不法無線局
テンプレート:Ambox 不法無線局(ふほうむせんきょく)とは、電波法第4条に定める免許を受けずに運用する無線局のことである。 俗語ではアンカバー、UCともいう(“足を見せない”意のアンダーカバー、Undercoveredから)。 なお、免許を受けていながらその範囲を逸脱して運用する場合は違法無線局と呼び区別される[1] 。
概要
- 電波はその性質上、万人が自由勝手に使用した場合に、お互いに妨害を与え正常な通信ができなくなるなどのトラブルを招いてしまう場合がある。
- そのため、電波の使用が他者の不利益とならないよう、また、限られた周波数を用途別などに整理するための管理、監督の仕組みが存在する。
日本の場合、電波法の中で、その使用を規制している。その大要は、
- 無線局を開設しようとする者は原則として免許または登録を必要とすること
- 免許または登録に際して総務大臣が申請書を受理した時には、法令上の技術基準に適合すること、周波数の割当てが可能であること、開設の基準に合致することを審査すること
である。
不法無線局は、これらの手続きを行わずに勝手に開設される無線局である。 免許を受けずに送信機を電波が発射できる状態にしていれば、実際に電波を出していなくても不法無線局を開設していることになる。 不法無線局かどうかはコールサインを言わないなど通信内容からある程度判別可能である。
であることが多く総称して「不法三悪」と言われる。 これら三種の無線機は、1993年(平成5年)より電波法令で指定無線設備とされ、小売業者は「免許を申請する必要があり、免許が無いのに使用した場合は刑事罰に処せられる。」ことを呈示しなければならないことが義務付け [2] られ、これら不法無線局に警告するための規正用無線局が1992年(平成4年)から開設されている。 また、これらの不法無線局は、通信距離を向上させるため、大出力の送信機用増幅器(ブースター、リニアアンプ)を設けて運送用車両に搭載されることが多く、道路沿線での電波障害や免許を受けている正規の無線局に妨害を与えるため大きな社会問題ともなっている。 2013年(平成25年)には指定無線設備に800MHz帯の電気通信事業者以外が設置した携帯電話・PHS中継装置も追加された。
これら以外にも、
- 技適マークの無い2.4GHz帯ラジコン送信機(飛行機、車、船、ロボットなど)
- これ以外の周波数帯は微弱無線局制度によるので技適マークは無い。
- 無免許の携帯電話・PHSを妨害電波により使用できなくするための通信機能抑止装置(ジャマーなどと呼ばれる。)
- 日本国外から輸入されたトランシーバー(FRSやGMRS)
- 通信距離が向上するように改造した無線LANやキーレスエントリーの送信機、
- 無線式盗聴器(用途を問わず、大出力の物は電波法に抵触する可能性が高い。)、
- 外国仕様の野生生物生態調査用ビーコンや猟犬に装着するドッグマーカー
などがある。 また、正規に免許を受けた無線局であっても、その免許の有効期限が満了してしまえば無免許と同じ扱いとなり、不法無線局として罰せられる。 アマチュア無線においては広域レピータの通信妨害が深刻になっていた。 一部レピータ管理団体はフォックスハンティングの手法を用い取締りをするほどであった。(「CQ ham radio」1991年5月号掲載)
不法無線局の報告
不法(違法)無線局を認めた無線局の免許人または登録人は、電波法第80条の規定により、総務大臣に報告しなければならない。 具体的には総務省令電波法施行規則第42条の3により無線局を所轄する総合通信局(沖縄総合通信事務所を含む。以下同じ。)に文書をもって報告する(「80条報告」と呼ぶ。)。 この規定は無線局の免許人または登録人以外の者が文書以外の方法で報告することを妨げるものではない。 [3]
必要事項は次の通りであるが、不明なものは記入しなくてよい。
専用の書式[4]もあるが、これにこだわらなくともよい。
開設した者に対する処分
不法無線局を開設した者に対しては、電波法に次のような罰則が定められている。
- 人命財産に深くかかわる重要な無線通信(具体的には警察無線・消防無線・列車無線と、電気通信事業者、気象台、電力会社各者の業務無線通信)に妨害を与えた者は、5年以下の懲役または250万円以下の罰金[5]
- 免許を受けずに無線局を開設した者は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金[6]
また、行政処分として刑の執行後または執行猶予期間満了後から二年間は無線局や無線従事者の免許を受けられないことがある[8][9]。
無線従事者が不法無線局または違法無線局を運用した場合は、量刑が「法知識がありながら違法行為を行った」という事で、無資格者に比べて重い。また、無線従事者免許証の取消し又は三ヶ月以内の業務停止の行政処分の対象にもなる[10]。
不法無線局に対する取締りは総合通信局が行う。総合通信局は、司法官庁ではなく行政官庁であり、司法警察員は居ないため、取締りは警察あるいは海上保安庁の協力を得て、平日に行われる。
使用に注意が必要な機器
ここでは、電波の不法使用(不法無線局の開設)につながる可能性のある機器を取り上げる。 周波数の割当ては国によって異なるので、基本的に電波を発する製品はその国でしか使えない。 使用者に悪意がなく、電波法を犯しているという自覚がなくても、罰せられる可能性がある。
トランシーバー
ネットオークションや通信販売で売られている日本国外製のトランシーバー(FRSやGMRSなど、メーカーはミッドランド(Midland Radio)、モトローラ(Talkaboutシリーズ、 TLKRシリーズなどの海外販売品[11]。)などや、27MHz帯ハイパワー市民ラジオ(違法CB)は、電波法令に定められる周波数帯や出力ではないものが多い。 これらのトランシーバーを使用すると、業務無線などに妨害を与える可能性がある。 「米国規格(FCC rule)に適合している」などと宣伝している場合があるが、これは米国領内で有効であるという意味(技術基準適合証明機器が使用できるのは日本国内のみであると同じこと。)しかない。
電波法令の技術基準に適合している証明として、玩具を除き技適マーク又は無線機器型式検定規則による検定マークがあるか確認することは最低の条件である。 但し、認証の時期によってはこれらのマークがあっても使用できないものがある。
例外として、アマチュア無線は使用する周波数帯や電波型式が一部例外を除き基本的に世界共通である。 従って、アマチュア無線用機だけは、アマチュア無線の周波数帯に適合すれば保証認定による免許申請をして使用できる。 (アマチュア局の開局手続きを参照)
ラジコン
ラジコン用に割り当てられている周波数帯の内、2.4GHz帯を使用するものは小電力データ通信システムの無線局であり、技適マークの表示を要する。 その他の周波数帯は微弱電波によるもので電波法令上に何らかの表示をする義務は無いが、自主規制として27MHz帯用は日本ラジコン模型工業会(JRM)が、40MHz帯用及び72MHz帯用は日本ラジコン電波安全協会(RCK)が証明シールを貼付しているので確認するのがよい。
外国仕様のFMステレオ・トランスミッターやワイヤレスマイク、AM中波帯トランスミッターなどは、電波法令の技術基準とは異なる場合があり、それを知らずに使用していると近傍周波数の放送の受信に妨害、またスプリアス(高調波)などで他の通信に妨害を与えるなど、気づかぬうちに混信妨害を与える、また電波法で罰せられる可能がある。 「微弱電波」は、発射する電波が著しく微弱 [12]で、 322MHz以下の周波数では無線設備から3mの距離において電界強度が500μV/m以下と規定 [13] されている(出力による制限ではない。)。 この範囲のものであれば、無線局の免許は不要であるが、日本国外製・日本国外規格のものは、電波法令の技術基準を超える規格で製造されているものがほとんどである。 また、322MHzを超え10GHz以下では、3mの距離において電界強度が35μV/m以下と規定 [13] され、微弱電波の範囲で実用的な機器を製造することは極めて難しい。
玩具以外は「3mの距離で電界強度が500μV/m以下」と表示があるか若しくは技適マークまたは検定マークがあるか確認することが最低の条件であり、認証の時期によってはこれらのマークがあっても使用できないものがある。
外国仕様のコードレス電話は、国内用と周波数帯が異なっていたり出力が大きい場合もあるので、他の無線に妨害を与えてしまう可能性がある。 「海外向け製品はデザインが優れている、通話距離が長い」などと宣伝して、日本国内に古くから出回っている。
1987年(昭和62年)のコードレス電話自由化前後までは、VHF帯以下のFMや、380MHz帯を使った物が主流であったが、1990年代末頃からは、1.9GHz帯や2.4GHz帯や5.6GHz帯のデジタル式が主流である。 国内で使用できるものには技適マークが表示されている。
2.4GHz、5.6GHz帯ISMバンド機器
上述の2.4GHz帯ラジコン以外にも無線LAN、Bluetooth、ワイヤレスカメラ、ベビーモニター等、2.4GHz、5.6GHz帯ISMバンドを使用する機器は様々なものがあるが、これらは小電力データ通信システムであるものでなければならない。日本国外の規格のISMバンドの無線通信機器は、小電力データ通信システムと比較すると概して出力が大きくこのバンドの使用者に妨害を与えてしまう可能性がある。国内で使用できるものには技適マークが表示されている。5.6GHz帯の利用は室内のみ許可されており、屋外での利用は禁止されている。
野生生物生態調査用ビーコン、ドッグマーカー
動物の生態観察などの目的で外国製のものが使用されていたが、学術研究、有害鳥獣駆除などの為に必要性が高まり2008年(平成20年)に特定小電力無線局の一種として動物検知通報システム用が制度化 [14]された。
ドッグマーカーは猟犬マーカーとも称し、これも外国製のものが使用されている。 一般には144MHz帯を用いている製品が多いが、これはアマチュア業務(=アマチュア無線)の周波数である。 また「周波数を上下に調整可能」と謳う物があるが、アマチュア用周波数の直下の143MHz帯、直上の146MHz帯はともに官公庁の公共業務用、放送事業者の放送事業用、その他民間の各種事業者の一般業務用として割り当てられている [15]。 2012年(平成24年)には、動物検知通報システム用の用途緩和としてドッグマーカーにも使用できることとなった。
特定小電力無線局の機器には技適マークが表示されている。
携帯電話・PHS中継装置、通信機能抑止装置
携帯電話・PHS中継装置は、電気通信事業者が免許を取得し設置するもので技適マークが表示されている。その他の者は設置することはできない。
通信機能抑止装置は、劇場・映画館など静粛を必要とする、その他学校・病院・ATMなど携帯電話・PHSの使用が望ましくない場所を擁する事業者が実験試験局の免許を取得し、装置を据え付けて使用するもので、第三級陸上特殊無線技士以上の無線従事者の配置と総合通信局による予備免許・落成検査も要する。持ち運べる形状のものは、不特定の範囲の携帯電話・PHSの機能を抑止するので免許されない。
無線設備試買テスト
2013年より総務省は、微弱電波の範囲を超える無線機が市場に多数流通し、他の無線局に障害を与える事例が発生していることから、 一般消費者が購入・使用し、障害を与えることがないよう、微弱電波の範囲を超えるおそれがある無線機を試買して測定を行い、結果を公表することを開始 [16] した。測定の結果、微弱電波の範囲を超える無線機については電波利用ホームページで公表するとともに、製造・販売・輸入業者に対し技術基準に適合するよう行政指導する。
不法無線局の出現・措置状況
年度 | 平成6年度 | 平成7年度 | 平成8年度 | 平成9年度 | 平成10年度 | 平成11年度 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
合計 | 31,114 | 3,879 | 34,008 | 7,001 | 35,995 | 6,543 | 36,316 | 6,727 | 45,136 | 6,528 | 37,422 | 7,233 |
不法パーソナル | 9,255 | 587 | 11,785 | 3,019 | 12,018 | 2,230 | 13,162 | 1,798 | 19,068 | 2,113 | 15,802 | 2,676 |
不法アマチュア | 10,754 | 330 | 11,589 | 392 | 35,995 | 6,543 | 36,316 | 6,727 | 15,726 | 1,038 | 12,173 | 1,087 |
不法市民ラジオ | 8,664 | 2,295 | 8,145 | 2,551 | 9,287 | 2,375 | 10,344 | 3,327 | 9,481 | 2,917 | 8,317 | 2,657 |
その他 | 2,441 | 667 | 2,489 | 1,039 | 1,444 | 746 | 1,528 | 613 | 861 | 460 | 1,130 | 813 |
年度 | 平成12年度 | 平成13年度 | 平成14年度 | 平成15年度 | 平成16年度 | 平成17年度 | ||||||
合計 | 34,067 | 4,986 | 23,396 | 5,841 | 17,670 | 5,148 | 20,720 | 8,344 | 15,765 | 7,511 | 13,966 | 4,737 |
不法パーソナル | 16,660 | 1,423 | 11,896 | 1,906 | 7,594 | 1,600 | 9,265 | 3,138 | 7,249 | 2,701 | 5,995 | 1,537 |
不法アマチュア | 9,400 | 1,270 | 4,067 | 252 | 2,126 | 454 | 2,911 | 929 | 2,487 | 1,065 | 1,695 | 850 |
不法市民ラジオ | 6,651 | 1,689 | 6,565 | 2,532 | 7,096 | 2,476 | 6,512 | 2,872 | 4,503 | 2,539 | 4,398 | 1,572 |
その他 | 1,356 | 604 | 868 | 1,151 | 854 | 618 | 2,032 | 1,405 | 1,526 | 1,206 | 1,878 | 778 |
年度 | 平成18年度 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 | 平成22年度 | 平成23年度 | ||||||
合計 | 12,168 | 4,301 | 12,083 | 4,135 | 10,232 | 3,520 | 9,270 | 2,918 | 8,538 | 2,452 | 8,903 | 2,496 |
不法パーソナル | 5,274 | 1,352 | 4,424 | 1,108 | 1,617 | 602 | 920 | 260 | 479 | 228 | 2,081 | 322 |
不法アマチュア | 2,764 | 827 | 2,549 | 869 | 3,097 | 589 | 2,283 | 744 | 1,525 | 507 | 1,367 | 366 |
不法市民ラジオ | 2,162 | 1,065 | 1,592 | 618 | 1,592 | 558 | 1,729 | 205 | 1,295 | 177 | 538 | 203 |
その他 | 1,968 | 1,057 | 3,527 | 1,540 | 3,926 | 1,771 | 4,338 | 1,709 | 5,239 | 1,540 | 4,917 | 1,605 |
年度 | 平成24年度 | 平成25年度 | ||||||||||
合計 | 8,581 | 3,269 | 7,101 | 1,992 | ||||||||
不法パーソナル | 2,788 | 712 | 865 | 138 | ||||||||
不法アマチュア | 1,803 | 555 | 2,225 | 545 | ||||||||
不法市民ラジオ | 342 | 150 | 642 | 177 | ||||||||
その他 | 3,648 | 1,852 | 3,369 | 1,132 | ||||||||
左欄:出現数、右欄:措置数 総務省情報通信統計データベース 電波監視による。 |
関連項目
脚注
- ↑ 違法局という言葉も聞きますが、違法局と不法局との違いは? 監視FAQのQ14を参照 (関東総合通信局)
- ↑ 電波法第102条の13から第102条の14の2及び電波法施行規則第51条の2から第51条の3
- ↑ メールによる相談(関東総合通信局)に見るように一般的な相談と同様の形式でも受け付ける。
- ↑ 報告書 各種様式のファイル I1 電波法第80条の報告(東海総合通信局)
- ↑ 電波法第108条の2第1項
- ↑ 同法第110条第1項第1号
- ↑ 昭和56年法律第49号による電波法改正の施行
- ↑ 電波法第5条第3項第1号
- ↑ 同法第42条第1号
- ↑ 同法第79条第1項第1号
- ↑ 海外で販売されているトランシーバーについて 特定小電力トランシーバー製品のサポートを参照(モトローラ・ソリューションズ)
- ↑ 電波法第4条但書き第1号
- ↑ 13.0 13.1 電波法施行規則第6条第1項第1号
- ↑ 総務省告示周波数割当計画の別表9-14
- ↑ 周波数割当計画の第2表 27.5MHz-10000MHz
- ↑ 無線設備試買テストの実施 総務省報道資料 平成25年6月7日
外部リンク
- 電波監視の概要 総務省電波利用ホームページ
- 技適マーク(同上)
- 無線設備試買テストの結果について(同上)
- 電波環境 関東総合通信局
- 外国製無線機器について 信越総合通信局
- 電波監視の目的と意義 東海総合通信局
- 電波利用 北陸総合通信局
- 電波環境 近畿総合通信局
- 電波監視 中国総合通信局
- テレビ・ラジオの受信障害、電波監視 四国総合通信局
- 電波環境 九州総合通信局
- 東北の電波監視 東北総合通信局
- 電波監視 北海道総合通信局
- 電波監視 沖縄総合通信事務所
- 電波環境・不法局関連 日本アマチュア無線連盟(JARL)