ガソリンスタンド
ガソリンスタンド(英語:filling station、gas station(米国)、petrol station(英国))は、ガソリンや軽油などの各種エンジン用燃料を主として販売している場所。ガソリンスタンドは和製英語。高速道路のNEXCO3社ではガスステーションと呼称している。また、元売会社や販売店などでは一般的にサービスステーション(service station)と呼称し、ここからSSとも略される。
目次
定義
日本の法令上は、消防法にいう「取扱所」のひとつにあたる。危険物の規制に関する政令では「給油取扱所」として区分され、取扱所の位置、構造及び設備の基準につき細かく規定されている。
より広い意味では主にタクシーが利用するオートガス(液化石油ガス、天然ガス)ステーションやエコ・ステーション、冬季に限定的に運用される事が多い灯油販売所、バスやトラック、自動車教習所の教習車等に給油する自家使用を目的とした事業所内の給油所も含まれる。
取扱サービス・設備
ガソリンスタンドでは、レギュラーガソリン、ハイオクガソリン、軽油などエンジン用燃料以外に、灯油や、エンジンオイルなどの潤滑油、更にそれ以外のカー用品など(タイヤやワイパーなど)も販売している。また、併設している設備で自動車の洗車を行ったり、エンジンオイルやタイヤなどの交換、簡単な点検作業が行える場合が殆どである(スタンドによっては車検を行っている所もある)。一部では、レンタカー事業を併設したり、LPG自動車用の液化石油ガスを扱ったりEV用急速充電器を備えているところもある。
日本では給油中のサービスとして、自動車の窓拭きや灰皿の掃除を行う所もあるが、セルフ式ガソリンスタンドではこれは行われない[1]。モータリゼーションが進んだアメリカ合衆国では、ガソリンスタンドはセルフ式が一般的で、事務所を兼ねたコンビニエンスストアを併設している場合が多い。
日本ではガソリンスタンドにコンビニを併設する場合は、スタンドの営業時間内に限られる。24時間のコンビニ営業をする場合は24時間スタンドを稼動させる事になる。モービル・エッソ・ゼネラルのセルフ式の一部店舗では、ドトールコーヒーショップを併設している。
日本の高速道路では、多くのサービスエリアと一部のパーキングエリアに設置されている。
また、吊り下げ式(別称:ノンスペース・ノンスペ)と呼ばれており総務省令では懸垂式と記載された、給油設備が天井配管で構成されたものは、都市部などの狭い用地の活用を図る特殊な規格であり、日本・韓国以外での設置事例は少ない。
給油設備のうち、計量器であるメーター(ガソリン・灯油・軽油・重油の各メーターを含んだ、いわゆる燃料油メーター)は計量法の規定により、都道府県の実施する検定を定期的に受検しなければならない。検定有効期限(年月単位、メーターに貼付してあるシールで確認可能)の超過やメーターの不正改造は計量法違反となり、理由[2]の如何を問わず、都道府県もしくは計量特定市による取締り(立入検査、勧告、告発等)の対象となる。これは該当するメーター、タンクが内蔵された一体型メーター(通常の給油機よりも胴体が一回り大きい)、固定の設備でない自動車(タンクローリー)搭載型メーター、可搬式小型メーター、簡易型メーター(ドラム缶等に取り付けて使用)などにおいても同様である。
ガソリンスタンドの石油タンクは定期的に洗浄することが義務付けられている。
2011年2月に日本で施行された消防法改正により、40年以上前に埋設した燃料用地下タンクの改修を、施行後2年間(猶予期間)の2013年2月までに義務付けた[出典 1]。該当設備を有するガソリンスタンドで改修を行わない場合、消防庁側は法的処置による厳しい対処を示唆しているため、改修費用と将来的な経営状況を試算し損益分岐点などを考慮した結果、廃業するケースも出ている[出典 1]が、ガソリンに含まれているベンゼンや有鉛ガソリン時代に含まれていた鉛は土壌汚染対策法の特定有害物質であり、廃業したとしても地下タンクからの漏えいにより土壌汚染が生じていた場合、土地取引上の大きなリスクとなるおそれがある。
セルフ式スタンド
セルフ式スタンドの特徴
欧米では主流のセルフ式スタンドだが、日本では安全性の観点から認められず、給油を従業員が行なうフルサービスが従来主流であったが、1998年の消防法改正で規制緩和された事により、危険物の規制に関する政令が改正され、「顧客に自ら給油等をさせる給油取扱所」(セルフ式ガソリンスタンド)が登場し、以後セルフ式が増えつつある。セルフ方式であっても、係員(甲種または乙種危険物取扱有資格者)は常駐しており、トラブル発生時や操作方法が分からない場合、しかも危険行為が行われたときは至急処置するために、すぐに駆けつけられる体制になっている。更に遠隔監視用の設備などを設置するため初期投資額がいくらか高くなるところはあるが、吸殻入れの清掃や窓拭きなどのこれまでの一般的であったサービスなどを省略し、必要とする従業員を少なく抑える事が出来る為、比較的安価に販売する事が可能である。従業員による給油作業がないため、安全点検や洗車サービスなどを積極的に案内をするスタンドが増えている。
日本でのセルフ式ガソリンスタンドは、2010年3月末時点で全国に8,532店となっている[出典 2]。なお、従来型のフルサービスステーション数は約43,000店。フルサービス店の数は年々減少傾向にあり、2000年の約53,000店と比較すると、約2割減の約43,000店。これに対し、セルフサービスステーションの増加率は同期間で約400店から約4,900店と、12倍もの伸びを示している。また、同一店舗でセルフ式とフルサービスの双方を営むサービスステーションもある。高速道路のガソリンスタンドは従業員のいるフルサービスがほとんどであるが、新規開設されたスタンドを中心に増えつつある(セルフ式スタンドは東北道鶴巣PA下り線、北関東道笠間PA、中央道阿智PA上り線、新東名高速[3]駿河湾沼津SA・静岡SA・浜松SA、東海北陸道ひるがの高原SA、東海環状道美濃加茂SA、新名神高速土山SA、中国道七塚原SA上り線・美東SA上り線、神戸淡路鳴門道淡路SA下り線、山陽道三木SA下り線、九州道北熊本SA上り線の14箇所に設置)。
セルフ方式のスタンドの計量器は安全面から、給油する人がレバーを握っていないと給油されないようになっている(一部例外的に安全確保用装置を加えたシステムではレバーを握り続けなくてもいい装置もある)。また、セルフでの吊り下げ式は法律上認められていない(給油機が地上固定式になっているセルフスタンドと吊り下げ式のフルサービススタンドが1つの敷地内に併設されている店舗はいくつか存在している)。また、客として乗り入れた車は自身でガソリン(または軽油)の給油はできるが、ジェットスキーや持参した燃料携行缶等といったガソリンの容器への注入は法令により出来ない。その場合は係員を呼んでガソリン携行缶への注油を依頼する必要がある(灯油用ポリタンクでのガソリン注入は不可。違反が発覚した場合は購入者共々処罰の対象)が、セルフ方式のスタンドによっては携行缶等への注油サービスは行っていない、または一日の携行缶等への注油取扱可能量をオーバーしている等で断られる場合もある。安全面のカバーを人員配置に依るスタッフ常駐のフルサービススタンドと、安全機器の配置や給油者の自己責任に依存するセルフスタンドでは、設備の全体構成を見るとシステムを中心にかなりの相違がある。
なお、法令の規制が異なるアメリカなどでは、係員の全くいないセルフスタンドも存在する。
セルフ式スタンドの利用手順
セルフ式スタンドにおいて、利用者自身で給油を行う為の手順は次の通りである。なお、危険物の規制に関する規則(昭和34年9月29日総理府令第55号)に、「顧客に自ら給油等をさせる給油取扱所における取扱いの基準」が規定されている(第40条の3の10)。
- エンジンを止め給油機に貼られている放電プレートに触れて、体に溜まった静電気を逃がす。静電気放電が起こるとガソリンに引火し火災事故となる恐れもあるので、確実に放電プレートに触れる必要がある。
- 自分が給油したい油種の給油ノズルを取る。レギュラー・ハイオク・軽油などで給油ノズルの色が違うので、表示と色を見て間違えないようにする(殆どのスタンドではノズルの色がレギュラーは赤色のノズル、ハイオクは黄色のノズル、軽油は緑色のノズル、灯油は青色のノズルになっている)。
セルフスタンドにおいて、利用者自身で誤給油しても補償されない。誤給油も参照のこと。
ガソリンスタンドの安全性
安全性の根拠
過去の阪神・淡路大震災や新潟県中越地震でも、ガソリンスタンドの火災事故は1件も発生していない。これは消防法や建築基準法に拠ってきわめて厳密に建設されているためである。
参考文献
- 内閣府減災への取組
火災の発生件数
アメリカ合衆国では、正確な統計が取られていないものの、ガソリンスタンドにおいて年間1,000回以上の火災が発生しているとの推測がある。ただし、アメリカには極端に乾燥した(静電気が発生しやすい)地域の存在もあり、危険性の面で日本を含む他国と単純比較することはできない[出典 3]。日本では、10,000施設当たりの年間火災発生件数として30回前後の値が報告されている。発生件数の多くは、セルフ式のスタンドにおける火災であるが(セルフ式では、フルサービス式の5.6倍とする資料もある)[出典 4]、ガソリンスタンド利用者の年間滞在時間はごく限られており、そもそも一般的な利用者が火災に遭遇する確率は極めて低い。
品質の確保
日本では、揮発油等の品質の確保等に関する法律等により、ガソリンで10項目、灯油と軽油では3項目の品質規格(強制規格)が定められており、適合しない製品を売った者は処罰の対象となる。スタンド側ではSQマークを掲げて規格の遵守を示すほか、資源エネルギー庁が抜き打ち検査を行っているが、しばしば脱法行為等が摘発されている[出典 5]。
同様の規制は各国でも見られるが、韓国や[出典 6]中国[出典 7]などでも価格競争などを背景に品質や安全性に問題のある製品が販売される例があり、枚挙にいとまがない。2014年の韓国石油公社のデータによると、4月末までに検挙されたガソリンスタンド118カ所のうち、約7割が他の石油製品などで水増しした偽ガソリンを販売していた。問題視した政府は、毎週報告制度を実施するとしたが、韓国のガソリンスタンド協会は実施を先送りするよう求めている[4]。
事業者
日本の主な石油販売
石油製品の輸入、精製を行う企業は元売と呼ばれ、元売の系列から供給を受け販売するガソリンスタンド、業者間転売品(業転玉:ぎょうてんぎょく)などを扱う系列外の独立系ガソリンスタンド(いわゆる「無印スタンド」または「無印ガソリン」)に分けられる。日本初のガソリンスタンドは、1919年2月に日本石油が奥田友三郎商店に貸与・運営したのが始まり。系列別のガソリンスタンドの数は次の通り。スタンド数は2010年6月末現在の数字で、出所はJXグループの資料[出典 8]より。
- 12584店舗 ENEOSブランド。
- 出光興産(IDEMITSU)
- 4338店舗。旧同族系では最大手クラス。しかし上場以来、その創業家とは資本・人事等で関係が希薄になってきている。
- 昭和シェル石油(Shell)
- 4055店舗。商業施設等に併設されているセルフSSは別ブランド (Fantasista)で展開。オランダとイギリスの企業であるロイヤル・ダッチ・シェルのグループ企業。
- コスモ石油(COSMO)
- 3737店舗
- その他(JX、エクソン、出光、シェル、コスモ以外)9198店舗
- 三愛石油(Obbli)(キグナス石油(KYGNUS))
- MOCマーケティング(MITSUI)
- セルフSSは別ブランド(MITSUIセルフ)で展開。旧三井物産系列。
- 太陽石油(SOLATO)
- 伊藤忠エネクス(ITOCHU、ENEX)
- 伊藤忠の関連会社。独自ブランドのカーエネクス、コスモ石油、ENEOSブランドを展開。
- 三菱商事石油(MCP)
- エスアイ石油(IDEMITSU)
- 出光系列。同社のセルフSSのみ展開。旧住商石油+旧サミット石油(ともに住商系列)。旧住商石油時代では独自ブランド(SUMISHO)で展開していた。
- ダイヤ昭石(DIA-SHOSEKI)
- 昭和シェル石油と三菱商事の合弁会社。
- ディーエム・ガス・ステーション
- 丸紅エネルギー(marubeni)
- 丸紅系列。
- 日通商事(ALOZ)
- 一部地域でガソリンスタンドを展開。
- 吉田石油店(ヨシダ)
- 燃料備蓄基地、タンカー、タンクローリーを自社で所有。
- 宇佐美グループ(宇佐美)
- 出光、ENEOS等のSSを独自に全国展開。
- JX日鉱日石エネルギー系最大の卸売業者。東北最大の複合商社でもある。
- 北日本石油
- 関東・東北・北海道地域に展開する、コスモ石油系最大の特約店。直営店を83店舗、北日本グループ全体で約200店舗を展開。
- キタセキ
- コスモ石油の大手特約店及び他元売系指定店を扱う。指定店では「キタセキ指定」の看板を掲げている。また、ENEOSやMITSUIセルフ等のSSも存在しており、指定店に限り、コスモ石油には特化していない。一部の指定店では、太陽鉱油の指定店としても営業している店舗が存在する。
- 太陽鉱油(太陽)
- コスモ石油・ENEOSをメインで独自に全国展開。一部地域で三井セルフ(名古屋以北)・昭和シェル・出光等の店舗を展開している。直営店の他、指定店及び提携を結ぶ店舗がある(一部地方のみ、直営・指定の店舗もしくはどちらかが存在しない)。指定店では「太陽指定」の看板を掲げていて、マークは会社ロゴのローマ字部分を漢字に変えている。一部のサービスステーションでは、キタセキの指定店としても営業している店舗が存在する。
- エネクスフリート
- 新出光(IDEX)
- 出光石油創業者の兄弟が創始者。かつては無関係であったが、数年前、出光が増資を行なった際に参加した為、現在は関係性がある。
- 旧一光(Ikko)。かつてはコスモ石油、モービル石油等のSSを独自に展開していた。
- ヤマサン石油(YAMASAN)
- 徳島県・兵庫県のみ。旧山産石油時代はキグナス石油のブランドで展開。現在はENEOSブランドのセルフSSを展開。また、ENEOS競合地域で出店の際、独自でYAMASAN(ヤマサン)ブランドとしてセルフSSを展開。
- 京阪神を中心に展開。エクソンモービル・ゼネラル・昭和シェル・ENEOSと提携。
- タシロ石油(TASHIRO)
- かつて、宮城県に本社があったブランド(破産申請を行った為、現在は消滅)。宮城県等に独自のSSを展開していた。
- 目見田商事(ひまわりSS)
- 兵庫県宝塚市。関西プライベートブランド系の雄。タイヤ(ブリヂストン系)、車検、新車中古車販売においてGSとして全国トップセールスを誇る。廃業寸前のSSを買い取り地域一番店にする手法が特徴。現在、独立系の注目株としてさまざまな業界メディアにとりあげられている[出典 10]。2010年に新社長体制に移行。
- 広浦鉱業グループ
などがある。また各農業協同組合(JA)はJA-SSブランド(北海道はホクレンブランドの独自ブランドで展開)[5]で、漁業協同組合(JF)はJFブランドでガソリンスタンドを運営している(既存石油元売りのマークを掲げる場合も多い)。
日本以外の石油企業
民間企業
ヨーロッパ
- ロイヤルダッチシェル(オランダ、イギリス)
- BP(イギリス)
- トタル(フランス)
アメリカ合衆国
韓国
国営企業
- サウジアラムコ(サウジアラビア)
- ペトロナス(マレーシア)
- ペトロブラス(ブラジル)
- ガスプロム(ロシア)
- 中国石油天然気(ペトロチャイナ)(中国)
- イラン国営石油(NIOC)(イラン)
- ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)(ベネズエラ)
- ペメックス(メキシコ)
- 中国石油化工集団(シノペック)(中国)
- 中国海洋石油(シノック)(中国)
- ENI(イタリア)
- クウェート石油公社(クウェート)-「Q8」のブランド名でヨーロッパでガソリンスタンドを展開している。
脚注
出典
注釈
関連項目
外部リンク
- セルフ式スタンドの注意点(高松市消防局)
- ↑ 「セミセルフ」・「ミニセルフ」と称するスタンドは、給油はスタッフが担当するが、給油中のサービス(窓ふきやゴミ捨てなど)の有無や、支払い時にスタッフが来て車から受け渡しするか自身が指定場所に行くなど、店によってサービスの有無や内容が異なる。セルフスタンドでは基本的にすべてがセルフサービスで、客が一連の作業を行えるように雑巾等やゴミ箱が設置されている場合も多い。
- ↑ 例えば経営上の困難など。
- ↑ 普通車のみ。大型車はフルサービス。
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ なおJA-SSのセルフSSは「JAセルフ」の独自ブランドを掲げ展開。
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