毒物及び劇物取締法

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毒物及び劇物取締法(どくぶつおよびげきぶつとりしまりほう、昭和25年12月28日法律第303号)は、毒物及び劇物について、保健衛生上の見地から必要な取締を行うことを目的とする法律である。急性毒性などに着目して、毒物や劇物を指定し、製造、輸入、販売、取扱いなどの規制を行うことを定めている。最終改正は平成23年12月14日。

概要

テンプレート:Main2 毒物及び劇物は、この法律で指定されているもの及び薬事・食品衛生審議会の答申を基に政令で指定されているものがある。毒物及び劇物に指定されると、製造、輸入、販売、取扱等が厳しく規制される。また、毒物及び劇物を販売する場合には、基本的に化学物質安全性データシート (MSDS) の添付が義務付けられている。

分類

分類は厚生労働省の諮問委員会で決定されるが、判定基準を参考に決定される。医薬品および医薬部外品は本法律では規定しない。以下に目安を示すが、化学物質ごとに個別判断されるのでこの範囲に適合しないものもある。

毒物
判定基準を大人で換算すると、たとえば誤飲した場合の致死量が、2g程度以下のもの。GHSにおける急性毒性区分1または2に相当。法別表で27品目、毒物及び劇物指定令で95品目を定めている。〈個別には日本の毒物一覧に詳しい〉
劇物
判定基準を大人で換算すると、たとえば誤飲した場合の致死量が、2 - 20g程度のもの。あるいは刺激性が著しく大きいもの。GHSにおける急性毒性区分3、皮膚腐食性区分1、眼傷害性区分1に相当。法別表で93品目、毒物及び劇物指定令で286品目を定めている。〈個別には日本の劇物一覧に詳しい〉
特定毒物
毒物のうちで極めて毒性が強く、且つ広く一般に使用されるもの。法別表で9品目、毒物及び劇物指定令で10品目を定めている。〈個別には日本の特定毒物一覧に詳しい〉
普通物
上記に該当しないもの

ただし、医薬品及び医薬部外品は、毒物劇物に分類されている物質であっても毒物及び劇物には含まない(毒物及び劇物取締法 第二条)。また混同されやすいが『薬事法における毒薬、劇薬』と『毒物及び劇物取締法における毒物劇物』は全く異なる分類である。すなわち、毒薬や劇薬は医薬品として承認されていることが前提となっている。

なお毒物あるいは劇物を希釈した製品(例えば殺虫剤)は、政令の規定次第で毒物から劇物、あるいは無指定へと除外される。

また特定毒物については取り扱いが厳しく規制されているが、それ以外の毒物と劇物の差は表示(毒物は毒物と、劇物は劇物と表示する)のみである。この点は、毒薬と劇薬とで保管の規制に差があることと対照的である。

規制

業態に応じて大きく4段階の規制が行われる。

毒物劇物営業者
毒物および劇物の製造、輸入、販売を行うもの(法3条)。3業態別に登録が必要で(法4条~6条)、毒物劇物取扱責任者を置く必要がある(法7条)。また非届出業務上取扱者としての義務に加えて、譲渡に関して様々な規制がある。
特定毒物研究者・特定毒物使用者
特定毒物を使用する者(法3条の2)。研究者は都道府県知事の許可を得て、学術研究のために製造・輸入・使用ができる。また品目ごとに政令で指定された使用者は、それぞれ定められた用途に使用できる。非届出業務上取扱者としての義務に加えて、認められた以外の譲渡や所持が禁止されている。
要届出業務上取扱者
政令で定める事業(電気メッキ、金属熱処理、大量運送、しろあり防除)のために毒物および劇物を取り扱う者(法22条1、施行令41条)。都道府県知事への届出が必要で、非届出業務上取扱者としての義務に加えて、毒物劇物取扱責任者を置き(法7条)、廃棄物の回収命令に従う(法15条の3)などの義務がある。
非届出業務上取扱者
業務上毒物および劇物を取り扱う者(法22条5)。適正な管理(法11条)、表示(法12条)、廃棄(法15条の2)、運搬(法16条)、事故の際の届出(法16条の2)、および報告や立入検査などに応じる(法17条)義務がある。

適正な表示や廃棄の義務には懲役3年以下または罰金200万円以下の、事故届出や報告・立入検査の義務には罰金30万円以下の罰則がある。

表示方法

表示の例
毒物 劇物
毒物
医薬用外
劇物
医薬用外
医薬用外毒物 医薬用外劇物

毒物または劇物の容器及び被包には、以下の項目の表示が義務付けられている

  • 「毒物」又は「劇物」である旨を定められた通りに表示
    • 毒物  「医薬用外」の文字と、赤地に白文字で「毒物」の文字
    • 劇物  「医薬用外」の文字と、白地に赤文字で「劇物」の文字
  • 毒物又は劇物の名称
  • 毒物又は劇物の成分及びその含量
  • 厚生労働省令で定める毒物又は劇物については、同省令で定める解毒剤の名称
  • 毒物又は劇物の取扱い及び使用上特に必要と認めて、厚生労働省令で定める事項

判定基準

公開されている判定基準(NIHS Homepage内)の要約を次に示す。毒物及び劇物の判定は次に示す動物またはヒトにおける知見(急性毒性、刺激性)に基づき、当該物質の物性、化学製品としての特質等も勘案する。

経路毒物基準劇物基準
経口LD50が50mg/kg以下LD50が50mg/kgを超え300mg/Kg以下
経皮LD50が200mg/Kg以下LD50が200mg/Kgを超え1000mg/Kg以下
吸入(ガス)LC50が500ppm(4hr)以下LC50が500ppm(4hr)を超え2,500ppm(4hr)以下
吸入(蒸気)LC50が2.0mg/L(4hr)以下LC50が2.0mg/L(4hr)を超え10mg/L(4hr)以下
吸入(ダスト・ミスト)LC50が0.5mg/L(4hr)以下LC50が0.5mg/L(4hr)を超え1.0mg/L(4hr)以下
皮膚・粘膜刺激性 硫酸水酸化ナトリウムフェノールなどと同等の刺激性を有する

原則、毒物基準を1つ以上満たす場合は毒物、毒物基準は該当せず劇物基準を1つ以上満たすものは劇物とする。この基準はGHSにおける急性毒性、皮膚腐食性、眼傷害性の判定基準に準拠している。

有機溶剤トルエンキシレンは比較的毒性が低く劇物の基準には満たないが、いわゆる「シンナー遊び」の横行が社会問題となったため劇物に指定された。またアジ化ナトリウムは従来劇物にも指定されていなかったが、飲食物への混入事件を契機として毒物に指定され、より厳しい管理下におかれることになった。これらは、社会的影響の大きさから下された判断であると考えられている。

逆に、社会的影響の小ささから指定されていないものも多く存在する。金属セシウムは非常に反応性が大きく、空気や水との反応で発火・爆発を起こしやすいが、より反応性が低い金属ナトリウムカリウム、およびナトリウムカリウム合金などが指定されているのにも関わらず、取締りの対象となっていない。

この例にみられるように、毒性や危険性が高くてもごく限られた用途にしか使用されず、社会的な問題を起こしていない物質は取り締まりの対象として指定されない傾向にある。猛毒の神経剤であるサリンは通常のルートでの流通は全くないため毒劇物指定されておらず、他の法律によって規制される形となっている(一方、タブンはサリンに近い毒性を持つにもかかわらず劇物となっている[1])。またトリカブトアコニチン)などの天然物はまず指定されない。タバコの主成分であるニコチンは毒性の高さから毒物に指定されているが、植物としてのタバコ自体は毒物には指定されていない。(植物では、クラーレおよび抹香の製造に用いられる(しきみ、有毒成分アニサチンを含み、スターアニスと間違えて料理に使った中毒例がある)の実が毒劇物に指定されているのみである。)

年表

以下は主要なものの抜粋である。これ以外にも農薬など多くの指定変更がある。

脚注

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参考文献

  • 古賀元監修、毒物劇物取締法制研究会編者『新版 毒物劇物取扱の手引き』時事通信社、2006年、ISBN 4-7887-0659-8

関連項目

資格
主務官庁
関連法令

外部リンク

  • CN基を構造に含むため、有機シアン化物としての指定
  • http://www.wam.go.jp/wamappl/bb11GS20.nsf/0/75f525a4e782d4094925709a00269c5d/$FILE/siryou5~9.pdf