医療保険
医療保険(いりょうほけん、Health Insurance)とは、医療機関の受診により発生した医療費について、その一部又は全部を保険者が給付する仕組みの保険である。
目次
概要
テンプレート:See also 高額の医療費による貧困の予防や生活の安定などを目的としている。長期の入院や先端技術による治療などに伴う高額の医療費が、被保険者の直接負担となることを避けるために、被保険者の負担額の上限が定められたり、逆に保険金の支給額が膨らむことで保険者の財源が圧迫されることを防ぐため、被保険者の自己負担割合や自己負担金が定められていたり、予め保障範囲が制限されていたりすることが多い。強制加入の公的医療保険と、任意加入の民間医療保険の2種類に分けられる。
公的医療保険は予め被保険者の範囲が行政によって定められている医療保障制度である。多くの先進国では公的な医療保険制度を用意しているが、対象者の範囲や財源方式については国により異なる。公的医療保険でも引受人が政府機関とは限らず、民間企業が引き受ける国もある(オランダの医療など)。
これに対して、民間医療保険は、任意加入であり、契約者の財産や所得に応じて、複数の保険会社が用意するメニューからプランを選ぶことが可能である。民間医療保険に期待される役割は、国ごとに大きく異なる。なお、民間医療保険は任意加入であることから、自己の健康状態に不安がある人ほど保険加入のインセンティブを持つため、いわゆる逆選択により健康状態の不良な被保険者集団が形成されるおそれがある。特に手術給付金など、加入者が受診を選択できる保障でこの傾向が強い。また、保険金詐欺を目的に保険加入するといったモラルリスクの問題もある。
保険の種別
各国の制度
- アメリカ合衆国ではマネージド・ケアという民間医療保険が一般的である。マネージド・ケアは大きく分けてHMO、POS、PPOの三種類がある。多くの州では任意加入であるが、マサチューセッツ州では、何らかの医療保険への加入が義務付けられている。
- オランダの医療では、短期医療保険は強制保険であるが、公的なリスク調整を行って民間保険会社が引き受けている。
- ドイツの医療保険は強制保険であるが、公的保険もしくは私的保険の中から選択することができる。
- シンガポールの医療保険は賦課方式を取っておらず、個人単位の積立方式である。
日本の制度
保険者 | 加入者数(万人) |
---|---|
テンプレート:Rh| 国民健康保険 | 3,831 |
テンプレート:Rh| 協会けんぽ | 3,502 |
テンプレート:Rh| 健保組合・共済など | 3,869 |
テンプレート:Rh| 後期高齢者医療制度 | 1,473 |
テンプレート:Rh| (参考) 民間医療保険[1] | 1,586万契約 |
テンプレート:See also 日本では「国民皆保険」とされ、生活保護の受給者などの一部を除く日本国内に住所を有する全国民、および1年以上の在留資格がある日本の外国人は何らかの形で公的医療保険に加入するように定められている(≠強制保険)。
日本で最初の健康保険制度は、第一次世界大戦以後の1922年(大正11年)に初めて制定され、1927年(昭和2年)に施行された職域の被用者保険であった。元は鉱山労働などの危険な事業に就く労働者の組合から始まったこの制度は徐々にその対象を広げ、市町村などが運営する国民健康保険制度の整備により“国民皆保険”が達成されたのは1961年(昭和36年)である。
日本の公的医療保険
被用者保険
- 全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)
- 組合管掌健康保険(組合健保)
- 企業や企業グループ(単一組合)、同種同業の企業(総合組合)、一部の地方自治体(都市健保)で構成される健康保険組合が運営。2010年(平成22年)4月1日現在、1462の健康保険組合が存在する。
- 船舶の船員。健康保険部分と労災保険の船員独自給付部分。かつては一般の労災保険、雇用保険、厚生年金機能も併せ持っており、社会保険庁が運営していたが、労災保険、雇用保険、厚生年金機能を切り離し、2010年(平成22年)1月1日からは全国健康保険協会(船員保険部)が運営している。
地域保険
テンプレート:Main すべての個人事業主、協会管掌健保の任意適用事業所とする認可を受けていない個人事業主の従業員、無職者(任意継続被保険者と後期高齢者医療確保法に該当する者及び生活保護をうけている者を除く)が加入する。
- 国民健康保険(国保) - 市町村と東京都特別区が行っている。
- 国民健康保険組合 - 自営業であっても同種同業の者が連合して、国民健康保険組合を作ることが法律上認められている
- 国民健康保険は被保険者の払う保険料のほか、国庫支出金、都道府県支出金、組合保険からの老人保健拠出金や退職者給付拠出金などでまかなわれている。年齢構成的に高齢者が多いため、保険料(保険税)は高く、市区町村によって大きな差がある。
- 国民健康保険の保険料は所得等によって保険料が変わり、その計算方法は以下のような場合が多い。
- 【保険料】=【(前年世帯総所得-基礎控除額)×所得割保険料率】+【均等割額×被保険者人数】+【世帯平等割額】+【資産税額×資産割率】
- 保険料率は各市区町村によって大きく異なるが、概ね5?10%程度である。
- 均等割額や世帯平等割額も各市区町村によって大きく異なる。
- 資産税額については固定資産税の税額のことであり、その一定割合が賦課されることになるが、この制度については特に関東の自治体で採用している場合が多い。
- 賦課限度額や保険料軽減制度が設定されていることが多い。
- 本来の保険料(「医療給付分」)の他に「後期高齢者支援金分」や「介護納付金分」(40?64歳の被保険者のみ)が賦課される。
- (参考)生活保護(医療扶助)
- 生活保護受給者のうち公的医療保険の対象者でない者については、保険制度によらずに公的扶助制度により生活保護の一種として医療の提供が行われる。生活保護の受給者は、国民健康保険の対象となることはできない(国民健康保険法第6条)。
後期高齢者医療制度
テンプレート:Main 75歳以上の者と後期高齢者医療広域連合が認定した65歳以上の障害者を対象とする医療保険制度(ただし、生活保護受給者を除く)であり、2008年(平成20年)4月1日からスタートした。
保険者は各都道府県ごとの全市町村で構成される後期高齢者医療広域連合であり、財源は被保険者の払う保険料、健康組合等が拠出する後期高齢者交付金、国、都道府県、市町村の補助や負担金により担われる。
第三者行為による傷病
テンプレート:Amboxテンプレート:DMCA テンプレート:独自研究 交通事故の場合も労働災害等に該当しない限りは公的医療保険の対象になる(労災等の対象になる場合は、労災等の扱いが優先され、公的医療保険は適用されない)。この場合、加害者がある場合(下記参照)は市町村の国民公的医療保険課・国民公的医療保険組合・企業公的医療保険組合や全国公的医療保険協会などの保険者に第三者行為による傷病届を遅滞なく提出しなくてはならない。用紙は、各保険者窓口で用意されている。また、医療機関窓口では普通の公的医療保険と同様に本人負担金分をいったん支払わなければならない。
交通事故が自身のみの単独事故ではなく相手がある場合には、レセプト(診療報酬請求書)に「第三者行為」であることを記載しなければならない。この記載がないと、保険者は負担した医療費を交通事故の過失割合に応じて、加害者に請求することができない。
また、勝手に示談等を行ってしまうと公的医療保険からの給付を受けられなくなる場合があるため、事前に保険者へ連絡を行った方がいい。
医療機関の事情
- 公的医療保険利用の利点
- 交通事故は手続きが煩雑で利害関係も複雑であり、患者がトラブルを起こすと保険会社によっては支払いが滞ったり遅れる場合がある。その点、公的医療保険を使うと通常の診療報酬と同様に保険者から遅滞なく支払われる。
- 公的医療保険利用の難点
- 公的医療保険を利用されると治療費全体が低額に抑えられてしまう。医療機関を経営する立場から言えば、高収入を見込める自由診療を望むのは当然のことである。また、手続きなど各種にかかる手間ほど収入にならないため医療機関の治療への熱意を奪うことも難点の1つに挙げられる。
患者の事情
- 公的医療保険利用の利点
- 自動車賠償責任保険(自賠責)の上限が120万円までなので、入院費などで上限を超える治療費がかかり、相手が任意保険に加入していない場合や被害者側の過失が大きい場合などは、公的医療保険を利用した方が被害者としての自己負担を抑えられる。
- 公的医療保険利用の難点
- 自由診療による治療は公的医療保険での治療より各種の治療制限が少ない。また自由診療は設定額が高額なため、公的医療保険と同様の治療制限で一部治療費が削られた場合でも治療費総額で補填が利きやすい。被害者である患者は、その自由診療のメリットである過分な初期医療行為を受けられない事になる。
保険会社の事情
- 公的医療保険利用の利点
- 保険会社(加害者)側としては、公的医療保険を利用する事で自由診療より賠償金総額を低く抑えることが出来る。
- 公的医療保険利用の難点
- 患者の回復が思わしくない場合、患者・医療機関・保険会社3者の間で訴訟に発展することがある。これは自由診療でも同様に起こる事であるが、過分な初期医療行為を受けられない分だけその可能性が高まる。
保険者の事情
- 公的医療保険利用の利点
- 被保険者へのサービス向上につながる。
- 公的医療保険利用の難点
- 協会管掌保険・公的医療保険組合や一部国民公的医療保険の保険者は、任意保険未加入加害者への請求ができない場合や請求のコストがかかるため、公的医療保険を交通事故には使用して欲しくないと考えている。
外国で病気やけがで医療機関を受診する場合
テンプレート:See also 外国では日本の公的医療保険は使えないが、外国でけがや病気になって現地の医療機関を受診した場合、国外で支払った医療費について、帰国してから加入している保険者に請求することのできる海外療養費という制度がある。ただし、手続きには診療内容明細書(診療の内容、病名・病状等が記載された医師の証明書)と領収明細書(内訳が記載された医療機関発行の領収書)、およびこれの和訳文が必要となる上、公的医療保険から支給される金額は日本での同様の病気やけがの医療費(標準額)と支給決定日の外国為替換算率を基準に算定されるため、外国でかかった医療費が高額な場合は公的医療保険から戻される割合が低いことがある。
また、救急車代(外国では基本的に救急車は有料)などは対象にならないことや、一時的に医療費を立替払いする必要が生じるため、海外旅行傷害保険を契約(クレジットカードによっては標準でセットされていることも多い)しておくと、医療費の請求を保険会社に回すことができ、主要国では現地での日本語によるサポートが受けられることが多い。海外旅行傷害保険から医療費が保険金の形で降りても、公的医療保険の海外療養費の支給額が減額されることはないとのこと[2]。
日本における民間医療保険の状況
日本における民間医療保険は、あくまでも公的な公的医療保険の補完である。すなわち公的医療保険によって生じる自己負担額分の補填や、差額ベッド代や交通費などの雑費、さらには休職による収入減少分などを補うことが目的である。悪性疾患と診断をされた場合の、「お見舞い金」という名目のものもある。診断結果、傷害の程度、手術の種類、通院や入院の日数などに応じて、定められた給付額が支払われるというプランが多い。民間の保険会社により販売されるものであり、直接の公的助成はないものの、支払った保険料は一定の条件のもとで所得税計算上の控除額(生命保険料控除)に計上できる。
「第三分野保険」と分類されるこの分野は、主として米国への配慮からテンプレート:要出典、外資系保険会社の独占が維持されていた。国内の保険会社は、生命保険などに付随する特約という形でのみ販売が可能であった。結果、一例として特定疾病保険の代表であるがん保険分野では、1974年(昭和49年)に日本での営業を開始した米国のアメリカンファミリー生命保険(アフラック)1社による寡占状態となっていた。
2001年(平成13年)、米国との合意に基づいて第三分野保険分野が自由化が認められ、日本国内の生命保険会社・損害保険会社の本格参入が初めて可能となった。その後、多数の保険会社がこの市場に参入した。2006年(平成18年)11月、外資系を含む多くの保険会社で、医療保険を中心とした第三分野保険における保険金の不当不払いが大量に行われていたことが明るみに出た。 テンプレート:Main
課題
混合診療
保険の不正受給
テンプレート:See also 保険証を使っての治療全般に言えることであるが、健康保険証不正使用による診療費詐欺問題がある。例えば、病院・医院の関係者(従業員・医療従事者)や現在来院していない患者の健康保険証を使用しての患者数水増しである。また医師・歯科医師免許を持たない無免許者の診察・診療行為による不正請求が問題視されている。
注釈
- ↑ 公務員・国民が支払う健康保険料の代わりに予め俸給の1.6%が給与から控除されており、自衛隊病院での治療は医療の現物支給で無料、民間の医療機関に受診する場合は3割分自己負担が発生する。尚自衛官診療証を使用して医療を受給する場合、予め所在駐屯地の業務隊衛生科長(業務隊が設けられていない駐屯地は駐屯地の基幹部隊における衛生科に準ずる組織の長若しくは衛生担当者等)に届け出て受領するか、受診後に事後報告で一定期間までに報告する義務があり、一定期間後の段階で報告を怠ると公費より支出された医療費を返還しなければならない規則がある。