スーパーライセンス
スーパーライセンス(Super Licence)は、国際自動車連盟(FIA)が発給するモータースポーツライセンスのクラスの一つ。競技運転者(ドライバー)としてフォーミュラ1(F1)に参戦するためにはこのスーパーライセンスを所持していることが必須条件。モータースポーツライセンスのトップライセンスである。
FIAのF1 Sporting Regulationによれば、スーパーライセンスには「ドライバー」「チーム」(Competitor)「オフィシャル」の3種類が存在するが、本記事ではその中でも特にドライバーライセンスについて解説する。
ドライバーライセンス
ドライバーがスーパーライセンスの発給を受けるための条件は、FIA International Sporting Code Appendix L(FIA国際スポーツ規則補則L項) の中で規定されており、2011年現在は以下の2条件を満たすことが必要とされている。なお、書面としての「スーパーライセンス」はない。
- FIAの発給するグレードAライセンス(いわゆる国際Aライ)を保持している。
- 以下のいずれかに該当すること。
- 前年度のF1のシリーズ戦で決勝出場5戦以上、もしくは過去3年間で決勝出場15戦以上の経験者。
- 過去にスーパーライセンスを取得したことがあり、前年度にF1チームのレギュラーテストドライバーを務めていた者。
- 過去2年以内にGP2メインシリーズ、GP2アジアシリーズ、フォーミュラ・ニッポン、F2、F3インターナショナルトロフィーのシリーズランキング3位以内に入賞した者。
- 過去2年以内にインディカー・シリーズでシリーズランキング4位以内に入賞した者。
- フォーミュラ・ルノー3.5(FIAの記述上は「the World Series F/Renault V6」)、F3ユーロシリーズ、もしくはイギリス・イタリア・スペイン・日本のF3のシリーズチャンピオン(当該シリーズの最終戦から12ヶ月以内に限り有効)。
- 上記3~5のいずれにも該当しないが、一貫して一人乗りフォーミュラカーで傑出した能力を証明し続けているとFIAに判断された者。この場合、関係するF1チームは、申請日までの90日以内に、申請者が現行のF1車両で一貫したレーシングスピードで最低300kmを最大2日間で走行し、テストを行った国のASN(Authority Sport Nationale、自動車連盟)によって証明を受けたことを示さなければならない。
ジェンソン・バトン、キミ・ライコネンは第6項のテスト走行を経てF1委員会の特別発給審査を通過したドライバーである。
なおライセンスは12ヶ月有効であり、一度スーパーライセンスを得た者でも、更新時に上記の条件を満たしていない場合は更新にあたりF1委員会の審査が必要になる。
歴史
スーパーライセンスの発給資格には時期により変遷が見られる。
- 2007年
- フォーミュラ・ルノー3.5・国際F3000マスターズのチャンピオンが発給対象に追加された。
- 2009年
- 条件から「F1チームと契約に合意している」が外された。
- 新たにF2・GP2アジアシリーズのシリーズランキング3位以内、スペインF3のチャンピオンが発給対象に追加。一方でユーロ3000選手権・国際F3000マスターズのチャンピオンが発給対象から外されたほか、GP2メインシリーズ・インディカー・シリーズの発給対象ドライバーの範囲が変更された。
- 過去のF1参戦ドライバーについて、「過去3年で決勝に出場15戦以上」「前年にF1チームのレギュラーテストドライバーだった」が条件に追加された。
- 2011年
- F3インターナショナルトロフィーのシリーズランキング3位以内が発給対象に追加された。
年会費
年 | 基本料 | 加算料 | 保険料 | 合計 |
---|---|---|---|---|
~2007年 | 1,690ユーロ | 447ユーロ/ポイント | 2,615ユーロ | 4,305ユーロ+ポイント加算料 |
2008年 | 10,000ユーロ | 2,000ユーロ/ポイント | 2,615ユーロ | 12,615ユーロ+ポイント加算料 |
2009年 | 10,400ユーロ | 2,100ユーロ/ポイント | 2,720ユーロ | 13,120ユーロ+ポイント加算料 |
※加算料は前年に獲得したポイントが基準となる。
上記のように、前年の獲得ポイントが多い=成績の優秀なドライバーほど年会費(加算料)も高くなるが、ライセンス発給のために必要な年会費が2008年より大幅に値上げされたことで、ドライバーから不満の声が上がっている[1]。2007年度ドライバーズチャンピオンのキミ・ライコネンを例にあげると、2007年(前年は65ポイント)の会費は33,360ユーロ(約530万円)なのに対し、2008年(前年は110ポイント獲得)は約23万ユーロ(約3,600万円)の会費をFIAに納めなくてはならない計算になる。しかも内訳の9割がポイント加算料。
FIA会長のマックス・モズレーは、当時「2000万ユーロ以上を稼ぐ人間にとって、25万ユーロのライセンス料は決して無謀な支出にはならない」と語り、値上げを正当なものだと主張したが[1]、一方でドライバー側の団体であるグランプリ・ドライバーズ・アソシエーション(GPDA)では、この値上げを不服として、同年のイギリスグランプリにおいて何らかのボイコット行動を起こすことを示唆したりもした[2](実際にはボイコットは行われなかった)。しかし2009年もさらに値上げが行われたことでGPDAからは強い不満が上がるようになったため、FIAではGPDAとの話し合いの上で2010年以降年会費を値下げする方向で見直すことを発表した[3]。
ちなみに、年会費は建前上ドライバーが自ら支払うことになっているが、実態はチームが代わりに支払っている場合も多い。また、これらの年会費は「FIAによるさらなる安全確保のための資金に充てる」とされているが、具体的な使途は明らかにされていない。
ライセンス発給を巡る問題
スーパーライセンスの発給の是非は、最終的にFIAのF1委員会の判断で決定されるが、その意思決定プロセスは非公開であり不透明であることから、しばしばライセンスの発給を巡り問題が発生することがある。
過去にライセンス発給が拒否、またはライセンスが剥奪された主な例としては、
- 1979年に、ティフ・ニーデルがエンサインからF1に参戦しようとしたが、成績条件を満たさずライセンス発給を拒否される。
- 1992年に、中谷明彦がブラバムと契約を結ぶが、成績条件不足を理由にFIAからライセンス発給を拒否された。
- 同じく、1992年のブラジルグランプリにおいて、アンドレア・モーダから参戦予定だったペリー・マッカーシーがライセンス不備を理由にレース参戦が認められなかった。これは手続きの不備が原因だった模様。(マッカーシーは次戦から参戦が実現したものの、結局予備予選を一度も通過できずに終わった)。
- 1995年に、パシフィックGPと日本GPにパシフィックからスポット参戦する予定だった山本勝巳は、同年全日本F3000選手権に参戦し、ルーキーながら入賞・表彰台獲得にも関わらず「国際的に無名・経験不足」を理由にライセンスが発給されなかった。
- 1995年に、同じくパシフィックGPと日本GPにフォルティ・コルセからスポット参戦する予定だった野田英樹が、前年ラルースからF1に参戦しているにも関わらずライセンスが発給されなかった。
- 2006年に、当時スーパーアグリF1チームからF1に参戦していた井出有治が「危険な運転」を理由にライセンス剥奪処分を受ける。シーズン途中にスーパーライセンスの剥奪処分を受けたのは井出が史上初。
といった事例がある。
2001年にはキミ・ライコネンがF3000、F3のカテゴリーを経験することなくザウバーと正ドライバー契約を結んだが、他チームからスーパーライセンスの発給に疑問を出されたため、開幕から4戦限定の仮ライセンスを発給することとなった。開幕戦でいきなり入賞するなどしたため、正式にスーパーライセンスを発給することになった。
またそれ以外にも、1990年にはアイルトン・セナのライセンス更新を巡って、当時FISA(現在のFIA)会長だったジャン=マリー・バレストルが更新を渋る姿勢を見せたこともあり(当時バレストルは、自分と同じフランス出身のアラン・プロストに肩入れしていたため、ライバルであったセナに対し「F3000にでも出たらどうだ」とうそぶいたこともあった)、「ライセンス更新が政治的に利用されている」と多くのF1関係者がバレストルを非難したこともある。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 東京中日スポーツ・2008年1月30日付 19面
- ↑ ストライキの可能性を認めるドライバーたち
- ↑ FIA Agrees Superlicence Fee Reduction - FIAプレスリリース・2009年3月23日