無脊椎動物
無脊椎動物(むせきついどうぶつ)とは、脊椎動物以外の動物のことである。すなわち背骨、あるいは脊椎を持たない動物をまとめて指すもので、ジャン=バティスト・ラマルクが命名したInvertebrataの訳語である(Vertebrataは脊椎動物)。
詳しく言えば無顎類、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類以外の動物といってもよい。また、より日常的な言い方をするなら、獣、鳥、両生爬虫類、そして魚を除いた動物で、日本でかつて「蟲」と呼ばれたもののうち両生爬虫類を除いたすべてのものと言ってもよく、ホヤ、カニ、昆虫、貝類、イカ、線虫その他諸々の動物が含まれる。
歴史
脊椎動物には、口や目を備えた頭部を持ち、ヘモグロビンを含む血液を持つという、わかりやすい特徴がある。そのため、「脊椎動物」と「それ以外」は、分類群として、古代から認識されていた。我々人間が脊椎動物であるから、これは同時に「我々に似たもの」と「そうでないもの」の区別でもある。
古くは、アリストテレスの有血動物 - 無血動物という分類が存在した。時代が下ってからは、リンネによる、「哺乳綱」「鳥綱」「両生綱」「魚綱」と、「昆虫綱」「蠕虫綱」という分類が存在する。脊椎動物以外の動物を「無脊椎動物」として大別する分類は、上記の通り、ラマルクに依る。
動物の分類においては、脊椎動物に関する知識がそれ以外の動物についての知識に比べてはるかに多かった。そのため、脊椎動物を爬虫類・両生類といった大きな群にわけると、残りはその他の群として一まとめにされ、脊椎動物の各群と同等の地位を与えられた。
しかし、そこに含まれる生物の個々についての知見が深まるにつれ、それらの差異が大きいものであることがわかってきた。そのため、脊椎動物と対置される位置まで持ち上げられたのが無脊椎動物という名称である。
さらに多くが知られるにつれ、無脊椎動物の中の個々の群が脊椎動物に対置されるべきものと考えられるようになり、多くの動物門が作られ、脊椎動物はその中の一つという位置に納まった。このため、無脊椎動物の分類群としての妥当性と、存在意義は疑わしくなった。近年、脊椎動物門が脊索動物門の一亜門と見なされるようになってからは、さらに意味を見いだしにくくなっている。
このような経過は、植物における顕花植物と隠花植物の関係によく似ている。歴史的にも平行的である。
現在の扱い
脊椎動物-無脊椎動物という分け方は、便宜的な人為分類であるから、現在では生物学的には重要性は低いとされる。しかし、学問的な分野においても、分類群のまとめを表す単位として伝統的に表示されている。たとえば、外肛動物の研究者は「無脊椎動物を専門とする」と表記される場合がある。図鑑等の分冊でも、無脊椎動物でまとめる例が多い。
他方、初等教育における素朴な動物分類法としては、いまだに有効性を持っている。たとえば、幼児向きの教科書には、獣・鳥・魚・昆虫等の混在した図を提示し、「これらの動物を2種類に分けましょう」という問題が載っていることがある。問題の意図としては脊椎動物・無脊椎動物の分類を期待している。理科の教育課程では、中学校でこの分け方を用いている。その点、植物における隠花植物の名がほぼ死語であるのとは大きく異なっている。