ヘリ空母
テンプレート:出典の明記 ヘリ空母(ヘリくうぼ)とは、ヘリコプターを運用することを主目的とした航空母艦の一種[1][2][3]。
目次
定義
ヘリ空母はヘリコプター運用を主眼とする艦船を分類するための形式上のものであるため、その定義は曖昧である。
一般的には、以下の特徴を有する艦船のことを指すことが多い。
この点でヘリコプター運用能力を持つ通常の艦船(アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦やあきづき型汎用護衛艦など)や、整備運用能力を持たないおおすみ型輸送艦のような艦は、ヘリ空母とは呼ばれない。また、アメリカ海軍・イギリス海軍の分類ではLPH (Landing Platform Helicopter) と呼ばれるものがあるが、これはヘリコプターによる揚陸を目的とした艦船で、日本語ではヘリコプター揚陸艦と形容され、ヘリ空母と呼ぶことは少ない。ヘリコプター揚陸艦は強襲揚陸艦に発展したため、強襲揚陸艦も上記4点の特徴を有するが、厳密に狭義の定義ではやはりヘリ空母と呼ぶことは少ない。
STOVL機の運用を第一義に考えられているものは軽空母と呼ばれる。それ以外でもここに分類される多くの艦船はSTOVL機の運用が可能である。
ヘリ空母の任務
現在ヘリ空母の任務は大きく分けて2種類ある。
- ヘリコプターの機動力を生かした対潜・対艦戦に対応した艦。この目的に対して現在ではヘリコプターとSTOVL機を併用する軽空母が建造されており、純粋なヘリ空母は少ない。
- 強襲揚陸艦はその名の通り、本国から離れた敵地へ陸戦部隊を輸送し、搭載したヘリコプターや上陸用舟艇を使って部隊を上陸させる。大型化に伴い、ヘリコプターのみならずSTOVL機の運用が可能な艦が増加しており、ヘリ空母との類似性は低下している。
構造
ヘリコプターの離着艦に適した広大な飛行甲板および格納庫、甲板と格納庫をつなぐエレベーターを有する。格納庫には機体を整備する設備があり、海上での長期運用を可能にしている。
ヘリコプター揚陸艦・強襲揚陸艦は、揚陸作戦を実行する兵員や兵器を輸送する施設も有する。狭義の強襲揚陸艦は上陸用舟艇発進用ウェルドックも有する。
歴史
この項ではヘリコプター揚陸艦 (LPH) の後継で垂直/短距離離着陸機(V/STOL機)運用能力と上陸用舟艇運用能力を有する強襲揚陸艦(LHA (Landing, Helicopter, Assault) とLHD (Landing, Helicopter, Dock))や、ヘリコプターとV/STOL機を併用する軽空母についても概説する。
空母から発展した強襲揚陸艦
ヘリコプターの実用第1号は1939年にアメリカで初飛行した、シコルスキーVS-300である。アメリカ海軍はすぐにヘリコプターを対潜哨戒や救難に使用した。第二次世界大戦後ヘリコプターが発達し搭載力が増大するにつれ、太平洋戦争で大規模な揚陸作戦を何度も経験したアメリカ海軍はヘリコプターを使用した迅速な揚陸作戦の検討を開始した。
この案に沿って朝鮮戦争後の1955年に、余剰になっている護衛空母「セティス・ベイ」を強襲ヘリコプター航空母艦 (CVHA) に改装することが行なわれた。更に1959年から正規空母のエセックス級3隻(「ボクサー」、「プリンストン」、「ヴァリー・フォージ」)の固定翼機運用能力を撤去して揚陸艦に改装した。これらボクサー級強襲揚陸艦は満載排水量3万トンに達し、ヘリコプター30機とアメリカ海兵隊の兵員約1,500名を収容でき、ヘリコプター揚陸艦 (LPH) と呼ばれるようになった(1959年に「セティス・ベイ」もLPHに類別変更)。
同様にイギリス海軍においてもコロッサス級軽空母2隻(「オーシャン」、「シーシュース」)を空母の類別のまま第二次中東戦争においてヘリコプター揚陸任務に用いて成功をおさめ、この成果を基に余剰となったセントー級軽空母3隻(「アルビオン」、「ブルワーク」、「ハーミーズ」)をコマンド母艦(commando carrier・イギリス海軍のLPH)に改装して運用した。
この輸送・揚陸能力や飛行甲板・艦橋配置などの外観は、その後、アメリカで新造された強襲揚陸艦のイオー・ジマ級7隻(1961年、満載排水量18,000トン)、タラワ級5隻(1976年、満載排水量39,000トン、LHA)、ワスプ級7隻(1989年、満載排水量40,000トン、LHD)、アメリカ級(2012年、満載排水量45,000トン、LHA)に引き継がれている。またこれら強襲揚陸艦はヘリコプターに加えSTOVL機のハリアーIIも運用できる。
空母からの改装ヘリコプター揚陸艦やイオー・ジマ級は、実戦に投入するとヘリコプターの離着艦が困難な悪天候下では揚陸作戦が行えないという弱点が明らかになった。この弱点を克服するため、タラワ級以降ではドック式上陸用舟艇発進機能も併せ持つこととなり、ここに狭義の強襲揚陸艦が誕生した。
イギリス海軍はV/STOL機運用能力を抑えヘリコプター運用能力を重視したLPH「オーシャン」(1998年、満載排水量20,000トン)を建造し、揚陸作戦能力を維持している。イタリア海軍はV/STOL機運用能力の無いサン・ジョルジョ級強襲揚陸艦3隻(1987年、満載排水量約8,000トン、ヘリコプター3 - 5機)を保有している。
2013年現在、フランス海軍のミストラル級強襲揚陸艦、オーストラリア海軍のキャンベラ級強襲揚陸艦、韓国海軍の独島級揚陸艦など、この種の艦船は増加傾向にある。
ロシア海軍も強襲揚陸艦を必要としており、フランスにミストラル級2隻の建造を発注(2012年2月1日に1番艦が起工)、また2隻を自国でライセンス生産する計画を持っているが、ロシア海軍はこの艦に攻撃・防衛のための対空・対艦・対潜ミサイルの搭載を求めているほか、艦載機として対潜ヘリコプターも搭載する予定とするなど、従来の強襲揚陸艦の能力のみならずヘリ空母と巡洋艦の性格をも併せ持った多目的艦となる予定である。[4][5]
巡洋艦から発展したヘリ空母・軽空母
ヘリコプター巡洋艦・駆逐艦
1960年代に各国の海軍では、駆逐艦以上の戦闘艦艇にヘリコプターを搭載して対潜・対艦任務に用いることが始まっていたが、その中で艦の後半分を広大な飛行甲板と格納庫に充当したヘリコプター巡洋艦・駆逐艦が建造されることとなった。
1964年にフランス海軍は、「ジャンヌ・ダルク」(満載排水量12,000トン、ヘリコプター8機)を建造しているが、同艦の前半分は通常の巡洋艦スタイルであり、後年のヘリ空母・軽空母よりもヘリコプター巡洋艦に近いスタイルであった。また同年イタリア海軍は、より小型のアンドレア・ドーリア級ヘリコプター巡洋艦(満載排水量6,500トン、ヘリコプター4機)を2隻建造している。イギリス海軍もタイガー級防空巡洋艦(改装後、満載排水量12,800トン、ヘリコプター4機)を改装し、後部の砲を撤去してヘリコプターの格納庫を装備している。
この流れは一方では艦の拡大に繋がり、最大の艦であるソ連海軍のモスクワ級ヘリコプター巡洋艦(1967年、満載排水量14,000トン、ヘリコプター14機)、イタリア海軍の「ヴィットリオ・ヴェネト」(1969年、満載排水量9,200トン、ヘリコプター9機)に至るが、1980年に完成したイギリス海軍のインヴィンシブル級によって本格的なヘリ空母・軽空母へと移行した。
なお、これらの艦は公称がヘリ空母である「ジャンヌ・ダルク」を除き、通常ヘリ空母とは呼ばれない。
他方、コンパクト化への流れは、最小の艦であるカナダ海軍のイロクォイ級ミサイル駆逐艦(1972年、満載排水量5,100トン、ヘリコプター2機)、海上自衛隊のはるな型ヘリコプター護衛艦(1973年、基準排水量4,950トン、推定満載排水量6,500トン、ヘリコプター3機)を経て、しらね型ヘリコプター護衛艦(1980年、基準排水量5,200トン、推定満載排水量6,800トン、ヘリコプター3機)を最後に、フリゲート以上の艦艇へのヘリコプター搭載の一般化に行き着くこととなる。これらの艦は、ヘリコプター運用能力に注目されるものの、ヘリ空母と呼ばれることはない。
軽空母
テンプレート:Main 1975年、ソ連海軍では大型のVTOL空母キエフ級(改型の「アドミラル・ゴルシコフ」を含めて4隻建造、満載排水量36,000トン、ヘリコプターとSTOVL機約30機搭載)を建造した。キエフ級は、ミサイル巡洋艦の性格が強く、搭載したSTOVL機(Yak-38フォージャー)の能力も低かったこともあり、その後はCTOL機を運用できる正規空母の建造に移行した。なお、ソ連海軍はキエフ級に「航空巡洋艦(重航空巡洋艦)」という名称を与えていたが、その理由は、空母のボスポラス海峡通過を禁じたモントルー条約を回避するためであり、空母であっても「巡洋艦」と称することで通過を可能とするためである。
1980年に完成したイギリス海軍のインヴィンシブル級(満載排水量20,600トン)は、最初全通甲板型巡洋艦として設計されていたが、ヘリコプターとSTOVL機(シーハリアー)合わせて21機の運用が可能な軽空母として完成し、以後の西側諸国で建造される軽空母の方向性を決定付けた。
西側諸国ではインヴィンシブル級に倣って、ヘリコプターとSTOVL機の両方を搭載できる空母の建造が行われた。イタリア海軍の「ジュゼッペ・ガリバルディ」(1985年、満載排水量13,850トン、航空機16 - 18機)、スペイン海軍の「プリンシペ・デ・アストゥリアス」(1988年、満載排水量17,200トン、航空機27機)、タイ海軍の「チャクリ・ナルエベト」(1997年、満載排水量11,500トン、航空機12 - 14機)などである。
タイの「チャクリ・ナルエベト」は2012年現在STOVL機AV-8Sマタドールが全機保管状態にあって実働していないため、実質的にヘリ空母としての任務にしか就いていない。
また2012年現在イギリスのインヴィンシブル級で唯一現役の「イラストリアス」も2010年でSTOVL機BAe ハリアー IIの運用を終了し、2011年以降は揚陸を支援するヘリ空母として運用されている。 テンプレート:-
ひゅうが型・いずも型護衛艦
第2次防衛力整備計画の策定段階で、海上自衛隊はHSS-2/2A対潜ヘリコプター18機を搭載する、基準排水量8,000トンのヘリ空母 (CVH) の建造を計画し、1960年(昭和35年)7月の防衛庁(当時)庁議において建造決定にまでこぎつけたものの、政治的な事情で実現しなかったという経緯があった[1]。この再来とも呼べるのが、2004年度計画によるヘリコプター搭載護衛艦のひゅうが型である。
ひゅうが型は、全通甲板を持ち、砲戦能力・揚陸機能・V/STOL機の運用能力のいずれも持たない純然たるヘリ空母としては、世界で初めて新造された艦である。種別はヘリコプター搭載護衛艦ではあるが、全通甲板を備えた事実上のヘリ空母となる。V/STOL機は搭載せず、ヘリコプターのみの運用を行う構想で設計されており、公表されている常時搭載機は哨戒ヘリ×3、掃海・輸送ヘリ×1と、1万トンを超える船体には過小な数字と思えるが、格納庫内は1個護衛隊群の定数である8機程度を加えた、最大11機収納及び整備する空間があると言われる
2010年代中期より、しらね型の代替としてヘリコプター運用能力をより発展させたいずも型が建造されている。ひゅうが型より一回り巨大で、常時搭載機も哨戒ヘリ×7、掃海・輸送ヘリ×2、最大14機の搭載を予定し、陸上車輛の輸送・他艦艇への洋上給油等の多様性も強化されている。 テンプレート:-
クイーン・エリザベス
テンプレート:Main 2013年現在イギリスで建造中のクイーン・エリザベス級航空母艦の1番艦「クイーン・エリザベス」も、固定翼機の運用能力を持たないヘリコプターのみを搭載するヘリ空母として2020年に就役予定である。「クイーン・エリザベス」は建造開始当初、V/STOL機であるF-35Bを搭載する軽空母として計画されていたのであるが、F-35Bの開発が大きく遅延して「クイーン・エリザベス」の就役に間に合わないことが2011年に確実となり、また建造がかなりの段階まで進んでいたためカタパルトなどのCTOL機運用能力を追加することも不可能だったためのやむを得ない措置である。就役すれば基準排水量45,000トンの巨大なヘリ空母となる。
クイーン・エリザベス級の2番艦「プリンス・オブ・ウェールズ」は、電磁式カタパルトを持ちCTOL機のF-35Cを運用できる正規空母として再設計の上、建造が進められており、2019年に「プリンス・オブ・ウェールズ」が就役すると同時に「クイーン・エリザベス」は予備役に編入される予定だったが、F-35Cの実戦配備が2023年まで遅れる見込みのため、C型からB型に戻されることとなったため今後の動きは不透明である。
その他のヘリコプター搭載艦
現在ではフリゲートより大きい水上艦には、対潜作戦や連絡・物資運搬用等の目的でヘリコプターを搭載する場合が多い。
例えばアメリカ海軍のオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートは満載排水量4,100トンの艦体に2機のヘリコプターを搭載しており、イスラエル海軍のアリヤ級ミサイル艇は、約500トンの艇体に1機のヘリコプターを搭載しているが、これらの艦はヘリ空母とは呼ばれない。また、韓国海軍ではKDX-1(広開土大王級駆逐艦)はDDHと見なしているが、世界的にみればフリゲートに分類される。
イギリス海軍では、民間のRO-RO式貨物船を改造した航空支援艦「アーガス」があり、イギリス軍が保有するヘリコプター及びハリアーを運用する事ができる。当初は航空練習艦と名乗っていたように艦載ヘリコプターの離着陸訓練が任務の中心であるが、輸送任務や病院船、海外展開の際の洋上におけるヘリコプター基地としての役割も可能である。全通ではないものの広範囲の甲板を持つ事から、イギリス陸軍や同空軍のヘリコプターが海外展開する際に、洋上給油基地としての役割を担った事もある。
中国人民解放軍海軍には艦載ヘリコプターの離着陸訓練を目的とした、世昌級航空練習艦が存在している。要目は「アーガス」に類似しており、病院船や輸送艦としての運用も可能である。
アメリカ海軍では、イオージマ級強襲揚陸艦「インチョン」がごく短期間、機雷戦指揮艦として運用された。これはイオージマ級のヘリ運用能力を転用したもので、MH-53掃海ヘリと航空掃海具を搭載し、自ら航空掃海を行なう事ができた。また、掃海部隊の指揮機能を持ち、掃海艦艇への洋上給油なども可能とさせたものであった。