タラ
テンプレート:生物分類表 テンプレート:栄養価 タラ(鱈、大口魚、鰔)は、タラ目タラ科(学名:テンプレート:Sname)に分類される3亜科のうち、タラ亜科に所属する魚類の総称。北半球の寒冷な海に分布する肉食性の底生魚で、重要な水産資源となる魚を多く含む[1]。
日本近海では北日本沿岸にマダラ・スケトウダラ・コマイの3属3種が分布する[1]。単に「タラ」と呼んだ場合はマダラ(Gadus macrocephalus)を指すことが多い。
タラ類の範囲と呼称
タラ亜科には北大西洋に分布する魚類を中心に12属25種が知られ、一部は北極海や日本近海を含む北太平洋に生息する[1][2]。タラ科にはタラ亜科の他に、ユーラシア大陸・北アメリカに分布する淡水産のカワメンタイ亜科(Lotidae、3属5種)が所属しており、さらに従来は独立の科として分類されていたラニケプス亜科(Ranicipitidae、Raniceps raninus のみ1属1種)を含める場合もある[2]。
生態
温帯に分布するものや汽水域に入るものもいるが、ほとんどの種類は寒帯・亜寒帯の冷たい海に分布する海水魚である。
海底の近くで生活する底生魚で、水深200m以深で暮らすいわゆる深海魚が多いが、季節によって生息深度を変える種類もいる。大きな群れを形成し、大規模な回遊を行うものもある[3]。背中側の体色は灰色や褐色で、水底に紛れる保護色となる。
食性は肉食性で、多毛類・貝類・頭足類などの無脊椎動物や他の魚類を捕食する。
産卵は冬期から早春にかけて行われる。卵は沈性卵で、砂泥の海底に産卵される。タラ類の一度の産卵数は数十万から数百万個に及び、魚類の中でも多産の部類である。親魚による卵や仔魚の保護はみられず、生残率は非常に低いと考えられる。
形態
背鰭が3つ、臀鰭は2つに分かれることがタラ亜科の大きな特徴で、タラ目の他のグループ(チゴダラ科・ソコダラ科・メルルーサ科など)との鑑別点の一つとなっている[2]。口が大きく、下顎にヒゲをもつ種類が多い[2]。全長は数十cmを超える中・大型種が多く、最大のタイセイヨウダラは全長2mに達することもある[3]。
第1背鰭は頭部より後方に位置し、すべての鰭は棘条を欠く[3]。腹鰭は胸鰭よりも前方にある[3]。尾鰭の後端は截形か、あるいはやや陥凹する[2]。
人間との関わり
利用
タラ亜科はほとんどの種類が重要な水産資源として利用され、底引き網・延縄・釣りなどで漁獲される。
身は脂肪が少なく柔らかい白身で、鱈ちりなどの鍋料理や、棒鱈などの干物、フィッシュ・アンド・チップスのような揚げ物、バカラオなどの塩蔵品、かまぼこおよび魚肉ソーセージなどの練製品として利用される。肝臓からは肝油を採取するほか、オイル漬けにしたものはコッドレバーとして缶詰にされる。また、スケトウダラの卵巣(たらこ)、マダラの精巣(白子)、胃(韓国料理の食材チャンジャ)、舌(ノルウェー料理の食材。ムニエルにして食す)なども食材として用いられる。
文化
漢字では身が雪のように白いことから「鱈」と書くが、これは和製漢字である。日本では古くから、大きな口を開けて他の生物を捕食することから「大口魚」と呼ばれていた。なお、この和製漢字(国字)は、中国でも一般的に用いられている。
非常に貪欲なことから、腹いっぱい食べるという意味の副詞「たらふく(鱈腹)」の語源となったといわれている。一方で、「たらふく」の語源は「足(た)らい脹(ふく)くるる」すなわち「満足して(腹が)脹れる」に由来し、「鱈腹」は当て字とする説もある。タラを解剖すると少なからぬ胃潰瘍の病巣が認められ、これがこの過食によるものだとする説がある。この話は魚類学者末広恭雄のエッセイにも書かれ、人口に膾炙することとなった。
分類
タラ亜科にはNelson(2006)の分類において、12属25種が認められている[2]。
- コマイ属 Eleginus
- コマイ Eleginus gracilis
- Eleginus nawaga
- スケトウダラ属 Theragra
- スケトウダラ Theragra chalcogramma
- Theragra finnmarchica
- マダラ属 Gadus
- Arctogadus 属
- Arctogadus borisovi
- Arctogadus glacialis
- Boreogadus 属
- Boreogadus saida
- Gadiculus 属
- Gadiculus argenteus argenteus
- Gadiculus argenteus thori
- Melanogrammus 属
- Melanogrammus aeglefinus
- Merlangius 属
- Microgadus 属
- Microgadus proximus
- Microgadus tomcod
- Micromesistius 属
- Micromesistius australis
- Micromesistius poutassou
- Pollachius 属
- Trisopterus 属
- Trisopterus esmarkii
- Trisopterus luscus
- Trisopterus minutus
おもな種類
- マダラ Gadus macrocephalus Tilesius, 1810
- 全長は1mを超える。上顎が下顎より前に出ていて、体側にまだら模様がある[3]。頭身が小さく、腹部が大きく膨らむ。
- タイセイヨウダラ G. morhua Linnaeus, 1758
- 最大で全長2mに達する大型種で、北大西洋に分布する[3]。
- スケトウダラ Theragra chalcogramma (Pallas, 1814)
- 「スケソウダラ」とも呼ばれ、全長70cmほど。上顎は下顎より短く、体側には褐色の縦帯がある。マダラに比べて体が細長い。
- コマイ Eleginus gracilis (Tilesius, 1810)
- 全長30cmほど。上顎が下顎より前に突き出し、下顎のヒゲは短い[1]。
出典・脚注
参考文献
- Joseph S. Nelson 『Fishes of the World Fourth Edition』 Wiley & Sons, Inc. 2006年 ISBN 0-471-25031-7
- 岡村収・尼岡邦夫監修 『日本の海水魚』 山と溪谷社 1997年 ISBN 4-635-09027-2
関連項目
- タラ目 - チゴダラ科 - ソコダラ科 - メルルーサ科
- タラ戦争 - 北海の漁業資源をめぐるアイスランドと英国の紛争。
- グランドバンク - 北大西洋のニューファンドランド島沖にあるタラの好漁場
- ギンダラ - カサゴ目に属し、タラ類との類縁は遠い
- タラバガニ・タラバエビ - 深海性甲殻類。名はタラの漁場(鱈場、たらば)で漁獲されることに由来する
外部リンク
- FishBase‐タラ科 (英語)