輸送形態はライトレール的側面を備えている。
  • 北九州市筑豊電気鉄道筑豊電気鉄道線北九州市の副都心・黒崎と福岡市を結ぶ高速鉄道として建設された(時代情勢の変化により途中で断念)。黒崎と郊外を結ぶ全線が専用軌道で、路面電車規格の車両を使用している。短編成、日中でも12分間隔(土日祝は15分)の高頻度運転、短い駅間距離、簡易な駅施設といった輸送形態はライトレール的側面を備えている。かつては西鉄北九州線と直通していた。
併用軌道がある路線
  • 広島市広島電鉄は郊外路線である鉄道線の宮島線から市内線へ直通列車が走る。実態としては日本最大のライトレールシステムといえるが、市内線区間における表定速度が遅いなどの課題が残る。しかし、路面電鉄の信号停車を極力減らす方向性が打ち出された。さらに、車両の購入や電停の整備なども含め、国、広島県、広島市の協力が得られるようになりライトレール整備への追い風が顕著に現れている。
  • 京都市京阪電鉄京津線は京都市内では京都市営地下鉄東西線に乗り入れ、郊外では専用軌道を走行、大津市内では併用軌道を走行して市中心部に入る。併用軌道上に駅が無く、地下鉄に乗り入れることから車両は4両編成の高床車を使用する。この車両は軌道法上での路面電車における列車長制限である30mを大幅に超過するため、特別に認可を受けた車両となっている。石山坂本線も京津線と同様に高床車を使用し、郊外では専用軌道を、大津市中心部では併用軌道を走行する。両路線とも大型車両タイプのライトレールに類似するものといえる。ただ、大津市京都市の都市計画との関連性が薄く、乗り入れる京都市営地下鉄との運賃体系など課題もある。
  • 福井市福井鉄道福武線は福井市内中心部では軌道上を走行する。名古屋鉄道から路面電車規格の車両を導入・使用しているが、ラッシュ時には大型車両を用いるなど、柔軟な車両運用を行っている。過去にNPO団体や自治体と共同で実験的にトランジット・モールを行ったりしている。福井駅の改築に伴い、えちぜん鉄道との相互乗り入れ計画が進行している。
  • 鹿児島市鹿児島市交通局1系統と称する運行系統は谷山線の専用軌道区間から郡元電停を経由し市街中心部を縦断する第一期線へ直通運転している。路線は別々だが通し運転なので実態としてはライトレールシステムといえる。南鹿児島駅前電停あたりから谷山電停までJR指宿枕崎線と併走し、南鹿児島駅前電停はJR南鹿児島駅と脇田電停はJR宇宿駅とそれぞれ並列に立地するため指宿市方面からのJR指宿枕崎線より乗り換え需要がある。また脇田電停や谷山電停は、施設内で鹿児島市営バスとのアクセスポイントがあり乗換運賃の適用対象とされている。

日本でライトレールに近い性格を持つ鉄道を以上に列挙した。鉄道線であっても駅間が短く、列車を頻発に運転している路線などが、多くあてはまる。日本では標準的な高床プラットホーム・高床式の例が大半だが、ごく一部に超低床車両を用いる例が存在する。

一方で、軌道線主体の事例では、鉄道線を接続して直通運転をしている路線などをライトレールの類似と見なすことがある。しかし、この点では、欧米と日本での鉄道・軌道の概念に、以下に記す差があるため、単純に言い切ることはできない。

日本では、鉄軌道の区別を、鉄道事業法および軌道法に求める。たとえ、その機能や規格が同じであっても、どちらに準拠するかにより、別のものとされる。

これに対して、欧米では、日本における路面電鉄(軌道)と郊外電鉄(鉄道)にあたる区別がない。車両も同じタイプが使われ、路線が一体になっている例も多い。その代わりに、これら近距離輸送用の電車類(軌道)とヘビーレール(鉄道)の区別があり規格的な隔たりも大きい。つまり日本における鉄道と軌道の直通事例は欧米ではごく普通の現象[注 13]であり、それだけでライトレールと呼ばれることもない。

脚注

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注釈

  1. Light rail vehicle (LRV) という言葉は、US Standard Light Rail VehicleBoeing-Vertol社製造)から始まった。
  2. 近年のライトレール向け車両は、トラムトレインなどの併用軌道の走行を考慮して設計されているケースが多く、高速大量輸送対応の高規格型路面電車とも設計的に近いことがある。
  3. ライトレールに対比して、ヘビー・レール、Heavy Railと呼ばれる場合がある。
  4. 都市高速鉄道メトロの軽量版の形態は、大別すると北米のライトレール(路面電鉄の利点を取り入れている)と、各国の自動案内軌条式旅客輸送システム(欧州等のライトメトロ、北米では中量軌道交通、日本では新交通システム)とがある。
  5. 路面電車を指す言葉は、欧州等ではtram、北米ではstreetcarと呼ぶ。
  6. 北米の都市鉄道は、ラピッド・トランジット(ヘビー・レール)、ライトレール(LRT)、streetcar(路面電車)という区分で認識される。
  7. ただし、2008年に新設されたValley Metro Rail(フェニックス、アリゾナ州)は大部分が併用軌道から構成され高速走行も無くライトレールの特徴はかなり弱い。しかし米国では、「street car」のレベルから飛躍した形態と認められれば、特に違和感なく「ライトレール」と呼んで認識されることがある。
  8. LRTAは、その発信情報:"What is Light Rail?"を見ると、北米もしくは英語圏に止まらず英語の「ライトレール(LRT)」を普遍的言葉として世の中に広めたい意図も見える。また「次世代型」の路面電鉄も「ライトレール(LRT)」に含めていきたい考えも見て取れる。
  9. ドイツ語版wikipediaより。デュッセルドルフでの事例。なお、通勤電車 (S-bahn) は35~50km/hとより高速である。
  10. ただしケルンのシュタットバーンでは、高床車両路線に加えて、1995年よりプラットフォームを高くせず低床車両を導入する路線も始めた。
  11. 路面電鉄と地下鉄が直通する路線は、20世紀初頭にはアメリカのボストン(現在のグリーンライン)、アルゼンチンブエノスアイレス等に存在している。また、路面電鉄の一部が単に地下線になっているだけではシュタットバーンとは呼ばれない。現にボーフムエッセンでは、シュタットバーンと地下を走る路面電鉄の双方が存在する。ただし、その境は曖昧である。
  12. ライトメトロの形態を持つ鉄道。自動運転の高架鉄道であり、日本で言う自動運転の新交通システム(鉄輪式)に近い。
  13. ドイツにはマンハイム - ハイデルベルク - ヴァインハイムを結ぶオーベルライン鉄道、カールスルーエから南の山間に延びるアルブタール鉄道、デュセルドルフ - クレーフェルトのライン鉄道のU76系統などの各種路線がある。また、オーストリアにはウィーンとその南郊を結ぶウィーン地方鉄道などが存在する。古くは第2次世界大戦前にアメリカ各地に存在したインターアーバンも同様に専用軌道(鉄道)と併用軌道を直通する仕様であった。

出典

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関連項目

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外部リンク


テンプレート:公共交通
  1. アメリカにおける低床LRV」、近畿車輛技報、11号、2004
  2. 「Stuttgart の U-Bahn(鉄道趣味の小部屋)」
  3. Link light rail fares. Sound Transit. Retrieved on 25 Feb 2014.
  4. Rose, Joseph. (2012.) TriMet board kills Portland's free rail zone, raises fares, cuts bus service over protesters' shouts, jeers. The Oregonian (2012, June 13).
  5. 起点の長野駅から善光寺下駅本郷駅間まで地下線である
  6. 長野電鉄各駅情報 長野駅
  7. 長野電鉄各駅情報 市役所前駅
  8. 長野電鉄各駅情報 権堂駅
  9. 長野電鉄各駅情報 善光寺下駅