スズ
スズ(錫、テンプレート:Lang-en-short、テンプレート:Lang-de-short)とは、典型元素の中の炭素族元素に分類される金属で、原子番号50の元素である。錫石に含まれる。元素記号は Sn。元素記号はラテン語の stannum に由来する。本来、この語は銀・鉛合金のことだったが、4世紀ごろよりスズを stannum と呼ぶようになった。
常温、常圧での結晶構造はβスズ (beta-tin) 構造(正方晶)で、その名の通りβスズ(白色スズ)と言われる金属である。高温(161 テンプレート:℃以上)でγスズ(斜方スズ)、低温(13 テンプレート:℃以下)でαスズ(灰色スズ、テンプレート:要出典)となる。超伝導転移温度は3.72K。 [1]
金属スズを曲げると独特の音がするが、これはスズ鳴き (tin cry) と呼ばれており、結晶構造が変化することにより起こる。同様の現象は、ニオブやインジウムでも見られる。
用途
融点が低く比較的無害な金属材料として、スズ単体、または、合金の成分として古来から広く用いられてきた。スズを含む合金としては、鉛との合金であるはんだ(最近は鉛フリーのはんだもある)、銅との合金である青銅が代表的。スズ単体についても、適度な硬さがあり加工もしやすいため、アルミニウムが安価に生産されるようになるまでは食器などの日用品やスズ箔として広く用いられてきた。パイプオルガンのパイプもスズを主とした合金である。
中世ヨーロッパでは、スズを主成分とする合金であるピューターが、銀食器に次ぐ高級食器に使われた。 スズを大量に産出するマレーシアでは、19世紀からピューターで作った食器や花器、その他の工芸品が作られ、国を代表する特産品になっており、各国に輸出されている。
近代における用途として、βスズを鋼板に被覆したブリキや、軸受に用いられるバビットメタル(銅およびアンチモンとの合金)、ウッド合金やガリンスタンのような一連の低融点合金などがある。また、インジウムとスズの酸化物 (ITO) は液晶ディスプレイ・有機ELの電極として用いられるほか、熱線カットガラスとして乗用車のフロントガラスなどの表面に用いられる。
日本には、スズそのものの加工品としては奈良時代後期に茶とともに持ち込まれた可能性が高い。今でいう茶壷、茶托などであろうと推測される。金属スズは比較的毒性が低く、酸化や腐食に強いため、主に飲食器として重宝された。現在でも、大陸喫茶文化の流れを汲む煎茶道ではスズの器物が用いられることが多い。日本独自のものには、神社で用いられる瓶子(へいし、御神酒徳利)、水玉、高杯などの神具がある。いずれも京都を中心として製法が発展し、全国へ広まった。
それまでの特権階級のものから、江戸時代には町民階級にも慣れ親しまれ、酒器、中でも特に注器としてもてはやされた。京都、大阪、鹿児島に、伝統的な錫工芸品が今も残る。近年では日本酒用以外にビアマグやタンブラーなどもつくられるようになった。また、一部の比較的高級な飲食店では日本酒の燗に、こだわりとして高価であるスズ製ちろりを使用するところがある。科学的には定かではないが、錫製品は水を浄化し雑味が取り除かれ、酒がまろやかになると言われている。近年では、錫の軟らかい性質を利用した錫製品や作品が、富山県を中心に製造されている。
また、融点が低いことを利用してフロートガラスの製造にも使われている。
全米フィギュアスケート選手権では4位の選手にピューター(錫合金)メダルを授与する。
- Inside of a tin platted can.jpg
錫鍍金した缶詰の鋼板
- Pewterplate exb.jpg
ピューターの皿
- Ex Lead freesolder.jpg
はんだ
- Plainbearing.jpg
バビットメタルの軸受
化合物
- 塩化スズ (SnCl2, SnCl4)
- 酸化スズ - 下記の三つが存在する
- 硫化スズ (SnS, SnS2)
- フッ化スズ(SnF2,SnF4)
- 臭化スズ(SnBr2,SnBr4)
- ヨウ化スズ(SnI2,SnI4)
- 有機スズ化合物(内分泌攪乱化学物質#研究の現状 も参照)
同位体
スズには安定同位体の種類が比較的多いことが知られている。これは、スズの陽子の数が魔法数の1つである50だからだと説明されている。
毒性
スズは人間や動物には容易に吸収されず、生体中における生物学的役割は知られていない。スズは金属や酸化物、塩類といった無機化合物の形では毒性が低いため食器や缶詰など広範囲に渡って利用されているが[2]、缶詰内側の腐食などによって高濃度にスズが溶出した食品を摂取することによる急性中毒も発生している[3]。急性毒性の症状としては吐き気、嘔吐、下痢などがみられる[3]。例えば、日本の食品衛生法においてはスズの濃度は150 ppm以下とするよう定められており[3]、イギリスの食品基準局では缶詰食品中のスズ濃度の上限を200 ppmとしている[4]。2002年に英国食品基準局が行った調査では、調査対象となった食品の缶詰のうち99.5 %がスズの含有量の上限値を下回っており、基準値を超えていた缶詰に関しては販売差し止め措置が取られている[5]。2003年のBlundenの報告では、過去25年間に100から200 ppmの濃度範囲ではスズの急性中毒の症例の報告がないことから、スズの急性中毒の閾値は200 ppmであることが示唆されるという見解が示されている[6]。また、長期間酸化スズの粉塵に曝される環境では肺が冒されることがあり(錫肺症)、環境の整っていない時代には鉱山からの採掘の際に多くの労働者が肺を病んだ。
一方で、有機スズ化合物の毒性は無機スズ化合物の毒性よりもはるかに高く、その毒性は有機基によって異なるもののいくつかの有機スズ化合物はシアン化物と同程度の非常に強い毒性を有するものもある[2]。トリブチルスズ誘導体 (TBT)は船底に貝が付着することを効果的に防止する塗料として広く用いられていたが、1970年代以降内分泌攪乱化学物質としての作用や海洋生物に対する蓄積毒性などTBTの毒性が知られ始め、1982年にフランス政府がTBTを含む塗料を小型ボートに使用することを禁止したのをはじめとして各国で規制されるようになっていった[7]。例えば日本では化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)によって第一種特定化学物質としてビス(トリブチルスズ)オキシドが規制対象となっており[8]、トリフェニルスズ誘導体やトリブチルスズ誘導体も第二種特定化学物質として規制対象となっている[9]。2001年には全ての船舶において有機スズ化合物を含んだ塗料の使用を禁止する船舶の有害な防汚方法の規則に関する国際条約 (IMO条約)が国際海事機関によって採択され、2008年に25か国が批准したことによって発効した[10]。また、TBTは2009年にロッテルダム条約(国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約、PIC条約)の規制対象物質リストである附属書Ⅲに追加され、TBTの国際貿易を行うには500 ppm以下の非意図的混入を除いて輸出申請を行わなければならないことが義務付けられている[11]。
同素変態
スズには常温に近い温度にβスズとαスズの転移点が存在する。αスズへの転移では展性が失われ、同時に大幅に体積が増加する。通常の温度範囲では不純物などの影響によりこの転移はほとんど進まないが、極地方のような酷寒の環境においては転移が進行する場合があり、スズ製品が膨らんでぼろぼろになってしまう現象が生じる。この現象はスズ製品の一部分から始まりやがて全体に広がるため、伝染病に喩えてスズペストと呼ばれる。
スズに限らず金属にはこういった、温度や圧力に応じて結晶構造が変わる同素変態をみせるものがある。スズではこの同素変態によってその物性が大きく変化する。βスズからαスズには物理的には13.2 テンプレート:℃で変態するが、実際に反応が進むのは-10 テンプレート:℃の低温領域からであり、-45 テンプレート:℃でその反応速度は最大になるが、それでも1 mm進むのに約500時間も掛かる。スズは結晶構造の違いによってさらに161 テンプレート:℃以上でのγスズがあり、これらの異なる単体は同素体と呼ばれ、変態する温度は変態点と呼ばれる[12]。
スズ泣き
体心正方晶格子である白色スズの結晶に力を加えて変形させると、「カリッ」と音を出して金属結晶が塑性変形して内部結晶が双晶に変化する。この双晶は変形双晶や機械的双晶と呼ばれ、冷間加工後に焼きなましされた時に作られる焼きなまし双晶と区別される[12]。
スズ鉱石
スズの重要な鉱石鉱物は、錫石 (SnO2) である。主に石英との鉱石フォーメーションとして産する。鉱滓からはタンタルを回収できる。
風化に強いため、砂鉱の砂錫としても産出する。
テンプレート:IDN | 117500 |
テンプレート:Flagicon 中国 | 114300 |
テンプレート:Flagicon ペルー | テンプレート:038470 |
テンプレート:Flagicon ボリビア | テンプレート:017669 |
テンプレート:Flagicon ブラジル | テンプレート:0テンプレート:09528 |
テンプレート:Flagicon コンゴ民主共和国 | テンプレート:0テンプレート:07200 |
テンプレート:Flagicon ロシア | テンプレート:0テンプレート:05000 |
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テンプレート:Flagicon マレーシア | テンプレート:0テンプレート:02398 |
世界計 | 321000 |
原産地の変遷
ローマ帝国領時代から中世・近世にはイギリスのコーンウォールが世界有数(少なくともヨーロッパ最大)のスズの産地で、イギリスはヨーロッパ中にスズを輸出していた。しかし産業革命によりスズの需要が急増すると、コーンウォールのスズは枯渇した。
それに代わって世界最大のスズ産出国となったのがマレーシアである。イギリスの植民地時代に資源開発が進み、1972年の7700トン/年をピークに減少に転じたものの、1985年までは世界の約1/4のシェアを占めていた。しかし1985年の錫危機(国際スズ市場の暴落・LMEでの取引停止)によりマレーシアのスズ鉱業は壊滅的な打撃を受け、翌1986年には産出量は半減し、その後も市場の混乱や資源枯渇による衰退が続き、現在は主要でない産出国の一つにすぎない。
脚注
関連項目
外部リンク
テンプレート:スズの化合物- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ 2.0 2.1 G. G. Graf "Tin, Tin Alloys, and Tin Compounds" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 2005 Wiley-VCH, Weinheim テンプレート:DOI
- ↑ 3.0 3.1 3.2 テンプレート:Cite web
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- ↑ テンプレート:Cite journal
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- ↑ テンプレート:Cite web
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- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 12.0 12.1 テンプレート:Cite book
- ↑ [1]