アンチモン
テンプレート:Elementbox アンチモン(テンプレート:Lang-en-short、テンプレート:Lang-la-short)は原子番号51の元素。元素記号は Sb。常温、常圧で安定なのは灰色アンチモンで、銀白色の金属光沢のある硬くて脆い半金属の固体。炎色反応は淡青色(淡紫色)である。レアメタルの一種。古い資料や文献によっては英語の読み方を採用してアンチモニー(安質母尼)と表記されている事もある。
元素記号の Sb は輝安鉱(三硫化二アンチモン、Sb2S3)を意味するラテン語 Stibium から取られている。
歴史
アンチモン化合物は古代より顔料(化粧品)として利用され、最古のものでは有史前のアフリカで利用されていた痕跡が残っている。
西洋史においてはドイツ・エルフルトのベネディクト会修道院長、医師、錬金術師であるバシリウス・ウァレンティウスが著したとされる『太古の偉大なる石』『自然・超自然の存在』『オカルト哲学』『アンチモン凱旋車』など「ヴァレンティヌス文書」にアンチモンの記述が見出される[1]。しかし、ベネディクト会の記録にはバシリウス・ウァレンティウスが存在したという記録はない。また、16世紀にテューリンゲンの参事官かつ製塩業者であるヨハン・テルデが編纂出版しているが、実際にはウァレンティウスは存在せず彼の著作であるという説がある。
『アンチモンの凱旋車』でワインより生じる「星状レグレス」と呼ばれる結晶が記述されているが、これは酒石酸アンチモンの結晶であると推定される。またアンチモンの毒性について「ヴァレンティヌス文書」で述べられているが、これに関連すると考えられる俗説に「ある修道会で豚にアンチモンを与えたら(駆虫薬として働き)豚は丸々と太った。そこで栄養失調の修道士に与えたところ、太るどころではなく死んでしまった。それゆえアンチ・モンク(修道士に抗する)という名が与えられた」というものである[2]。実際には11世紀頃にアラビアより錬金術が伝わった際にすでにアンチモンにアラビア語の名が与えられていたので、「アンチモン」という語の語源はアラビア語に由来すると考えられている。ギリシャ語で「孤独嫌い」を意味する anti-monos が由来とする説もある(単体で見つからないからという)。
産地
国 | トン | 構成比 |
---|---|---|
中国 | 126 000 | 81.5 |
ロシア | 12 000 | 7.8 |
南アフリカ | 5 023 | 3.3 |
タジキスタン | 3 480 | 2.3 |
ボリビア | 2 430 | 1.6 |
5か国小計 | 148 933 | 96.4 |
世界合計 | 154 538 | 100.0 |
産出国 出典:[3] |
中国の湖南省が世界の主産地で、他に広東省、貴州省などにも輝安鉱の鉱山がある。最大の鉱山は湖南省の錫鉱山であるが、その名が示す通り、昔はスズと混同されていた。なお、中国語の方言では、アルミニウムをアンチモンやスズと混同して呼ぶ例も見られる。
日本において本格的に採掘が開始されたのは明治時代以降である。愛媛県・市ノ川鉱山、兵庫県・中瀬鉱山(金山として開発され、第二次世界大戦後にアンチモンが主力となった)、山口県・鹿野鉱山等が開発された。とくに市ノ川鉱山は美晶の輝安鉱が産出される事が海外にも知られ、製錬所も建設された。しかし、資源枯渇や生産コストの問題から現在は全て輸入となっている。また、鉱石による輸入は1990年代に終了し、全量が地金及び地金屑、あるいは三酸化アンチモン等化合物による輸入である。
2011年5月、鹿児島湾の海底で総量約90万トンと推定されるアンチモンの鉱床が、岡山大学や東京大学、九州大学らの研究グループにより発見されたと報道された。2010年の日本国内販売量約5千トンから計算すると、約180年分がまかなえる量[4][5][6]。
用途
工業材料として多岐にわたる用途に用いられているが、人体に対して毒性の疑いがある(化合物の多くが刺激性のある劇物)ことから、代替素材の開発が進み、徐々に使用が控えられる傾向にある。
アンチモン地金は正方形に作られる事が多く、上方に輝安鉱のような凸凹模様ができる。これは俗に「スターマーク」と言い、品質の高い物ほど、この模様がはっきりと現れる。
- 活字合金(現在では活字はほとんど使用されなくなった)。
- 鉛蓄電池(バッテリー)の電極材料。
- ハンダ合金の材料。
- アルミニウム合金への添加物。微量添加により共晶組織を微細化する。
- バビットメタルなどの軸受合金。
- 半導体材料への添加物(ドーパントとして)。
- ポリエステルを製造する際の触媒。
- ゴム、プラスチックの顔料。毒性の低い三酸化アンチモンを利用。黄色顔料のニッケルチタンイエローおよびTi-Cr-Sb系クロムチタンイエローに含まれている。
- プラスチック、繊維、紙を難燃性にするための難燃助剤。主に三酸化アンチモンを、一部に五酸化アンチモンを用いる。
- 化粧品の材料(古くは硫化アンチモンをアイシャドーに使った。毒性のため、現在は使用されない)。
- 医薬品の材料。酒石酸ナトリウムアンチモニウムが駆虫薬に用いられている。
- ピューター(スズ合金)の材料。
毒性
「ヴァレンティヌス文書」などを始め古典的著作には毒性が認められてきた元素である。広く使われてきた結果、自然界への蓄積が進み、無視できないレベルに達していると指摘する識者もいる。
急性アンチモン中毒の症状は、著しい体重の減少、脱毛、皮膚の乾燥、鱗片状の皮膚である。また、血液学的所見では好酸球の増加が、病理的所見では心臓、肝臓、腎臓に急性のうっ血が認められる[7]。
この他、アンチモン化合物は、皮膚や粘膜への刺激性を有するものが多く、日本では毒物及び劇物取締法及び毒物及び劇物指定令によりアンチモン化合物及びこれを含有する製剤は硫化アンチモンなど一部の例外[8]を除いて劇物に指定されている。
化合物
- 硫化アンチモン (Sb2S3)
- 三酸化アンチモン(アンチモン白)(Sb2O3)
- 五酸化アンチモン (Sb2O5)
- 三塩化アンチモン(アンチモンバター)(SbCl3)
- アンチモン酸鉛(アンチモンイエロー)(Pb3(SbO4)2)
- スチビン (SbH3)
- 五フッ化アンチモン (SbF5) - 強力なルイス酸。フルオロスルホン酸との混合物であるマジック酸は最強の超酸として知られる。
- 酒石酸アンチモニルカリウム(吐酒石)(KSb(C4H2O6)•1.5H2O)
- アンチモン化インジウム (InSb) - III-V族半導体
同位体
脚注
関連項目
外部リンク
テンプレート:元素周期表 テンプレート:アンチモンの化合物テンプレート:Link GA
テンプレート:Link GA- ↑ 『十二の鍵』Practice with Twelve Keys and appendix,Basil Valentine,1400~1600?
- ↑ ウァレンティウスがアンチモンの語をはじめて著したが、この修道士がウァレンティウスとするならばドイツ語ではなくフランス語の「モンク」を用いて命名するのは不自然である。
- ↑ Chiffres de 2003, métal contenue dans les minerais et concentrés, source : L'état du monde 2005
- ↑ 鹿児島湾でレアメタル発見 国内販売量の180年分 朝日新聞 2011年5月15日
- ↑ 鹿児島湾奥部海底に有望なレアメタル鉱床を確認 岡山大学 2011年4月19日
- ↑ アンチモン鉱床が日本近海底で存在確認される 「日本資源貿易の将来像」 国際資源産業・資源貿易研究 :武上研究室 2011年4月25日
- ↑ HACCP関連情報データベース 化学的・物理的危害要因情報 財団法人食品産業センター
- ↑ 4-アセトキシフエニルジメチルスルホニウム=ヘキサフルオロアンチモネート及びこれを含有する製剤、アンチモン酸ナトリウム及びこれを含有する製剤、酸化アンチモン(III)を含有する製剤、酸化アンチモン(V)及びこれを含有する製剤、硫化アンチモン及びこれを含有する製剤を除く。