H&K MP5
テンプレート:Infobox H&K MP5は、ドイツのヘッケラー&コッホ(H&K)社の短機関銃(SMG)。1960年代に同社の自動小銃であるH&K G3を基に開発された。
世界で最も使用されている短機関銃であり、各国の軍隊、警察、対テロ組織などで採用され、100を超える派生型が存在する。1990年代に後継機種であるH&K UMP[1]が発売された後も[2]、MP5シリーズは依然としてH&K社の主力製品である。
目次
歴史
H&K G3の技術を応用し、9x19mmパラベラム弾を使用する携行自動火器として開発されたのがMP5シリーズである。MP5のMPとはドイツ語で「短機関銃」を意味するMaschinenPistoleの略称である。しばしば英語風にマシンピストルとも呼ばれ、日本の公的機関では同銃を高性能機関けん銃や高性能自動短銃と呼称している。
旧来の短機関銃の多くは至近距離での戦闘や弾幕を張ることを主眼に置いた銃器であり、精密な命中精度は重視されていなかった。しかしMP5は、当時多くの短機関銃で採用されていたオープンボルト撃発ではなく、ボルトを閉鎖した状態から撃発サイクルがスタートするクローズドボルト撃発と、ローラー遅延式ブローバック(ローラーロッキング)機構を取り入れたことで発砲時の反動が抑えられ、命中精度が高く、フルオート(連射)時のコントロールが容易な短機関銃となった。
1966年の発売当初は、高性能ゆえに高価であるため、拳銃弾を撃つには過剰性能であるとされたことから高い評価を得られなかった。このため、配備先は西ドイツの公的機関が中心となり、輸出も少数であった。
これを一変させたのが1977年のルフトハンザ航空181便ハイジャック事件である。ソマリアのモガティシオ空港でルフトハンザ航空のボーイング737型機が「黒い九月」を名乗るドイツ赤軍とパレスチナ解放人民戦線(PLOのファタハの傘下組織)の混成グループ4人にハイジャックされた際、西ドイツの対テロ部隊(GSG-9)は、MP5を装備して機内に突入。テロリスト3名を射殺、1名を逮捕する一方で、人質全員をわずか5分で救出した。この成果により、人質の安全を考慮しつつ、迅速に犯人制圧を行う場面におけるMP5の優位性が確認され、先述の過剰性能という評価も「高い射撃精度を要求される特殊部隊用短機関銃」と言う位置付けへと変化した。
現在では、H&K社の地元であるドイツのみならず、アメリカのNavy SEALs、デルタフォース、SWATをはじめイギリスのSAS、日本警察の特殊部隊(SAT)、銃器対策部隊、成田国際空港警備隊、原子力関連施設警戒隊、特殊犯捜査係、海上保安庁の特殊警備隊(SST)、海上自衛隊の特別警備隊(SBU)、香港のSDU、韓国のKNP-SWATなど世界中の軍隊や警察に配備されており、1977年のルフトハンザ航空181便ハイジャック事件や1980年の駐英イラン大使館占拠事件では実戦で使用された。
また、短縮版であるMP5K(クルツ)や、これをアタッシュケースに収納したまま発砲できるコッファーと呼ばれる派生型も登場し、アメリカのシークレットサービスなどの要人警護の現場で使用されている。 テンプレート:-
操作性
MP5は、H&K G3を基に開発されたため、基本的な操作はG3シリーズに準じている。
射撃精度の高さを生み出しているローラーロッキング機構は精度が高い反面、繊細な整備を必要とし、多弾数発射後にはヘッドスペース(包底面から薬莢位置決め部までの間隔)の点検をしなければ銃が作動不良を起こすこともある。点検方法はボルトを閉じてハンマーを落とした状態でマガジンの挿入口から中にあるボルトヘッドとボルトキャリアの隙間にシックネスゲージを差込み、隙間がどのくらい開いているか調べる。
隙間はメーカーで指定している範囲内になければならない。隙間が許容範囲を超えるとローラーを大きいものに交換する必要がある。そして交換可能範囲を超えた銃はそのまま使用すると暴発などの危険があるため、H&K社に送って修理するか破棄される[3]。 テンプレート:-
主なバリエーション
MP5は主に軍や警察組織の特殊部隊に運用されていることもあり、使用者の任務と用途に合わせた非常に多くのバリエーションを持つ。
9×19mm弾モデル
- HK54
- 原型となったモデル。ストレートタイプのマガジンを持つ。小改良が施されA1に発展した。
- MP5A1
- 伸縮銃床型。弾倉に湾曲形状(バナナマガジン)の新形状のものが導入される。ロアレシーバーは側面にリブ上のモールドのある形状となっており、セレクターの表示はそれぞれ S E F(ドイツ語の"安全(Sicher)"、"単射(Einzelfeuer)"、"全自動射撃(unbegrenzter Feuerstoß)"の頭文字)となっており、この型のロアレシーバーを持つモデルは「SEFトリガーグループ」と通称される。
- なお、初期の生産型はセレクターの表示が0(安全位置)1(単射)A(連射)となっている。
- MP5A2
- A1の固定銃床型。SEFトリガーグループ。
- MP5A3
- A1の改良型。銃身を「フローティング・バレル」化して命中精度を向上させたモデル。SEFトリガーグループのモデルだが、後期生産型はA4と同じデザイン(点射機能はない)のロアフレームに変更されており、このタイプは「ネイビートリガー」と通称される。
- MP5A4
- A3の改良型。点射モードが追加され、各射撃モードの位置を示す表示がそれまでのSEFの英字から、弾丸のアイコンによって示される[4]新型ロアフレームが導入されたモデル。なお、点射機能は2点(2発)および3点(3発)を発注者の要望によって選択可能。ロアフレームの変更に伴いグリップの形状が変更され、ハンドガードが大型化された。また、A1/A2をロアフレームのみ交換することによってA4/A5仕様に準拠させることも可能であり、ハンドガードを交換したA1/A2も存在する。
- MP5A5
- A4の伸縮銃床型。
MP5Kシリーズ
秘匿携行に特化されたコンパクトモデル。Kは"kurz"の略号であり、ドイツ語で"短い"の意味。銃身部を短縮化して銃床を装着せず、保持安定用にバーティカル・フォアグリップを装備する。本体の小型化に併せ、15発装弾の短縮化弾倉が用意されている(通常の30発弾倉の使用も可能である)。
- MP5K
- 基本モデル。銃床の替わりにスリングスイベルの付いた底板が装着されている。SEFトリガーグループ。
- MP5KA1
- 照準器を単純な門星型にして極限までコンパクト化したモデル。SEFトリガーグループ。
- MP5KA4
- A4を基体にしたモデル。点射機構を追加した4モードのセレクターを装備した新型ロアフレームモデル。
- MP5KA5
- KA4の簡易照準器モデル。KA1のA4準拠型。
- MP5K PDW
- Kに折り畳みストックを装備したPDW(個人防衛用装備)として開発されたモデル。Kの欠点とされた「銃身が短いために銃口炎が激しく、全自動射撃にすると照準が困難」という点に対応するために大型のフラッシュハイダーが装着されている。PDWとしては、後に専用弾を使用するH&K MP7が開発された。
- MP5RAS
- ナイツアーマメント社とH&K USAによる共同開発。ナイツ社のRAS(レイル・アタッチメント・システム)を搭載し、アクセサリーによる発展性を持たせたモデル。MP5K PDWに搭載されている折り畳みストックを装備。
- MP5Kコッファー
- Kをアタッシェケースに入れ、そのまま発砲できるようになっている偽装モデル。平時の要人護衛など、露骨に銃火器を携行している事を示さない用途向けに開発された物で、見た目は鞄(アタッシュケース)そのものでしかない。取っ手の左側にトリガーがあり、左側面に銃口穴がある(初弾を発砲するまでは偽装のために閉塞されている)。また、そのまま使用すると銃口炎で鞄部分を焼いてしまうため、フラッシュハイダーが装備され、鞄の銃口部は金属板で保護されている。鞄に格納した状態で射撃を行うために、照準器を使わなくとも狙いをつけられるよう、曳光弾を使用する。コッファー(Koffer)は、ドイツ語でスーツケースや運搬用ハードケースの意味。
MP5SDシリーズ
特殊部隊向けに内装式サプレッサーを装備したモデル。"SD"とは"Schalldämpfer"の略号で、ドイツ語でサプレッサーを意味する。
- MP5SD1
- A1のSD型。銃床を装着せず、MP5Kと同じスリングスイベル付底板が装着されている。
- MP5SD2
- A2のSD型。固定銃床モデル。
- MP5SD3
- A1のSD型。伸縮銃床モデル。
- MP5SD4
- SD1のモデルチェンジ型。A4を基体としたモデル。点射(バースト)モードが追加された新型ロアフレームを装備。
- MP5SD5
- SD2のモデルチェンジ型。点射モードが追加された固定銃床モデル。
- MP5SD6
- SD3のモデルチェンジ型。点射モードが追加された伸縮銃床モデル。
HK94シリーズ
- HK94
- MP5の民間向けモデル。フルオート機能がなく、法的に「ピストルカービン」(銃身を延長して銃床を装着した拳銃)扱いとするため銃身が伸ばされている。ロアフレームはHK91に似た独自のものを採用している。
- HK94K
- 銃規制の緩い国向けに銃身長をオリジナルと同じものとしたモデル。
- SP89
- MP5Kの民間向けモデル。フルオート機能がなく、法的に拳銃扱いとするためバーティカル・フォアグリップが無い。こちらのロアフレームも、HK94同様のデザインをしている。
MP5シリーズはロアフレームを個人レベルの作業で交換できるため、フルオート機能のないHK94でもフルオート機能のあるロアフレームさえ入手できれば軍/公的機関用と同じフルオート型に容易に改造できる。そのため、現在では民間向けモデルにはロアフレームが交換できないように設計を変更されたものが供給されている。
旧型のロアフレームを持つHK94は、米国の銃器規制下では民間人は所持できない。また、HK94、SP89をMP5、MP5Kに改造し民間に販売する行為も、専門の資格を持ったガンスミスによる改造であっても1986年の規制強化(FOPA86)により禁止となっている。
10mmAuto弾モデル
- MP5/10(MP10)
- 9x19mmパラベラム弾よりも威力の高い10mmオート弾を使用するモデル。オリジナルの9mm型とは違いボルトストップを装備する。合成樹脂製の半透明弾倉が外見上の大きな特徴。固定銃床型と伸縮銃床型があり、それぞれMP5A2/A4及びMP5A3/A5を基体にしている。10mmオート弾がセールス的に成功しなかった事を受けて、2000年には生産・供給は中止された。
.40S&W弾モデル
- MP5/40
- MP5/10を.40S&W弾(10x22mm Smith & Wesson)が使用できるように改設計した大口径モデル。MP5/10と同じく大型の合成樹脂製半透明弾倉を持つ。.40S&W弾の使用を前提に設計されたH&K UMP40が開発されたために2000年には生産・供給は中止された。その後アメリカのSpecial Weapons社がライセンス生産し、本家にないKタイプとSDタイプもある。
.22LR弾モデル
H&K社がオフィシャルに製作したものではないが、個人のホビーユーザー向けに幾つかの.22LR弾コンバージョンキットが存在した。
なお、ドイツのジャーマン・スポーツ・ガンズ社が、外見がMP5そっくりで.22LR弾を使用するGSG-5というセミオートマチック銃を製作販売している。GSG-5は外見こそMP5そっくりではあるものの、部品は全てGSG社が独自の図面で製造しており、MP5との共通部分は皆無である。ただし、MP5の遊戯銃のアクセサリーを流用できるという。
さらに2010年のIWA2010にて、ウマレックス社もMP5A5をモデルにしたMP5セミオートマチック・カービンの発売を発表した。こちらはH&K社よりライセンスを取得しているため、GSG-5と異なりH&KのロゴとMP5の名称を正式に使用している。
MP5 PIP
H&K社がMP5をベースに開発した試作サブマシンガンである。レシーバーの形状はG3よりG36に近い。
SW-10 (MP10)
アメリカのSpecial Weapons社が開発したMP5の派生品。トリガーグループはMP5のものだがレシーバーはUMPタイプのオリジナルになっている。ライトが内蔵する。ストックはB&T社製の折りたたみストックを使用している。
バリエーションとしてサプレッサー内蔵のMP10SDや民間向け16インチのSP10が存在する。
H&K以外での生産型
H&K G3と同じ機構ということもあり、G3をライセンス生産している国ではMP5もライセンス生産していることが多い。
- EBO MP5
- ギリシャのヘラニック・アームズ・インダストリー(EBO)社がライセンス生産したもの。MP5A3、MP5A4、MP5Kが製造されている。セレクタースイッチの記号がギリシャ文字になっているのが識別点。
- トンダール 9mm
- イランでライセンス生産されたもの。パフラヴィー朝時代に王立モサルサシ造兵廠で製造が始まったが、イラン革命後に解体され、新たに設立されたD.I.Oサンガフザルサジ・インダストリーズで製造されている。D.I.Oの識別点と、セレクタースイッチのペルシア文字が識別点。
- POF MP5
- パキスタンの国立パキスタン・オーディナンス・ファクトリーズ(POF)がライセンス生産するもの。刻印以外の外見は、特に原型との違いは無い。アフリカへの輸出も行なっている。
- PK3
- POFがMP5KにMP5A3と同じ伸縮ストックを付けたモデル。主にPDWとして使用される。MP5K PDWよりかさばらずコンパクトである。
- Tihraga
- スーダンのミリタリー・インダストリー・コーポレーション(MIC)社が、イランのトンダール 9mmをライセンス生産したタイプ。
- MKEKシラーサン MP5
- トルコのマキナ・ベ・キミヤー・エンデュストリシ・クルム(MKEK)が1983年から生産を始めたMP5。MP5A2、MP5A3、MP5Kが製造されている。MKEKのロゴが刻印されているのが識別点。
- NR-08
- 中華人民共和国の中国北方工業公司(NORINCO)がコピーしたタイプ。
運用国
- テンプレート:Flagicon オーストラリア
- テンプレート:Flagicon バングラデシュ
- テンプレート:Flagicon カナダ
- テンプレート:Flagicon スイス
- テンプレート:Flagicon チェコ
- テンプレート:Flagicon エストニア
- テンプレート:Flagicon フィンランド
- テンプレート:Flagicon フランス
- テンプレート:GER
- テンプレート:GRE - EBO社がライセンス生産したものを使用。
- テンプレート:Flagicon インド
- テンプレート:Flagicon アイルランド
- テンプレート:Flagicon イラン
- テンプレート:Flagicon ジャマイカ
- テンプレート:Flagicon 日本
- テンプレート:Flagicon ルクセンブルク
- テンプレート:Flagicon マレーシア
- テンプレート:Flagicon メキシコ
- テンプレート:Flagicon オランダ
- テンプレート:Flagicon ノルウェー
- テンプレート:Flagicon パキスタン - POF社がライセンス生産したものを使用。
- テンプレート:Flagicon フィリピン
- テンプレート:Flagicon ポーランド
- テンプレート:Flagicon ルーマニア
- テンプレート:Flagicon サウジアラビア
- テンプレート:Flagicon スペイン
- テンプレート:SDN - MIC社がトンダール 9mmをライセンス生産したものを使用。
- テンプレート:Flagicon スウェーデン
- テンプレート:Flagicon 台湾
- テンプレート:Flagicon トルコ - MKE社がライセンス生産したものを使用。
- テンプレート:Flagicon イギリス
- テンプレート:Flagicon アメリカ合衆国
など
スペック
MP5
- 全長:680mm(固定銃床型)
- :700/550mm(伸縮銃床型、延伸時/縮小時)※MP5Fは除く
- 重量:2.54kg(固定銃床型)
- :3.08kg(伸縮銃床型)※MP5Fは除く
- 口径:9x19mm
- 装弾数:30発(標準型弾倉使用時)
MP5K
MP5SD
- 全長:790mm(SD2/SD5)
- :805/670mm(SD3/SD6、銃床延伸時/縮小時)
- :550mm(SD1/SD4)
- 重量:3.10kg(SD2/SD5)
- :3.60kg(SD3/SD6)
- :2.80kg(SD1/SD4)
- 口径:9x19mm
- 装弾数:30発(標準型弾倉使用時)
登場作品
出典・脚注
- ↑ H&K社公式サイト UMP紹介ページ
- ↑ UMPは元々.45ACP弾を使用するアメリカ向け商品であるため(UMPの9mm弾仕様も存在してはいる)
- ↑ 『月刊Gun』2007年11月号 Etsuo Morohoshi「アメリカ・マシンガン事情17・MP5雑学ノート」国際出版
- ↑ 安全位置が白の弾丸にX、単射が赤の弾丸一つ、点射が赤の弾丸2つもしくは3つ、連射が赤の弾丸7つ、という絵表示となっている
関連項目
外部リンク
- Heckler & Koch - ヘッケラー&コッホ社公式サイト
- GSG-5特設サイト
- MKEK - MKE社公式サイトテンプレート:Link GA