質屋
質屋(しちや)は質店(しちてん)・質舗(しちほ)ともいい、何らかの物品[1]を質(質草、担保)に取り、流質期限までに弁済を受けないときは当該質物をもってその弁済に充てる条件で金銭を貸し付ける(融資)事業を行う事業者あるいは店舗を指す。物品を質草にして金銭を借り入れることを質入(しちいれ)という。俗称として一六銀行の名称を掲げている質屋もある[2]。
歴史
中国における質屋の起源は西暦5世紀に寺院が救貧事業として行ったものに始まり、典当業ともいった。清代には国家が質屋に資金を提供して収益の一部を公用に当てることも行われるなど経済上大きな影響を持った。
日本の質屋の起源は鎌倉時代といわれ、1960年代頃まで庶民金融の主力であった。しかし、1970年代頃から、無担保・無保証人で一般市民に融資を行う「団地金融」(消費者金融、サラ金の前身)が起こり始め、廃業する質屋が多くなった。
日本の現在の質屋の業態は、貸付事業よりも、流通価値を有する宝飾品や貴金属、いわゆる「有名ブランド品」などの買取や仕入れ、販売などが主になっている。とりわけ、地域の質屋組合が行う質流れ品の販売イベントには、毎回多くの客が訪れる。
変わった使い方としては、金銭を借りずに金利相当分だけ払って、古美術品などの外部の倉庫代わりに利用されることもある。
庶民の間の一般的な金融であった当時、質屋通いが世間体が悪いとの思いから「七つ屋」「セブン屋」「セブン銀行」「一六銀行」などの隠語が用いられた[3]。
大阪、京都、名古屋などの関西・中京圏では「ひちや」と発音され、ひらがなで「ひち」と書いた看板がよく存在する。
質屋営業
質草には、不動産以外の宝飾品や貴金属(ジュエリー)、いわゆる「有名ブランド品」(バッグ、腕時計など)のほかに、ゴルフ会員権、電話加入権、有価証券、金貨、金地金 などが当てられることが多い。質屋は質草の価値を判断して、金銭を貸し付ける。最短流質期限は3ヶ月[4]であり、利子の支払いにより質契約を更新できる。
質置主(借主)は、流質期限前は、いつでも元利金を弁済して、その質物を受け戻すことができる[5]。一方、もし流質期限までに元利金の弁済がなされない場合は、質屋はその質物の所有権を取得し[6](質流れという)、これを処分できる。また、動産に対する強制執行では売却代金と元利及び、費用との差額は債務者に返還しなければいけないのに対して、民営質屋については、質流れの質物は売却して元利との差額は民営質屋の利益となる。
刑罰上の法定の上限金利は日 0.3%、年 109.5% [7]であるが、月 9% の暦月計算が認められており[8]、日割り計算を行わない場合がある。そのため、質屋営業についても利息制限法における規制利息を超す高金利で営業しているのが一般的であり、現行の公認営業の業界では質屋業界のみがグレーゾーン金利で営業している。(一般的には、無担保よりも有担保のほうが金利が低いのが通例であるが、質屋営業については、有担保でありながら、無担保の金融業者よりもかなりの高利で営業しているのが通例であり、珍しい営業実態である)
暦月9%を刑罰法令の適用の上限金利(民事上の上限であるかについては、質屋営業法第36条そのものが金利の刑罰法令である出資法の読み替え規定のため下記のとおり争われている)とした理由は立法当時の質屋の営業実態を参考にしていて、大部分が月1割であり一律に出資法の上限金利である日歩30銭(1日当たり0.3%)を適用とすると実情に合わないため、また、刑罰法令の一般金利である日歩30銭との釣合いをとったためとされている [9]。
質屋営業は質預かりによる金銭貸付であるが、物品の所有権を即時に移転させる「買取り」も行なう。この場合、古物営業法が適用される。流質となった物品や買い取った物品を店頭で販売する質屋もある[10]。
法律
消費者金融などの貸金業とは異なり、「質屋営業法」に基づく業種形態であり、「質屋営業法」第一条で次のように定義され、第二条の規定で営業所ごとに、その所在地を管轄する都道府県公安委員会の許可が必要である。これは、盗品や不正な占有品の換金により、質屋が犯罪行為の助長となることを防止すべく、行政上事業者・業界の監督を行う趣旨による。
質屋営業法抜粋
第一条 この法律において「質屋営業」とは、物品(有価証券を含む。第二十二条を除き、以下同じ。)を質に取り、流質期限(りゅうじちきげん - 編註)までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは、当該質物をもつてその弁済に充てる約款を附して、金銭を貸し付ける営業をいう。
(第2項)この法律において「質屋」とは、質屋営業を営む者で第二条第一項の規定による許可を受けたものをいう。
金利については、利息制限法第1条第1項の「金銭を目的とする消費貸借の利息の契約」に該当する(後記の長崎地裁、広島地裁判決参照)が、貸金業(利息制限法による10万円未満の年利20.0%等)とは異なり平年年利109.5%・閏年年利109.8%(1日当たり0.3%)、暦月9%(厳密には1日当たり0.3%(年利109.5%、109.8%は1日当たり0.3%の年換算に過ぎない)で月の初日から末日までの期間を全ての月で30日とする内容で1期として利息を計算する。したがって、暦月9%となるために、契約日、返済日により日割換算の実質年利が異なるため日割換算で実質年利108%程度以上の高利となる)までとされており、基本的に短期・小額金融であることや質草の鑑定、保管の手数、盗犯防止、盗犯品捜査協力等の費用を加味した高い上限金利が規定されている(質屋営業法第36条)。よって、利息制限法は適用されないとする裁判例が存在する(長崎地裁平成21年4月14日判決判例集未掲載等参照)。ただし、質屋営業にも利息制限法が適用され、超過利息については、返還すべきとの裁判例(大阪地裁平成15年11月27日判決兵庫県弁護士会HP、名古屋地裁半田支部平成23年8月11日判決名古屋消費者信用問題研究会HP参照)も存在する。さらに、質屋営業法第36条は利息制限法の特則であるとする裁判例も存在する(広島地裁平成23年2月25日判決判例集未掲載参照)。このように、質屋営業においては、利息制限法の適用等について下級審の判断が割れているのが現状であり、見解統一の最高裁判例も存在しない。
公益質屋
公益質屋法(2000年廃止)に基づいて、市町村(特別区)ないし社会福祉法人により、社会福祉事業として行われていた質屋。
一般の質屋(営業質屋)と比べ、貸付金額や貸付利率は命令で定められ(一般より低利。公益質屋法4条)、利率も半月単位で計算され(5条)、流質までの期間が4ヶ月と長かった(8条)。しかも、返済がなされなかった場合でも、質物は入札により売却して(11条2項)、元利との差額は質置主(債務者)に返済しなければならなかった(12条)。
なお厚生労働省によると2000年の廃止時点での金利は上限年利36%であった。参考までに消費者金融の金利は2000年の出資法改正以前の上限金利は40.004%であったが、出資法改正以降は29.2%となった。
偽装質屋
上述のような法定金利の差に目をつけ、闇金融業者が質屋として営業許可を取る「偽装質屋」という事例も現れている[11]。
通常の質屋では質草の価値をもとに金銭を貸し、滞納時は質流れとするが、偽装質屋では質草に価値はなく[12]、また質流れもさせず、自動引落により融資金を回収していた[11]。これらの状況から実態は貸金業だとして、貸金業法違反として摘発がなされている[12]。
被害者の多くは高齢者であり、年金が振り込まれる口座に自動引落を設定して、事実上年金を担保として融資をしている状態であった[13]。
その他、レンタル時計店を仮装した闇金融業者の事例もある。被害者がレンタル時計でほとんどが偽物である時計を借りて(レンタル時計屋には、レンタル料金が発生する)、質屋で、その時計を本物と鑑定し、質入れをしてお金を貸金業法の規制ではなく質屋営業法第36条による高金利で貸出し、レンタル時計店と質屋は共謀している。質屋営業法第36条による月暦9%という高金利規制は、闇金融の格好のターゲットとされ、上記の犯罪事例も含め闇金融による犯罪等の温床にもなっていて、社会問題も引き起こしている。
脚注
- ↑ 有価証券を含む。質屋営業法第1条第1項。
- ↑ ウィクショナリー日本語版テンプレート:出典無効
- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ 質屋営業法第17条第2項。ただし、質置主が物品を取り扱う営業者であり、かつ、その質に入れようとする物品がその取り扱っている物品である場合においては、1ヶ月。
- ↑ 質屋営業法第18条第1項
- ↑ 質屋営業法第19条第1項
- ↑ 質屋営業法第36条第1項。閏年は年 109.8%。
- ↑ 質屋営業法第36条第2項。月の初日から末日までの期間(当該期間の日数は、その月の暦日の数にかかわらず、30 日とする。)を 1 期として利息を計算するもの。この場合において、貸付けの期間が 1 期に満たないときは 1 期とし、 2 以上の月にわたるときは、そのわたる月の数を期の数とする。
- ↑ 第19回国会参議院、地方行政委員会10号 昭和29年3月16日政府委員(中川董治国家地方警察本部刑事部長)
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 11.0 11.1 テンプレート:Cite news
- ↑ 12.0 12.1 テンプレート:Cite news
- ↑ テンプレート:Cite news