ミス・サイゴン

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テンプレート:Infobox Musicalミス・サイゴン』(テンプレート:Lang-en-short) は、1989年9月20日にロンドンウエストエンドで初演されたミュージカルである。

初演から9年9か月後の2001年1月28日に4097回目で幕を閉じた。今日までに『ミスサイゴン』は日本アメリカを含む多くの国々で上演されてきた。また、ブロードウェイではロングラン公演歴代9位に位置づいている。

2014年5月からは初演25周年を記念して再びロンドンのウエストエンドで再演されることが決定した。

オリジナル・スタッフ

背景

作詞家のアラン・ブーブリルが、ベトナム人少女が元GI(アメリカ軍兵士)の父親の待つアメリカへ出発しようとしている写真を入手し、そこから着想を得て創作された。ジャコモ・プッチーニ作イタリア・オペラ『蝶々夫人』と、その着想のもととなったフランスのピエール・ロティの小説『お菊さん(Madame Chrysanthème)』をストーリーのベースにしている。

ベトナム戦争末期のサイゴンの売春バーで働くベトナム人少女キムとアメリカ大使館で軍属運転手を務めるクリスの悲恋が描かれている。

ミュージカル『レ・ミゼラブル』を製作したクロード・ミシェル・シェーンベルクとブーブリルのコンビの超大作として、ロンドンでは開幕前から話題が沸騰し、1989年にウエスト・エンドドルリーリーン劇場で開幕した。主演のキム役はレア・サロンガモニク・ウィルソンのフィリピン人女優が起用された。後に、森尚子が日本人女優初のウエストエンド主演を果たしている[1]

オリジナル・ロンドン・キャストおよびオリジナル・ブロードウェイ・キャストにおいて、狂言回しのエンジニア役にはジョナサン・プライスが配されているが、アジア系俳優を配しなかったためかフランス系の私生児という設定となっている。その他、アジア系民族に対する偏見が強いとして、ニューヨーク公演時にアジア系俳優を中心とした俳優組合からボイコット寸前にまでなった。

ストーリー

1975年4月、ベトナム戦争は、終焉を迎えようとしていた。ベトナムの田舎娘だったキムは、17歳で家族を失い、家を焼かれ、首都サイゴンまで逃げてきた。そこで、フランス人とベトナム人の混血の、通称「エンジニア」の経営する売春宿で働くことになった。最初のお客は米兵のクリスだった。クリスは、戦争に嫌気がさしていたが、戦友のジョンのおごりでキムを買うことになった。キムとクリスはお互いにひかれ愛し合い始めた。

1975年4月30日、サイゴン陥落の日、クリスはキムを連れてアメリカに帰ろうとしたが、混乱でキムに会うことができず、一人で帰国した。帰国後3年たち、クリスはエレンと結婚する。

キムには、13歳の時に親が決めた婚約者トゥイがいた。トゥイは新政府のもとで高い地位に上り、キムを探しあてる。しかしキムは結婚を拒み、クリスとの間にできた子供タムがいることを告げる。逆上したトゥイはタムを殺そうとした。キムはやむをえず、トゥイをクリスが残していった拳銃で撃った。キムはエンジニアとともに、タイのバンコクに逃げる。

1978年9月のアトランタベトナム帰還兵がベトナムに残してきた子供(ブイ・ドイ)の支援活動を行うための集会の場で、ジョンはクリスに、キムがバンコクで生きており子供がいることを告げた。クリスは苦しむが、エレンとともにバンコクに行くことを決意する。バンコクのキャバレーで、キムはホステス、エンジニアは客引きとして働いていた。キムを探しに来たジョンに会い、キムはクリスがバンコクに来ていることを知ったが、ジョンはクリスに妻がいることを言えなかった。キムはクリスの泊まっているホテルに出向く。そこにはエレンがおり、キムは、クリスに妻がいることを知る。

キムの夢は、タムをアメリカに連れて行き、幸せな生活を送らせることであった。しかし自分がいては、タムもアメリカに行けないことを悟り、自ら命を絶つことを決意した。

主な登場人物

キム (Kim)
ミス・サイゴンの主人公でベトナム人。田舎の村に住んでいたが、ベトコンに家族を殺され、家を焼かれ17歳でサイゴンまで逃げてきた。サイゴンでは、エンジニアの経営する売春宿で働くことになる。
エンジニア (Engineer)
フランスとベトナムの混血児で本名はトランヴァンディン。サイゴンで売春宿を経営する。売春宿で知り合ったアメリカ兵の力を借りてアメリカへ行く事を夢見ている。「エンジニア」とはニックネームだが、何かの技術者という訳ではない。英語の "Engineer" には、「うまく切り抜けていくやつ」「世渡り上手」というような意味がある。
クリス (Chris)
アメリカ兵。本名クリストファー・スコット。ベトナム従軍後、帰国するも本国では受け入れられず、逃げ戻るように軍属として大使館付きの運転手をしているが、そんな暮らしに何もかもが嫌になっている時に同僚のジョンに連れられ、気晴らしにエンジニアの経営する売春宿にやってくる。そこでキムと出会い心惹かれるが、サイゴン陥落でアメリカに帰国する。国のために戦ったはずがアメリカ国民からは冷ややかな目で見られ、つらい日々を送りながらも、新しい生活を送ることを決意しエレンと結婚する。しかし、3年後ジョンから、キムにクリスとの間の子供がおり、バンコクで暮らしていることを聞かされる。
エレン (Ellen)
クリスの妻。ベトナムから帰国したクリスと結婚するが、クリスの心に潜む闇の部分に立ち入ることができないでいた。クリスから、ベトナムにいた時にキムと知り合い、今はクリスとキムの子供がバンコクにいることを聞かされる。クリスとジョンとともに、キムと子供のいるバンコクに旅立つ。
ジョン (John)
クリスのベトナムでの戦友。クリスがキムに会うきっかけとなった売春宿へクリスを連れて行く。アメリカに帰国後は、ベトナム孤児となったアメリカ兵の子供を救出するために活動する。ベトナムから帰国して3年後、バンコクにキムとクリスとの子供がいることを知りクリスに伝える。
トゥイ (Thuy)
キムの従兄弟。13歳の時に、キムの両親がキムとの結婚を決める。トゥイはその後、敵のはずのベトコンに寝返る。サイゴン陥落後、人民委員補にまでなり、キムを執拗に追い続ける。サイゴン陥落から3年後にキムを見つけるが、クリスとの子供タムがいることを告げられ、逆上してタムを殺そうとする。
ジジ (Gigi)
エンジニアの経営する売春宿で働くコールガールの一人。その売春宿で「ミス・サイゴン」となる。

曲目

NO. 曲目 奏者
1 序曲 エンジニア、アンサンブル
2 火がついたサイゴン エンジニア、ジョン、クリス、キム、アンサンブル
3 我が心の夢 ジジ、キム、アンサブル
4 バータリング・フォー・キム エンジニア、ジョン
5 キムとクリスのダンス キム、クリス、エンジニア
6 神よ何故? クリス
7 この金は君のもの クリス、キム
8 サン・アンド・ムーン クリス、キム
9 ユニコーン クリス、キム
10 電話 クリス、ジョン
11 取引 クリス、エンジニア
12 ウェディング キム、アンサンブル、クリス
13 トゥイの侵入 トゥイ、キム、クリス
14 世界が終わる夜のように〈1978年4月ホーチミン〉 キム、クリス
15 サイゴン陥落 エンジニア、アンサンブル、トゥイ
16 今も信じてるわ キム、エレン
17 クークープリンセス キム、エンジニア、トゥイ、アンサンブル
18 トゥイの死 キム、トゥイ、アンサンブル
19 生き延びたけりゃ エンジニア
20 キムとエンジニア キム、エンジニア
21 命をあげよう キム、アンサンブル
22 オープニング
23 ブイ・ドイ ジョン、アンサンブル
24 新しい事実 (ポスト・ブイ・ドイ)〈1978年10月バンコク〉 クリス、ジョン、エレン
25 バンコク エンジニア、アンサンブル
26 プリーズ ジョン、キム
27 クリスはここに〈1975年4月サイゴン〉 ジョン、キム、エンジニア、アンサンブル
28 キムの悪夢パート1~トゥイの亡霊 トゥイ
29 キムの悪夢パート2~大使館 クリス、キム、アンサンブル
30 キムの悪夢パート3~大使館の門 クリス、キム、アンサンブル
31 キムとエレン キム、エレン
32 今,彼女に会った エレン
33 エレンとクリス エレン、クリス、ジョン
34 ペーパー・ドラゴン エンジニア、キム
35 アメリカン・ドリーム エンジニア、アンサンブル
36 私の小さな神 キム、クリス 後にラストシーンが改変されこの曲は、同名の別の曲に差し替えられた。英語版CDと帝国劇場ライブ盤に収録されている曲と、現在上演されている物では全く違う曲と歌詞で歌われているが、現在のバージョンはプログラムの曲目リストには載っていない。

各国版プロダクション

各国版でミス・サイゴンが上演された国・都市は下記の通りである。(2009年12月現在)

日本公演

日本版スタッフ

概要

日本では東宝が制作権を入手し、1992年4月に帝国劇場で開幕した(プレビューを経て5月5日に正式開幕)。東日本旅客鉄道(JR東日本)が「JR東日本びゅうシアター」と銘打って特別協賛していた。

キム役には、当時アイドルであった本田美奈子と無名新人の入絵加奈子が抜擢された。また、本田美奈子がケガで降板している間はアンダーであった伊東恵里もキムを演じていた。

配役発表当時、エンジニア役はダブルキャスト市村正親治田敦が配されていたが、治田はエンジニア役を演じることはなく、開幕からしばらくは市村が単独で演じていた。開幕4か月後の8月に笹野高史が同役に追加されている。

また、初演のアンサンブルには石川禅石井一孝など後に東宝の主要キャストとして活躍する人たちもいた。

504日間、745ステージ、観客数111万人という当時では空前の記録を残し1993年9月に閉幕した。

日本初演時、バンコク歓楽街ポン引きに店に誘われる観光客は国籍不明(ただし、セリフでは「アーユーブリティッシュ?」と英国人を匂わせていた)だったが、再演時には他国同様、日本人のツアー客に変更されていた。

2008年9月4日の公演にて、通算上演回数1000回を達成した。

帝国劇場での初演時には、コンピューター制御での大掛かりな舞台セットで劇中に実物大のヘリコプターが登場するなど話題を呼んだ。このような演出を過不足なく表現する必要があるため、それに耐えうる設備を持つ帝国劇場[2]博多座[3]でしか日本国内では上演できなかった[4]

しかし2012年から採用された新演出版では舞台装置、衣裳、照明といった視覚的なものから音響に至るまで全てのセクションが刷新し、劇場の大きさや設備の制約を受けず上演が可能になった。そのため東京の青山劇場めぐろパーシモンホール、大阪の梅田芸術劇場を初めとして広島、愛知、山梨、神奈川(厚木)、宮城、福岡(北九州)、静岡、熊本、長野(松本)、岩手などの全国の舞台で公演が行われた。

トラブル

  • 1992年7月4日 : 本田美奈子が本番中に舞台装置の滑車に右足を轢かれるという事故が起き、足の指4本を骨折。そのまま一幕最後の「命をあげよう」までを歌い切ったが、二幕から(ダブルキャストの)入絵加奈子に交代。全治3か月と診断されたが、誕生日の7月31日に怪我から1か月足らずで復帰を果たした。ただし完治はしておらず特製ギプスを装着しての復帰だった。
  • 2004年8月10日 : プレビュー公演初日に装置故障のため、開演が20分遅れる。
  • 2004年9月26日 : ヘリコプター故障のため45分間一時中断。キャスト代表として筧利夫と帝国劇場責任者から挨拶の後再開。
  • 2004年9月14日 : 別所哲也が右足の怪我によって休演。
  • 2004年09月28日 : 怪我で休演していた別所哲也が復帰。特別カーテンコールが行われる。
  • 2004年10月22日 : 公演中「サン・アンド・ムーン」後に大使館&電話のセットが出ず、部屋も引っ込まずに一時中断。約40分の休憩後に再開するも、婚礼のセットの左右が付かない・バルコニーがはけない等のトラブルが起こり、そのまま公演中止となる。キャスト全員による挨拶と「命をあげよう」の大合唱が行われた。2004年公演最大最悪の事態。結果的に11月1日同キャストによる振り替え公演決定。
  • 2004年11月12日 : 900回記念にも関わらず二幕の最初に「ブイ・ドイ」の映像が出ないトラブル発生。終演後特別カーテンコールの際、岡幸二郎が謝罪。
  • 2009年1月5日 博多座の初日公演でキムがエレンとホテルの部屋で出会うシーンの前、キムの家が2つに割れずホテルの部屋のセットが出てこず、10分間一時中断。終幕後特別カーテンコールの際、筧利夫が謝罪。
  • 2009年1月7日(昼の部) : 「キムの悪夢」終了後舞台装置が引き込まず20分間中断。筧利夫が「装置を正座させて一晩中説教します」と謝罪。
  • 2009年1月22日(夜の部) : キャデラックが出てきたものの定位置まで下がりきらず、筧が飛び乗れないアクシデント発生。 筧はそれを逆手に取ってエンジニアの「叶わない夢」である事を強調した芝居で対応した。
  • 2009年2月17日(夜の部) : 「ポスト・ブイドイ」の場面でクリスを演じる照井のマイクが故障。照井は地声で終幕まで乗り切った。
  • 2009年2月24日(夜の部) : 「プリーズ」の場面でスプリンクラーが故障し、舞台下手で「雨」が降るアクシデントが発生したが、中断することなく終幕まで続けられた。緊迫した「ナイトメア」となった。

日本人キャスト

1992年 - 1993年(日本初演)

2004年

2008年・2009年

2012年

  • エンジニア - 市村正親
  • キム - 笹本玲奈、知念里奈、新妻聖子
  • クリス - 原田優一、山崎育三郎
  • ジョン - 岡幸二郎、上原理生
  • エレン - 木村花代
  • トゥイ - 泉見洋平
  • ジジ - 池谷祐子

2014年

  • エンジニア - 市村正親(開幕直後に胃がんを公表したため7月27日公演を持って休演)、駒田一、筧利夫(市村の代役として8月以降に出演)
  • キム - 笹本玲奈、知念里奈、昆夏美
  • クリス - 原田優一、上野哲也
  • ジョン - 岡幸二郎、上原理生
  • エレン - 木村花代、三森千愛
  • トゥイ - 泉見洋平、神田恭兵
  • ジジ - 池谷祐子、吉田玲菜

脚注・出典

  1. クリス役のジョン・バロウマンとは、後に、『秘密情報部トーチウッド』でも共演。2008年開催のコミコン・インターナショナルに、同番組の出演者として招待された際、記者会見の席で、突然、アカペラで『世界が終わる夜のように』の一節をハモり、会場の大喝采を受けた。
  2. 上演時には開幕1か月前より改装工事を行うという。
  3. 建設構想の段階から本作を上演する事を念頭に設計がされている。
  4. テンプレート:Cite web

関連項目

外部リンク