笑い
笑い(わらい)とは、楽しかったり、嬉しかったりなどを表現する感情表出行動の一つ。
全く自発的な場合もあるが、他人の行動に対して、「笑う」という表現を通して、自分の意思を伝えることにも使われる。周りにつられて笑うというような現象もあるが、公式の場や話題によっては失礼・不謹慎とされることも多い。
また、人をどうにかして笑わそうとする行為もあり、一般に「笑いを取る」などと呼ばれる。職業的にこれを行うことを「お笑い」、そのプロフェッショナルを「お笑い芸人」などと呼ぶ。一般に同じ相手に対して、怒らせるのは簡単でも、笑いを取ることは非常に難しいことである。
目次
定義
笑いを定義するのは案外難しい。ごく一般的には陽性の感情に伴って表情が特有の緊張をすること(笑顔)、同時に特有の発声(笑い声)を伴うこと、ぐらいであろう。普通は何か自分以外の対象があって、それから受ける印象に基づいて、それが好意的であれば表情に笑いがでることがあり、特に刺激的な場合には発声が伴う。さらに程度がひどくなると全身に引きつけるような動作が伴い、涙なども出る。
しかし、人間はこのような表現をかなり意図的に使い分けることができ、微細な感情を表現するので、なかなかややこしい。たとえば表情を変えずに笑い声だけをあげた場合、冷やかしや威嚇などの表現となり得る。意図的なものの中には笑いの種類のように否定的意味合いを持つものもある。
また自己を笑いの対象にするものの中には、自嘲のように複雑な感情を伴うものもあり、自虐などとの区別は難しい。
笑いの発達
微笑は新生児においても観察され、覚醒時のみならず、睡眠中にも規則的な周期を伴って生起する。これは新生児微笑と呼ばれるもので、養育者の注意を引き関心を維持させる機能を担った生得的行動と推測されている。実際、新生児微笑に対して養育者は高い確率でポジティブな応答を返すことが知られている。このような相互作用の結果、乳児は生後2~3か月の頃から社会的交渉を持つために周囲の者に対して自発的に微笑を向けるようになる(社会的微笑)。
発声を伴う哄笑は生後3.5~4か月になって出現する。なんらかの外的刺激への反応として生じるもので、社会的微笑から派生したものと考えられている。しかし、笑いを喚起する刺激には驚きや恐怖をもたらす要素が含まれることから、発達的に先行する泣きから派生したものと見る説もある。
生理的な効果
笑いによって自律神経の頻繁な切り替えが起こる。
- この結果、交感神経と副交感神経のバランスの状態が代り、副交感神経が優位の状態になる。
- 副交感神経は、安らぎ・安心を感じた状態のときに優位で、副交感神経が優位な状態が続くとストレスが解消される。
- 交感神経は、怒りや恐怖を感じたときなどの異常な事態の時に優位になる。したがってその状態が長く続くとストレスの原因になる。
- 身体中の様々な器官に刺激が与えられる。
医学的証明
また、笑いというのは体にとってよい影響を及ぼす。笑うことで頬の筋肉が働き動くことにより、ストレスを解消し、また鎮痛作用たんぱくの分泌を促進させ、ストレスが下がることにより血圧を下げ、心臓を活性化させ運動した状態と似た症状を及ぼし、血液中の酸素を増し、さらに心臓によい影響を与えることから、循環器疾患の治療に用いられることもある。
笑いの分析
笑いは構図(シェーマ)のずれであると考えられている。例えばコントなどで滑って転ぶ政治家が演じられて笑いが起きたとすると、「政治家は真面目で威厳ある人で、滑って転ぶことなどありえない」という構図を受け手が持っていて、それがずらされたことによって笑いが起きたことになる。しかし受け手の常識が「政治家に威厳があるとは限らない」「滑って転ぶことは意外な出来事ではない」「政治家が転ぶというネタは目新しいものではない」などを含むものだった場合、構図のずれが発生しないため笑いは起きない。同じ出来事に対して笑いが起きるかどうかは受け手の持つ構図に依存すると言える。
また、笑いは立場によって意味を変える性質がある。転ぶ政治家を見ている人にとってはおかしな出来事であっても、政治家自身にとっては不名誉で笑えない出来事になる。
笑いは、脱力させて無防備にするということで、攻撃の一種とされる[1]。
笑いについての研究
- 古代
- 18世紀
- 19世紀
- フランスの詩人シャルル・ボードレールは、有意義的滑稽(人間の振る舞いによって引きおこされるふつうの笑い)と、絶対的滑稽(グロテスクによって引きおこされる深遠で原始的な笑い)があるとした。
- スコットランドの哲学者・心理学者アレクサンダー・ベインは、笑いとは、私たちを安心させる些細なこと、卑俗なことに接触による緊張した状態から逃れた状態である。笑わせてくれるまじめさ、荘厳さの形であるとした。
- イギリスの社会学者ハーバート・スペンサーは、強い感情、精神や肉体という、笑いの一般的な理由として、他の筋肉運動と異なり、特に目的もない筋肉運動から笑いが構成されるということに注目するべきだと主張した。
- 笑うのは動物の中でもヒトだけであると考えられてきた。しかし、進化論の提唱者であるチャールズ・ダーウィンは、オランウータンやチンパンジーといった類人猿をくすぐると笑い声をあげると書いている。
- 20世紀
- オーストリアの精神科医ジークムント・フロイトは 「ユーモアは自我の不可侵性の貫徹から来る。」 と説いた。
- フランスの哲学者アンリ・ベルクソンは自身の研究『笑い』において、ボードヴィル演劇を素材として笑いの原因を考察した。ここでは「笑いは、生命ある人間に機械的なこわばりが生じた結果である。」 としている。
- 日本でも、落語家の桂枝雀が、笑いは緊張の緩和によって起こるという「緊緩理論」を立てている。
- 笑いには、免疫系のNK細胞(ナチュラルキラー細胞)の活性を高めるなどの健康増進作用があると言われている。
- オランダの霊長類学者ヤン・ファンフーフは、笑いの起源と進化についての仮説を提唱した。笑いは微笑み(スマイル)と声の伴う笑い(ラフ)の二つに大きく分類でき、スマイルはサルの仲間が自分より強いサルに対してみせる「歯をむき出しにする表情(グリマス)」から、ラフはサルの仲間が遊びにおいてみせる「口をまるくあける表情(プレイ・フェイス)とそれに付随するあえぎ声(プレイ・パント/笑い声)」からそれぞれ進化したという(プレイ・フェイスは霊長類に広く見られるが、笑い声を発する種は限られる)。
- 21世紀
- 笑いに関わる脳神経機構が解明されつつある。テンプレート:要出典
人間以外の霊長類の笑い声
チンパンジーや、ゴリラ、ボノボ(ピグミーチンパンジー)、オランウータンは、取っ組み合いや追っかけっこ、くすぐりあいなどの遊びにおいて、人間の笑い声のような声をあげる。チンパンジーのこの種の行動は、野生状態でも飼育下でも記録されている[2]。くすぐられる、追いかけられるといった受身の側のチンパンジーが笑うことが多い。人間とチンパンジーは、腋の下や腹など、くすぐられた際に笑いが生じやすい体の領域(くすぐったい領域)が共通している。プレイ・フェイスは遊びを誘う時や一人遊びでもよく見られるが、笑い声が起こるのは他者との遊びが始まってからである。チンパンジーは大人になってからも笑う(遊ぶことが減るので頻度は下がる)。人間との相違点として、人間は笑い声が伝染して多数が一斉に笑うことがあるがチンパンジーにはそのようなことが無いということや、野生のチンパンジーには言語によるユーモアや、嘲笑、他者を笑わせる「おどけ」が見られないことなどが指摘されている[3]。また、チンパンジーの笑い声は呼気と吸気が交互に繰り返されることが多い点と、しゃがれ声であるという点で人間の笑い声と音響的に少し異なるとされる。この違いは、人間が言語能力を発達させる方向に進化・適応した結果かもしれない。
笑いを取る行動・演芸
笑いを取る職業
著名なコメディアン
笑いに関する表現
- 笑顔
- 爆笑、大爆笑
- 苦笑
- 失笑
- 冷笑
- 照れ笑い
- 微笑
- 愛想笑い
- 空笑
- 嘲笑
- 憫笑
笑いについての名言・格言・四字熟語
- 破顔一笑
- 呵々大笑
- 抱腹絶倒
- 一笑に付す
- 一笑を買う
- 笑壺に入る
- 笑みの中の刀
- 笑中に刀あり
- 笑いを噛み殺す
- 笑う門には福来る
- 笑い三年泣き三月
- 痘痕も靨(笑窪)
- 目屎鼻屎を笑う
- 樽抜き渋柿を笑う
- 怒れる拳笑面に当たらず
- 来年のことを言うと鬼が笑う
笑いの種類
- 含み笑い
- 薄ら笑い
- せせら笑い
- 作り笑い
- 苦笑い
- 思い出し笑い
- 独り笑い
- 高笑い
- 馬鹿笑い
- 追従笑い
- 貰い笑い
- 誘い笑い
脚注
関連項目
- 笑顔
- ギャグ、落ち
- 滑稽
- (笑) - インターネットにおける笑いの表現方法
- 微笑み走法 - ランニング時における笑いの効用
- 新生児微笑 - 赤ちゃんの特徴の一つ
- 笑い講 - 豊作を願い笑う神事
- 笑い死に
- ワライタケ(きのこの一種)
- ↑ 「情報中毒社会」と「ネット依存」のこと
- ↑ チンパンジー笑い声のサンプル グドール(1968)とパール(2005)
- ↑ 松阪崇久(2008)笑いの起源と進化.心理学評論51(3):431-446.