ロジャー・ペンローズ
ロジャー・ペンローズ(Sir Roger Penrose, 1931年8月8日 - )は、イギリス・エセックス州コルチェスター生まれの数学者、宇宙物理学・理論物理学者。
科学上の業績
- スティーヴン・ホーキングと共にブラックホールの特異点定理(重力崩壊を起こしている物体は最後には全て特異点を形成する)を証明し、「事象の地平線」の存在を唱えた。
- 回転するブラックホールから理論的にはエネルギーを取り出せる方法としてペンローズ過程を考案。
- 量子的なスピンを組み合わせ論的につなぎ合わせると、時空が構成できるというスピンネットワークを提唱。このアイデアは後に量子重力理論の1候補であるループ量子重力理論に取り込まれた。
- 時空全体を複素数で記述し、量子論と相対論を統一的に扱う枠組みであるツイスター理論を創始した。長らく物理理論というよりは数学的な研究対象とされていたが、近年、超弦理論やループ量子重力理論との関連性が見いだされつつある。
- 2種類の図形で非周期的な平面充填の「ペンローズ・タイル」を提示した。当初、純粋に数学上の存在と考えられていたが、1984年にペンローズ・タイルと同じ対称性を有する結晶構造(準結晶と呼ばれるもの)が実際に発見された。
- 角柱が3本、それぞれ直角に接続しているという不可能立体「ペンローズの三角形」や「ペンローズの階段」を考案し、エッシャーの作品「滝」などに影響を与えた(ペンローズ自身もエッシャーのファンであり、平面充填や不可能図形の研究もその作品に触発された物と言われている[1])。
その他の活動
量子脳理論
テンプレート:Main 著書『皇帝の新しい心』にて、脳内の情報処理には量子力学が深く関わっているというアイデア・仮説を提示している。その仮説は「ペンローズの量子脳理論」と呼ばれている。放射性原子が崩壊時期を選ぶように、物質は重ね合わせから条件を選ぶことができるといい、意識は原子の振る舞いや時空の中に既に存在していると解釈する(ETV特集『科学は「意識」の謎を解けるか 第二回 意識を生むメカニズム』)。
テンプレート:要出典範囲、脳内の神経細胞にある微小管で、波動関数が収縮すると、テンプレート:要出典範囲、生物の高レベルな意識が生起するというのである(「意識」の項にその仮説の解説あり。参照のこと)。
この分野は未だ科学として十分に確立してはおらず、プロトサイエンス(未科学)の領域である。故国イギリスの大先輩の物理学者ニュートンが古典力学の科学的体系を構築しつつ、その片側で錬金術の研究に手を染めていた事を思い起こさせる、と評する者テンプレート:誰もいる。
量子論上の観測問題
『皇帝の新しい心』以降の著書で、現在の量子力学の定式化では現実の世界を記述しきれていないという主張を展開している。(学術論文としても提出している)
量子論には波動関数のユニタリ発展(U)と、波束の収縮(R)の2つの過程が(暗に)含まれているが、現在の量子力学の方程式ではUのみを記述しており、それだけでは非線形なR過程は説明がつかない。すなわち、現在の量子力学の定式化はRが含まれていないため不完全であるとする。そして、Rに相当する未発見の物理現象が存在していると考え、量子重力理論の正しい定式化には、それが自ずと含まれているだろうと唱えた。
『皇帝の新しい心』の続編として出版された『心の影』では、上記の仮説をより進め、UとRを含む仮説理論として「OR理論(Objective-Reduction、客観的収縮)」を提唱した。
量子レベルの世界から古典的なマクロ世界を作り出しているのは、重力であり、重力がRに相当する現象を引き起こすとする。量子的線形重ね合わせとは、時空の重ね合わせであり、重ね合わせ同士の重力的なエネルギー差が大きくなると宇宙は重ね合わせを保持できなくなって、ひとつの古典的状態に自発的に崩壊するというモデルである。
その後、著書『The Road to Reality』の中で、OR理論を検証するための実験(FELIX:Free-orbit Experiment with Laser-Interferometry X-rays)を提案している。
これらの主張は、量子論におけるいわゆる「観測問題」あるいは「解釈問題」と呼ばれる議論に関連している。
略歴
父は遺伝学者のライオネル・ペンローズ。ロンドン大学、ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジなどで数学を学ぶ。1952年、ロンドン大学卒業。1957年、ケンブリッジ大学で博士号取得。ロンドン大学、ケンブリッジ大学、プリンストン大学、シラキュース大学、テキサス大学、コーネル大学、ライス大学などで教鞭をとる。
1964年、スティーヴン・ホーキングと共にブラックホールの特異点定理を証明。1972年、王立協会会員に選出される。1973年、オクスフォード大学ラウズ・ボール教授職に就任。1988年スティーヴン・ホーキングとともにウルフ賞を受賞。1994年、ナイトを叙勲。2008年、ロンドン王立協会からコプリ・メダルを受賞した。
著作リスト
物理学関係
- ホーキングとペンローズが語る 時空の本質 (The Nature of Space and Time 1996) - ホーキングと共著
- The Road to Reality : A Complete Guide to the Laws of the Universe (2004)
数学関係
- ツイスターと一般相対論 (Twistors and General Relativity) - エルク・フラウエンディーナーと共著。『数学の最先端 21世紀への挑戦 第2巻』収録。
- 20世紀および21世紀の数理物理学 (Mathematical Physics of the 20th and 21st Centuries) - 『数学の最先端 21世紀への挑戦 第4巻』収録。
その他
- 皇帝の新しい心 コンピュ-タ・心・物理法則 (The Emperor's New Mind: Concerning Computers, Minds, and The Laws of Physics 1989)
- 心の影 意識をめぐる未知の科学を探る (Shadows of the Mind: A Search for the Missing Science of Consciousness 1994)
- 心は量子で語れるか (The Large, the Small, and the Human Mind 1997) - アブナー・シモニー、ナンシー・カートライト、スティーヴン・ホーキング寄稿。
- ペンローズの<量子脳>理論 心と意識の科学的基礎をもとめて (Beyond the Doubting of a Shadow 1997) - 日本独自編集。竹内薫、茂木健一郎が翻訳・解説。