有機エレクトロルミネッセンス
有機エレクトロルミネッセンス(ゆうきエレクトロルミネッセンス、Organic Electro-Luminescence:OEL、有機EL:ゆうきイーエル)とは発光を伴う物理現象であり、その現象を利用した有機発光ダイオード(ゆうきはっこうダイオード、Organic light-emitting diode:OLED)や発光ポリマー(はっこうポリマー、Light Emitting Polymer:LEP)とも呼ばれる製品一般も指す。
これらの発光素子は発光層が有機化合物から成る発光ダイオード(LED)を構成しており、有機化合物中に注入された電子と正孔の再結合によって生じた励起子(エキシトン)によって発光する。日本では慣習的に「有機EL」と呼ばれることが多い。次世代ディスプレイのほか、LED照明と同様に次世代照明技術(後述参照)としても期待されている。
目次
有機ELの発明
現在もっともよく用いられている有機EL積層機能分離型デバイス発光素子[1]は1987年に米イーストマン・コダック社の鄧青雲(Ching Wan Tang)、スティーヴン・ヴァン・スライク(Steven A. Van Slyke)らによって発明された。
有機ELの発光原理
陰極および陽極に電圧をかけることにより各々から電子と正孔を注入する。注入された電子と正孔がそれぞれの電子輸送層・正孔輸送層を通過し、発光層で結合する。
結合によるエネルギーで発光層の発光材料が励起される。その励起状態から再び基底状態に戻る際に光を発生する。励起状態(一重項)からそのまま基底状態に戻る発光が蛍光であり、一重項状態からややエネルギー準位の低い三重項状態を経由し基底状態に戻る際の発光を利用すれば燐光である。励起しても光に上手く利用できないエネルギーは無放射失活(熱失活)する。
陰極にはアルミニウムや銀・マグネシウム合金、カルシウム等の金属薄膜を、陽極にはITO(Indium Tin Oxide)と呼ばれる酸化インジウム錫などの透明な金属薄膜を使う。発生した光は反射面で反射され、透明電極と基板(ガラス板やプラスチック板など)を透過する。
発光材料
有機EL素子材料にはさまざまな材料が試されてきた。それらは大きく高分子と低分子のどちらかに分けられる。ポリマー状の分子を用いたものが高分子材料であり、それ以外の分子を用いたものが低分子材料である[注 1]。 さらに発光層では燐光材料と蛍光材料に分けられる。
- 蛍光材料
- 前述一重項発光を利用した材料で、光の三原色となる赤・緑・青色ともコスト・寿命・耐久性・成膜性に充分な要件を持った材料がそろっている。
- 燐光材料
- 前述の三重項発光を利用した材料であり、原理的に蛍光材料よりはるかに発光効率がよい。しかし燐光材料は寿命、電流増加時の効率低下(Triplet-triplet annihilation)、精製の困難さ、熱耐性など問題があったが、現在は赤や緑などの材料が実用化され普及している。
- 青色はまだ十分な特性を持つ材料が開発されておらず、実用化には至っていない。各社がこの青色燐光材料の開発競争を続けている状況である(2014年段階)。
- 低分子材料
- 低分子材料では主に真空蒸着を使用し、有機材料の薄膜化・積層化が可能なメリットを生かしてデバイスを作成している。高分子材料と比したとき、低分子材料の欠点として製造技術が挙げられる。デバイスにする際、薄膜製造(後述)には透明のガラス基板やプラスチック基板に蒸着させる方法が一般的である。しかし通常のシャドウマスクを用いた色分け成膜技術はシャドウマスクの精度、熱膨張の観点から大型化が困難である。現状の有機ELディスプレイが小型のものに限られるのはそのためである(2008年段階)。この問題を解決するために様々な手法が提案されている(「解像度」参照)。印刷技術に対応するため可溶性を持たせた低分子材料も研究開発が行われている。
- 高分子材料
- 高分子材料はそれをインクとした印刷技術の応用により大量・安価・大型の有機ELデバイスが容易に生産できると言われ、次世代の材料として日本国内の大手印刷会社・化学企業・電気家電メーカー等で研究開発が続けられている。しかし高分子材料で有機EL素子を作成する場合、層間の材料同士が溶解しやすく有機ELに不可欠な後述のヘテロ構造を持たせることが非常に困難である。そのため単層ないし少数の層の素子構造しかできず、多くの機能(各層の機能)をこれら単数または少数の層や材料に持たせる必要がある。したがって高分子材料の分子設計への要求は低分子材料のそれに比べて非常に高い。
製膜技術
- 真空蒸着法
- 真空蒸着法は、主に低分子化合物を材料とする有機EL素子の薄膜を製造する際に用いる技術である。真空のチャンバー内で、原料化合物を加熱し蒸発させる。すると真空チャンバー内に置かれた基板の上に、化合物が薄く(数nm-数百nm)蒸着される。赤、緑、青と塗り分ける際はスリットを用いる[注 2]。前節の通りスリットを用いる製造法では製造基板の大型化は困難であるが現在ほとんどの有機EL商品が真空蒸着法で製造されている。
- 印刷技術法
- インクジェット技術などの印刷技術を利用し、インク状にした有機EL材料を基板上で薄膜にし素子を作成する技術。大型ディスプレイの製造に有用であるが前述のとおり高分子材料の開発が難航しており、出遅れている。
有機ELディスプレイ
以下では有機ELディスプレイについて解説する。単に「有機EL」といった場合、有機ELディスプレイを指すことも多い。駆動方式によりアクティブマトリクス型(AM-OLED、アモレッド)とパッシブマトリクス型(PM-OLED)に大別される。
構造
有機ELディスプレイは、各画素ごとに発光素子が構成されている。その発光素子は金属等の陰電極 / 電子注入層 / 電子輸送層 / 発光層 / 正孔輸送層 / 正孔注入層 / ITO等の陽電極そしてガラス板や透明のプラスチック板などの基板よりなる[注 3]。
こうしたサンドイッチ状の構造はヘテロ構造と呼ばれ、電子と正孔をそれぞれ別の層に閉じ込めることによって効率的な反応を起こすことができる。各層の材料にはジアミン、アントラセン、金属錯体などの有機物が使用されている。
電極間の各層の厚さは数nmから数百nmであり、全体で1µm以下程度の厚さしかない。また基板もフレキシブルなプラスチック等を利用することにより、フレキシブル(曲げられる)ディスプレイや照明の製造も可能である。
駆動方式
液晶ディスプレイと同様、ドットマトリクス表示の多数の画素にそれぞれ電極の配線をしようとしても基板周縁部にすべての端子が取り出せなくなることからTFT(薄膜トランジスタ)などのアクティブ素子を各画素に配置して駆動するか(アクティブ・マトリクス駆動)直交させたストライプ電極にタイミングを合わせて電流を流すことでその交点の各画素を順次駆動するか(パッシブ・マトリクス駆動)のどちらかの駆動方式が使われる。なお、駆動方式に関する特許出願動向が「有機EL表示装置の駆動技術」として特許庁より公表されている[2]。
パッシブ・マトリクス
パッシブ・マトリクス駆動は構造は単純だが瞬間的に光らせるのは1ラインであるため、その瞬間の発光輝度を大きくしている。よって素子の寿命が短くなってしまう欠点がある。また、パッシブ方式では(単純マトリクス駆動の液晶ディスプレイと同様)クロストークによる画質低下が問題になる[注 4]。液晶ではSTN型がパッシブ・マトリクスに対応する。
アクティブ・マトリクス
パッシブ・マトリクス駆動の欠点は大型化でより深刻になるため、大型パネルにはアクティブ・マトリクス駆動が採用される傾向にある。しかし、同様の事情がある液晶ディスプレイより複雑な回路[注 5]を組み込む必要がある場合が多い。液晶では、TFT型がアクティブ・マトリクスに対応する。
TFTにアモルファス・シリコンを使用すれば画素ごとのバラツキが少なくなるが、経年変化が大きくなる。低温多結晶シリコンを使用すれば、経年変化が小さくてすむかわりに画素ごとのバラツキが大きくなる。いずれのTFTにおいても画素ごとのバラツキを補正する回路を付加すればよいが、TFTが増えると量産がしやすいボトム・エミッション型(発光面がTFT回路面を通過することになる)のままでは開口率が低下するので発光面が逆のトップ・エミッション型が検討される。
カラー化方式
有機ELディスプレイのカラー化方式には、3色方式・変換方式・カラーフィルタ方式の3種類ある。
- 3色方式
- 赤色・緑色・青色の発光層をそれぞれ用いる方式である。色純度を向上させるため、カラーフィルターを併用する場合もある。
- 色変換方式
- 青色発光層を用い、その発光の一部を色変換層を通すことにより赤色・緑色を得る方式である。波長の短い色への色変換は困難であり、また青色材料の開発も赤・緑に比べ難しく十分な材料も乏しいため青色LEDに希土類錯体などの色変換材料を組み合わせた白色照明の開発も行われている[3]。
- カラーフィルタ方式
- 白色発光層を用い、カラーフィルタを通すことで赤色・緑色・青色を得る方式である。
動向
有機ELディスプレイは液晶やプラズマディスプレイなどに代わる次候補の薄型ディスプレイとして期待されており、その市場規模は2012年には数千億円から1兆円を超えるとも言われている[4][5][6]。2008年の段階で携帯電話やMP3音楽プレーヤーなどの携帯機器やカーオーディオの画面に、小型の有機ELディスプレイが使用され始めるようになる。薄型テレビ用途としてはソニーが2007年12月に世界初の11型有機ELテレビ「XEL-1」を発売した。
2009年になると世界的な景気後退を背景として、有機ELを含む次世代ディスプレー量産の延期や中止を発表するメーカーが相次いだ[7]。東芝とパナソニックの共同出資会社は携帯電話向け小型有機ELパネルの量産を延期した[7]。ソニーはトレンドである大型化・低価格化への対応が困難であった事から、2010年に国内市場からの撤退を表明[8]。
2011年現在、アクティブマトリクス型有機ELディスプレイの量産はサムスン1社がほぼ独占している状況である。LGも携帯端末向けパネルを量産を開始しているが少量生産にとどまっている。有機ELディスプレイの生産が1社のみの独占状態であることは顧客にとっても好ましいことではなくアップルはシャープと東芝に計2000億円規模の資金を拠出し、iPhone向けの高精細なパネルの生産を持ちかけている。また官民ファンドの産業革新機構の仲介により東芝とソニーの中小型液晶パネル製造子会社が統合し新会社を設立されるなど、国内での有機ELディスプレイ量産に向けて新たな動きが出てきている[9]。
2013年現在、アクティブマトリクス型有機ELディスプレイはテレビ用の大型のものはもとより、携帯端末向けの小型パネルに於いても液晶ディスプレイに取って代わるまでには至っていない。寿命(焼け含む)の問題も依然として完全には解決されてはいない。採用も有機ELディスプレイメーカーが自社の製品に採用することが多数を占めているのが現状である。
2014年5月、次世代高画質テレビ向け有機ELディスプレイの開発を続けてきたソニーとパナソニックの2社は、有機EL事業からの撤退方針を固めた。ディスプレイの大型化に伴い生産コストが高くなっており、コスト引き下げが難航しているのに加えて、装置の割高を理由に市場投入以降も有機EL市場があまり伸びておらず、採算がほとんど見込めないことが最大の原因。2社はいずれも液晶パネル大手の官民ファンド「ジャパンディスプレイ」に有機EL事業を売却する方向で調整しており、6月中にも合意する見通しとなっている。これにより、有機ELディスプレイを用いた大型テレビ開発から日本勢はすべて撤退することとなる[10][11]。
特許・権利等移動動向
米欧日の各企業が技術開発投資意欲を失い、有機ELディスプレイの製品化から順次撤退していく中で、利用権譲渡が行われていった。「ダウケミカルの有機材料や、3MとNECのレーザー転写にかかわる、それぞれの技術および知的財産権の一部」はサムスングループへ、「コダックの技術および知的財産の利用権」は2010年にLGグループへ利用権が譲渡された[12]。
2009年6月には、LGは出光興産との戦略的提携で、出光から高性能有機EL材料の提供とデバイス構成の提案を受け入れられるようになった[13]。
2011年7月には、東京工業大学と科学技術振興機構が保持するIGZO薄膜半導体(酸化物半導体)の特許について、サムスンがライセンス取得している[14]。
特徴
有機ELのディスプレイとしての特徴は、実用化が進んでいる液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどとの対比で語られることが多い。
- 応答速度[注 6]
- 液晶ディスプレイでは液晶の分子の方向を変えることで輝度を変えているため、応答速度が鈍く動画再生などで問題になる。それに対し有機ELは励起子の寿命が非常に短く電流を変化させれば輝度が瞬時に変化するので、非常に応答速度が速い。また液晶ディスプレイでは応答速度が環境温度に依存し、低温では応答速度がさらに鈍くなる。しかし有機ELディスプレイでは低温でも応答速度は変わらない。
- 視野角
- 液晶のような見る方向によって階調が変わってしまうという現象がなく、またコントラストの低下も低く視野角は180度に限りなく近い。プリズムシートで集光して表面輝度を向上させている液晶ディスプレイとは異なりランバート分布に近い発光分布を持つが、マイクロキャビティー効果を用いることで集光させることも可能である。ただし、注意深く設計されていない場合には色調が観察方向に依存してしまう[注 7][注 8]。
- 解像度
- 現在の有機ELディスプレイは解像度がシャドウマスクの精度およびそのプロセスで制限されている。現在、シャドウマスク以外の手法であるホワイト+カラーフィルター方式・レーザー熱転写方式(原材料の利用率が極めて悪いため(インクの価格と有機EL材料の価格は異なる)、原理的に非常に高コストである。LITI法[15]:3M)・レーザー再蒸着方式(この方式も原理的に非常に高コストである。RIST法[16]:コダック、LIPS法:ソニー。違いはドナーシートの材質)といったシャドウマスクの制限を伴わない技術が開発されている。また画素には液晶の場合1個以上、有機ELの場合2個以上のTFTが必要であるため高解像度ディスプレイの場合には制約となりうるがトップエミッション[17][18]方式の開発により制約はなくなりつつある。これらの進歩の結果、ペンタイル方式ながらすでに300ppi相当の製品も実用化されている。また、3色の発光層を縦に重ねることによって解像度を高くできる可能性もあるとされている。
- 駆動電圧・消費電力・発光効率
- またプラズマディスプレイのような放電発光ではなく有機半導体内の励起子により発光するので、発光そのものに必要な電圧も数V程度と低い。また有機ELの発光効率も近年飛躍的に向上している。さらに発光材料として蛍光材料が広く用いられているが、原理的に効率の高い燐光材料の開発が進んでおりさらなる高効率化が期待できる。
- コントラスト比
- 素子の自発光であるため、また発光を止めることで黒が明確に表現できるため測定が困難なほどの高コントラスト比を達成できる。液晶テレビは1000:1程度に対し、ソニーの有機ELテレビはXEL-1のコントラスト比が100万:1と公称[19]。
- ただ屋外の太陽光などが入り込む状況では液晶に比較してもコントラスト・視認性が大きく落ちるため、モバイル機器用途などにおける課題となっている(液晶としてはモバイルASV液晶などが半透過型パネルとなっており、屋外でも比較的高い視認性を維持できる)。
- 磁気の影響
- ブラウン管とは異なり、磁気の影響を受けない。
- サイズ
- ガラス基板2枚ではさみ込む構造の液晶と違い基板は1枚であり加えてバックライトが不要であるため、薄型化が可能とされる。発光層の保護のための封止層が課題であるが無機および有機の薄膜を用いたべた封止方式が開発されており、これによって将来は封止層が必要なくなるとも言われている。
- フレキシブル
- プラスチックなどの基板を使った、柔らかくて折り曲げることができるディスプレイの試作品が発表されている。しかしプラスチックシートやステンレスシートを基板に使用すると酸素などを透過して発光体を劣化させ寿命を短くしてしまうため、製品化にはフレキシブルな封止層あるいは封止などの本来不要な技術が必要となる。
- 寿命
- 発光体の有機物は通電および酸素や湿気の影響により徐々に劣化して輝度が低下する。この問題は発光体の研究と空気から遮断する封止技術により急速に改善されてきており、最新の各社製品では50,000時間以上といったモバイル機器には十分な寿命を確保できる水準に達してきている。ただし各社発表の公称寿命と実測寿命との乖離が指摘されており、実際には問題が見受けられた[20]。
- 大画面パネルについては、2011年11月には住友化学が寿命について「必要な水準を達成できた」として、競合他社に先駆けて大画面パネルの量産を2012年初めに踏み切ると発表している[21]。
- コスト
- 原理的には液晶ディスプレイより単純な構造が可能であるため、液晶ディスプレイより製造コストが下がることが期待されている。
- 大型化
- 大型化するとドット落ちや全体の均質化などの問題により、歩留まりが悪化する。また、大型化で課題の多いパッシブ駆動を避けてアクティブ駆動を採用するためには多数の製造技術と大きな設備投資が必要になる。液晶の大型化と同様、着実な不良原因の解析と対策が必要になると思われる。発光層の膜厚はTFT薄膜デバイスより薄いため、パーティクルの削減が重要な課題の1つである。現在はアクティブ駆動用バックプレーンとして低温多結晶シリコン(ポリシリコン、LTPSとも言われる)が製品として用いられているが、低コスト化・大画面化のためにアモルファスシリコンや微結晶シリコン等の代替技術を用いた方法が提唱されている[22][23]。2011年現在、酸化物半導体(IGZO)を用いたTFTの採用が期待されている。
- 画面の大型化に伴って画素サイズが大きくなると肉眼で単独の画素が見えてしまうという問題解決のために、さらに800万画素(4,096×2,160)程度の高解像度が求められるようになっている。これによって、各画素に与えられる駆動時間の減少とRC(抵抗と容量成分)による信号の立ち上がり遅延が新たな解決すべき課題となっている[24]。
- また大型化に伴う欠陥増加を回避するために、白+カラーフィルタ法や大型化可能なTFT技術を組み合わせたスケーラブル技術を用いる手法が提唱され注目を浴びている[25]。
商業利用
有機EL照明
有機ELによる照明機器への応用可能性は2008年6月にUniversal Dispay Corp.(UDC社)が発表した102lm/Wという高発光効率以降、大きな進展を見せている。従来、発光効率の高い材料は構造が不安定で寿命が短く特に青色の発光では良い物がなかったが発光効率と寿命の点では大きな課題はなくなり2009年の内には最初の製品が登場する[注 9]。2012年には東急電鉄自由が丘駅の照明の一部に有機EL照明が導入されている(日本国内の鉄道駅としては初の実用設置)[26]。
有機EL照明はすでに製品化が始まっているLED照明の後を追うように開発競争と実用化への目処が進んでおり、特にLED照明では不可能な「面発光」や「形状に制約がない」「透明である」点ではLED照明がほとんど点発光であるために小型化には向いても発熱という制約や光の拡散に工夫が求められる点と対照を成しており、今後住み分けが進むかさらにLEDを超えて普及する可能性があると考えられている。現在有機ELの主流であるガラス基板に代わりプラスチックフィルムなどの基板を使うことにより、フレキシブルに曲げることも可能である。将来、柔軟な素材に印刷することも検討されている。
2008年の現状では1,000cd/m2の輝度が当面の製品化目標として設定されており、これはテレビ画面の2倍程度であるため単独での照明機器としては不十分である。しかし面発光・透明であり1mm以下と元々薄いため、透明な大きな板を壁面に立てかけるだけの形状や必要なら何枚でも重ねることで面積当りの輝度は高められるので問題とはならないとする意見もある。日本のルミオテック社では今後、板を積層することで蛍光灯と同水準の5,000cd/m2の輝度を持つ製品を生み出す計画である。コストも2008年時点での白色LED照明と同じ4円/lm前後での目処はついており、2015年には1円/lmにできるという予測もある。
現在抱える技術的な問題は光の取り出し効率が25%程度と低い点と発光板の位置によって温度ムラや電流ムラがあり、これによって輝度ムラが生じてしまう点、そしてディスプレイ分野で他に代替材がない希少資源のインジウム(透明導電膜のITOとして使用される)を大量に消費するためインジウムの枯渇原因として危惧される事である。発光効率の問題に絡み蛍光材料ではなくリン光材料を使うことも模索されている。
すでに将来の窓ガラスへの応用を考慮して、裏面(室外)に光が漏れないような1方向に光を透過させる技術の開発も行なわれている。
有機EL開発を進めている会社には判っているだけで米GE社、パナソニック電工、コニカミノルタ、独OSRAM社、独Novaled AG社、ルミオテック社(三菱重工業、ローム、凸版印刷、城戸淳二山形大学教授の共同出資会社)[27]があり調査会社の富士経済は2011年の日本国内での有機EL照明の市場規模は100億円を超え世界市場では2015年に5,000億円以上、2020年には1.4兆円になると予測している[28]。
参考文献
- 城戸淳二 『有機ELのすべて』日本実業出版社、ISBN 4-534-03541-1
- 時任静士、安達千波矢、村田英幸 『有機ELディスプレイ』 オーム社、ISBN 4-274-03631-6
- 河村正行、『よくわかる有機ELディスプレイ』 電波新聞社、ISBN 4-88554-731-8
脚注
注釈
- ↑ 他に中間のオリゴマー(デンドリマー)を用いた種類もあるが、一般的な方法ではない。
- ↑ スプレーで正確に文字を書く際に、スリットを用いて塗り分けるため。
- ↑ 電子・正孔注入層や電子・正孔輸送層がない種類もある。
- ↑ ただし有機EL素子はダイオードであるので、単純マトリクス駆動の液晶ディスプレイよりクロストーク等の面で画質的には優れる。
- ↑ 液晶ディスプレイの画素回路は単なるスイッチの作用をすれば良いため各画素に1つのトランジスタと1つのコンデンサですむが有機ELディスプレイの画素回路は発光素子に通電する電流を厳密に制御する必要があり、各画素に2個以上のトランジスタによる電流制御回路が組み込まれる。また画素トランジスタの微妙な特性バラツキが画質に反映されるため、バラツキ補正回路を組み込む例が多い。なお、トランジスタのバラツキの影響を受けない駆動方式も開発されている。
- ↑ 画面の色が変化するのにかかる時間。通常は「黒→白→黒」の変化に要する時間を言う。単位は「ms(ミリセカンド、1/1000秒)」。
- ↑ 例えば、次のリンク先には色調がずれる現象とそれに対する解決方法が示されている[1]。
- ↑ 視野角の優れるIPS液晶との比較で色調が大きくずれる様子は、例えば次を参照[2]。
- ↑ 2008年9月にオランダのPhilips Lighting社がドイツで2009年には製品を発売すると明らかにし、米General Electric Co.(GE社)も日本のコニカミノルタと提携して2010年には有機ELによる照明製品を出すと発表した。
出典
関連項目
- 有機エレクトロルミネッセンス (商品) - 次世代ディスプレイに関する項目。
- 無機エレクトロルミネッセンス(無機EL) - 有機ELと比較したメリットとして、「発光面の大面積化に対して直接的な障壁が無い」「無機材料(蛍光体)を用いた事による長寿命化」などが挙げられるが、デメリットとして「三原色それぞれの色再現性が非常に低い」「直流電源(低電圧)駆動による長時間使用が安定していない」といった解決すべき技術的問題が残されている。
- エレクトロルミネセンス
- 発光ダイオード(LED)
- ブラウン管(CRT)
- 電界放出ディスプレイ(FED)
- 表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(SED)
- 映像機器
- テレビ受像機
- The Society for Information Display(SID:世界最大のディスプレイ学会)
- 導電性高分子
外部リンク
- OLED-Tv lighting news and Infos
- web site dedicated to OLEDs
- 有機分子バイオエレクトロニクス分科会(応用物理学会)
- 有機EL討論会
- The Society for Information Display
- 特許庁標準技術集・有機EL
- ↑ C.W.Tang, S.A.VanSlyke, "Organic electroluminescent diodes," .Appl. Phys. Lett., Vol.51(12), (1987), pp.913-915.
- ↑ [3]
- ↑ 岩永寛規、相賀史彦、天野昌夫「新規透明蛍光体の創製と発光デバイスへの応用」東芝レビュー、2007年、Vol.62、No.5[4]。
- ↑ 「有機エレクトロニクス市場、「年平均成長率70%で成長」」『EE Times Japan』 2006年12月20日
- ↑ 「有機EL市場、2014年には155億ドル規模に」『IT Pro』 2007年2月20日
- ↑ 「2006年は有機EL市場の成長が大幅減速、携帯機器向け小型ディスプレイの需要が一巡」『日経エレクトロニクス』(Tech-On) 2007年10月1日
- ↑ 7.0 7.1 有機ELやFEDなど、次世代ディスプレイの量産が中止や延期に Gigazine 2009年3月26日
- ↑ 「ソニー:有機EL撤退 低価格・大画面化できず--国内・3月」 毎日新聞 2010年2月17日
- ↑ ダイヤモンド・オンライン 2011年6月10日 8時30分配信
- ↑ ソニーとパナ、有機EL事業売却へ コスト減難航 朝日新聞 2014年5月25日 7時00分
- ↑ パナが有機ELから撤退 ソニーも事業売却協議 共同通信(47NEWS) 2014年5月25日 12時51分
- ↑ 有機EL事業開発をめぐる韓国企業の知財取得状況 「どうなる!? 日本の有機EL技術」 @IT 2011年9月16日
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