通信社
通信社(つうしんしゃ)とは、報道機関や民間企業の需要にこたえて一般向けニュース(ゼネラル・ニュース)や経済・金融情報(コマーシャル・ニュース)の収集、配信を行う組織である。
目次
クレジットのみの存在
通信社は大衆に向け自ら報道をしない。収集した一般向けニュースは提携先の新聞社や放送局などで発信される。
新聞の紙面であれば、冒頭か末尾に【】付きで「共同」「ロイター」などと提供通信社の名前が印字され、放送であれば「ロイター電によると…」と発声される。この表示・発声は通信社と報道機関の契約で義務づけられているクレジット(暖簾)である。ただし、契約船舶への配信や自社ウェブサイトの公開という例外はある。
日本におけるクレジット表記の不在
欧米の主要紙の場合、文責を明確にするため配信記事には配信した通信社のクレジットが付されるのが一般的である。これに対して、日本では沖縄県を除き、配信記事であることを示すクレジットを表記することはまれである。通信社の定款施行細則に「配信元の表示を付ける」と規定されている場合も例外ではなく、この規定は遵守されていない。この結果、地方紙や専門紙は大量の通信社配信記事を掲載している[1]にもかかわらず、配信元のクレジット表記がないため一般読者からするとあたかも配信先が独自に取材・制作した記事に見える。
これは日本独自の慣行であり、通信社側も黙認していることではあるが、クレジットが本来負っているはずの文責があいまいとなり、問題が生じたとき、たとえば通信社が誤報を配信したときの責任の所在が不明確になるという弊害がある。
2001年に発生した東京女子医大事件で罪を問われながら最終的に無罪となった医師が、当時事件を報道した共同通信とその記事の配信を受けた地方3紙(秋田魁新報、上毛新聞、静岡新聞)に対する損害賠償請求訴訟で、この文責問題は一躍脚光を浴びることとなった[2]。とくに東京地裁の一審判決では、配信を受けた地方3紙がクレジットを付けず自社記事の体裁を取っていたこともあり賠償責任を認めた[3]。
通信社の存在基盤
ニュースを生む取材対象がほぼ無限であるのに対し、報道機関を構成する資本と人間は有限である。例えば、新聞がライバル紙との競争から紙面構成の差別化を図るために情報インフラへの投資や、特派員の派遣をすれば当然膨大な費用が生じる。この費用が経営に影響が出るのを回避しようとすれば、自前で情報を収集するだけでなく、他者のニュースを採用する必然性がうまれる。
この経済的理由から「需要側のマスコミと供給側の通信社」の関係が存在する。逆に言えば、通信社が内信・外信を維持していく為には報道機関の支えが必要である。多くの新聞社は費用を分担して運営する新聞組合主義の通信社に加盟しているが、特殊な分野では独立系通信社も存在する。マスコミは政治的、地理的な理由からも通信社と契約している。
ただし、報道機関は営利企業であり、資本の蓄積・拡大を宿命として抱え、ニュース情報も一元集中させようとする動きが、特に大新聞の過去の歴史上から見てとれる。つまり、新聞と通信社は互いに依存しながら潜在的に敵であるという複雑な関係にあり、これが新聞人や通信事業経営者を主役としたいくつかの事件を生んできた。中央紙と地方紙の販売部数競争においても地方紙の主要面を提供する通信社の役割は重要であるが、多くの新聞の紙面に「特色」が薄れた現在、また新たなドラマを生む土壌が醸成されつつある。
テレビ番組や新聞紙面の外信が通信社の配給ニュースから構成されることなどから、「ニュースの卸問屋」と呼ばれる場合がある。世界のニュースを収集するin-comingだけでなく、報道機関が取材したニュースを世界に発信するout-goingも果たすが、日本に限っていえば、国内の通信社でなく日本国外の通信社と新聞社が役割を担っている。著名人や有名人を招聘している外国人記者クラブはこの象徴といえる。
通信社の分類
ユネスコは通信社を(1)国内通信社、(2)国際通信社、(3)その他の通信社に類別している。国際通信社の代名詞的存在であるロイターは19世紀において、海底ケーブルを世界中に敷設してきた歴史をもち、現在も世界中に情報網を構築している。同時に、ネットワークを維持する費用リスクを背負っており、経営の舵取りには難しい面もある。
設立形態は営利を目的とした会社法人と、報道機関が共同出資した組合法人、半国営企業の外観を備えた国家機関に三分できる。UPIの破綻や時事通信社の経営不振が象徴するように、民間通信社は経営が厳しく、APやAFP、共同通信社などの社団法人や中国の新華社、ロシアのイタルタス通信などが中心的存在である。ただし、国家の宣伝機関である新華社やイタルタスの発信するニュースを世界各地の通信社・新聞社の外信デスクがどのように捉えているかは、また別の問題である。
ロイターのような純粋民間企業の通信社は伝統的な通信社業務から決別し、経済情報サービス会社としての方向を目指している。
歴史
各国の主な通信社
国際通信社も含め、本社所在地にて分類。
アジア
- テンプレート:Flagicon 日本:共同通信社
- テンプレート:Flagicon 日本:時事通信社
- テンプレート:Flagicon 日本:ラヂオプレス
- テンプレート:Flagicon 日本:東京ニュース通信社
- テンプレート:Flagicon 韓国: 聯合ニュース
- テンプレート:ROC: 中央社
- テンプレート:Flagicon 中国: 新華社
- テンプレート:Flagicon 北朝鮮: 朝鮮中央通信
- テンプレート:Flagicon ラオス:ラオス通信社
- テンプレート:Flagicon インド:PTI通信(PTI)
- テンプレート:Flagicon インド:インド連合通信(UNI)
南北アメリカ
- テンプレート:Flagicon アメリカ合衆国: AP通信
- テンプレート:Flagicon アメリカ合衆国: トムソン・ロイター
- テンプレート:Flagicon アメリカ合衆国: UPI通信社
- テンプレート:Flagicon カナダ: カナディアン・プレス
- テンプレート:Flagicon アルゼンチン: テラム通信
ヨーロッパ
- テンプレート:GER: EPA通信
- テンプレート:GER: ドイツ通信社
- テンプレート:Flagicon フランス: フランス通信社
- テンプレート:Flagicon イタリア: ANSA
- テンプレート:Flagicon ロシア: RIAノーボスチ
- テンプレート:Flagicon ロシア: イタルタス通信
- テンプレート:Flagicon ロシア: インテルファクス通信
- テンプレート:Flagicon ウクライナ: ウクライナ独立通信社
- テンプレート:Flagicon ポーランド: ポーランド通信社
- テンプレート:Flagicon ハンガリー:ハンガリー通信(MTI)
- テンプレート:Flagicon アゼルバイジャン: アゼルバイジャン国営通信
通信社の特徴
日本
日本の通信社は1940年代に国策通信社・同盟通信社がほぼアジアを制覇、日本国外にも「満州国通信社」「蒙橿通信社」を置き中国、ヨーロッパにも日本の目と耳となる特派員が情報網を形成している。
同盟は7大通信社の一角を占め、ロイター、AP通信とも互角に勝負ができる大通信社を形成したが、第二次世界大戦後、古野伊之助は同盟を分割。ここに政治や社会、国際ニュースを扱い、社団法人の形態を取る共同通信社と、経済ニュースと出版を手掛け株式会社の形態を取る時事通信社の2社が誕生した。
当初、両者は業務を棲み分けていたものの、すぐに互いの分野に参入し、現在では両者は競合関係にある。ただ、共同は地方紙などの加盟社から定期的・継続的な収入を得て経営が比較的安定しているのに対して、時事は得意の経済分野では関連会社「QUICK」(クイック)を通じて金融情報サービスを提供する日本経済新聞に事業法人や金融機関などの顧客を大幅に奪われ、さらにロイターやブルームバーグなど外資系とも競合するようになり、収益は悪化し、苦しい経営の舵取りを強いられている。なお、兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)において両者は協力して取材に当たった。
日本の通信社は特に地方紙においてその役割が大きく、国内の政治、経済、スポーツ、世界の通信社からのニュース等を地方の新聞社、放送局等(加盟社と呼ぶ)に配信する役割を担っている。また、加盟社が取材したニュースを他の加盟社へ配信する。さらに船舶などへのニュース配信業務などを行う。
特にデジタルネットワークを駆使し、わずか10分間で4色(赤、黄、青、墨)の写真原版を送信してしまう、光ファイバーによる写真電送システムを1988年に完成させ、地方紙でもソウルオリンピックや米国ジェット推進研究所からの写真を夕刊、翌朝の新聞に掲載可能とするなど最新かつ高度な通信設備、デジタル画像処理技術を持っている。また、NTTの光ファイバーが各都道府県に早期に到達した際、最初のユーザーとなったのも通信社である。
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国では発生ものなどのストレートニュースは可能な限り通信社(ワイヤーサービスとも言う)に依存し、新聞社は分析や批評記事といったジャーナリズムに特化するという役割分担がなされている。アメリカ合衆国だけでなく、ヨーロッパやアジアでもそうである。世界では通信記者と新聞記者はカメラマンと記者くらい感覚の違う職業と捉えられている[4]。
アメリカ合衆国では事件・事故の取材は通信社の役割のため、日本のように何十人もの新聞社記者が動員されるのはアメリカ同時多発テロ事件のような未曾有の事件・事故くらいである。よって、大人数の報道関係者が取材対象者・対象地域に押しかけて迷惑をかけるメディアスクラムは起こりにくい[4]。
このため、アメリカ合衆国の新聞社は日本より少ない記者で連日、通常版で約100ページ、日曜版で300ページを超える新聞を制作することが可能なのである(『ニューヨーク・タイムズ』の場合)[4]。
脚注
- ↑ 地方紙では全記事の5~6割が配信記事である。参考:テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 配信を受けた側の賠償責任についてはその後の高裁、最高裁により否定されているテンプレート:Cite web
- ↑ 4.0 4.1 4.2 テンプレート:Cite book