アポロ13
『アポロ13』(アポロサーティーン、テンプレート:En)は、1995年のアメリカ映画。上映時間約140分。アポロ13号爆発事故の実話に基づく作品である。第68回アカデミー賞において編集賞、音響賞の2部門で受賞した。
原作
映画『アポロ13』は、 実際のアポロ13号の船長であったジム・ラヴェルの著作"Lost Moon"[1]が原作となっている。ただし、本稿は映画の『アポロ13』の記事なので、本稿のこれ以下の記述は、基本的に映画版の『アポロ13』で描かれた内容、そのDVDなどに特典として収録されていたインタビューやテキストなどを元として話を進める。また実際の宇宙船アポロ13号の記事でも指摘されているように、映画『アポロ13』にはフィクションの部分も存在しているが、本稿ではあくまで映画『アポロ13』での内容を優先させるものとする。
解説
アポロ13号を宇宙に打ち上げるサターンVロケットの発射シーンや、各種モジュール切り離しシーンなどは、本物のような映像を当時の最先端CGによって再現しており、試写を観た当時の一部の関係者らが本物の記録映像と間違えた程である[2]。CG制作の模様はNHKスペシャル「新・電子立国」や「世界まる見え!テレビ特捜部」でも取り上げられたテンプレート:When。
無重力状態のシーンは、映画史上初めて航空機を使った実際の無重力状態で撮影されている。この航空機は、もと空中給油機だったKC-135AをNASAが無重力訓練用に改造したもので、通称「嘔吐彗星」。1回のフライトで約25秒間の無重力状態が得られるが、撮影のために600回近く飛行した[3]。当作品では、地上のセット(すなわち通常の重力下で撮影したカット)と巧妙に混ぜ合わせて編集されている。
ラストシーンでトム・ハンクス演じるラヴェル船長が握手する強襲揚陸艦イオー・ジマ(捜索ヘリコプター隊の母艦)の艦長役は、原作者ラヴェル船長本人である[4]。
あらすじ
1969年、アポロ11号により、人類として初めてニール・アームストロング船長が月面に着陸した。次の打ち上げチームのリーダーであり、アメリカ初の宇宙へ行った飛行士アラン・シェパードが体調に支障があることが発覚し、その予備チームであったジム・ラヴェル船長(トム・ハンクス)とフレッド・ヘイズ(ビル・パクストン)、ケン・マッティングリー(ゲイリー・シニーズ)は、アポロ13号の正チームに選抜された。しかし、打ち上げ直前に、司令船パイロットのケンが風疹感染者と接触していることが判明し、なおかつケンには風疹抗体がなかったため、ケンの搭乗は認められないことになった。予備チームと交替するか、司令船パイロットのみ交替するか。判断はラヴェルに任されたが、彼はパイロットのみを交代させる決断をして、予備チームのジャック・スワイガート(ケヴィン・ベーコン)と交替させることにした。しかしながらこの決断は息の合ったチームワークを乱す原因となる。
1970年4月11日、アポロ13号は現地時間13時13分に打ち上げられた。当初の飛行は順調であったが、アームストロングの月面着陸により国民の関心は薄れつつあったため、テレビ中継は放映されないことになった。だが、その事実は飛行士たちをがっかりさせないために、彼らには伏せられた。(その一方、事故の後は、興味本位にマスコミが飛行士の家族にまで殺到し、彼らを憤らせた。)
月に到着する直前の4月13日、酸素タンク撹拌スイッチ起動により爆発が発生。酸素タンクから急激に酸素が漏れだした。酸素は乗員の生命維持だけでなく電力の生成にも使用するため、重大事態となる。当初、事態をつかみ切れていなかった乗員や管制官たちは、途中まで月面着陸を諦めていなかったが、やがて地球帰還さえできないかもしれないという重大事態であることを把握した。二酸化炭素濃度の上昇、電力の不足。地上の管制センターでは、管制官達だけでなく、メーカーの人間も含め、関係者全員が招集され、対策が練られた。搭乗しなかったケンは、電力をいかに節約するかをシミュレータを使って検討、地上からラヴェルら乗員をバックアップした。残存電力を保つため、船内は最低限の電力しか使わず、ウインナーが凍るほど寒くなるが、乗員同士支え合う。
しかし、13号がコースを外れていることが判明。原因は、酸素の噴射により軌道のズレが生じたというものであった。誘導コンピュータは電力を使用してしまうため起動できない。このため、手動噴射による姿勢制御を決断。窓の外は船外を漂うゴミと、船内の室温低下とで曇っていてよく見えないが、地球が見えた。これを唯一の目標として、手動による噴射を行い、見事に成功。
ところが、またもやコースについての問題が露見した。月面に着陸しなかったことで、土産として積み込む予定だった月の石100kg分の重量が不足していたためである。不要物を手動で移動させ重心を調整した。管制センターの計算では、大気圏進入角度がわずかに浅かったが、これは乗員に伏せられた。
やがて大気圏再突入となるが、再突入時には通常、通信が約3分間途絶してしまう。ケンは何度も交信を呼び掛けるが、3分間経っても返答はない。誰もが諦めかけた約4分後、ついに交信が入る。限られた資源と時間を使って奮闘した乗務員と管制センターの連携により、クルーは無事に地球に降り立ったのである。
スタッフ
- 監督:ロン・ハワード
- 製作:ブライアン・グレイザー
- 音楽:ジェームズ・ホーナー
- 撮影:ディーン・カンディ
- 美術:マイケル・コレンブリ
- VFX:デジタル・ドメイン
- VFXスーパーバイザー:ロバート・レガート
キャスト
役名 | 俳優 | 日本語吹き替え | ||
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ソフト版 | 日本テレビ版 | フジテレビ版 | ||
ジム・ラヴェル | トム・ハンクス | 江原正士 | 山寺宏一 | 江原正士 |
ジャック・スワイガート | ケヴィン・ベーコン | 安原義人 | 山路和弘 | 安原義人 |
ケン・マッティングリー | ゲイリー・シニーズ | 有本欽隆 | 石塚運昇 | 鈴置洋孝 |
フレッド・ヘイズ | ビル・パクストン | 星野充昭 | 立木文彦 | |
ジーン・クランツ | エド・ハリス | 納谷六朗 | 津嘉山正種 | 小川真司 |
マリリン・ラヴェル | キャスリーン・クインラン | 弘中くみ子 | 土井美加 | 唐沢潤 |
ジョン・アーロン | ローレン・ディーン | 宮本充 | ||
ジェフリー・ラヴェル | ミコ・ヒューズ | 津村まこと | ||
ブランチ・ラヴェル | ジーン・スピーグル・ハワード | 寺内よりえ | ||
メアリー・ヘイズ | トレイシー・ライナー | 喜田あゆみ | 安達忍 | 渡辺美佐 |
バーバラ・ラヴェル | メアリー・ケイト・シェルハート | 深水由美 | ||
ディーク・スレイトン | クリス・エリス | 相沢正輝 | 屋良有作 | |
ヘンリー・ハート | ザンダー・バークレー | 小野健一 | ||
サイ・リーバゴッド | クリント・ハワード | 中博史 | ||
ジョン・ヤング | ベン・マーリー | 荒川太郎 | ||
ディレクター | ジョー・スパーノ | 伊藤和晃 | ||
テッド | ジェームズ・リッツ | 喜多川拓郎 | ||
着陸船担当者 | ウェイン・デュヴァル | 松本大 | ||
ギュンター・ヴェント | エンドレ・ヒューレス | 天田益男 | ||
ジュールズ・バーグマン | 本人(アーカイブ映像) | 石波義人 | ||
ウォルター・クロンカイト | 本人 | 宝亀克寿 |
- ソフト版
- 翻訳:佐藤恵子、演出:蕨南勝之
- 翻訳:たかしまちせこ、演出:蕨南勝之
- 翻訳:松崎広幸、演出:鍛治谷功
- クレジット・ロールについて。
- 本作では、Whiz Kid役に Austin O'Brien、Whiz Kid Mom役として Louisa Marie がそれぞれ出演したことになっているが、出演しているシーンはない。
- 参考:Apollo 13 movie questions and Answer(外部リンク) の記事によれば、登場シーンの撮影はしたが、映画からは削除されたとのインタービューでの本人談があるとの由。
様々な異常事態
劇中では様々な不測の事態が発生するが、ここでは順を追って説明していく。
- センターエンジンの故障
- まず最初に起こった不測の事態は、宇宙空間に出てすぐに訪れた。サターンロケットの第2段において、サイコロの5の目の状([:・:])に並んでいる5つのエンジンの内、中央のエンジンが原因不明のまま停止した。しかし他のエンジンに異常が無かったため、地上のヒューストン管制センターは「ミッション継続に支障なし」と判断。正常な他の4基のエンジン噴射時間を少し長くとることで、そのまま航行は継続されることになった。その後問題なく着陸船とのドッキングにも成功。エンジンの故障は推力不足に陥る可能性もあるなど軽視できないが、結果として、この故障はアポロ13号の運用に大きな影響を与えずに済んだ。
- 酸素タンクの爆発
- アポロ13号が深刻な事態に陥った事故は酸素タンク撹拌の際に起こった爆発であった(原因の詳細はアポロ13号の項を参照)。宇宙船内はパニックに陥り、ヒューストンの管制センターも事態が全くつかめない状態だった。アポロ13号の乗組員は何とか機体の姿勢制御に成功し安定飛行できるようになったので、この状態からヒューストンに状況を説明した。ラヴェル船長は窓からガスの流出を発見、何かの気体が船外に漏れていることを報告したが、それが酸素であることが分かるのに時間はかからなかった。司令船オデッセイ内の酸素メーターの残量レベルが急激に減少していたからだ。事態を飲み込めたヒューストンは、直ちに「月面着陸」のミッションを中止し「乗組員を安全に帰還させる」ミッションへとシフトした。酸素タンクから燃料電池1番・3番へのバルブを閉めることにより、酸素の流出を止めるべく試みたが、流出は止まらなかった。この時点での司令船の生命維持限界は15分。やむを得ず司令・機械船オデッセイの機能を凍結し、月着陸船アクエリアスを救命ボートとして使うことになった。
- 電力の不足
- 着陸船へ避難することにより一時的に生命の危機から脱出したものの、不測の事態は次々と襲い掛かってきた。次の異常事態は「電力不足」である。アポロ13号に搭載されている酸素は、乗組員の呼吸はもちろん燃料電池のエネルギー源にもなっていた。司令船とは独立した電池を持っている着陸船だったが、電力をフルに使っては地球に帰還する前に電力がなくなってしまう状態だった。生命維持限度は45時間で、これでも地球への帰路の半分である。しかし、60A(アンペア)を使い続けている着陸船の電力は残り16時間分しかないため、消費電力を12Aまで落とさなければならない。これを切り抜けるため、ヒューストンとの通信に必要なメインコンピューターの電源のみを残し、船内の電力消費を生命維持に必要な最低限度のレベルまで節約することになった。機器から熱が出なくなり、ヒーターも切ったため、船内は(1〜4℃)の寒さとなった。
- 二酸化炭素濃度の上昇
- 月の引力を利用して周回軌道に乗り、窓から地球が見える場所まで来たところで、また問題が発生した。船内の二酸化炭素濃度が上昇し始めたのだ。着陸船には二酸化炭素を濾過し排出するフィルターが搭載されていたが、本来着陸船は二人乗りのため、三人分までは対応していなかった。しかも着陸船と司令船のフィルター接続部の形状が異なるため、司令船のフィルターを着陸船に接続することは不可能だった。しかし船外排出を行うと、その勢いで機体の軌道および姿勢が崩れる恐れがあるため、それはできない。そこでヒューストン管制センターでは、アポロ飛行船内にある道具だけで、しかも大至急という条件付きで、規格の異なるフィルター同士を接続する道具を作ることになった。しかしこの事態はある程度予測できた事態だったため、ヒューストンの対応は早く、船内の二酸化炭素濃度が危険とされていた濃度15%に達する前にフィルターは完成。二酸化炭素を吸収する水酸化リチウムフィルターへの空気が逃げないように、靴下をバッファ代わりに利用した即席フィルターだった。製造方法をアポロ13号乗組員達に伝えると、乗組員達は凍えるような寒さの中、フィルターの製作に成功。危険とされていた濃度15%に達する寸前で二酸化炭素濃度の問題は解決した。
- 降下用エンジンによる軌道修正
- 二酸化炭素の問題が解決した後、今度は大気圏再突入への軌道がずれていることが発覚した。急遽軌道修正をしなければ、再突入角度が浅く大気圏に弾かれてしまう状態だった。着陸船の降下用エンジンを噴射することで軌道修正することが考案されたが、問題はまだあった。再突入角度を計算する誘導コンピューターが電力を消費するため使用できないのだ。そこで飛行士達は窓から見える地球を唯一の目標として手動制御で軌道修正を行うことになった。39秒の噴射により推進剤を全て消費することになったが、オメガ社のスピードマスターを頼りにかろうじて軌道修正に成功。軌道がズレた原因は、酸素の噴出による慣性であった。また、その後にもずれが生じた。これは月に着陸せず、回収予定だった月の石約100kgを持ち帰らなかった事による重量不足が原因だったため、不要品を移動させて重心を変更させることで対処した。
- 司令船の再起動
- 司令船さえ動けば自動的に大気圏に再突入できる状態まで持ってくることができた。しかし、またここで問題が発生する。司令船の電力は底をつきかけている状態だったため、再起動するための電力を確保する必要があった。大気圏再突入時に必要な電力は最低限度まで落としたが、それでも再起動するための電力は、どうしてもあと4A足りなかった。そこで、司令船から着陸船に電力を供給するラインを使い、このラインへ電力を逆流させることにより、一時的にではあるが4Aを確保する方法が発案された。シミュレータでは再起動の電力確保に成功したが、ここでまた一つ問題が発生した。司令船内は外部と内部の温度差により発生した水滴でびっしりと埋め尽くされていたため、電源投入と同時にショートする恐れがあった。幸いショートすることなく再起動は成功した。この際、大気圏再突入角度がわずかに浅くなっていたが、軌道修正は不可能と判断され乗員には伏せられた。乗員は司令船へと移動し、機械船は切り離された。乗員達はこのとき初めて、外壁が丸ごと吹き飛んで内部構造を大きく露出させた状態の無残な機械船の姿をその目で見たのだった。
- 最後の難関
- ついに大気圏再突入まで持ち込んだが、ここで最後の難関が待ち構えていた。燃料タンクが爆発した際に、司令船にも何らかの損傷があった可能性がある。もしも司令船の遮熱パネルが損傷していた場合、大気圏再突入時の空力加熱による灼熱に司令船の外壁が持たないだろうということ。そして、仮に大気圏を突破できたとしても、長時間凍り付いていたパラシュートが開かなくなる可能性もあった[5]。現場海域には台風警報が出ていた。これまで地上と宇宙一丸となって対策してきた超先進科学を持つNASAだったが、最後に取るべき対策はもはや科学の力でも何でもなく、ただ「神に祈る」ことしか出来なかった。通常、大気圏再突入の際3分ほど交信が途絶える。しかし3分を経過しても交信は回復しなかった。4分ほど経過した後、司令船との交信が回復。乗員達は「奇跡の生還」を果たしたのだった。
その他
アポロ13号の項にある通り、この事故は、後に「輝かしい失敗(successful failure)」と呼ばれるようになった。"Houston,We have a problem."[6]や"Failure is not an option."に代表されるセリフ、主席飛行管制官であるジーン・クランツ(Gene Kranz)と各管制官との「まわしキャッチボール」など、劇中では事実を忠実に再現しているシーンが数多く見られる。使われているニュース映像や、さらには初の独身宇宙飛行士であったジャック・スワイガートをネタにアポロ計画をからかうテレビ番組『ディック・キャヴェット・ショー』(The Dick Cavett Show)は全て本物である。また、宇宙船内の機器パネルや管制センターの作り込みは秀逸で、演技指導のNASA OBがセットから出ようとするとき、本物のエレベータ[7]を探そうとして迷ったというエピソードもある[8]。
また、当時最先端のSFXを駆使した発射シーンは、技術が進歩した今日を基準にしても見事な出来映えであり、ラヴェル船長本人やNASAの関係者が「よくこんな映像が残っていたな」と感想をもらしたほどである[2]。
なお、ラヴェル船長の妻マリリンがシャワーを浴びている際に指輪を落とすシーンまで誇張であると批判を浴びたようだが、こちらは事実とのことである[9]。
ザ・ビートルズのアルバム、レット・イット・ビーを4月にラヴェルの娘バーバラが持っているシーンがあるが、このアルバムが発売されたのは翌月のことである(イギリスでは5月8日、アメリカでは5月18日)ので、このシーンは実際にはありえないことである。
関連項目
- ライトスタッフ (映画)
- フロム・ジ・アース/人類、月に立つ - トム・ハンクスが製作総指揮のアポロ計画をテーマにしたテレビドラマシリーズ
脚注
外部リンク
テンプレート:全米映画俳優組合賞キャスト賞- ↑ 邦題『アポロ13』(ジム・ラヴェル、ジェフリー・クルーガー著) 新潮文庫 ISBN 4102463011 1995年6月
- ↑ 2.0 2.1 NHKスペシャル「新・電子立国」第6巻「コンピューター地球網」(相田洋著、日本放送出版協会、1997年)p.87。ただし発射されたロケットをその軌跡の近くで上空からのアングルで捉える事は常識的に不可能と判断できることである。
- ↑ SmaSTATION!!(テレビ朝日系列)2011年4月30日放送より
- ↑ ただし本人の退役時の階級は大佐であったため、着ている軍服の階級章も大佐になっている
- ↑ 実際、ソ連はソユーズにおいてパラシュートが開かなくなり搭乗員を死亡させている。
- ↑ 実際の音声記録では"Houston, we've had a problem."と言っている
- ↑ 管制センターは3階にあった。
- ↑ LOST MOON(The Making of Appolo13)内にてFIDOであったジェリー・ボスティックがインタビューに答えている。
- ↑ 10thアニバーサリースペシャルエディション Disc1の音声解説、および、Disc2の夫人本人へのインタビューによる。