公安警察
テンプレート:混同 公安警察(こうあんけいさつ)は、「公共の安全と秩序」つまり治安を維持することを目的とする警察である。
目次
日本の公安警察
公安警察という呼称はあくまでも俗称であり、正式には警備警察の一部門である。マスコミなどで警備公安警察とも呼ばれるのはこのためである。
警察庁警備局を頂点に、警視庁公安部・道府県警察本部警備部・所轄警察署警備課で組織される。東京都を管轄する警視庁では警備部と別に「公安部」として特に独立しており、所属警察官約2000名を擁する。
主に国家の体制を脅かす事案に対応する。公安関係予算(地方警察職員の給与を含む)は国庫から支出される。
国外的には旧共産主義国の政府、国際テロリズム、国内的には、極左暴力集団、朝鮮総連、日本共産党、社会民主党最左派(社会主義協会)、市民活動[1]、カルト(特殊組織)、右翼団体などを対象に捜査・情報収集を行い、法令違反があれば事件化して違反者を逮捕することもある。さらに国内的には、公安警察の同僚、一般政党、中央省庁、自衛隊、大手メディアなども情報収集の対象になっているとされる。
情報収集を担当する公安警察官は、警察署長や課長など所属長のみならず、「チヨダ」と呼ばれる警察庁警備局警備企画課の指導により行動することも多いと言われる。
沿革
連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)が1945年10月4日に出した「人権指令」(「政治的、公民的及び宗教的自由に対する制限の除去の件(覚書)」SCAPIN-93)によって、特別高等警察が廃止されることになったが、次田大三郎などの内務官僚は、一応は特高警察を廃止するが、反政府的な動静への「査察・内偵」を早急に建て直すためにも、特高警察に代わるべき組織は早急に作り上げるべきと考えており、その「代わるべき組織」として、1945年12月19日、内務省警保局に「公安課」を、各府警に「警備課」を設置した[2]。その後、1946年の2月から3月にかけて各府警の警備課は公安課に改称され、各警察署にも公安係が設置されていった[3]。1946年8月、内務省警保局公安課は、公安第一課と公安第二課に分離し、公安第一課が「公安警察」の主力となった[4]。その後の内務省の解体・廃止と旧警察法の制定後も、国家地方警察本部警備部警備課は五係から一八係に拡充される。1950年前後には公職追放されていた旧特高警察官の多くが公安警察に復帰し、特高警察での経験・ノウハウを活かしている[5]。1954年の新警察法により、警察庁と都道府県警察による中央集権的な警察機構が整備されたが、それは公安警察の拡充・効率化をテコに進められた[6]。
公安捜査
公安捜査は、事案の特殊性と保秘の観点から、公安警察官のみで行われる。通常は、対象団体の集会の視察や構成員を追尾して違法行為の有無を確認する視察作業が多い。構成員を饗応して協力者に仕立て上げ、情報を収集することもある。対象とする犯罪も特殊なだけに、事件発生後に捜査するのではなく、不審な対象を発見した場合は公共秩序を乱す行為を行っていなくとも捜査対象に置く場合がある。
公安警察官はたとえ他部門の警察官が同事案を扱っていたとしても、情報交換はしない。 ただし、過去に警視庁では連続企業爆破事件、警察庁長官狙撃事件など大規模事案において、一つの特別捜査本部に公安部と刑事部双方が投入されたこともある。ところが、双方に情報が分散してしまい、十分な捜査情報が共有されなかったという。例えば、警察庁長官狙撃事件の際は、事件現場にいたとされるオウム真理教信者の警視庁警察官を、南千住警察署特別捜査本部に投入されていた公安部公安第一課が身柄を拘束し、事情聴取までしていたにもかかわらず、同じ特別捜査本部に投入されていた刑事部にその情報を一切公開しなかったことで捜査に支障が生じたこともあった。
基本的に捜査費用は非公開とされているため、予算の配分が妥当なのかどうか、判断することが難しい状態になっている。2010年には警視庁公安部公安第二課の巡査部長による経費詐取が発覚している。
また、菅生事件のように、非合法な手段による作業が表面化し、問題にされることもある。
内閣情報調査室との連携、警視庁公安部の捜査を総合探偵社調査員が私人としての協力もあるテンプレート:要出典。
外事警察
旧共産主義国の政府による諜報活動、国際テロリズムを捜査するのは公安警察の外事課(外事警察)である。国外において日本の警察に法的な捜査権はないが、国際テロリズム捜査のためには国外での捜査も行う。同時に防衛省情報本部などと協力を行っている。
公安警察官
公安警察に所属している警察官は、公安警察官と呼ばれることが多い。公安警察官は、警務部、総務部所属の警察官と並んで、警察内部ではエリートとみなされている。
公安警察官は、マスクで顔を隠したり、部外者(他部門の警察官も含む)に本名や所属を名乗らないなど、自らの特徴を覚えられるのを避けている場合が一般的である。ただし、対象者の性質によっては、公安警察官であることを名乗って公式に接触することもある。
また公安警察官は、対象者を秘匿に行動確認する手法が非常に高いともいわれている。東京勤務の経験がある旧ソ連KGBや米国CIAの工作官は、日本の公安警察官による行動確認の手法は非常に高度であると評価している[7]。
公安警察と反体制勢力
公安警察の捜査の対象となっている団体の所属者を微罪逮捕したり、刑事・交通の管轄の事案に託けて、監視対象団体への家宅捜索などを行うことがある。逮捕された者には不起訴になるケースもあるが、公安警察の目的はむしろ逮捕を足がかりとした、事情聴取や押収資料からの情報収集・内情分析であるとされる(このような逮捕のあり方を別件逮捕という)。その一方で、団体の活動は結社の自由によって保障されているため、別件逮捕に頼らざるをえないという主張もある。
- 例
- 立川反戦ビラ配布事件に代表される広報チラシのポスティングに係る市民団体や日本共産党関係者への検挙事案。社会保険事務所の係長が休暇中に「しんぶん赤旗広報版」をポスティングしていたとして国家公務員法違反で逮捕された事件(通称「堀越事件」)が控訴審無罪の黒星(その後検察は上告するも棄却)を付け、一方で警察庁長官狙撃事件が未解決・公訴時効成立となったことを新聞各社が批判している[8]。2012年12月には三鷹市で、2012年東京都知事選挙における革新側候補を応援する法定ビラを団地内で配布していた運動員が住居侵入の廉で逮捕されている[9]。
- 北朝鮮による日本人拉致問題を根拠にした在日本朝鮮人総聯合会への捜索、車庫法違反(ディーゼル自動車の車庫飛ばし)を理由にした滋賀朝鮮初級学校への捜索。土台人疑惑の解明を目的に、税理士法違反を根拠容疑とした在日朝鮮新宿商工会・青年同盟への捜索など在日朝鮮人や朝鮮学校・民族機関への各種事案
- 大阪・「釜ヶ崎パトロールの会」関係者の逮捕拘束(世界陸上への天皇皇后来場に備えての“清掃”ではないかとも非難されている)
- 詐欺容疑での中核派活動家逮捕(詐欺罪は本来は刑事部捜査第二課の事案である)
捜査の段階で電話盗聴、盗撮を行う場合もあるとされ、人権侵害として訴えられる場合も多く、日本共産党幹部宅盗聴事件のように違法とされることもあった。1999年(平成11年)に通信傍受法が制定されるまではこの捜査方法の法的位置づけが曖昧だった。
- 日本共産党は、「公党たるわが党を監視する事自体が憲法違反であり、不当極まりない」と非難・批判している[10]。
- 社会民主党は「盗聴法(通信傍受法と同義)[11]は人権を侵害しているから必要ない」と非難・批判している。
- 在日本朝鮮人総聯合会は、「総連は在外公民団体に過ぎず、家宅捜索は民族差別に等しい弾圧である」と非難している。
参考文献
- 荻野富士夫『特高警察』(岩波新書)ISBN 4004313686
- 大野達三『警備公安警察の素顔』(新日本出版社)ISBN 4406015922
- 警備研究会 『日本共産党101問』(立花書房)ISBN 4803715246
- 青木理『日本の公安警察』(講談社)ISBN 4061494880
- 鈴木邦男『公安警察の手口』(ちくま新書)ISBN 4480061983
- 竹内明『時効捜査 警察庁長官狙撃事件の深層』(講談社)ISBN 4062161702
- 谷川葉『警察が狙撃された日』(三一書房)ISBN 4380982149
- 小山善一郎 『日本警察官僚総合名鑑』(新時代社)ISBN 4787491059
- 島袋修『公安警察スパイ養成所』(宝島社SUGOI文庫)ISBN 4796672540
- 海渡雄一『反原発へのいやがらせ全記録』(明石書店)ISBN 4750339498
脚注
公安警察の一覧
- テンプレート:Flagicon イスラエル
- イスラエル総保安庁
- 情報機関としてのイスラエル諜報特務庁(モサッド)とは別である。
- イスラエル総保安庁