ヘリボーン
ヘリボーン(テンプレート:Lang-en-short)は、ヘリコプターを用いて敵地などへ部隊を派兵する戦術。この名称は空挺作戦(エアボーン)に由来する。兵員が分乗した武装・非武装の各種ヘリコプターが戦闘機や攻撃機、COIN機の護衛を受けながら敵地に侵入・奇襲し、着陸したヘリコプターから展開した兵員が目的地を制圧する戦術。
第二次世界大戦後、ヘリコプターの発達と共に大きく発展した戦術であり、特に対ゲリラ戦には非常に有効な戦術である。ベトナム戦争やアフガニスタン紛争において特に多用された。また、現在の特殊部隊が行うロープ降下作戦もヘリボーンの一種と言える。
利点および欠点
エアボーン作戦と比較して、以下のような利点を持つ。
- ラペリング(ヘリから降ろされたロープを伝って滑り降りる技術。懸垂下降も参照)を例外として特殊訓練が不要なことから、普通の兵員でも実施可能である
- 落下傘降下に必要な出撃前の諸準備が不要で、容易に実施できる
- 兵員が風に流され分散するというようなことがなく、集中して目的地に到着できる
- 一度降下しても、さらにヘリコプターにより空中移動できる
欠点としては、以下が挙げられる。
- ヘリコプターは兵員・物資を降ろすのに一定時間その場に留まる必要があるため、攻撃に対して脆弱で、敵の対空兵器によりヘリコプターが撃墜されて作戦が失敗することがある
- 標高の高い地域(アフガニスタンなど)においてはヘリボーンに適したヘリコプターの使用が不可能であり、大型で双発の輸送ヘリコプターを必要とするため、さらに対空兵器に狙われやすい
- 峡谷での作戦においては、高度差を利用した迫撃砲やロケット弾などによる「上から」の攻撃にも備えなければならない
- 固定翼輸送機に比べて、大型装備を運搬することが困難で、大量の物資・重量物を運搬することもできない
- 上記に同じく、固定翼輸送機に比べてヘリコプターの航続距離と速度による制限により、長距離に進出することが困難である(ヘリコプターでは概ね100 - 200km程度、ティルトローター機のV-22で約650kmに対して、固定翼機では(条件次第で)数百 - 1万数千km先まで進出することが可能である)。
歴史
ヘリボーンは、1940年代後半にイギリス領マレーにおいて、イギリス軍が対共産ゲリラ作戦に用いたのが始まりである。ゲリラ側が有効な対空兵器を持っていないこと、ヘリコプターが密林における兵員移動に適していたことから、十分な効果を挙げることができた。
その後の朝鮮戦争やアルジェリア戦争(アグーネンダの戦い)における発展を得て、ベトナム戦争においてヘリボーン作戦が多用されるようになる。この戦争において、アメリカ軍は有効な対ゲリラ作戦を行い多大な成果を挙げたが、それと同時に対空兵器や地上での待ち伏せにより、大きな損害を被っている。また、第四次中東戦争においては、シリア軍のコマンド部隊がヘルモン山のイスラエル国防軍観測所を襲撃し、短期間ながら制圧に成功したように、奇襲作戦の一種として用いられる事も多い。
アメリカと戦術思想が異なるロシアにおいてはヘリボーンは偵察用など小規模なものを除いて消極的だった。しかし、1978年に始まったアフガニスタン紛争でヘリボーンの使用頻度が増し、重要性が認識されたといわれる。独自の研究が続けられて、チェチェン戦争などでは、まず短距離弾道ミサイルやロケット砲の無差別砲撃、戦術爆撃機などによる空爆などによって、安全地帯から制圧地点への防御力を削ぐ攻撃を行なった後に、周縁部から包囲するように降下を開始、最終的に目的地点を制圧する方法が取られているという。ただし、この方法では大多数の非戦闘員が戦闘に巻き込まれるなど、重大な欠点も多い。
湾岸戦争においては、多国籍軍の先鋒として、イラク領内への侵攻を行っている。
大陸国家や発展途上国においては、麻薬密輸や密入国の摘発の一環としてヘリボーンが実施される事もある。
1990年代初期のソマリア内戦や2001年からのアメリカ主導のアフガニスタン紛争においては、ヘリボーンが有効に活用されると同時に、ゲリラ側による待ち伏せによりヘリコプターが撃墜されることも多い。そのため、あらためてヘリコプターの生存性が問題となっている。
参考文献
関連項目
- ヘリボーン部隊