薩隅方言
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テンプレート:出典の明記 テンプレート:統合文字 テンプレート:Infobox language 薩隅方言(さつぐうほうげん)は、鹿児島県(奄美群島除く)で話される日本語の方言。鹿児島県がかつての薩摩国と大隅国にあたることからこう呼ばれる。鹿児島弁とも言う。
目次
概要
薩隅方言の位置づけ
- 「薩隅」とは、文字通り九州南端の西に位置する薩摩と、東に位置する大隅の両方に通じるものとして総称されたものである。この地域の方言はニュアンス的な差異はあるものの、大別すれば同一の方言圏に属する。なお、九州のこのような方言分類としては他に、「肥筑方言」と「豊日方言」とがある。つまり九州の方言は大きく3つのブロックに分かれることになる。「よか」のようなカ語尾や「ばってん」などの九州方言らしい特徴は肥筑方言に多く、薩隅方言は「子音で終わる語」を発達させるなど特殊化が進んでいる。
- 薩隅方言の類縁として、宮崎県南西部・諸県地方(実質的薩隅文化圏に属する)で使用される諸県弁があげられる。ただし鹿児島県側大部分が二型アクセントであるのに対して、諸県弁のうちえびのは鹿児島同様二型アクセント、小林・都城から末吉・志布志にかけては統合一型式アクセント、北諸県郡と西諸県郡は無アクセントである。
- 薩隅方言の中の地域差も大きく、例えば薩摩地方の中でさえ、県境付近の北薩と薩摩半島末端の枕崎市では、同じ方言とは思えないほど語彙や言い回しに大きな差異がある。マスメディアが発達した現代でもこうした多様性は色濃く残っており、生粋の同県人同士でも言葉の取り違えが原因でトラブルが起こる事も多々あるという。
音韻
音節の運用
- 音節が種類によらず同じ長さで発音され、モーラの単位がない。アクセントも専ら音節単位でつけられ(他の多くの方言ではモーラ単位)、日本語としては珍しい「音節方言」の部類に入る[1]。
- たとえば、『行って』という語を標準語や多くの方言では 「イ - ッ - テ」 テンプレート:IPA2 と3拍(2音節だが3モーラ)に運用するが、薩隅方言ではこれが「イッ - テ」 テンプレート:IPA2 という2拍にしかなりえない。すなわち、薩隅方言では音節数と拍の数との間に齟齬がなく、両者はつねに一致しているので、モーラという概念を導入する必要がないのである。
- また、これに関連する音声上のよく目立つ特徴として「子音で終わる拍」の存在が挙げられ、上記の例でいえば、1拍で発音される「イッ」という音節がそれに該当する。
- さらに特徴的な事には、こうした音節は語末、文末にも立つことができ、また、「シッモサン」(知りません) テンプレート:IPA2 などのように、鼻音や濁音の前に来る事もできる。これらの「ッ」は、文末などでは声門閉鎖音で、鼻音や濁音の前では声門閉鎖をともなった各種子音で発音される。
- 歴史的にはこうした「ッ」音は、標準語の促音便と同様に母音の摩滅に由来するものだが、標準語では テンプレート:IPA2 のみが摩滅したのに対し、薩隅方言では加えて テンプレート:IPA2 音も摩滅している点、標準語では語中にのみ促音便化が起こったのに対し、薩隅方言では語尾でも同様の変化が起きた点、などが異なっている。
- こうした背景から、語末の テンプレート:IPA2 および テンプレート:IPA2 が全て テンプレート:IPA2 へと摩滅転訛する現象が見られ(※ここで テンプレート:IPA2 は「鼻音以外の任意の子音」とする)、これにより、多数の同音異義語が生まれている。
- たとえば、「靴」「首」「口」「釘」「櫛」「来る」などの単語はすべて「クッ」と発音されるという。
- 「靴」 : テンプレート:IPA2 < テンプレート:IPA2 < テンプレート:IPA2
- 「首」 : テンプレート:IPA2 < テンプレート:IPA2 < テンプレート:IPA2
連母音融合
- 母音(a, i, u, e, o)が連続する部分を連母音という。薩隅方言では連母音が現れると、その部分が融合し母音の短音に変化する場合がある。以下は同方言における連母音融合の主なパターン。
- [ai] [ae] → [e]
- 長い(nagai) → ナゲ(nage)
- 具合(guai) → グエ(gue)
- 橙(daidai) → デデ(dede)
- 蝿(hae) → ヘ(he)
- 考えた(kangaeta) → カンゲタ(kangeta) .... etc
- [oi] [oe] → [e]
- 太い(futoi) → フテ(fute)
- 匂い(nioi) → ニエ(nie)
- 揃えた(soroeta) → ソレタ(soreta)
- 添え物(soemono) → セモン(semon) .... etc
- [ui] → [i]
- 軽い(karui) → カリ(kari)
- 雑炊(zousui) → ズシ(zushi)
- 縫い物(nuimono) → ニモン(nimon) .... etc
- [ai] [ae] → [e]
- 固有名詞について母音の短音化が行われる例は少ない。ただ、高齢層においては「生産物名」「地名」「歴史上の人物の名前」など、「生活において使用が一般化されている固有名詞」を短母音化させる人も多い(例:西郷隆盛→「さいごうさん/さいごうさま」→「セゴドン/セゴサァ」)。一般人の人名については高齢者でも短母音化させる傾向は少ない。そのため「使用頻度の多い音節に対して、滑舌の使用頻度を下げ、疲労を軽減させ発語の速度を上げるための変化」とも言える。
アクセント
- アクセントは二型式アクセントである。二型式アクセントの中にも様々なパターンがあるが、鹿児島県の大部分で用いられる主流アクセントは、文節ごとのアクセントの山は必ず最後の拍、もしくは最後から2番目の拍に来る、というものである。屋久島のアクセントもこれとはやや異なるが二型式アクセントの一種である。また、枕崎市のアクセントは他地域とは大きく異なっているが、二型式が変化してできたものと考えられている[2]。
文法
- 形容詞は、薩摩では「(高)たかか・たっか」のようなカ語尾と「たかい・たけ」のようなイ語尾を併用する地域が広く、大隅・諸県ではイ語尾がかなり優勢である[3]。
- 理由を表す接続助詞には、陸地部で「で」、種子島・屋久島で「から」を用いる。「けれども」にあたる逆接の接続助詞には、陸地部で「どん・いどん・どんからん」、陸地部南部や甑島列島、種子島、屋久島、トカラ列島などで「ばってん・ばっちぇん・ばって・ばっち・ばっ」などを用いる[4]。
- 準体助詞には九州の他地域と同じく「と」を用いる。推量には、「~じゃろ」もあるが、「終止形+ど」を用いる[5]。
敬語体系
- 特筆すべき薩隅方言の特徴は敬語をよく使うことである。「ありがとう」を「あいがともさげもした」といったりするが、これは逐語的には「有難う・申し上げ・申した」がなまったものであるという。また、やはり、話す相手が目上・年下で、薩隅方言を使い分ける。
エピソード
標準語に入った薩隅方言
- 標準語となった薩隅方言としてよく「おい」、「こら」と運動部などで体罰の隠語として使われる「ビンタ」の3つがあげられる。
- 藩閥による薩摩藩の警察官の薩摩藩出身者優遇によって、明治前期の警察官には薩摩藩出身の者が多かった。「おい」「こら(「これは」=「あなた」の意)」は彼らが市民の注意をひく際に用いた薩隅方言の言葉で、これが定着して、今日の標準語で広く使われるようになったもの。テンプレート:要出典範囲。
- また、『ビンタ』は薩隅方言では単に頭を指す意味に過ぎないが、その昔に大学の運動部や軍隊の下士官に多かった鹿児島県出身者が指導と称して後輩などの頬っぺたを引っぱたいた事を取り違えて定着したといわれる。鹿児島人は、気心がしれた相手や目下の人間に対してなんらかの動作を求める際に、関連の名詞などを無造作に言い放つ傾向が強い。他にも同様に薩隅方言の単語が別な意味として定着した例があると思われる。
暗号に使われた薩隅方言
- 第二次世界大戦中の1943年にドイツから日本へ寄贈された2隻の潜水艦のうちの1隻、U-511には軍事代表委員の野村直邦中将が便乗することになっていた。当時日本の外務省と在独大使館間の情報交換は、乱数表を用いた暗号電報を使用していた。ところが、戦況の悪化に伴い使用が困難になった。そこで、重大機密事項である潜水艦U-511の出航に関する情報交換に採用した暗号が「早口の薩隅方言」だった。
- 出航前後に十数回、堂々と国際電話を使って話を伝えた。アメリカ海軍情報局は当然のことながらこの通話を盗聴し、さまざまな方法で暗号の解読に努めたものの、最初はどの国の言語かもわからなかった。世界中の部族の言語まで調べた挙句、加治木出身の日系二世・伊丹明の手により、ようやく薩隅方言だと特定された[6]。
- なお、NHK大河ドラマ『山河燃ゆ』でも、ユダヤ人の科学者が原子爆弾を作るという情報を薩隅方言で話した内容が傍受され、声の主が恩人だとわかった主人公が義理と職務のはざまで苦悩しつつ英訳するシーンが描かれている。
薩隅方言は人工言語?
- 薩隅方言は、アクセント等が関東方言や関西方言と大きく異なっていることはもちろん、他の九州各地の方言と比較しても、語韻の踏み方や間の取り方、言い回しなどが大きく違っていて、耳にした者に強い印象を与える傾向がある。
- こうした印象を受け、“薩隅方言人工言語説”がまことしやかに語られることがある。中央の言葉とは全く異なる言葉を使うことで情報の漏れを防ぎ、幕府の隠密の侵入を難しくする、他国人を言葉で聞き分けるといったことを企図して、薩摩藩が意図的に自国の言葉を作り替えたのだ、というものである。
- 但し、このような説は言語学的には根拠がなく、否定されている。
語彙をめぐるエピソード
- 南の玄関口として栄えた地域だけに、特に近世以後は外来語が方言に取り込まれたという例もある。黒板消しという意味で使われる「ラーフル」という言葉は標準語ではなじみが薄いが、外来語由来であると推測されている[7]。語源は諸説あるが、一説によればオランダ語のrafel(擦る・布きれ)が由来であるらしい。ただし、この単語は鹿児島以外でも宮崎・愛媛などで使われており、方言周圏論で説明できるという向きもある[8]。
- 特徴的な単語の例として、「いした」(地域によって「いして」「い(ひ)っちゃ」「いっちゃび」などとも言う)という言葉がある。これは一種の間投詞なのだが、自分の体に液体が触れたとき、あるいは「しまった」というときに“おもわず”発してしまう言葉である。
語彙例
(五十音順)
<あ>
- アイ:単数三人称代名詞。「あれ」という代名詞が変化したもので、「彼」「奴」の意。同様にして「これ」を「コイ」、「それ」を「ソイ」という風になる。
- アイドン:複数三人称代名詞。彼等。
- アイガトゴワス:ありがとうございます。
- アイガトモシャゲモシタ:ありがとうございました。
- アキネ:商い。
- アタイ/アテ:私。一人称代名詞。
- アタイゲエ/アテゲエ:私の家。
- アタイゲン/アテゲン:私の家の。
- アタイヤ/アテヤ:私は。(あたいや/あてや、したん→私は、知りません)。
- アチ:熱い。暑い。厚い。
- アッタカン、シタンドン:有ったかも、知れないけれど。
- アッタブッ:暖める。
- アッタラシカ:もったいない。(←古語「あたらし」)
- アッパッ:持て余す。焦る。いっぱいいっぱい。驚く。
- アップチャ:雨蛙。
- アマメ:ゴキブリ(油虫)。
- アマン:酢。
- アンター:あいつは
- アンネコッ:アブネこと→危険なこと
- アンベ:アンバイ→按配。体調。
<い>
- イオ:(生きている)魚。「魚=ウオ」からの転移。
- イケン、シタトナ?:どう、したんだい?
- イズン:出水
- イタカ/イテ:痛い。(お湯などが)熱い。
- イッカスッ:言い聞かせる。教える。
- イッキ:すぐに。「一騎来んめ(第一騎が来ない間に)」が省略されたもの。「戦時における第一の騎馬が攻めてこないうちに」という意味。これに似た表現として「太刀んこんめ」というものがあった。「一太刀が来ない(振り下ろされない)間に)という意味。
- イッスカン:気に入らない。一つも好かない。
- イットッ:ちょっと、少しの時間。一時(いちとき)の促音化。(いっとっ、だまっちょれ→少し、黙っていろ)
- イッナ/インナ:いつですか。
- イッペコッペ:あちこち。
- イブスッ:指宿
- イミシタン:意地悪な。転用で「イミジイ」→小難しい、晦渋な、という意の用例もある。
<う>
- ウイケ:売り買い。
- ウケ:多い。
- ウッカタ:女房(家方[うちかた]の訛り)。
- ウソヒィゴロ:うそつき(「嘘」をはく←ヒる + 奴←ゴロ)
- ウッタクッ:殴る。(ゆこちゅ、きかんと、うったくっど→言うことを、聞かないと、殴るぞ)。また「ウッサクッ」と変化している場合もある。
- ウッゼラシカ:うるさい。(『セカラシカ』より、きつい言い方)。ややこしい意にも用いる。
- ウド:空っぽ。
- ウルエ:潤い。
- ウンナゲン:うちの、私の
- ウン:海。(ウミの転移)
- ウンベ:むべ(郁子:アケビ科の果物)
- ウンマカ/ウンメ:旨い。美味しい。筑肥方言では「ウマカ」。(例: ンナ コワ ホンノコチ ウメッ ホンノコイ ウメナァ)訳 うわ これは 本当に 美味しい。本当に美味しいですねぇ
<え>
- エシイ/エシカ/エジカ:ずるい。
- エジ:ずるい(エジワロ=ずるい奴)。現代語の「エグい」にも通じる。
<お>
- オ:鯨の肉。
- オイ:「俺」。男性一人称代名詞。
- オイドン/オイタチャ:俺共。俺たち。一人称代名詞でもある。「おいどま(俺共は)」の形で使われることが多い。
- オカベ:豆腐。女房言葉の生き残り。厚揚げはアゲオカベ。昔は上方でも「おかべ」と言っていたものが鹿児島に残ったものである。
- オジ:おそろしい、怖い。正確には、「オジぃ」という風に伸ばすのが元々の用法だったと思われる。
- オジャッタ:いらっしゃった。
- オジャッタモンセ:いらっしゃいませ。
- オセ:遅い。大人。既婚者。目下の者の成長を評して使うことも。(おせにないやって→立派になられましたね)。長(おさ)の転訛? 対:ニセ(二才←若者)
- オッ:折る
- オッカ/オビ:重い。
- オットッ:強奪する。盗む。「オットル」のさらに短縮化したもの。(オットラレタ→盗まれた)
- オテケル:(病などが)悪くなる。腫れ物が大きくなるような現象もこう称する。
- オテシキ:だいぶ、(雨がー降った)。思いっ切り。また「オテッキ」と約めるところもある。「彼は腹一杯喋ったね」→「アンヤチャ、オテッキ、カタリヨッタ」
- オドモン:横着な人(横道者の訛り)。また、形容として「オドな」→「非道な」
- オナゴンケッサレ:(軟弱な男性に対して)女の腐れたもの=女々しい。
- オハン:あなた(「おはんな」と言えば「あなたは」の意)
- オマンサァ:あなた様。(「お前様」が訛ったもの)
- オモサマ:思い切り。(「オモサマ、セ」→思い切り、やってみろ)
- オモヒトカ/オモシトカ:面白い
- オヤットサァ:お疲れ様。
- オラン:(大声を)だす。
- オラン:居ない。(「居らん」の意)
- オンテ:重たい。
<か>
- カイカ/カリ:軽い
- カイカ/カイ:痒い(かゆい)。
- カイモ/カライモ:さつまいも。漢字表記は唐芋。中国(唐)からの伝来とされているため。
- カゴンマ:鹿児島
- カズン:嗅ぐ。「カズむ」ともいう。
- カタカタ:左右で違う(げた/靴下が-)。
- カタル:喋る。(語る)
- ガッツイ:丁度。本当に。(現代語では「ガチ」に近い)(例:ガッツィ 今日な しったい ダイタナァ)訳/本当に 今日は ものすごく 疲れましたねぇ
- カッカイ:おんぶ
- カラウ:背負う
- ガラッパ:河童。
- ガル/ガッ:叱る(ガラレタ=叱られた)
- ガンタレ:利かん坊、暴れん坊。役立たず。(「ガンを付ける」という不良用語に近い)
- カンノケ:髪の毛。
<き>
- ギ:議。文句、屁理屈(「ギ を言うな ちお!」→屁理屈 を 言うんじゃない!)
- キッ:切る
- キッサナ(ネ)カ:汚い。(きたないが、キシャネと変化している)
- ギッタ:ゴム。(ギッタマイ=ゴムボール)
- キバレ!:頑張れ!(気張れ)
- キヒカ:厳しい。(「(これは)キヒカッた」 → 「難しかった」「難儀だった」)
- キマッド、キバッド:決まっているのよ。
- キモン:着物。食い物。
- ギー:~時(動詞の後に来る)。
- ~ギ:~まで。標準語で「切り」。「これっきり」を「これギィ」という風に用いる。
- キンキン:正座
- キンゴキンゴ:ピカピカ
- キンナゴ:キビナゴ
<く>
- クイマラン:(やらなければいけないことが)なかなかできない。(諸県)
- グエ:具合。
- クガ/クド/(クイケイッド):食べるが 食べるよ (食べに行くよ)
- クジル:(鼻の穴などを)ほじくる。
- クセラシカ:大人びた。生意気だ。(年少者に対して)
- クッ、クライ、クレ:来る
- グラシカ:可哀そうだ、気の毒だ。
<け>
- ゲー:家。「アタイゲー」は「私の家」、「オイゲー」は「俺の家」と考えればよい。物理的な家を指す場合もあるが、「家族」「一族」などの所属を指すこともある。
- ケケケ:「貝を、買いに、行く」ところです。最初の[ケ]が貝、2番目の[ケ]が買う、3番目の[ケ]が、現在進行形を意味する。
- ケシン:死ぬ。「ケシンミャッタ」は「亡くなった」の意。
- ケシンボ:ずるい・ずる賢い人間。
- ケスイバッ:ひょうきんな人。
- ケッ:蹴る
- ケヲケケケ:貝を買いに来い(70年代この歌詞の入った歌を歌ったグループがいたが…)。
- ケンノス/ケツンス:穴の穴
- ゲンネ:恥ずかしい。「芸がない」 → 約めて「ゲンネ」。「ネ」は「無い」の意、「ai」→「e」の音韻変化の例だが、活用時も原音に戻らない。(例)「恥ずかしいだろう」→○「ゲンネカロ」、×「ゲンナカロ」。
<こ>
- コケケ:買いに来い。「コケ」が「買いに」、最後の「ケ」が「来い」を意味する(目下の者に使う表現)。正確には、最後の「ケ」は「キ → 来」の発音に近い。
- コケケ:此処に来い。この場合の「コケ」は「此処に」を意味する(目下の者に使う表現)。
- コケオジャタモンセ:こちらにおいで下さいませ(目上の者に使う表現)。
- コイ:是
- コッ:蜘蛛。此処(ここ)。
- コマンカ/コメ:小さい。こまかいの訛り。
<さ>
- サイモイ/サイモ:是非。
- サス(ン):刺身。
- サッ:去る
- サルッ:歩き回る。
- サンカ:寒い。
<し>
- ジゴロ:地五郎と書き、田舎者の意。
- ジサン:爺様。(ばさん:婆様)
- シタン:知らない。(知たん)
- シッチョ:知っている。正確には「シッチョる」。
- シモンソ:(そのように)しましょう。「シモンソカイ」は「しましょうか?」。
- シヤッガ:~されるでしょう(尊敬語)。
- ジャッタケ:そうだったかな。(最後の「ケ」は疑問を表す接尾語。標準語の「~かな?」と同意)
- ジャッチ:そうだがしかしという反語。相手の話に同意する表現。
- ジャッド/ジャライ:そうだ。(同意を意味する)(目下の者に使う)
- ~ジャンサイ:そうでございますとも。(目上の者に使う)
- ~ジャンサー:~と言うことでございます。
- ショチュ:焼酎。「ソツ」とも。
- ショチュノンゴロ:酒飲み。
- シャイモガ:わざわざ
- ~ジャッセン?:~だよね。~じゃない?主に県北西部の川内地方で用いられる言葉。
- シュベ:商売。
- ジンシャ:神社。
- シンペ:心配。心肺。
<す>
- ス:穴。シイノス、ジゴンス(尻の穴)。鬆が語源ともとれる。
- スカン:好きではない。「好かん」。
- スカンド:好きではないですよ。
- スッガ/スッド:「何々する」の訛り。します。(ソゲン、スッガ→そのように、します。)
- スッタイダレタ:「すっかり疲れた」。疲れる → ダレるという。
- スッパイ:やっぱり。川薩では全部の意味。
- ズルッ:全部
- ズンバイ:いっぱい。-食べやん=いっぱい食べなさい。
- ズンダレ:(服装などが)だらしない。ずり落ちている。(「ずり垂れる」の訛り)
<せ>
- セ:しろ(目下に言う命令形)。(コゲン、セ!→このように、しろ!)
- セカラシイ/セカラシカ:うるさい。
- センデ:川内
- センド:しませんよ。「セン」→しない、「ド」が強めの意。
<そ>
- ソガラシイ:ものすごくたくさんな様子。(ソガラシイ人→大人数)
- ソゲン:そのように。
- ソゲンナ:そうなのですか。
<た>
- ダイ:誰。「だれ」の転移。
- ダイカ:だるい。(体が、だいかして→体が、だるくて)
- ダイカ/ダイガ:誰か。(だいか、おらんな?→誰か、居ませんか?)
- タイガイ:大体。
- ダイサア:どちら様(誰様が訛ったもの)。(ダイサア、ジャヒケ?→どちら様、ですか?)
- ダイヤメ:晩酌。(「だれやめ」が訛ったもの)。「ダレ→疲れ」が「止め→治まる」ので「ダイヤメ」
- ダカラヨ:そうだ。(ジャッド/ジャライとの違いは、ダカラヨの方が、若い人が使う。)(同年代にしか使わない)
- ダッキショ:落花生
- タマガッ:驚く。(「魂消える」の訛り)
- ダリ:だるい。
- ダレル:つかれる。
- ダンブクロ:麻袋(蘭袋が訛ったもの)
<ち>
- チェスト:掛け声の一種。
- チョッシモタ:しまった。「ちぇっ、しまった」の意。
- チゴッ、チゴド:違う
- チッ:散る
- チンガラッ:滅茶苦茶などを表す語。「ちーん、ガラガラ」と崩れる様。
- チンタカ:冷たい。
<つ>
- ツクジル:(やたら箸で)つっつく。「くじる」ともいう。
- ツグロ:青痣(あざ)のこと。
- ツケアゲ/チケアゲ:さつま揚げ。
- ツヨカ/ツエ:強い(財力のある人の事も「ツヨカ」と言う)。総じて力のあることや、物の大小についても強いという表現を用いる。
- ~ッド:~ましょう(動詞の後)。
<て>
- テゲ/テゲテゲ:いい加減。適当。ほどほど。
- テゲナ:(1)けっこうな。たいそうな。(2)いい加減な。適当な。現代語では「けっこう」な。
- デッ:出る
- デゴン:大根。
- テソカ/テセ:大儀だ。疲れて面倒だ。
- テナモン:老人、年寄り。(年な者の転化)
- テネゲ:手ぬぐい、タオル。「チョノギ」とさらに訛る例もある。
<と>
- ドケ:何処に。
- ドケイットコイ:何処に行くところかね(目下に使う表現)。
- ドゲン:どのように。(どげん、すっとな?→どのように、するのですか?)
- トゼンナカ:徒然なか。寂しい。心細い。
- ドッ:何処
- ドッサイ:沢山。(「どっさり」の訛り?)
- トナイノ、イエギ、ウッコワシヤッタモンジャッガ:隣の、家まで、壊してしまったもんだ。
- ドン:どの(場所)。用法例;ドン桜島(どの桜島)
- ドンコ/ドンコドン/ドンコビッ:蛙。
- ~ドン:~けれど。用法例;好キナコト言ウドン(言うけれど)
- ~ドン:敬称(殿)。用法例;苗字に付けて、○○ドン(○○さん)
- ~ドン/ドマ:(共)人称を複数形に変化させる。用法例;オイドン(我々)、ワイドン(お前たち)、アイドン(彼等)
<な>
- ナオッテネル:ちゃんと布団/ベッドに移って寝る。
- ナゴキャンサンジャシタナァ:長いことお見えになりませんでしたね。
- ナイゴッナ?/ナイゴテ?:どうしたの?何をしているの?
- ナイゴテ:どうして(-そげんことをすっとよ?)
- ナッ:鳴る
- ナバ:椎茸
- ナマスカン:意地悪な(言動)
- ナンカカル:(壁や人などに)寄りかかる。(なんかかっていい?→寄りかかっていい?)何か買っていい?ではない。
- ナンマンサー:仏壇。仏壇の中の仏様。念仏の「ナンマンダブ南無阿弥陀仏」+「様」
<に>
- ニエ:匂い(よかにえがすっ→いい匂いがするなぁ)
- ニセ:若い青年。二才(ニサイ・15~25歳頃の未婚青年)を指すが、それより目下の少年も含んで使われることもある。「よかにせ」などのように形容表現と併用されることが多い。(にせんし→若者たち)
- ニッ:煮る
- ニッタクイ:煮物料理。素材名を前につけて使う。(でこんのにったくい→大根煮)
- ニモン:縫い物
<ぬ>
- ヌキ/ヌッカ:暑い(温かい→ぬくいの訛り)。
- ヌサン(ノサンを参照):たまらない
- ヌッ:塗る
<ね>
- ネタ:泣いた。
- ネタコズガ、ヒヒントワルタ:泣いていた子の機嫌がすぐに直るさま。
- ネッ:寝る
- ネッド:寝ますよ。
- ネド:無いですよ。「ネ(無い)」の断定。
- ネマル:腐る(鼻がネマル- 非常に臭い時の描写)
<の>
- ノサラン:かなわぬ夢みたいなこと。「(運命的に)ついていない」の意。
- ノサン:(仕事などが)大変だ。
- ノッ:乗る
- ノンベ:酒飲み(飲ん兵ぇの訛り)
- ノンカタ:酒の飲み会。
<は>
- ハシ:はっきり。しっかり。(ハシとせんか!→しゃきっとしないか!)。現代語では「キリッとせんか」。
- ハッ:貼る
- ハッチタ:去った。
- ハッチラッドン:身なりが極端に貧相な様子(の人)
- ハヨ:早く
- ハヨ、コケコンナ、ネゴナッド:早く、ここに来ないと、無くなるよ。
<ひ>
- ヒダルイ/ヒダリカ:空腹
- ヒッカブリ/ヒッカブイ/ヒッケジロ:弱虫。臆病者。涙をこぼす → 泣き虫
- ヒッカブル:(おしっこを)もらす。(液体を)受動的に浴びることを指す場合もあるが、単体で使われる場合は大抵前者(おもらし)である。
- ビッキョ:蛙。(←「蟾蜍」(ひき よ)?)(一部の若い世代では「ビッキョ」=「かえる」から、帰宅部のことを「ビッキョ部」と言う)
- ヒッタマガッ:非常に驚く。(ヒッタマゲタ(引魂消る)→非常に驚いた)
- ビハナ:昼間の花火
- ビビンコ:肩車
- ヒンガ、ヨカ:かっこ良い! 「品」が良い
- ヒンガ、ワイカ:かっこ悪い!
- ビンタ、ビンテ:頭。(びんたが、いたか→頭が痛い):頭を平手打ちすることの共通語「びんた」の語源。
- ヒンダリ:だるい。つかれた。(←ひだるし)。「ダレる」に強めを前置している。
- ビンタンケ:「頭(ビンタ)の毛」。頭髪
<ふ>
- フ:運。(フガ、ヨカ→運が、良い。)。主に持って生まれた得のように用いられる。「符(ふ・めぐりあわせの意)」からきている?
- フッ:降る
- ブエン:食用となる生魚・鮮魚。。一部地域では「刺身」。干物などのように塩をふっていない魚(無塩)。
- ブゲンシャ/ブケンシャ:お金持ち(分限者)。
- フトカ/フテ:太い。
- ブニセ:醜男。「ニセ=二才」は(若い)男性の意。
- ブントヘ:全く駄目。
- フゾ:財布
<へ>
- ヘ:おなら。灰(特に鹿児島市桜島からの火山灰)。蝿。肺。縁。「灰 → ハイ → ヘ」という具合に短縮されたもの。前出の連母音融合の項にて説明の通り、このように短くなる例が鹿児島圏では多い。
- ヘッ:減る。入る。
- ヘタタッ:ハエ叩き
<ほ>
- ホケ:湯気
- ホッ:掘る
- ボッケモン:向こう見ず。豪胆な人[9]。豪傑者。
- ホガネ:(ネ=ない)考えがない。頭が悪い。「穂」が無い稲や「帆」が無い舟に喩えられるが、東北方言の「ホンジナシ」(本地無し)と共通の語源と考えられている。
<ま>
- マガッ:曲がる。
- マコテ:実に。誠に。
- マッキッタ:狂ったようになること。頭が巻き切る。
- マッポシ:障害物が無い様子(隣の家の部屋が - 見える)。ストレートに、の意。
- マギル:曲がる
<み>
- ミナモロタギーナニターシヤッカモヨ:みんなもらったときは喜ぶかもよ。
- ミシタン:会ったことがない。(「見知らぬ」の訛り)
- ミッシャナカ:可哀そうな。「みとなしい」の意。
- ミン:耳。「みみ」の短縮化。
- ミンチャバ:耳朶
- ミン:見ていない
<む>
- ムッシャナカ:可哀そうな。
- ムゾカ/ムジ、ムゼ:可愛い。
- ムシクレバ:虫歯。(虫食らい歯の転化)
<め>
- メッ:参る。
- メーゲ:しゃもじ。「めしげ」
<も>
- モジョカ/モゾカ/ムゼ:かわいい。「ムジぃ」ともいう。
- モヘ:もう。早くも。(「もはや」が訛ったもの。)。
- モンノベ:物覚え。
<や>
- ヤッケタ:困った。(ヤッケタコッ→困った問題)。
- ヤッセン:駄目。(*ヤッセンボ→駄目な奴。臆病者。)
- ~ヤッデ…:~だから… 接続詞。
- ヤッド/ジャッド:そうだ。主に受け答えで用いる。
- ヤマンコッ:女郎蜘蛛(山の蜘蛛の意味)。
- ヤマイモヲホッ:山芋を掘る→転じて『酔っ払いが同じことを何度も話すこと』を意味す。山芋掘りは難儀な作業なので、転じて、難しいことを喋ることをこう称する。酒癖の悪い人が座を白けさせるときに使うことが多い。
- ヤンカブイ:髪の乱れている様。
<ゆ>
- ユ:言う。
- ユナチヨ:言わないでよ。(動詞に「ナ」がつくと否定になる。「チヨ」は要請を意味する接尾語。)
- ユクサ:ようこそ。よくぞ。(ゆくさ、ゆちくれた=よくぞ言ってくれた)
<よ>
- ヨカニセ/ヨカニィ:美男子。「良い」+「若い男性」
- ヨカオゴジョ:美女。「良い」+「お嬢さん」
- ヨカド:良いよ。了解。了承。
- ヨカフ:素晴らしい風情。
- ヨクロタ:酔っ払った。
- ヨクロンボ:酔っ払い。
- ヨソエ:装い。
- ヨダキ:(諸県?)疲れた、面倒くさい。
- ヨダキンボ:(諸県?)面倒くさがり、なまけもの。
- ヨメジョ:お嫁さん。(トウモロコシの意味もある)
<ら>
- ラーフル:黒板消しの総称
<わ>
- ワイ:二人称代名詞。「おまえ」の意。「(関西弁で)われ」。
- ワイドン/ワイタァ:複数二人称代名詞。お前共。あなたがた。
- ワイカ/ヤッセン:ダメ/悪い。
- ワッコ:(目下の者に対して)おまえ。
- ワッセ/ワッゼ/ワッチェ:すごく。
- ワッゼカ/ワッザイ:ものすごい。「ウザい」ほどの、といった意味もある。
- ワルコッボ/ワイ(リ)コッボ:悪い子。不良。いたずら坊主。
- ワレガオ:笑顔。(笑い顔の転化)
- ワロ:奴、野郎。
<ん>
- ~ン:(名詞の後ろにつけて)~の。(つくえんなか→机の中)
- ~ンシ:(地名や属性の後ろにつけて)~の人。(カゴシマンシ→鹿児島の人)。「~の衆(しゅう・人々の意)」が訛ったもの。
- ンダモシタン/ウンニャモシタン/ウンダモシタン:あらまあ。「あら、もう知らなかった」という感嘆の訛り。
- ンーニャ/ウンニャ:否定の言葉(いいえ。違います。)。「いや」という否定の訛り。上述の「ウンニャモシタン」のように「ンニャ」「ウンニャ」のみで驚きを表す感嘆詞ともなる。(ウンニャ、ナイゴテナ?→えっ、なぜですか?)
<5W1H>
- ダイ:誰
- ナイバ/ナイヲ:何を
- イッ:いつ
- ドケ:どこ
- ナイゴテ:何故
- イケンシテ/ドゲンシテ:どのように
薩隅方言が作中に出てくる書籍及び作品一覧
- 鹿児島ことばあそびうた
- 47都道府犬 - 声優バラエティー SAY!YOU!SAY!ME!内で放映された短編アニメ。郷土の名産をモチーフにした犬たちが登場する。鹿児島県は、桜島がモチーフの鹿児島犬として登場。『おいどんでごわす。』など話す。声優は、鹿児島県出身の大川透。
出典
- ↑ 類似の特徴をもつ方言には、ほかに津軽弁・秋田弁など一部の東北方言がある。
- ↑ 金田一春彦(2005)『金田一春彦著作集』第7巻、玉川大学出版部、p348-p351
- ↑ 飯豊ほか(1983)、18頁。
- ↑ 平山ほか(1997)、21頁。
- ↑ 都竹通年雄「文法概説」(飯豊毅一・日野資純・佐藤亮一編『講座方言学 1 方言概説』国書刊行会、1986年)
- ↑ 吉村昭『深海の使者』(文春文庫、1976年) ISBN 4-16-716901-0 p142~p152
- ↑ 語頭がら行で始まることからもそれが推定できる。
- ↑ 上村忠昌『「ラーフル」考』
- ↑ テンプレート:Cite book