ユニバーサルヘルスケア
ユニバーサルヘルスケア(Universal health care、universal health coverage、universal coverage、universal care)、普遍主義的医療制度(ふへんしゅぎてきいりょうせいど)、国民皆保険(こくみんかいほけん)とは、市民の全員に医療および医療費補助を提供する保健プログラムのこと。
WHOによれば、社会の構成員すべてに対し特定の福利厚生パッケージを提供することで、医療費リスクから保護し、医療アクセスを改善し、保健状態の向上を図ることを目的とした制度である[2]。
ユニバーサルヘルスケアは、すべてのケースにおいて最善の形態が存在する概念ではないし、また万人のすべてのケースに対応できるものでもない。ユニバーサルヘルスケアの形態は、「誰をカバーするか」「どのようなサービスまでカバーするか」「どの価格までカバーするか」という、三つの要素によって定義づけられる[2]。 テンプレート:See also
目次
歴史
ソ連はユニバーサルヘルスケア制度を1937年に制定し、1969年にそれぞれの地区で医療へ平等にアクセスできるようになった[3][4]。ニュージーランドでは、1939年から1941年の間に一連のユニバーサルヘルスケア制度が整備された[3][5]。英国においては1948年に国民保健サービス(NHS)が制定された。
その後は北欧諸国へ広まり、スウェーデン(1955年)[6]、アイスランド(1956年)[7]、ノルウェー(1956年)[8]、デンマーク(1961年)[9] 、フィンランド(1964年)[10]と続いた。 日本(1961年)、カナダサスカチュワン州、(1968-1972年)[3][11]、オーストラリア(1974,1984年)でも制定された。
国営によるユニバーサル医療制度は、ヨーロッパ南部諸国ではイタリア (1978年)、ポルトガル (1979年)、ギリシャ (1983年)、スペイン (1986年)、アジア諸国では韓国 (1989年)、台湾 (1995年)、またイスラエル (1995年)で制定された。
70年代以降では、西ヨーロッパ諸国ではオーストラリア、ベルギー、フランス、ドイツ[12]、ルクセンブルグなどで社会保険制度によるユニバーサルヘルスケアが制定され、擬似的なシステムだがオランダ(1985,2006年)、スイス(1996年)でも制定された。
現在のユニバーサルヘルスケア制度の多くは、第二次世界大戦以降の医療制度改革によって生まれたものである。すべての国が署名した世界人権宣言(1948年)の第25章において、すべての人が利用できなければならないとされていることによる。 テンプレート:Quotation
運営モデル
テンプレート:See also 多くの国々では、ユニバーサルヘルスケアの原資は複数のモデルにて調達している。主な原資は国の一般歳入であるが、いくつかの国々では特定財源(個人や雇用者に課税する)や個人負担(直接負担または保険料として負担)とする制度も持っている。
ヨーロッパにおける制度の多くでは、公的負担・民間負担をあわせたものを原資としている[13]。
ユニバーサルヘルスケアの原資調達において、主流となっているのは税収である(ポルトガル[13]、スペイン、デンマーク、スウェーデン)。いくつかの国々(ドイツ・フランス[14]、日本[15]など)では、複数提供者(multi-payer)制度であり、医療費の原資は国家と民間の両者で負担している。 非国営基金モデルの場合、その多くは、雇用者と雇用主で原資負担しており、それは法的に裏付けられた、非営利の傷病基金とされている。
地方自治体と中央政府が、共同で原資負担しているシステムもある。ある制度の例では、基礎的な医療は地方自治体が提供するが、専門的医療の提供はより大規模な組織(複数自治体の協同組織や、道州レベル)が担い、医薬品は州単位の機関が負担している。
ユニバーサルヘルスケアは手ごろな費用で広範囲に展開可能である。医療費負担制度を累進的にすることで全体の収入不平等を是正することができる[16]。
法的な強制保険制度
国民健康保険のある国 テンプレート:Columns-list
この制度においては、指定された保険に加入することを強制しており、その保険は国営のものである。国営保険か民間保険かを選ぶことができる国もあり(ドイツなど)、一方で唯一の国営保険になっている国もある(カナダなど)。スイスと米国の制度は、法的強制保険に基づいている[17][18]。
単一支払者制度
単一支払者制度(single-payer)による医療制度では、政府(もしくは政府関連機関)が保険料を徴収し、そして政府がすべての医療費を負担する[19]。 単一提供者制度でのサービス提供は、契約した民間組織による(カナダなど)場合もあれば、提供者が自ら医療機関を抱え直接サービスを提供する(英国など)こともある。
単一支払者制度(single-payer)という区分は、ヘルスケア原資が単一の公的機関によってのみ負担されていることと定義されており、サービス提供の区分や医師の雇用主のことではない。
税金で原資確保
税金を原資とする場合、市民は保健サービスの原資をさまざまな税の形で負担する。その準備残高は人口によりけりなので、地方自治体によって税率が違うことが多い。
いくつかの国々(特に英国・アイルランド・オーストラリア・イタリア・スペイン・ポルトガル・ギリシャ、フィンランド・デンマークなど北欧諸国)では、独立した保健税として課税されている。それ以外の医療制度を採用している国では、社会保険税として社会保険料を税金の形で課税し、医療費請求を代理で支払ったり、その一部を負担したりしている。
日本においては国民健康保険の保険料徴収において、自治体が任意で国民健康保険税として税形態を選択できる。
社会保険
社会保険プログラムでは、労働者・自営業者・企業・政府が単一もしくは複数の基金に原資を供出する。基金では、単一または複数の医療提供者とあらかじめ設計されたベネフィットパッケージを提供するよう契約を交わしている。 この制度では厚生省が、基金による公的医療が適切に運用されるよう保つ責任を持っている。
民間保険
テンプレート:See also 民間保険モデルでは、保険会社が雇用主・団体・個人・家族へ、その構成団体を元に積み立てたリスクを基準にして、直接サービスを提供する。このモデルの保険者には、営利企業・非営利団体・コミュニティ共済組合などがある。一般的に民間保険モデルは、強制加入である社会保険プログラムとは対照的に、任意加入である[20]。
いくつかのユニバーサルヘルスケア採用国においては、民間保険は、医療費が高額な特定の健康状態を持つ人や、現在医療を受けている人が加入できないことが多い。例えば英国では、最大の保険者のひとつであるBUPAでは、highest coverage policyに基づいて長々とした例外リストがあり[21] 、こうした疾患の多くは機械的に国民保健サービスに回っている。
共同体ベースの健康保険
各国の制度
アジア
- 日本では、市町村を単位とする強制保険の国民健康保険が存在する。
- 大韓民国では、テンプレート:仮リンクを唯一の保険者とする公的医療保険制度である国民健康保険が設けられており、強制保険である。
- 台湾(中華民国)では、中央健康保険局が一元的に管理する公的医療保険制度である全民健康保険が設けられており、強制保険である。
- シンガポールの医療保険制度は、賦課方式を取っておらず、個人単位の医療貯蓄口座への積立方式(Medisave)である。
ヨーロッパ
ヨーロッパの先進諸国では、加入者の範囲や保険料の高低、税金の投入率等は様々であるがほとんどの国で公的医療保険制度がある。
- イギリスの医療では税を財源とした国民保健サービス(NHS)と呼ばれる公的医療保障制度を国が運営しており、保険の仕組みを使っていない。
- ドイツの医療では、一部の高所得者を除いて公的医療保険に加入することが義務づけられている。公的医療保険の保険者は疾病金庫(Krankenkasse)といい、職域保険と地域保険とが存在する。
- 北欧諸国では高福祉高負担のノルディックモデル福祉国家として運営されている(フィンランドの医療、スウェーデンの医療)。
米国
テンプレート:See also アメリカにおいては、高齢者を対象としたメディケアや低所得者を主に対象としたメディケイドなどの公的医療保障制度があり、前者は連邦政府予算と自己負担金、後者は連邦政府からの補助金と州財源により運営されているが、社会的現役の人を対象とした制度は存在しない。そのため、医療費の窓口負担は非常に高額で、多くの国民は民間保険会社の医療保険に加入しているが、加入者でさえ医療費による破産が多い。また、医療保険未加入者は4000万人以上である。
ビル・クリントン政権当時に、大統領夫人のヒラリー・クリントンにより構想が練られたが、民間医療保険会社の強い抵抗に遭い頓挫した(映画『シッコ』も参照)。バラク・オバマ大統領は2010年3月、低中所得者の公的医療保険加入を義務付ける法律を成立させた。共和党の州知事らが憲法違反として同法の無効を求めて提訴したが、連邦最高裁は2012年6月28日、合憲の判決を下した。
このような状態を脱するために、公的な医療保険の導入などを公約に2009年に就任したオバマ大統領が、公約に沿って2010年に国民皆保険制度の導入を進める法律(完全実施は2014年以降)が成立させたが、各州より保険金を強制徴収する点は憲法違反であるとの提訴が相次ぎ、実際、フロリダ地裁では違憲判決が出るなど実効性が疑問視されている[22]。2012年6月28日、米最高裁は根幹部分である国民の保険加入を義務付ける条項を認める事実上の合憲判決を下した。ロバーツ長官を含む5人が支持、ケネディ判事ら4人が不支持[23]。
関連項目
脚注
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外部リンク
- Achieving Universal Health Care (July 2011). MEDICC Review: International Journal of Cuban Health and Medicine 13 (3). Theme issue: authors from 19 countries on dimensions of the challenges of providing universal access to health care.
- Catalyzing Change: The System Reform Costs of Universal Health Coverage (November 15, 2010). New York: The Rockefeller Foundation. Report on the feasibility of establishing the systems and institutions needed to pursue UHC.
- Physicians for a National Health Program Chicago: PNHP. A group of physicians and health professionals who support single-payer reform.
- UHC Forward Washington, D.C.: Results for Development Institute. Portal on universal health coverage.
- テンプレート:Cite journal
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