印章

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テンプレート:出典の明記 印章(いんしょう、テンプレート:Lang-en)は、象牙金属合成樹脂などを素材として、その一面に文字やシンボル彫刻し、個人・官職・団体のしるしとして公私の文書に押して特有の痕跡(印影・印痕)を残すことにより、その責任や権威を証明するもの。(いん)、(はん)、印判(いんはん)、印形(いんぎょう)、印顆(いんか)、印信(いんしん)、判子(はんこ)ともいう。印章を押すことを、押印(おういん)、捺印(なついん)、押捺(おうなつ)という。近年では文書の電子化に伴い電子印鑑も登場している。

概説

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稟議書(起案書)に押された印影。稟議書では、承認の印に印章を押す。

印章の材質としては、木、水晶、金属のほか、動物の角、牙が多く用いられ、近年は合成樹脂も用いられる。これらの素材を印材と呼ぶ。印材の特定の面に、希望する印影の対称となる彫刻を施し、その面に朱肉印泥またはインクを付け、対象物に押し付けることで、特有の痕跡を示すことができる。この痕跡を印影と呼ぶ。

一般に、印影(印面)には文字(印字)が使用され、漢字を用いる場合の書体には篆書体楷書体隷書体が好まれる。印字は、偽造を難しくしたり、偽造防止のため、既存の書体によらない自作の印を使う者もいる。

印章文化圏は、日本中国香港マカオ台湾韓国北朝鮮ベトナムインドネシアラオスマレーシアシンガポールなどに広がっている。ただし、以上の地域でもサインも用いられる。

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王羲之の『蘭亭序』。歴代の所有者の印章が、押されている。印影は、陰刻・陽刻など刻体・書体は様々である。

基礎概念

印に関する主な用語はそれぞれ次の意味がある。

印章または印影であり、一定の権利・強制力を有するもの
印章や印影ではあるが、記号・情報としての機能しか持たないもの
印章
はんこの本体側。印材を加工・成形して作られる。封泥封蝋用のものは印章が彫られた面が中央に向かってわずかに凹んでおり、朱肉による捺印用は平板か中央が少し盛り上がっている。
印影
紙などに印章を押された跡(結果)
印鑑
照合用の印影[1]
しばしば、印章と同じ意味で印鑑という語が用いられることもある。古くは、印影と印章の所有者(押印した者)を一致させるために、印章を登録させた。この印影の登録簿を指して印鑑と呼んだ。転じて、登録した印章自体も印鑑と呼ぶようになった。このため、印鑑登録した印章や銀行に届け出た印章など、何らかの登録を受けた印章を特に印鑑と呼んで区別することもある。
印文
印面に用いられる文字。
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職印の例。図中の「ウイキメデイア財団」が回文、「理事長印」が中文。
回文
二重枠の印章の印文のうち外周の部分に刻まれている文字。
中文
二重枠の印章の印文のうち中央の部分に刻まれている文字。
印鈕(いんちゅう)、印鼻(いんび)
角型の印章などのツマミの部分。
指付(ゆびつき)、座繰り(ざぐり)、サグリ、アタリ
印の上下を確認するために認印などの印章の側面に付けられた窪み。
押印、捺印
印章を用いて紙面に印影を残すこと。「契約書に押印 / 捺印する」のように使用される。ただし捺印は、その押された印影の意味もある。また両者には、法律上は押印で(当用漢字制定前は捺印が一般的)、日常的には捺印でという使い分けや、「記名押印」(法的には署名の代わりになる場合あり)、「署名捺印」という組み合わせでの使い分けをすることがある。なお「押捺」も同意語だが、印を押す以外に指紋を押すという意味がある。
印肉(いんにく)
押印に用いる、顔料を染み込ませたもの。色は朱が用いられることが多く朱肉ともいう。
印矩(いんく)
印を押すための定規のことで、L字型・T字型のものが一般的である。印矩を用いれば押し直すことができる[2]
印褥(いんじょく)
捺印のとき下に敷いて用いる台のこと。既製品もあるが、などの少し厚手の平らなガラス板の上に、画仙紙を数枚のせて用いても具合がよい。むらなく押せるようになる[2]

歴史

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動物と戦う英雄を描いた円筒印章(左)とその印影。マリイシュタル神殿で発見、紀元前2600年頃のシュメール初期王朝時代、ルーブル美術館所蔵

原始的な印章は中東の遺跡(紀元前7000年 - 6000年頃)から発掘[3]されていて、紀元前5000年頃に古代メソポタミアで使われるようになったとされる。最初は粘土板や封泥の上に押すスタンプ型の印章が用いられたが、後に粘土板の上で転がす円筒形の印章(円筒印章)が登場し、当初は宝物の護符として考案され、のち実用品になったが[4]、間もなく当時の美意識を盛り込んだシリンダー・シールとなった。紀元前3000年頃古代エジプトでは、ヒエログリフが刻印された宗教性をもったスカラベ型印章が用いられていた[5]。それ以来、認証、封印、所有権の証明、権力の象徴などの目的で広く用いられた。これがシルクロードを通って古代中国に伝わったのは、かなり遅れて戦国時代初期(紀元前4、5世紀)であったろう。その図象を鋳成した青銅印を粘土に押し付けると、レリーフ状の図象が浮きあがり、シリンダー・シールとの文化的連続性は否定すべくもない[6]

中国

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日本

テンプレート:See also 日本では西暦57年ごろに中国から日本に送られたとされ、1784年に発見された「漢委奴国王」の金印が最古のものとして有名である。大化の改新の後、律令の制定とともに印章が使用されるようになったとされる。律令制度下では公文書の一面に公印が押されていたが次第に簡略化されるようになり、中世に至り花押に取って代わられた。しかしながら、近世以降次第に復活してゆき(織田信長の「天下布武」の印など)、江戸時代には行政上の書類のほか私文書にも印を押す慣習が広がるとともに、印鑑帳が作られた[7]明治政府は欧米諸国にならって署名の制度を導入しようと試みた[8]が、以後の議論の末、1900年までに、ほとんどの文書において事務の煩雑を避けるため自署の代わりに記名押印すれば足りるとの制度が確立した[9]。また、印鑑登録制度が市町村の事務となったのも明治時代である。

日本の印章の製造拠点は主に山梨県西八代郡市川三郷町六郷地区であり、六郷印章業連合組合が設置され全国の50%のシェアを誇っている[10]経済産業大臣指定伝統的工芸品として甲州手彫印章が指定されている。

種類

用途

重要な印章を紛失すると、日常生活などで支障が生じるため、必要に応じて使い分ける。

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一般に申し込みや受け取りなどの証明用として用いられる印。姓(苗字)のみが彫られた既製品が多く、三文判(「二束三文」から。作りも安っぽいため)とも呼ばれる。印材にラクトカゼイン等の合成樹脂(プラスチック)を用いたものが多い。姓を入れたインク浸透印(ネーム印)は認印として用いられる。真円のものと楕円のものが多く、かつては双方とも多く使われたが現在は真円のものが主流である。
訂正印(ていせいいん)
修正個所に修正者を証明するために押すのに用いる印。帳簿等小さな箇所に押す場合が多いため小型のもの (6mm) が用いられるが、修正者を証明するための印なので18mm等の大きいサイズを使っても問題はない。真円のものと小判型のものがある。
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役所に登録(印鑑登録制度)した印章を実印と言う。偽造を防ぐため、個別に製作されたものを用いることが多く、転じてその登録をする用途に適した印を指すこともある。個人の実印及び法務局登記所)に登録する会社、各種法人の実印がある。財産(不動産自動車など)の取引など重要な用途において印鑑登録証明書を添付して用いられる。欠損、摩滅している印鑑は使用できないため、元々変化しやすい材質(ラクトや浸透印、ゴム印など)では登録出来ない。なお登録できるサイズは8mm以上25mm以内。また、文字の組み合わせや新旧字体など、さまざまな制約がありどのような印でも実印登録できるわけではないため注意を要する。また会社の実印(代表者印)は、角印に対して、「丸印」と呼ばれている。ただし、代表者印に角印を用いることがある。
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銀行もしくは証券会社等に口座を開設する際に届け出た印。偽造を防ぐため、個別に製作されたものを用いることが多く、転じてその用途に適した印を指すこともある。実印と違い、各金融機関の裁量で印面の規定が決まっているため字体が違ったりイラストが入っていても登録は可能。
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多孔質の合成ゴムを印面に用いて内部にインクを溜め込む仕組みを備えた浸透式の印章で朱肉を必要としないもの。捺すごとに力のいれ具合などで印影が変形することがある。代表的なメーカーの名からシヤチハタと通称される。認印として通用するが正式な印としては認められていない部分があり、スタンプ印不可・シャチハタ不可と明記された書類も多い。認印の要る文書の中でも重要度の低い、回覧や宅配の受取などに用いられる。ただし、正式な印として認められる場合もあり、たとえばゆうちょ銀行では届け出印の材質等について規定が無く、浸透印を銀行印とすることが可能である(ゴム印など、民間銀行では拒否されるような印でも可能)。なお、量販されている浸透印は容易に入手できるため、通帳の副印鑑表示を廃止していないゆうちょ銀行では、通帳を紛失したときに大きなリスクがあることが明白なので各々の局や職員の対応によっては拒否されることもある。
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個人ではなく法人(団体)の請求書、領収書、契約書などにおいて、社名や所在地に付して確認のために用いられる角型の印。会社の認印にあたり、「社判」ともいう。縦彫りが主流だが文字数が多い団体などは横彫りを用いる場合がある。
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ある職に就いている者が使用する印。士業の一部は、その根拠法令において職印を作成し登録するように定められている。
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公的機関の印。大阪市では「大阪市印」「大阪市長之印」という角印が用いられている他、「大阪市北区長之印」など各区長の公印、また用途別に「戸籍専用」(住民票・戸籍の写し用に)などの文字を入れた物などが規則で定められている。天皇御璽もまた公印である。
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書画の作者によって書画に押される印章。1人の作者によって複数押されることが多く、真贋鑑定の材料となる。なお、単に「落款」とのみ呼ばれることもある。わざと欠けやすい印材(石など)を使い、枠の欠けを趣として好む。主に篆書体が多いが、自分流にアレンジした書体を使う人も多い。

印材

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形状

寸胴
上部から印面まで途中に窪みのない印章。
天丸
上部が丸く途中が窪んでいる印章。
天角
上部が四角く途中が窪んでいる印章。

書体

篆書体
大篆、小篆、印篆などの総称として呼ばれ、個人の実印や法人の実印、銀行印としてよく使われる。
隷書体
可読性が高いが法人印での使用が多く、個人印での使用は少ない。
楷書体
可読性が高く、認印のほかインキ浸透印に多く使われる。
行書体
可読性は比較的低いが、柔らかい書体のため女性に好まれる。
草書体
可読性が低く、現在ではあまり使われない。
古印体
日本で作られた書体といわれ、独特の線の強弱・途切れが特徴。可読性は比較的高く、用途を問わず広く使われる。
八方篆書体・八方崩し
江戸時代に好まれた書体。篆書体を基に字を大きく崩し枠につけたもの。可読性は低い。
印相体・吉相体
篆書体から意匠化・派生した書体で、枠に文字が接するのが特徴。八方篆書体と混同されるが異なる。縁起の良い開運の書体であるとして宣伝される傾向があり、根拠のない定説により消費者に誤解を招くおそれがあり、使用しない方が良いと思われる。
金文
もっとも古い書体の一つであり可読性は低く、落款等を除いてあまり使われない。

その他、甲骨文字江戸文字明朝体ゴシック体など様々な書体を用いた印章が使われるが一般的ではない。

陰刻と陽刻

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「陰刻」の例、漢委奴國王印文

印章は陰刻(陰文・白文)と陽刻(陽文・朱文)に区別される。陰刻とは文字が印材に彫られ、捺印すると、印字が白抜きで現れる印章である。陽刻とは文字の周りが彫りぬかれ、捺印すると文字の部分が印肉によって現れる印章である。現在では陽刻が一般的である。

歴史上の漢委奴国王印がそうであるようにかつては「陰刻」が一般的だった。これは当時、印章が「封泥」に捺印するために使われていたことに由来する。「陰刻」の印を粘土に押すと、文字が凸状になって現れるためである。「陽刻」が一般的になるのは、が登場して朱肉が普及してからである。

なお、陰刻印章は印鑑登録出来ない(各市区町村の登録手続き規定)。印影が記録される際に明暗が逆転するためと思われる。

機能

契約等に際しての押印(捺印)という行為は意思表示のあらわれとみることができる。例えば、契約書等に記名(署名や押印・捺印等)をする行為は、その契約を締結した意思を表示したものとみることができる。また、印章の使用は認証の手段として用いられることもある。これらは特定の印章を所有するのは当人だけであり、他の人が同じ印影を顕出することはないであろうという社会通念に立っている。それゆえに、文書に押された印影を実印の印影や銀行に登録した印影と照合して、間違いなく当人の意思を表すものかどうかを確認することが行われる。

実際の取引の場面では、印章を持参した者は本人または本人の真正の代理人であるとみるのが通常である。しかし、契約などの場面においては、使用された印章を特定しても、「実際に押印した人物」を特定することができないため、印章の所有者の意図しない不正使用などをめぐり、のちに争われる事態となることもある。

民事訴訟法は第228条4項で「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と定めている。これは文書の名義の真正(その文書が作成名義人によって実際に作成された)という「成立の真正」を推定することを意味し、文書の記載内容が真正であることを意味する「内容の真正」とは区別される。この規定により、私文書にある印影が本人または代理人の印章によって押された場合には、反証なき限り、その印影は本人または代理人の意思に基づいて押されたと推定され、その結果、同項の要件が満たされるため、文書全体が真正に成立したと推定される。

裁判においても、私文書に押される印の有無は当該契約の有無、契約にかかる義務や責任の有無を示す重要な証拠となる。同項では、契約書に署名又は押印のある契約は成立が推定される。また、判例では、印影が本人の印章による場合には本人の意思に基づいて押印されたものであると推定され、契約の締結も本人の意思に基づいてなされたものと推定される(二段の推定)。この契約の存在を否定するには押された印章の所有者側が、当該契約が自身の意思によらない(捏造された)ことを立証しなければならない。

なお、当事者又はその代理人が故意又は重大な過失により真実に反して文書の成立の真正を争ったときは、第230条で裁判所は決定により10万円以下の過料に処すと定めている。

印鑑制度の限界

テンプレート:See also 日本の金融機関では預金通帳と登録した印鑑を照合することで口座取引を可能としていた。

この仕組みを実現するため、預金通帳の表紙裏面に、登録に用いた印章の印影を転写した印鑑票(副印鑑)が貼付されていた。銀行印の登録原票は口座開設店にあり、登録印鑑の照合ができるのはその店に限られる。そこで、通帳に副印鑑を貼り付けることで、他の店でも印影の照合、そして口座取引が可能となった。

ただし、印鑑と預金通帳があれば預金を引き出すことができるため、第三者による悪用を防ぐためには印鑑に用いた印章と通帳は別々に保管することが望ましいとされた。

しかし、近年では副印鑑をスキャナで読み取って預金払戻し請求書にカラープリンタで転写したり印影から印章を偽造するなどして、登録に用いた印章を所持せず他人の口座から預金を引き出す手口が現れ被害が後を絶たないことから、副印鑑の貼付を廃止し、代えて登録原票をデジタル情報として蓄積し、いずれの本支店でも参照できるようにして、口座取引をどこでもできるようにする方法が普及しつつある。

印章の法的保護

テンプレート:Main 印章は人の同一性を表示するために文書に使用されるものであることから、その社会的信用を保護するため刑法は印章偽造の罪を設けている。

種々の押印

  • 契約印 - 契約の当事者が契約内容に同意することを明確に意思表示するために、署名欄に押印するもの。
  • 契印 - 2枚以上にわたる契約書が、その文書が一連一体の契約書であることを証明し、差し替えや抜き取りを防ぐために各ページの綴じ目や継ぎ目に押印するもの。実際には割印と呼ばれることもあるが、誤用。
  • 割印 - 複数作成した契約書が、その文書が関連のあるものまたは同一の内容のものであることを証明するために押印するもの。必ずしも契約印と同一である必要はない。小切手帳の本片とみみ、領収書の本片と控えにまたがって押印するのもこれに該当する。
  • 訂正印 - 契約書等の文書において記載事項の誤記を訂正するために押印するもの。誤記文章に直接2本線を引いて近くの余白に正しい記述を行い、当事者の印鑑を押印して訂正するが、ページ余白に当事者の印鑑を押印し「3字削除 5字追加」というような表記をする方法もある。
  • 捨印 - あらかじめ訂正箇所が発生することを前提として、契約書や委任状といった文書の余白部分に押印しておくもの。
  • 消印 - 郵便切手やはがき、収入印紙などが使用済であることを示し、無効化して再使用できないようにするために押印するもの。
  • 封印 - 勝手に物が使用されたり開封されたりすることを禁じるために、封じ目に印を押すこと。またその印を意味し、封緘印、厳封印(厳封した証拠に押す印)ともいう。一般に「〆」(×ではない)「緘」(かん)などの封字を用いる。封印の代わりに、封緘紙を貼ることもある(例えば、封筒ではなく瓶等で)。

類似の概念

署名

テンプレート:See also 氏名を自書することであり、筆跡によってその署名した個人を特定することが可能である。

多くの場面で、署名が記名押印と同等のものとしてその効力を認められており、刑法の「印章偽造」やいわゆる「有印公(私)文書偽造」といった罪においても署名が印章と同等に扱われている。

なお、商法においては署名が本来の形で、その代わりとして記名押印が認められている。

爪印

爪の形を印章の代わりとして用いること。紀元前8世紀のメソポタミアの粘土版には、自署のかわりに爪印を用いた例が見られ、世界的にも広く風習としてみられる。日本にも8世紀以降伝わり、天皇の裁可文書や庶民階層の吟味文書などに用いられた[11]

拇印

印章を持ち合わせていない場合、印章の代わりに拇印(ぼいん)を用いることがある。拇印とは、拇指ないし人差し指の先に朱肉をつけて押す印のことであり、指紋により、押印した個人を特定することが可能である。別名指印(しいん)。

ただし、署名が記名押印と同等のものとして広く認められていることもあり、警察での供述調書被害届などの特殊な文書以外の公文書への拇印はあまり用いられない。

ゴム印

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日付印(丸形)
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日付印(小判形)

印面がゴム製の印章をゴム印という。ゴム製の印章とその印影は、力や熱のほか、経年により変形するため、通常、公文書などへの使用はできない。ゴム印はインク浸透印で代替されるケースが多い。ゴム印には以下のような用途のものがある。

  • 日付印(デート印) - 日付を入れたゴム印。日付欄以外に氏名や役職のほか「承認」「領収」「受領」などの目的に応じた印面が使われる。
    • 日付印の類型 - 郵便局の引受印、鉄道会社の改札印・車内検札印、公証人郵便認証司の印(確定日付を参照。印面は前述の理由によりゴムは使用されていない)に日付が入った印が使用される。
  • 回転印 - 一連の数字または日付のみのゴム印。自動で数字の繰り上げを行う回転印をナンバリングと呼ぶ。
  • 住所印 - 住所を入れたゴム印。鯱雅印(こがいん)や風雅印と呼ばれる枠付きのゴム印も住所印の一種である。
  • 科目印・項目印 - 簿記に用いるゴム印。
  • 等級印 - 品質や大きさを表示するのに用いる(優、秀、良、並など)。
  • 評価印 - 学校などで用いられる「よくできました」や「がんばりましょう」などの印面をもつもの。
  • 贈答用のゴム印としては「御祝」「内祝」「御中元」「御歳暮」「寸志」「粗品」などのゴム印が用いられる。
  • 郵便用のゴム印としては「親展」「速達」「至急」「御中」「請求書在中」「納品書在中」「領収書在中」などのゴム印が用いられる。
  • その他、文書用のゴム印としては「回覧」「重要」「極秘」といったゴム印が用いられる。

スタンプ

日本において、スタンプと言う場合は、判(またはゴム印)をさすことが多い。スタンプは観光地など記念用に設置されている。鉄道駅(駅スタンプ)や道の駅、サービスエリアやパーキングエリア(サービスエリアパーキングエリアスタンプ)にも設置される。各地でスタンプラリーも企画されている。紙などを差し込むことで電動で押印・印字されるスタンプもある。

  • 「バリデーションスタンプ」 (Validation Stamp) は、運送チケット類に押印するスタンプ。航空券の発行会社名、地名、発行年月日等が刻印されており、このスタンプが押印されていない航空券は有効とみなされない。

関連用品

印章の関連用品として次のようなものがある。

  • 朱肉
  • 印鑑ホルダー - 印章を予め装着しておくことで簡便に押印できるようにしたもの。
  • 印章ケース(印鑑ケース) - 印章を入れておくためのケース。
  • 印判ブラシ - 印章の先端の汚れを取るためのブラシ。
  • 印矩(前述)
  • 印褥(前述)、印鑑マット、捺印用マット
  • 捺印器 - 多数の賞状や証書類を発行する場合などで、定位置に確実に捺印していく必要がある場合に使用される。

印章関連団体

  • 公益社団法人全日本印章業協会

脚注

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参考文献

  • 牛窪梧十『篆刻にしたしむ本』二玄社、1996年7月 ISBN 4-544-01121-3
  • 小田玉瑛『メソポタミアから日本へ 印章の道』木耳社、2012年 ISBN 978-4-8393-1150-6
  • 甲斐古文書研究会編『各駅停車全国歴史散歩 20 山梨県』河出書房新社、1983年2月28日
  • 北健一『その印鑑、押してはいけない!―金融被害の現場を歩く』朝日新聞社、2004年 ISBN 4-02-257938-2
  • 中本繁実『面白いほどよくわかる発明の世界史―歴史を塗り変えてきた世紀の大発明のすべて』日本文芸社、2008年 ISBN 978-4537256000

関連項目

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  1. この意味における「印鑑」という語の用法としては公証人法第21条の「公証人ハ其ノ職印ノ印鑑ニ氏名ヲ自署シ之ヲ其ノ所属スル法務局又ハ地方法務局ニ差出スヘシ」などがある。
  2. 2.0 2.1 牛窪 [1996:12]
  3. 中本 [2008]
  4. 小田 [2012:3]
  5. 小田 [2012:4]
  6. 小田 [2012:4]
  7. 北 [2004:211-212]
  8. Wikisource:ja:諸証書ノ姓名ハ自書シ実印ヲ押サシム(明治10年太政官布告第50号)参照。
  9. 信森毅博「認証と電子署名に関する法的問題」別表 私法上の押印の扱い年表(69頁)、日本銀行金融研究所ディスカッションペーパー98-J-6、1998年、2008年8月31日閲覧。
  10. 甲斐古文書研究会編 [1983:108-109]
  11. 爪印 - コトバンク