ドライアイス
ドライアイス(テンプレート:Lang-en-short)は、固体二酸化炭素の商品名である。
化学的性質
- ドライアイスは常温常圧環境下では液体とならず、直接気体に昇華する。
- 比重: 1.56
- 昇華温度: -79℃(at 1気圧)
- 溶解潜熱: 45.56kcal/kg (190.75kJ/kg)(at 1気圧)
- 気化潜熱: 88.12kcal/kg (369.94kJ/kg)(at 1気圧)
- 昇華潜熱: 136.89kcal/kg (573.13kJ/kg)(at 1気圧)
- 冷却能力は同容積の氷の約3.3倍となる。
- ドライアイスを空気中に置くと、空気中の水分が凍り、白煙が発生する。この白煙については二酸化炭素と間違われることがあるが、二酸化炭素は目には見えない[1]。
種類
商品としては形状から次に分けられる[2]。
- スノードライアイス - 粉末状
- ペレットドライアイス - 小粒
- ブロックドライアイス - 塊
製造方法
- 製油所の精製過程、アンモニアの製造過程、ビール工場等の発酵過程などで出る、副産物としての気体の二酸化炭素(炭酸ガス)を用意し、水洗浄などによって精製する。
- その気体の二酸化炭素を、およそ130気圧前後に加圧して液化させる。
- その液体の二酸化炭素を急速に大気中に放出する。
- その際に気化熱が奪われることにより自身の温度が凝固点を下回る。このことを利用して粉末状の固体にする。
- その個体をプレス機で成形して製品にする。この方法で製造した場合、ドライアイスは細かい粉体(パウダースノー(粉雪)状態)で圧縮しても固めることができない。したがって、ブロック状またはペレット状で市販されるドライアイスには固めるための水が数パーセント添加されている。
近年、日本では製油所や化学工場の閉鎖によって副産される二酸化炭素の量が減り、ドライアイスの生産量が減少しているため、供給不足となっている。2013年には不足分1万トン以上が大韓民国から輸入された[3]
製造者
- 日本液炭
- 昭和電工ガスプロダクツ - 旧昭和炭酸
歴史
最初にドライアイスを観察したのは、1835年にフランスのアドリアン-ジャン-ピエール・ティロリエ(Adrien-Jean-Pierre Thilorier、1790–1844)が行った実験で、自ら作成した装置で作った液化二酸化炭素を入れた容器を開けると、急速に気化して固体が残る現象が確認された。 1895年にはイギリスの化学者エルワシー(Elworthy)とヘンダーソン(Henderson)が炭酸ガス固化法の特許を取得し、冷凍用途での使用を提唱した[4]。 1924年にアメリカ合衆国のトーマス・スレート(Thomas B. Slate)は販売のために特許を申請し、最初の商業生産者となった。 1925年にはアメリカ合衆国のドライアイス社(DryIce Corporation)が「Dry ice」を商標登録した。現在は、この商標が一般名詞化して「dry ice」と呼ばれている。一方、イギリスのエア・リキッドUK社(Air Liquide UK Ltd.)は「Cardice」で商標登録を行った。
おもな用途
- 温度が氷よりも低く、液体にならず、昇華して気体となるため、扱いが比較的容易であり、冷凍食品、アイスクリーム、ケーキ等の食品を融けないように、または腐らせないように輸送するときなどの保冷剤として使われる。
- 水中に入れることで大量の白煙を発生させることができるため、舞台などでの特殊効果では湯にドライアイスを投入した白煙がよく用いられる。ドライアイスを水などの液体中に入れた場合での白煙の正体は空気中の水分ではなく、ドライアイスに触れた液体が微小な固体粉末になったものである。水以外でも、酢酸、ベンゼンなど、二酸化炭素の昇華点よりも融点が高く、粘性が十分小さい液体中に入れたときも白煙は発生する[5]。
- 人間や動物の遺体保存にも使われ、遺体と一緒にしたまま火葬しても有害ガスが出ないことから、根強い需要がある。
- 水資源の安定確保・枯渇対策を目的とした、人工降雨・降雪技術の確立のための研究も行われている。
- 医療ではイボや胼胝の切除治療にも使われることがある。しかし、ドライアイスは保存しにくく、また確実な施術もしにくいため、液体窒素のほうが現在主流となっている。
- ドライアイスとコンプレッサーの圧縮空気を利用した「ドライアイス洗浄」が、有機溶媒などと比べて環境に良いとされ、自動車産業を中心に多く利用されてきている。
- 有機溶媒とドライアイスとの混合物は寒剤とすることができる。たとえば、エチルアルコールとドライアイスとでは-72℃、エチルエーテルとドライアイスとでは-77℃の低温が得られる[6]。
危険性・取扱い上の注意点
- ドライアイスは日常的に用いられるが、高濃度(およそ7 - 8%以上)の二酸化炭素を吸入すると、たとえ酸素が大気中と同等程度含まれていても、二酸化炭素が呼吸中枢に毒性を示すために自発呼吸が停止し窒息することがある。特に昇華して二酸化炭素の気体になった場合は足下に滞留しやすいため、窒息あるいは酸欠による事故の危険がある。冷凍庫のような屋内や、車内で扱う際は、締め切らずに通気や換気を行う必要がある。たとえば350gのドライアイスを乗員室容積2,000Lの密閉した車内に放置すると、1時間で車内の炭酸ガス濃度は約10%となり、中毒を起こして意識不明に陥る危険性がある[7]。
- 高い場所でドライアイスを扱った際、二酸化炭素が離れた低い場所に流れ込み、そこで酸欠を起こした事故もある。
- 「使用を誤ると酸欠事故の恐れがある」、「廃棄できず、昇華するのを待つ必要がある」、「商品表面に二酸化炭素が浸透し、炭酸飲料のような刺激感を与えてしまう」、「二酸化炭素は地球温暖化の原因物質というネガティブイメージがある」といった欠点のため、近年ではドライアイスに代わって、ポリアクリル酸ナトリウムなどの高吸水性高分子と水をポリ袋に詰めた蓄冷剤が普及してきている。特に冷蔵でよいケーキの持ち帰り用には大部分がこの蓄冷剤に取って代わられた。なお、食品に使われるドライアイスはアンモニア製造やビール工場等の発酵過程で出る副産物を利用しているので、そのドライアイスを使用すること自体は二酸化炭素を増やさない。したがって、食品に使われるドライアイスは地球温暖化の原因物質ではない。
- 直接手で触れると凍傷を起こす危険がある。また、5%から10%の濃度の二酸化炭素で中毒を起こす可能性があるため、十分な換気と酸欠に注意が必要である。
- 直接口に含む行為は凍傷や二酸化炭素中毒の恐れがあり危険である。
- ドライアイスは食用を考慮して製造されていないため、飲料にドライアイスを入れて炭酸水を作ることは衛生上の観点からも避けた方がよい。
- 食品を冷やす場合は間接的な冷却を行うのが好ましい。ちなみに、ドライアイスを新聞紙などで包むと昇華を遅らせることができるので長持ちする。
ペットボトル破裂事故
#製造方法で述べたとおり、ドライアイスは圧縮された気体であり、昇華して気体になると体積は約750倍になる。当然ながら、ガラス瓶やペットボトルなどの容器で密閉保存してしまうと、容器内の圧力が急激に上昇してしまう。さらにその状態で、
- 容器が長時間にわたって放置される
- 容器を振る
- 容器を落とす
- 容器を床や壁などに叩きつける
- 容器を投げ飛ばす
などとなって、容器に衝撃が加わると、圧力に耐え切れない容器が破裂・爆発し、破片やキャップが飛び散り、非常に危険である。
実際に、炭酸水を作ろうとしてペットボトルやビン容器に飲料とドライアイスを入れて密閉した状態で容器を振るなどしたところ、容器が破裂してビンの破片やキャップなどが吹き飛び、腕や顔面に重傷を負ったという事故が相次いでおり、国民生活センターが注意喚起を行う事態に発展した。中には「破裂して吹き飛んだペットボトルのキャップが眼球に直撃してしまい失明」という事故も報告されている[8]。
脚注
関連項目
外部リンク
fr:Dioxyde de carbone#Sous forme solide- ↑ ただし見えなくとも当然、二酸化炭素も発生している
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 化学工業日報社、「今夏も韓国産ドライアイス」『化学工業日報』2014年7月7日p1、東京、化学工業日報社
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ テンプレート:Cite book
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