JR東海キハ85系気動車

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テンプレート:鉄道車両

ファイル:JRT DC kiha85series Limited-Express Hida.jpg
貫通型のキハ85形1100番台
(2009年8月12日 / 西富山駅 - 婦中鵜坂駅)

キハ85系気動車(キハ85けいきどうしゃ)は、東海旅客鉄道(JR東海)の特急形気動車。同社発足後の新形式第1号であり、同社が運行する特急列車に掲げる「ワイドビュー」を最初に冠した車両でもある。

概要

同社が保有するキハ80系の置き換えおよび所要時間短縮[1]のために開発され、1989年平成元年)から製造された。1989年平成元年)2月から高山本線の特急「ひだ」に使用され、1992年(平成4年)からは紀勢本線の特急「南紀」にも使用されている。

1989年の通商産業省グッドデザイン商品(現・日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞)に選定され、1990年(平成2年)にはブルーリボン賞東日本旅客鉄道(JR東日本)651系電車と争ったが、次点となった。外観デザインは手銭正道、戸谷毅史、木村一男、松本哲夫、福田哲夫による。

仕様・構造

車体

テンプレート:Sound 車両軽量化とメンテナンスフリーのため、車体はステンレスを用いた軽量構体を採用する。外部塗色は、側窓上部にダークグレー、側窓下部にはJR東海のコーポレートカラーであるオレンジの帯を巻く以外は無塗装である。曲線を多用する先頭部は普通鋼製とし(ステンレスでの加工が難しいため)、腐食防止のために白色塗装を行っている。本系列の意匠をはじめとする基本構成は、JR東海で以降新製される在来線用車両の多くに基本仕様として踏襲されている。

観光路線である高山本線や紀勢本線への投入が前提であったことから、眺望性の確保について様々な配慮がなされており、非貫通型先頭車の運転席後部を全面ガラス張りとした上、三次曲面のフロントガラスと運転台上方の天窓で前面展望を確保している。 テンプレート:Double image aside

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室内設備

側窓からの展望のために、通路と座席の間に 20 cm の段差を設け、窓の縦寸法は 95 cm に拡大された。一部の車両ではバリアフリー対応として段差をなくし、車両番号を1000番台として区分する。普通車座席の前後間隔(シートピッチ)はキハ80系の 91 cm から 100 cm に拡大した。

冷房装置駆動機関直結式で、従来の特急気動車のように編成中の特定車両に搭載されたディーゼル発電機から冷房装置への電力を供給する方式と異なり、編成構成の自由度が向上している。

グリーン車は2種類あり、一つは「ひだ」用に製造された中間車に組み込まれた、普通車合造の半室グリーン車(キロハ)であり、横4列配置でシートピッチを 116 cm とし、定員確保がなされている。もう一つは「南紀」用の先頭車として製造された全室グリーン車(キロ)で、こちらはある程度定員がとれることから横3列配置でシートピッチを 125 cm としている。現在「キロハ」車両は「ひだ」号及び「南紀」号とも定期運用時に連結されており、「キロ」車両は「ひだ」編成10xxD列車(富山行き編成)の定期運用に使用されている。

駆動系

ファイル:Cummins DMF14HZ KIHA84.jpg
キハ84形に搭載されている
C-DMF14HZエンジン
(2008年2月21日 / 高山駅)

本系列の最大の特徴は、日本製の国内向け旅客車両としては数十年ぶりに輸入ディーゼルエンジンが搭載されたことである[2]。日本国外の設計によるエンジンは、1950年代ディーゼル機関車用のエンジンが日本でライセンス生産された例があるが、気動車用としては太平洋戦争後、例のない試みである。これは、貿易摩擦により「内需拡大」が叫ばれていたバブル経済期において、気動車の高性能化のため、国鉄型内燃機関において低出力に甘んじていた日本製品にこだわることなく低コストで優良なエンジンを求め、同時に同車の先進性を新機軸によって訴求することを狙ったものである。

採用されたのは、アメリカのディーゼル機関メーカーであるカミンズ社の直列6気筒・排気量 14 L の直噴式ターボディーゼル機関 NT-855 系[3]である。各国のカミンズ社工場・ライセンス契約したメーカーによって種々の仕様で製造される汎用性の高い機関で、本系列のものはカミンズ・イギリス工場製の水平シリンダー形 NTA855-R1 (JR東海形式:C-DMF14HZ 形、350 ps / 2000 rpm )で、1両に2基を搭載する。高出力の駆動機関と自動制御化された多段式液体変速機新潟コンバータ製C-DW14A 変速1段・直結2段 自動式)と組み合わせることで、著しい速度向上を成し遂げ、「電車に匹敵する性能の気動車」と評された。

ブレーキ装置

キハ80系の自動空気ブレーキに対して応答性に優れる電気指令式空気ブレーキが採用され、機関ブレーキ・コンバータブレーキも装備する。これは気動車として初めて電気指令式ブレーキが採用された事例である。

台車

台車ヨーダンパ付きボルスタレス台車のC-DT57形が採用された。

各形式

キハ85形

テンプレート:Double image aside

0番台(1 - 14)
「ひだ」用として製造された非貫通タイプの普通先頭車。先頭部は大型曲面ガラスとルーフウインドウによって構成され、前面展望に配慮してある。定員60名。
100番台(101 - 119)
「ひだ」用として製造された貫通タイプの普通先頭車。幌アダプタを取り付けることで貫通路を構成することが可能。定員が0番台と同様のため、共通運用されることも多かった。トイレ和式。定員60名。
107は後述の落石衝突事故により廃車となり、代替として119が新製されている。2003年よりバリアフリー対策改造が施され、後述の1100番台へ改番したため番台消滅。
200番台(201 - 209)
「南紀」用として製造された貫通タイプの普通先頭車。車体の仕様は100番台と同一だが、男子用小便所を設置したため定員が減少し56名となった。
一部は100番台と同様にバリアフリー対策改造が施され改番されている。
1100番台(1101 - 1106・1108 - 1119)
100番台をバリアフリー対応改造した形式。高床構造であった車内座席を一部改造し段差をなくした車椅子対応座席を配置、トイレも車椅子対応の洋式に改造したもの。
定員が減少し50名となったため、元番号+1000とされた。現在は100番台全車に施工済み。
改造時点で種車が廃車となっていた関係で1107のみ欠番となっている。
1200番台(1209)
キハ85形1100番台と同様のバリアフリー対応改造を209に施工したもの。やはり元番号+1000となっている。

キハ84形

0番台(1 - 14)
「ひだ」用として製造された普通中間車。車内販売準備室・電話室自動販売機が設置されたが、トイレはない。電源容量確保のためインバーターを2基搭載している。定員68名。
1と2はJR北海道ジョイフルトレインフラノエクスプレス」先頭車と番号が重複していた。
200番台(1 - 5)
「南紀」用として製造された普通中間車。カウンター付の車内販売準備室を備える。当初より車椅子対応設備を持ち、客扉や車内仕切扉の幅が広くなっている。定員64名。
300番台(1 - 5)
「南紀」用として製造された普通中間車。車販準備室がなく、車椅子対応設備も持たない。そのため当系列では最大の定員72名を誇る。

キロハ84形(1 - 10)

「ひだ」用として製造された、グリーン・普通車の合造中間車。定員確保のためグリーン座席は2+2配置となっており、シートピッチは116cm。車掌室・トイレを備える。定員56名(グリーン席32名・普通席24名)。

キロ85形(1 - 5)

「南紀」用に製造された非貫通タイプのグリーン先頭車。キロハ84よりもシートピッチをさらに広げ125cmとなり、座席も2+1配置となったため、車内はゆったりとしている。
洋式トイレ・男子小用トイレ・業務用多目的室・公衆電話を備える。定員30名。

運用の変遷

本系列は1989年2月18日に特急「ひだ」で使用を開始した。運用開始時点では1往復のみの充当であったが、翌1990年(平成2年)3月10日のダイヤ改正にてすべての「ひだ」に運用されるようになった。1991年(平成3年)3月16日ダイヤ改正で、名古屋鉄道から高山本線に乗り入れていた特急「北アルプス」がキハ85系との併結を前提とした仕様のキハ8500系に置き換えられた際、季節運転の「ひだ」と併結して運転されるようになった。その後、1999年(平成11年)からは定期運行となった「ひだ」と併結し、2001年(平成13年)9月30日の「北アルプス」(高山本線乗入れ)廃止まで続いた。鈴鹿サーキットでF1日本グランプリが開催されるときは臨時全席指定特急「鈴鹿グランプリ」にも充当される。

かつては間合い運用として「ホームライナー(太多・四日市・岡崎)」にも使用されていたが、これらが一般列車に変更されたため2012年3月改正後は使用されていない。

2012年3月現在では名古屋車両区に80両が配置され、以下の列車・編成で使用される。

斜字は非貫通式先頭車。気動車である特性を生かして1両単位での増結や車両の差し替えも行われている。
「ひだ」用編成
高山本線内では右側が富山駅向き。名古屋駅 - 岐阜駅間は逆向き(右側が名古屋駅向き)。
  • 3両編成(グリーン車連結)
    富山駅発着の列車に使用される。名古屋駅 - 高山駅間では下記の2編成のいずれかを連結(他の車両は高山本線内での岐阜駅寄りに連結)し、高山駅 - 富山駅間ではこの3両のみで運転される[4]
    キハ85-1100 + キハ84-300 + キロ85
ファイル:JRC 85 Hida 201200913.jpg
大阪駅発の「ひだ」
(2011年9月13日 /島本駅 - 山崎駅)
  • 3両編成(普通車のみ)
    大阪駅発着の「ひだ」などで運用されている。
    キハ85 + キハ84 + キハ85-1100
  • 4両編成
    「ひだ」の基本編成。中間にグリーン車・普通車合造車がある。
    キハ85-200 + キロハ84 + キハ84 + キハ85-1100
    キハ85 + キロハ84 + キハ84 + キハ85-1100
「南紀」用編成
右側は紀伊勝浦駅向き。
キハ85 + キロハ84 + キハ84 + キハ85-1100

運用に関する補足

  • 1991年(平成3年)1月には団体臨時列車として東日本旅客鉄道(JR東日本)飯山線に乗り入れた実績がある[5]身延線にも2001年のお召し列車として入線実績がある。
  • 1996年(平成8年)6月26日に高山本線下呂駅 - 焼石駅間で落石に衝突・脱線(ワイドビューひだ脱線事故)。1両(キハ85-107)が廃車となり、その代替車両としてキハ85-119が1997年(平成9年)に製造された。
  • 2001年 キロ85形5両 (1 - 5) が「南紀」から「ひだ」へ転用される。
  • 2003年 キハ85形100番台の2両 (106, 111) が車椅子対応に改造された。定員は50名に変更され、車両番号も1000番台 (1106, 1111) として区別する。2012年3月現在では在籍する100番台の全車と200番台のうち1両(209)が対応改造済で、それぞれ原番号に+1000した番号 (1101 - 1106,1108 - 1119,1209) となっている。
  • 2009年7月15日には臨時列車「紀勢本線全通50周年記念号」として初めて紀伊勝浦駅 - 白浜駅間に入線した。
  • 紀勢本線において鹿との衝突事故が多発しているため、2012年春から「南紀」用のキハ85のうち4両を対象にスカートにスポンジゴム製の衝撃緩和装置が取り付けられている[6]

脚注

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関連項目

外部リンク

テンプレート:JR東海の車両リスト
  1. 本系列の投入と並行して軌道強化や両開き分岐器(Y字ポイント)の高速通過 (110 km/h) 対応など、地上設備の改良工事も実施された。
  2. ディーゼル機関車においては、1982年に大井川鐵道DD20形で採用例がある。
  3. 原設計こそ1960年代と古いが信頼性は高く、船舶自動車などにも広範に使用される汎用型の高速ディーゼルエンジンであった。1970年代1980年代にはアメリカのトラックメーカーから広く採用を受け、それまで主流だったGM系のデトロイト・ディーゼルのユニフロー掃気ディーゼルエンジンに代わって市場で好評を得た実績もある。
  4. ただしゴールデンウィーク年末年始などでは4両編成で運行されることがある。
  5. テンプレート:Cite journal
  6. “ワイドビュー南紀”用キハ85形に衝撃緩和装置|鉄道ニュース|2012年5月21日掲載|鉄道ファン・railf.jp