イナゴ
イナゴ(蝗、稲子)は、直翅目・バッタ亜目・イナゴ科(Catantopidae)に属するバッタ類の総称(イナゴ科をバッタ科と分けない場合もある)。日本では稲を食べる害虫とされると同時に水田から得られる重要なタンパク源として扱われ、多くの地域で食用とされた。 なお、バッタ科でもナキイナゴ、アメリカイナゴのように「いなご」と呼ばれるものがあるが、これらは本項にいうイナゴではない。
分類
- イナゴ亜科 Oxyinae
- ツチイナゴ亜科 Cyrtacanthacridinae
- ツチイナゴ Patanga japonica
- セグロイナゴ亜科 Shirakiacrinae(?)
- セグロイナゴ Shirakiacris shirakii
- フキバッタ亜科 Melanoplinae
- ミヤマフキバッタ Parapodisma など
利用
日本では昆虫食は信州(長野県)など一部地域を除き一般的ではない。しかし、イナゴに限っては、イネの成育中または稲刈り後の田んぼで、害虫駆除を兼ねて大量に捕獲できたことから、全国的に食用に供する風習があった。調理法としては、串刺しにして炭火で焼く、鍋で炒る、醤油や砂糖を加えて甘辛く煮付けるイナゴの佃煮とするなど様々ある。イナゴは、昔から内陸部の稲作民族に不足がちになるタンパク質・カルシウムの補給源として利用された。太平洋戦争中や終戦直後の食糧難の時代を生きた世代には、イナゴを食べて飢えをしのいだ体験を持つ者も多い。最近では東京都内のレストランのメニューにも採用された例もある。
いなごの佃煮は古く岐阜県で作られ、日本各地に広まっている。食料豊富な現代でも、一部の地方ではいなごを佃煮にして好んで常食され、また、珍味として商品化され特産品となっていることもある。味は一般的な佃煮とほとんど変わらないが、わずかに青菜のような風味がある。穀倉地帯にある小学校などでは、学校行事としてイナゴ採りが催される場合があり、採集したイナゴを大釜で佃煮にして食べる慣習もある。食感と味がエビに似ていることから、オカエビと呼ぶ地域もある。
訳語としての「いなご」
バッタ科の昆虫の中には、トノサマバッタやサバクトビバッタのように、大量発生などにより相変異を起こして群生相となることがあるものがある。これを「ワタリバッタ」ないし「トビバッタ」(英語では「locust」)というが、以下に見るようにこれが「いなご」と呼ばれることがある。
漢籍における「蝗」
漢語の「蝗」(こう)は、日本で呼ばれるイナゴを指すのではなく、ワタリバッタが相変異を起こして群生相となったものを指し[1]、これが大群をなして集団移動する現象を飛蝗、これによる害を蝗害と呼ぶ。日本ではトノサマバッタが「蝗」、すなわち群生相となる能力を持つが、日本列島の地理的条件や自然環境ではほとんどこの現象を見ることはない。わずかに明治時代、北海道で発生したもの、1986年に鹿児島県の馬毛島で起きたものなどが知られるくらいである。
日本人にとってほとんど実体験のない「蝗」が漢籍により日本に紹介されたときに、誤解により「いなご」の和訓が与えられ、またウンカやいもち病による稲の大害に対して「蝗害」の語が当てられた。
聖書
旧約聖書では、昆虫は食べてはいけないが、「アルベ、サールアーム、ハルゴール、ハーガーブ」の4種類は食べてよいとしている(レビ記 11:20–22)。「アルベ、サールアーム、ハルゴール、ハーガーブ」は、日本語では、「いなごの類、羽ながいなごの類、大いなごの類、小いなごの類」(新共同訳)、「いなごの類、毛のないいなごの類、こおろぎの類、ばったの類」(新改訳)などと訳されており、イナゴ科を含むバッタ目全体を指すと考えられている[2](レビ記の4種類の昆虫参照)。
また、聖書にはしばしば蝗害が描かれており、これを引き起こすワタリバッタが日本語では「いなご」「蝗(いなご)」と訳されることがある。
日本文学におけるイナゴ
- 夏目漱石『坊っちゃん』で、教師坊っちゃんは宿直の時、中学生に蚊帳のなかへイナゴを入れられて閉口した。ここでは、イナゴを「バッタ」と呼ぶ東京出身の主人公に対して、イナゴは「バッタ」ではないとする松山の学生が描かれている。
- まど・みちおによる詩『イナゴ』は、現在も小学校の教科書教材として採用されている。
脚注
- ↑ H.E.エヴァンズ,日高敏隆訳,虫の惑星,1968,早川書房
- ↑ テンプレート:Cite web
関連項目
参考文献
外部リンク
- Q バッタとイナゴのちがいは?(NACS-J 自然しらべ2006「バッタ」)