有価証券

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有価証券(ゆうかしょうけん;独 Wertpapier)とは、ドイツ法日本法における私法商法)上の概念である。日本法において、通説とされる見解によると、私法上の権利財産権)を表章する証券であって、それによって表章される権利の発生、移転または行使の全部又は一部に証券を要するものをいう。この他、上記の本来の意味を出発点として、金融商品取引法(旧証券取引法)、刑法民事訴訟法民事執行法法人税法などにおいてそれぞれ当該法律の目的によって異なる意義で用いられている。特に、金融商品取引法(旧証券取引法)においては後述のように特別な定義がなされている。

私法(商法)上の有価証券

私法商法、特に有価証券法)上の有価証券に次のようなものが含まれることについては、争いはない。いわゆる有価証券法理が適用される。

なお、銀行券収入印紙郵便切手などの金券は、権利を表章するものではなく、それ自体が価値を有するとされているものであることから、有価証券とは区別される。

また、医療機関債については、(学校債とは異なり、)発行される「債券」は有価証券ではなく、金銭消費貸借契約に基づく借入れを証する証拠証券に過ぎないと解されている。

有価証券の定義

有価証券の定義については、争いがある。 通説とされる見解は、「一定の私法上の権利を表章する証券で、権利の発生、行使又は移転の全部又は一部に証券の占有を必要とするもの」とする。 これに対して、「権利の発生、行使又は移転の全部又は一部」ではなく「権利の発生又は移転」とする見解、「権利の移転」とする見解、「権利の行使」とする見解、「権利の行使及び移転」とする見解がある。

有価証券に関する規定

有価証券の私法上の一般的性質について特に定めた規定はないが、商法517条ないし519条が比較的一般的な規定をおいている。もっとも、517条は指図債権又は無記名債権についての規定であり、有価証券との関係は明らかではない。518条及び519条も「金銭その他の物又は有価証券の給付を目的とする有価証券」についての規定であり、例えば社員証券には適用がない。

民法上の証券的債権(指図債権、記名式所持人払債権、無記名債権)との関係については争いがある。民法上の証券的債権は有価証券であるとする見解が多数であるが、証券的債権は有価証券ではないものを指すとの見解も唱えられている。後者からは、乗車券などは有価証券に含まれないこととなるという。

有価証券の分類

表章する権利の種類による分類

有価証券は、表章する権利の種類に応じて、上述のとおり、債権証券(債権のみを表章するもの)、物権証券(債権及び当該債権を担保する担保物権を表章するもの)及び社員権証券(社員権を表章するもの)があるとされる。いずれにも分類されないものとして、受益証券(信託受益権を表章するもの)がある。

表章する権利の内容による分類

有価証券は、表章する権利の内容に応じて、資本証券(投資証券。債券・株券など資金調達・投資の手段として用いられるもの。UCC上の投資証券(investment securities)に対応。)、金銭証券(貨幣証券。手形・小切手のように一定の金銭債権を表章して決済や送金の手段として用いられるもの。UCC上の流通証券(negotiable instruments)に対応。)、物品証券(物財証券。貨物引換証、倉庫証券、商品券のように物品引渡請求権を表章するもの。UCC上の権原証券(documents of title)に対応。)という分類もなされる。ただし、このほかにも、労務の提供を受ける債券を表章するものとして、乗車券、観覧券、テレホンカードなどの有価証券がある。

権利者の指定方式による分類

有価証券は権利者の指定方式に応じて、記名証券(記名により指定。記名式小切手や記名式社債券など。)、指図証券(記名及び裏書により指定。約束手形、為替手形、指図式小切手など。)、無記名証券(所持により指定。無記名社債券、持参人払式小切手など。)及び選択無記名証券(記名又は所持により指定。選択持参人払式小切手など。)に分類される。

金融商品取引法上の有価証券

金融商品取引法上(以下金商法という)の有価証券は、同法2条1項及び2項に規定されており、第一項有価証券と第二項有価証券に分類される。 旧証券取引法は米国の証券法及び証券取引所法を参考として立法されたものであり、米国法におけるsecuritiesに相当する。もっとも、米国とは違って、定義上、商法上の有価証券を出発点としている点や、明確化のため限定列挙とされているのが特徴である。 私法上の有価証券やそれに類する証券又は証書をまずは有価証券と定義し、券面の発行されない権利についても有価証券とみなすという体裁を採っている点については、あまりに不自然であるなどの批判がある。

有価証券の定義

第一項有価証券

第一項有価証券とは、金商法2条1項に掲げられる有価証券又は同条2項の規定により有価証券とみなされる有価証券表示権利若しくは特定電子記録債権をいう(金商法2条3項)。

金商法2条1項に掲げられる有価証券

まず、金商法2条1項には、同項各号に掲げられた、券面の発行され比較的流通性の高い伝統的な有価証券(基本的には私法上の有価証券である。)が同法における有価証券である旨規定されている。具体的には以下のとおり。

  1. 国債証券
  2. 地方債証券
  3. 特別法人債の債券(金融債の債券、独立行政法人国立病院機構債券、日本原子力研究開発機構債券、放送債券、社会医療法人債券、私学振興債券、沖縄振興開発金融公庫債券、預金保険機構債の債券、銀行等保有株式取得機構債の債券など)
  4. 特定社債券
  5. 社債券(相互会社の社債券を含む。)
  6. 特別の法律により設立された法人(日本銀行、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、独立行政法人日本原子力研究開発機構、独立行政法人科学技術振興機構、独立行政法人理化学研究所、独立行政法人宇宙航空研究開発機構など)の発行する出資証券(7.、8.及び11.に掲げるものを除く。)
  7. 協同組織金融機関の優先出資証券
  8. 特定目的会社の優先出資証券・新優先出資引受権証券
  9. 株券・新株予約権証券
  10. 投資信託・外国投資信託の受益証券
  11. 投資証券・投資法人債券・外国投資証券
  12. 貸付信託の受益証券
  13. 特定目的信託の受益証券
  14. 受益証券発行信託の受益証券(JDRなど)
  15. コマーシャル・ペーパー
  16. 抵当証券
  17. 外国又は外国の者の発行する証券又は証書で1.から9.まで又は12.から16.までに掲げる証券又は証書の性質を有するもの(18.に掲げるものを除く。) (外国国債証券、外国社債券、外国株券、外国新株予約権証券など)
  18. 外国貸付債権信託受益証券等
  19. カバード・ワラント
  20. 預託証券・証書(外国株預託証券ADR、EDR、GDRなど)
  21. 以上に掲げるもののほか、流通性その他の事情を勘案し、公益又は投資者の保護を確保することが必要と認められるものとして政令で定める証券又は証書(外国法人発行の譲渡性預金の預金証書、及び学校債券)

なお、医療機関債に係る「債券」は(金銭消費貸借契約の)証拠証券と解されているため、上記には含まれない。

金商法2条2項の規定により有価証券とみなされる有価証券表示権利

金商法2条2項柱書では上記の有価証券のうち、

  • 上記1.から15.までに掲げる有価証券、上記17.に掲げる有価証券(16.に掲げる有価証券の性質を有するものを除く。)及び上記18.に掲げる有価証券
  • 上記16.に掲げる有価証券、上記17.に掲げる有価証券(上記16.に掲げる有価証券の性質を有するものに限る。)及び上記19.から21.までに掲げる有価証券であって内閣府令(現在は空振り)で定めるもの

に表示されるべき権利(有価証券表示権利)は、有価証券表示権利について当該権利を表示する当該有価証券が発行されていない場合においても、当該権利を当該有価証券とみなすものとされている。

例えば、株式で株券の発行されていないものは株券とみなされ、社債で社債券の発行されていないものは社債券とみなされ、受益証券発行信託の受益権で受益証券の発行されていないものは受益証券とみなされる。現在では、有価証券のペーパーレス化の進展により、実際に流通している第一項有価証券のほとんどは金商法2条2項により有価証券とみなされる有価証券表示権利である。

金商法2条2項の規定により有価証券とみなされる特定電子記録債権

さらに、金商法2条2項柱書では、電子記録債権のうち、流通性その他の事情を勘案し、社債券その他の1項各号に掲げる有価証券とみなすことが必要と認められるものとして政令(現在は空振り。)で定めるもの(特定電子記録債権)は、当該電子記録債権を当該有価証券とみなすものとされている。

第二項有価証券

第二項有価証券とは、金商法2条2項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利をいう(金商法2条3項)。 金商法2条2項柱書においては、同項各号に掲げられた、新たに設けられた類型の流通性の低いものが有価証券とみなされている。具体的には以下の通り。

  1. 信託受益権(第一項有価証券に含まれるものを除く。)
  2. 外国の者に対する権利で信託受益権の性質を有するもの(第一項有価証券に含まれるものを除く。)
  3. その社員のすべてが株式会社若しくは合同会社のいずれかに該当する合名会社社員権、その無限責任社員のすべてが株式会社若しくは合同会社のいずれかに該当する合資会社の社員権、又は合同会社の社員権
  4. 外国法人の社員権で3.に掲げる権利の性質を有するもの
  5. 集団投資スキーム持分(任意組合投資事業有限責任組合を利用した投資ファンドの持分や一口馬主など。)
  6. 外国集団投資スキーム持分(ケイマンリミテッド・パートナーシップを利用した投資ファンドの持分など)
  7. 特定電子記録債権及び以上に掲げるもののほか、金商法2条1項に規定する有価証券及び以上に掲げる権利と同様の経済的性質を有することその他の事情を勘案し、有価証券とみなすことにより公益又は投資者の保護を確保することが必要かつ適当と認められるものとして政令で定める権利(学校法人等向けシンジケート・ローン

有価証券に関する規制

金融商品取引法を参照。

刑法上の有価証券

刑法においては、有価証券偽造等の罪が定められており、有価証券の偽造・変造やその行使などが処罰の対象とされている。 しかしながら、有価証券の意義については、条文上、「公債証書、官庁の証券、会社の株券」が例示されているに過ぎず、明文の定義はない。したがって、規定の趣旨に従って解釈がなされている。

判例によると、「財産上の権利が証券に表示され、その表示された権利の行使につきその証券の占有を必要とするもの」とされる(大判明治42・3・16刑録15輯261頁、最判昭和32・7・25刑集11巻7号2037頁、最決平成3・4・5刑集45巻4号171頁など)。また、日本国内で発行され、又は日本国内で流通するものに限られる(大判大正3・11・14刑録20輯2111頁)。私法上の有価証券とは異なって流通性は要求されない(前掲最判昭和32・7・25)。具体的には、乗車券(普通、定期)、劇場の入場券、商品券、クーポンタクシーチケット宝くじ競輪車券競馬勝馬投票券などが含まれるとされる。

テレホンカードを含むプリペイドカードのように電磁記録化されたものが有価証券であるかについては事件毎に判決が異なり、争いがあったが、最終的に示された判例ではテレホンカードについてこれを肯定し、有価証券偽造等の罪の対象となることを肯定した。その後2001年(平成13年)の刑法改正により支払用カード電磁的記録に関する罪が新設されたため、現在は、本罪によって処罰されることとなる。

この他には握手会整理券が「ネットオークションで売買の対象とされている事から財産価値は明らかで有価証券と認められる」とした判例がある(東京地裁 2010年(平成22年)8月25日)。

なお、刑法上の有価証券に該当しないものとしては、預貯金通帳無記名定期預金証書やゴルフクラブ入会保証金預託証書(いずれも証拠証券に過ぎない。私文書偽造による処罰の対象。)、下足札や手荷物預り証(いずれも免責証券に過ぎない。私文書偽造等による処罰の対象。)、印紙や郵便切手(いずれも金券。ただし、印紙犯罪処罰法郵便法による処罰の対象。)などがある。

法人税法上の有価証券

法人税法においては、以下のものが有価証券とされている(法人税法2条21号、法人税法施行令11条、法人税法施行規則8条の2の3)。ただし、自己が有する自己の株式又は出資及びデリバティブ取引(法人税法61条の5第1項)に係るものは除かれる。

  • (金融商品取引法上の)第一項有価証券
  • 譲渡性預金の預金証書(外国法人が発行するものを除く。)をもって表示される金銭債権
  • 合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分、協同組合等の組合員又は会員の持分その他法人の出資者の持分
  • 株主又は投資法人の投資主となる権利、協同組織金融機関の優先出資者となる権利、特定目的会社の特定社員又は優先出資社員となる権利その他法人の出資者となる権利

民事訴訟法上の有価証券

民事訴訟法においては、訴訟費用の担保のため、金銭又は有価証券の提供が求められることがある(民事訴訟法75条76条)。ここでいう有価証券には、私法上の有価証券のほか、振替債が含まれる。

振替債とは、次の権利のうち、振替機関が取り扱うものをいう(振替法278条1項)。

  • 社債(新株予約権付社債を除く。)
  • 国債
  • 地方債
  • 投資法人債
  • 相互会社の社債
  • 特定社債(転換特定社債及び新優先出資引受権付特定社債を除く。)
  • 特別の法律により法人の発行する債券(農林債の債券、独立行政法人国立病院機構債券、日本原子力研究開発機構債券、放送債券、社会医療法人債券、私学振興債券、沖縄振興開発金融公庫債券、預金保険機構債の債券、銀行等保有株式取得機構債の債券など)に表示されるべき権利
  • 投資信託又は外国投資信託の受益権
  • 貸付信託の受益権
  • 特定目的信託の受益権
  • 外国又は外国法人の発行する債券(新株予約権付社債券の性質を有するものを除く。)に表示されるべき権利

関連項目